ドッカ~ン! 2-3「戦いの最中に、お役所仕事してんじゃねぇ!!」

魔法連盟アルスマギカから、連絡が入ってるにょろ」



 六人で気合いを入れた直後、蛇の化け物がなんか言った。


 わたしは正面に構えた洗剤スプレーをいったん両腰のホルダーにしまうと、化け蛇妖精ニョロンの方に顔を向ける。



「何よ、相変わらずタイミングが悪い組織だな。今の状況、分かってんの?」



 ニョロンは目を見開いたまま、舌をだらんと出して呆けている。


 お前、ただでさえ見た目怖いんだから、身だしなみはしっかりしろよ。保健所に連れていかれんぞ?


 なんて、思ってると――ハッと、ニョロンが意識を取り戻した。



「脳内チップに流れ込んだ情報をダウンロードしていたにょろ。魔法連盟アルスマギカから、魔法少女キューティクルチャームに伝達事項にょろよ」


「謝罪なら後でいいわよ。っていうか、謝罪するくらいなら億単位の賠償金持ってこいって言っといてよ」


「なんで謝罪って決めつけてるにょろか!? 魔法連盟アルスマギカは清廉潔白! 何ひとつ謝る要素なんてないにょろよ!!」


「はぁ!? この状況でマジで言ってんのか、このクソ蛇! 誠意を見せる気すらないんなら、ブラックウィザード倒したら次はお前らだからなって伝えろ!! 今度こそケリをつけてやるからな、最後の敵組織『魔法連盟アルスマギカ』ってなぁ!!」


「まぁまぁ、サーモン。取りあえず、魔法連盟アルスマギカからの連絡を聞いてみようよ。ねっ?」


「それが連中の、辞世の句になるかもしれないしな」



 パウダースノウと番長になだめすかされて、わたしは舌打ちをしつつニョロンの言葉に耳を傾ける。



「それじゃあ……読み上げるにょろよ」



 そしてニョロンは。

 脳内チップに送られてきたらしい、魔法連盟アルスマギカからの文書を読み上げる。



「過去に審議会を実施した結果、『殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェが三人揃うまで、魔法少女キューティクルチャームは現行魔法少女を継続するものとする』と決定していた【次世代魔法少女欠員中の引き継ぎに関して】の通達内容について、再審議を行ったことから通達するものとする。本事案は次世代魔法少女が即日見つからず欠員が存在するという例外的な状況にあったため、慣例に準じて魔法少女の集結を優先す――」


「いいから結論だけ言え! 戦いの最中に、お役所仕事してんじゃねぇ!!」

「……分かったにょろよ」



 わたしが一喝すると、ニョロンはこほんと咳払いをした。


 そして――すぅっと、息を吸い込んで。



 告げた。



「次世代魔法少女の集結が確認されたことから、本案件【ミッドナイトリバイバルカンパニーによる魔法連盟アルスマギカへの反乱】の沈静化をもって、魔法少女キューティクルチャームの任期は終了と判断する……とのことにょろ」



 ――――任期、終了?



「それってつまり……この戦いが終わったら、わたし……魔法少女を辞められるってこと?」


「そうにょろね。第八十九番目の敵組織『ミッドナイトリバイバルカンパニー』を倒すことが条件にょろが」



 ああ。つまり、自分たちの身を守ることが引退条件ってことか。


 ディアブルアンジェがいくら強いって言ったって、味方の数が多いに越したことないもんね。あの混沌の支配者を倒すためには。


 散々迷惑を掛けた挙げ句、最後は保身を約束させる――まったくもって最低最悪な組織だよ、魔法連盟アルスマギカ



 でも……まぁ、いい。


 最後の引き継ぎは、きちんとやらないと完全燃焼できないだろうしね。わたしはどこまでも、学級委員タイプだから。



【どうした? 怖じ気付いたか……愚かな魔法少女ども】


「うるせぇ、ちょっと待ってろ混沌馬鹿! 今、物語的にめちゃくちゃ重要な話をしてんだよ!!」



 パオンの身体を使ってなんかほざいてきたブラックウィザードに、悪態を吐いてから。


 わたしは、後ろに並び立つ三人を――それぞれ見やった。



「ノワールアンジェ。PCアンジェ。トップアンジェ……今の話、聞いてたわね?」


「ええ。これがサーモン先輩たち、最後の戦い……そして、わらわたちに対する最後の引き継ぎ。そういうことですね? ひとつの時代が終焉を迎え、新世界の夜が明ける……それはさながら、ノアの箱舟」


