ドッカ~ン! 1-7「魔法少女地獄が……こんなバッドエンドで?」

 荒れ果てた群馬の大地に。


 キューティクルチャームとディアブルアンジェは、砂まみれになって倒れ伏していた。



 手に力を入れようとするけど、指先が痺れて駄目だ。


 ガンガン頭痛がする。


 これって、労災適用されないかな。されねぇんだろうなぁ。



「ブラックウィザードの力を纏ったふーちゃんは、混沌を操ることができるんだお」



 ザリッと地面を踏みしめて、『リバイバルクリスタル』を携えたイーターが言った。



「混沌とは、事物の区別が混じり合った状態。さっきのは、トップアンジェの必殺技を混沌に巻き込み、貴方たちに反転させたんだお」


「……意味、分かんないんだけど」



 グググッと立ち上がろうとするトップ。


 だけど、力が入りきらず、再びガクッと前に倒れ込む。



「頂点に立つうちが、こんなところで……」


「こんなの……全然ロックじゃないっすね」



 腹ばいの状態で顔を上げたPCも、苦悶の表情を浮かべている。



「万事休す、か」


「番長、諦めないのっ! 世界を救うためには――こんなところで、負けるわけにはいかないんだからっ!!」


「ったく……ほんと、今すぐ辞めたいもんだわ」



 ドンッと片足をついて。


 ゆっくりと腰を持ち上げる。



 生まれたてのバンビみたいに、脚はガクガクしてるけど。


 それでもわたしは立ち上がり――リバイバルイーターを睨みつけた。



「まだやる気かお、チャームサーモン?」


「当たり前でしょ……だってわたしたちは、魔法少女なんだから」


「辞めたいって、ずっと言ってるのに?」


「ええ……辞めるんだったら、後味悪くないのが好みなんでね!」



 そう叫んで、わたしはスプレー缶へと姿を変えた『マジック☆凛々』を、しゃかしゃかと振りまくる。



「悪意も穢れも、これ一本! サーモン・マーメイドバブルデリーター!!」


「――反転・マーメイドバブルデリーター」



 ノズルから噴射された虹色の泡がリバイバルイーターを包み込むけれど、すぐに『リバイバルクリスタル』を中心とした混沌へと消えていき――。


 気付けばわたしが、膨れ上がった虹色の泡に巻き込まれていた。



 びりびりと身体が痙攣する。


 ダサい魔法少女のコスチュームが、泡に溶かされて穴だらけになる。



 そして、そのまま吹き飛ばされたわたしは……地面に落下し、背中を強打した。



「ぐ……っ!?」

「サーモン先輩!」



 ノワールの悲鳴にも似た声が、遠くで聞こえる。


 コツコツと近づいてくる、誰かの足音も。



「終わりだお、サーモン……ううん。魔法連盟アルスマギカに選ばれた、不幸な魔法少女たち」



 低く呟くリバイバルイーター。そして、終戦を知らせるような象の遠吠え。



「今までおつかれさまだったお、可哀想な魔法少女キューティクルチャーム。食いものにされる前に辞められてよかったお、殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェ。後のことはふーちゃんたちに任せて……普通の人間に、戻るといいよ」



 ……ここで終わり?


 八年以上に及ぶ、わたしの魔法少女地獄が……こんなバッドエンドで?



 ――――嫌だ。


 嫌だよ。だってわたしは、学級委員タイプだから。



 こんな、後味の悪い幕切れなんて。



 でも、わたしたちの力じゃあ、ミッドナイトリバイバルカンパニーは――――。




「なぁに、情けない顔してんのよ」



 ふわりと。


 穏やかな声とともに、わたしは柔らかな温もりに包まれた。



 そっと顔を上げる。


 そんなわたしを抱き締めて、まるで太陽のようにニコッと笑っているのは。



「……お母さん?」



 懐かしいにおいがする。


 赤ちゃんの頃、ずっとわたしを包んでいたような――そんな甘い香り。



「いつまでママにくっついている? 魔法少女なんて珍妙な活動をするあまり、年齢相応の発達もできなかったのか? それとあいにくだが、そのママ……色情魔だぞ」


「ぎゃああああ!?」



 呪詛のような言葉のマシンガンに、わたしは思わず跳ね起きた。


 そして、ゆっくりと後ろを振り返る。



 そこにいたのは――。



「やっほ。久しぶりー、ぷにちゃん?」

「相変わらず年甲斐もない格好をしているな、脂肪の塊」



 そこにいたのは――有絵田ありえだ麦月むつき

 そして、塔上とうじょうどくみ。



 リバイバルイーターこと穂花本ほかもと風仁火ふにかさんとともに、南関東を護ってきた、あの……。



 ――――魔法乙女隊エターナル∞トライアングルの、二人だった。

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