ドッカ~ン! 1-6「変身中と大事な話の最中は、攻撃NG」

「さぁってと……わたしたちも行くとしよっか?」



 わたしがググッと背伸びをしながら言うと、雪姫ゆきひめは満面の笑みを浮かべた。



「もっちろんっ! よーっし、新旧魔法少女の揃い踏みだねっ★」


「さっさと倒すぞ……あたしの気が、変わらないうちにな」



 薙子なぎこは鋭い目つきで正面を見据えつつ、淡々と言う。


 そしてわたしたち三人は、ちらりと顔を見合わせた。



「キューティクル勾玉エナジー……」

「キューティクルミラーエナジー……」

「キューティクルソードエナジー……」



「「「――――チャームアップ!!」」」



 着ていた服が弾け飛び、わたしは丸まったまま着水した。


 キューティクル勾玉に口付けると泡が噴き上がり、カーテン状に変化する。


 泡のカーテンの裏でセルフな感じにコスチュームに着替え、最後にリボンを髪に巻く。


 サーモンピンクのセミロングヘア。黄色いリボン。ブレザーを羽織ったコスチューム。


 眼鏡は既に、消えている。



 そしてわたしは水中から飛び上がり、着地と同時に微笑んだ。




 雪姫もまた、服が弾け飛ぶとともに、胸元と下半身を手で隠したまま草原に着地した。


 キューティクルミラーが空を舞い、そこから七人の小人が現われる。


 手渡されるコスチューム。それを薄地のカーテンの裏で着替えを終えると、ゆっくりとティアラを身につける。


 雪色のロングヘア。白銀のティアラ。きわどいスカートの水色コスチューム。



 そして草原をモデルのように歩くと、右手を大きく広げた。




 薙子も着ていた服が弾け飛ぶと、磨りガラスの裏に立った。


 シルエットの状態で、妖艶に着物を身に纏い、帯をギュッと締める。


 キューティクルソードが、ガラスを一瞬で切り裂いた。そして出来上がるガラスの靴。


 大きく切り取られたガラスの隙間から、威風堂々と出てくる魔法少女。



 オレンジ色の腰元まであるロングヘア。肩と胸元を大胆に露出させた、花魁みたいな黄色い着物。そして背中には鉄パイプ。




 まずはわたし。魔法の洗剤スプレー『マジック☆凛々』を引き抜いて、回転させてから正面にノズルを向ける。



「泡立つ声は海をも荒らす! チャァァァムサーモン!!」



 次は雪姫。ビシッと正面を指差すと、ぐるりと右腕を旋回させる。それを合図に落下してくるのは、筋肉質な魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』。