「最後の戦いとか、超ロックっすね。『ラストバトルは山椒魚 ~山椒も戦いも、ピリリと辛い~』――うん。なんか作曲のモチベが上がってきたっすよ!」


「有終の美を飾って、伝説を刻んでよね先輩たち! で、その伝説を簡単に塗り替えることで……うちらがトップチームだって、証明してやるんだからさっ!!」



 好き勝手言ってんな。


 どうしようもない連中だよ。まったく。



 まぁ……それも悪くないか。


 癖が強すぎる三人だけど――わたしは後続を譲るなら、あんたたちがいい。



 信じてるからね? 大切な後輩ちゃんたち。



「わたし、この戦いが終わったら……魔法少女辞めるんだ」



 わたしはぽつりと、言い慣れたそのセリフを口にした。


 パウダースノウがにっこりと笑って、それに返事をする。



「全部終わったら今度こそ……おつかれさま、ほのりんっ★ って、言うからね?」


「これが最後の鉄パイプだ。折れるまで、殴るとするか」



 番長が鉄パイプを撫でながら、不穏なことを口走る。



 チャームサーモン。チャームパウダースノウ。チャーム番長。



 それぞれの思いを抱きながら――わたしたち三人は、再び漆黒に包まれた妖精インド象を見上げる。



「うおおおおおおおおおおッッッ!! 魔法少女キューティクルチャームの、最後の戦いだぞお前らァァァァァ!!」



 荒廃した群馬の大地が揺れる。


 ぺんぺん草も生えない地面に、『CCキューティクルチャーム』と書かれた旗が突き立てられる。



 ああ、出たか。最後まで、意味もなく絶叫しやがって。


 本当に鬱陶しいな……キューティクルチャーム応援団。



「応援団長ぉぉぉぉ! 全員、前に出ろぉぉぉぉぉぉ!!」



 坊主頭のどうしようもないお馬鹿さん、雉白きじしろくんが空に届けとばかりに声を張り上げた。


 それを合図に――雉白くんを含む三人が、応援団どもの最前列に並び立つ。


 ああ、確かこいつら……それぞれの応援団長だっけか。興味ないけど。



 最初は神経質そうな顔つきの、七三分けな髪型をした眼鏡の男。



「番長応援団長――犬黒いぬぐろまさるであります! 自分はずっと、番長に踏まれたいと思っておりました!! 番長に罵られたい! ゴミのように扱われて果てたい!! そう思いながら、生きて参りました……今まで本当に、お疲れさまであります! チャーム番長!!」


「え……きも」



 知り合ってから今までで、ベストオブ軽蔑の眼差しを向ける番長。



 次は柔道着を身に纏った、ひげが濃すぎるおっさんみたいな男。



「パウダースノウ応援団長――猿輝さるきつとむ。わしは、わしは……性別なんて関係ない! パウダースノウの笑顔があれば、わしも笑顔になれるんじゃ。パウダースノウがおったから……わしは、ソーセージが好きになったんじゃ! ありがとう、本当にありがとう――チャームパウダースノウ!」


「えっと……ごめんね? さすがにちょっと、ソーセージは……セクハラだぞっ?」



 スカートの裾を抑えつつ、あざとくウインクなんて決めるパウダースノウ。



 そして最後は――特攻服を着込んだ、坊主頭の小柄な男。


 見慣れた気持ちの悪いその男は、にっこりと仏みたいな笑顔を浮かべて。



「サーモン応援団長――雉白きじしろともだ。サーモン……もう言葉もないけどさ。本当に、今までお疲れ――」


「死ね」



 聞く気にもならないっての、お前らの戯れ言。


 わたしは暴言で雉白くんのセリフにピリオドを打つと――パオンチャクラーと化した妖精インド象目掛けて、駆け出した!



「GOOOOOOOOOO! キュゥゥティクルゥゥゥゥッ!! LOVELYYYYYYYYYYYYYYYYYYY! チャァァァァァァァァァァムゥゥゥゥゥ!!」



 うぉ、過去最高の騒音公害だな!?


 ったく、最後までうるさい連中だな。迷惑しか掛けられた覚えがねぇ。



 まぁ――今日は勘弁してやるよ。


 気持ち悪さMAXだけど、一応……こんな落ち目の魔法少女を応援し続けてくれた、ファンだしね。




 さぁ、行くよ。パウダースノウ。番長。


 これが正真正銘。


 わたしたち、魔法少女キューティクルチャームの――最後の戦いだ。

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