「林檎がなければ毒を喰え! チャームパウダースノウ!!」



 最後は薙子。魔法の鉄パイプ『巌流武蔵がんりゅうむさし』を背中から抜くと、そのまま目の前のガラスの靴を叩き壊した。そして鉄パイプを数回転させ、右手で構える。



「ガラスの靴を叩いて壊す! チャームゥゥゥ……番長!!」



 そしてわたしたち三人は、右手を重ね合わせて天へと伸ばす。



「「「世界に轟く三つの歌は、キュートでチャームな御伽のカノン」」」



 さぁ、三人揃って。



「「「我ら魔法少女! キューティクルチャーム!!」」」



 激しい風が、わたしたちのそばを吹き抜けていった。


 舞い上がった砂塵にまばたきをしてから、わたしはリバイバルイーターを見やる。



「――それじゃあ、はじめるお。どちらの魔法少女が正しいのか、決めるために」

「……愛を忘れた、わたしたちの先輩」



 小さい声で呟いて。

 わたしは大地を蹴って跳躍した。



「この魔法少女キューティクルチャームが、今度こそ――絶対にお掃除、するからっ!!」



 魔法の洗剤スプレーから、火山のごとき炎を噴射させた。

 立ち尽くしていたイーターが、真っ赤な炎に包まれる。


 だけど……。



「無駄だお」



 その炎は、くるくるとイーターの持つフォークに絡め取られてしまう。



「『しずねちゃん』――鉄拳制裁だよっ★」

「正気に戻るまで……鉄パイプで、ぶん殴る」



 右から魔法の白熊ぬいぐるみ。左から魔法の鉄パイプ。


 限りなく物理攻撃に近い魔法が、イーターを左右から追い詰める。



「だから、無駄だって言ってるお!」



『しずねちゃん』が繰り出した右ストレートを軽く避けると、イーターはその腕をパシッと叩いて、大きく跳躍した。


 行き場を失った鉄パイプは、『しずねちゃん』の側頭部を殴打する。


 泡を吹いて吹っ飛ぶ、カタギじゃないぬいぐるみ。



「魔法のフラフープ『白黒空間オセロゾーン』――ブラックフープ!!」



 しかし、空中には既にトップアンジェが待機している。

 黒いフラフープがブラックホールのように、周囲のものを吸い込んでいく。


 もちろん、イーターも例外じゃない。



「むっ……」



 その吸引力で一瞬、動きが鈍るイーター。



「魔法のデスクトップパソコン『ファッキントッシュ』――『アタックアバター』!」



 その隙をついて、戦闘中なのにパソコンの前に座ってるPCアンジェが、エンターキーをターンッと叩いた。


 画面から飛び出したのは、顔のない半透明なアバター。



 それを全身に受けて――ノワールアンジェは妖しく微笑む。

 髪の毛を掻き上げて、露出させたのは金色の左目。



「魔法のオッドアイ『夜光虫』! ショットガンレーザー……フルパワ――ッ!!」



 PCのアバターによって、魔法攻撃の威力が上がったノワール。


 そんな彼女が放つ、散弾式のレーザー光線。



 イーターに降り注ぐ、億千万のレーザーの雨。


 まばゆいくらいに、マジカルエキゾチック。



 ――――だけど。



「こんなものかお? 魔法連盟アルスマギカの魔法少女の実力は?」



 凄まじい量のレーザー光線さえも、イーターはフォークにすべて巻き取った。


 チェックのエプロン姿で愉快そうに笑い、黄色いツインテールを揺らす。



 さすがはイーター――現役時代に『ぽっちゃりイエローデビル』の異名を誇っていたのは伊達じゃないわね。めちゃくちゃダサい異名だけど。



「それじゃあ……こっちからいくお」



 瞬間。


 リバイバルイーターが構えた『リバイバルクリスタル』を中心に、黒い光が広がる。


 そして――少しの間を置いて、凄まじい振動が走った。



 大地が砕け。

 空が震え。

 木々が根元から折れ。



 わたしたちは……凄まじい風圧に押されて、方々に弾き飛ばされる。



「う……っ!?」



 倒木に背中を打ちつけて、一瞬だけ息が止まった。


 げほげほと咳き込みながら顔を上げると……目の前には、冷笑を浮かべたイーターが。



「『黒き波動』」



 黒い光が、爆発した。


 激しい衝撃と痛みを感じながら、わたしは群馬県の空を舞う。


 …………これって。



「サーモンッ!」



 地面にぶつかる直前で、滑り込んできたパウダースノウに抱き留められるわたし。


 飛んできた粉塵は、番長が鉄パイプを回転させて吹き飛ばしてくれた。



「ありがと、二人とも」



 ゆっくりと立ち上がり――わたしとパウダースノウと番長は、黒いオーラを纏ったイーターに視線を向ける。



「……ねぇ。あれって、ひょっとしてだけど」


「ひょっとしなくても……そうだと思うよ」


「――ブラックウィザード」



 混沌の守護者・ブラックウィザード。


 わたしたちが最初に戦った敵組織『ブラックチャクラ』を結成し、世界を混沌で包み込もうとした張本人。



 もう七年半も前なのに、昨日のことのように思い出せる。


 それくらい凶悪で、他に類を見ないほどの強敵だったっけ。


 最初の敵なのにね、他の奴らはなんなんだろうね。



 その、ブラックウィザードと同じ、混沌のオーラを。


 ――リバイバルイーターは、全身に纏っている。



「そうだお。今のふーちゃんは、時の宝珠『リバイバルクリスタル』の力を使って復活させた、このブラックウィザードの力を身に宿し――」


「魔天の力が天地を揺らし、歪んだ世界に一人立つ! トップ・オーロラスピニングエナジーバースト!!」



 オーロラのように輝く巨大なエネルギー球が、話している途中のイーターを捉えた。



「えええええええええええ!?」



 地面を穿ちながら、イーターを巻き込んだ球体は物凄い勢いで飛んでゆく。


 ミステリーサークルのように削られていく、群馬の大地。


 そして、数百メートルほど先の樹木を木っ端微塵に吹っ飛ばして、砂嵐を巻き上げた。



 ――まったく脈絡のないタイミングでの、トップによる襲撃。



「さっすが、うち! うちは奇襲においても、頂点に立つ魔法少女だからねっ!! どうよ、二人とも?」


「奇襲の頂点っていうのも、ロックっすね」


「なるほど。相手がガードできない絶妙なタイミング……さすがなのですよ、トップ」


「いやいやいや!? 考え方が外道衆だな、あんたたち!? こっわ! ディアブルアンジェ、こっわ!!」



 ナチュラルに頭がどうかしてる三人組に、わたしは思わず叫んでしまう。


 でも――確かに、喋ってる最中に真横から最高出力で吹っ飛ばされるとは、さすがのイーターも思わなかっただろう。



 変身中と大事な話の最中は、攻撃NG。



 そんな魔法少女的な常識があればあるほど、隙は生まれる。


 トップが非常識すぎるのは、どうかと思うけどね。次世代魔法少女なんだし。



 とはいえ。


 さすがのリバイバルイーターも、この攻撃には――。



「――――反転・オーロラスピニングエナジーバースト」



 地獄の底から響くような、低い声が聞こえた。



「え?」




 瞬間。


 わたしたちの視界は、チカチカとオーロラのような光に包まれて………………。

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