ドッカ~ン! 1-5「個人戦で競うのはやめたんだ」

 再雇用魔法少女リバイバルイーター。


 ふわっとした綿菓子のような風貌に、修羅のような殺気を纏った――違法な魔法少女。


 リバイバルイーターが、すっとフォークの先端をこちらに向ける。


 その先にいるのは……雛舞ひなむ



「雛舞。なんでそっちにいるお? あなたは殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェを引退して、我が社に再就職した。魔法連盟アルスマギカの魔法少女と一緒にいるのは、汚職に繋がるお。さぁ、こっちに来るんだお」


「……ねぇ、ひとつ教えてよ」



 フォークの先端を睨みつけたまま、雛舞は口を開いた。



「ミッドナイトリバイバルカンパニーは、魔法連盟アルスマギカを許せないから、強引にみんなをぶっ潰していく。魔法連盟アルスマギカは、仕事が適当だから、強引にみんなを魔法少女にしていく。どっちも強引だけど……あんたらと魔法連盟アルスマギカ、何が違うってのさ?」


「相手が強権を発動しているのだから、こちらも圧倒的な力で対抗するのは、至極当然な結論だお? 革命には、犠牲がつきものだから」


「まぁ、それはそうだよ。頂点にいるやつを、圧倒的な力でぶっ倒して、頂点に立つっていう発想は……うちと一緒だし」


「雛舞。なんで敵に同調して――」


「ユリーシャ」



 雛舞の発言にはらはらしている様子の百合紗ゆりさを、もゆが制する。


 そして、百合紗にニコッと笑い掛けて、その手をギュッと握った。



「ユリーシャ。ヒナリアを信じるのですよ。だってヒナリアはもゆたちの、血の盟友なのですから。どんなに哀しい別離を経験しようと、どんなに破滅の輪舞曲ロンドを演じても……最後は三人で、天国へと到達するのです」



 ディアブルアンジェのリーダー、ノワールアンジェこと鈴音りんねもゆ。


 出逢った頃はマジで、どうしようもない中二病のおばかさんだったけど。


 百合紗や雛舞と触れていく中で、どんどん成長してきたもんだよ、ほんと。



 そうやって考えると――なんかよく分かんないけど、泣きそうになるわ。



「相変わらず意味分かんないこと言ってるよね、もゆは」



 笑顔で語るもゆを一瞥すると、雛舞は照れ隠しのように頬を掻いた。


 そして、イーターのことを見据えて、髪の毛を軽く掻き上げる。



「……リバイバルイーター。言ってることは分かるのさ、魔法連盟アルスマギカがブラック企業なんだって。で、それをぶっ潰そうっていうミッドナイトリバイバルカンパニーの思想も、理解できんの。でも、なんだろ……それって、まるで孤独の女王みたいじゃん?」



 ――『孤独の女王』。

 言い得て妙だな、そのフレーズ。



 考えは理解できる。怒りも理解できる。相手の正義も理解できる。


 だけど、一方的な暴力で突き進むそのやり方は……誰にも認められない、孤独な女王。



「うちも、やりたいことやるときは、人の話とか聞かないし。だから、気持ちも分かるっちゃ分かるんだよね。だけど客観的に見てたら――なんか冷めちゃったわけ」


「…………」



 リバイバルイーターは口を一文字に噤んで、雛舞を睨みつけている。


 だけど、我が道を行く雛舞は、そんな殺気すら意に介さない。



「うちはすべてにおいて頂点に立つ女! だからいずれ、魔法少女の頂点にも立ってみせる!! ……けど、個人戦で競うのはやめたんだ。チーム戦で頂点に立って、『トップレベル』って賞賛を浴びるのも、なんか乙な感じじゃん?」



 そして雛舞は、後ろを振り返る。


 その清々しいほどの笑顔につられて、もゆと百合紗も顔をほころばせた。



「もゆ。百合紗。一緒に頂点を目指すよ」


「リーダーは、もゆなのですよ?」


「いいよ。リーダーとエースが違うチームだって、あるしさ」


「もう裏切るんじゃないっすよ? 雛舞」


「百合紗たちが、うちのトップスピードについてこれるなら……ね」



 雛舞。もゆ。百合紗。


 三人は楽しそうに笑いながら言い合うと、横一列に並んだ。



 そして、各々の変身アイテムを手に取る。



 もゆの左手の薬指につけられた、黒色のエンゲージリング――魔天の雫。


 ガブリコが百合紗の前に運んできた、黒縁のキャスター付きの姿見――魔天の鏡。


 そして最後に、ガブリコは雛舞に黒い刀剣の竹刀を渡した。

 雛舞は、それ――リバイバルブレードをかまえる。



「『ミッドナイトリバイバルカンパニー』の皆さん。短い間でしたがご指導ご鞭撻いただき、ありがとうございました。魔法少女として、多くのことを学ばせていただきました。この会社で学んだこと、経験したことは、今後に活かしていきたいと思います。これまで本当に、ありがとうございました」


「うわっ!? なんて定型的な退職スピーチ!?」



 淀みないその挨拶を聞いて、これまで退職未遂を繰り返してきたわたしは、思わず声を上げる。


 だけど雛舞は、そんなこと気にも留めず。



「そして――今度こそよろしくお願いするよ。殲滅魔天ディアブルアンジェの、トップレベルなお二人さん?」


「もっちろん! なのです!!」


「こちらこそ、よろしくっす」



 二人のご機嫌な仲間に見守られる中。

 雛舞がリバイバルブレードの鍔を、優しく撫でた。



 すると鍔の部分がカッと光って……『天使と悪魔が抱き合っている姿』のレリーフが装飾される。


 それは、魔天の雫と魔天の鏡にも施されている、ディアブルアンジェ用『三種の魔器』に共通した特徴。



「さぁ……トップスピードで、決めるよ!」



 雛舞が魔天の剣をかまえた。


 もゆと百合紗も、それに続く。



「魔天の雫の加護を浴び……」

「魔天の鏡の加護を浴び……」

「魔天の剣の加護を浴び……」



「「「――――今、咲き誇れ! 百花繚乱!!」」」




 まずは、もゆ。すべての服が透化して、全身が白い光に包まれた。


 右脚、左脚、胸元と叩くたび、鈴の音が響いて、コスチュームが纏われていく。


 両腕をクロスさせると同時、腰元から黒いひらひらが羽根のように生える。



 そして最後に髪の毛をたくし上げると――バサッと黒いロングヘアに変化して、金色に輝く左目を覆い隠した。




 続いて、百合紗。すべての服が透化して、全身が白い光に包まれた。


 頭上に浮かび上がった魔天の鏡が白銀のランプに変化すると、とろりと黄金の液体が百合紗に注がれる。


 百合紗が指を鳴らす。瞬間、全身を包む黄金の液体がコスチュームに変化する。



 そしてランプが落下して、巨大なデスクトップパソコンに姿を変えたところで――彼女はどっかりと、キャスター付きチェアに腰掛けた。




 最後は、雛舞。すべての服が透化して、全身が白い光に包まれた。


 魔天の剣が、竹刀から長剣へと変化する。


 それを使って天を切り裂くと、赤い光が滝のように降り注ぎ、雛舞のことを包んでいく。



 両手を大きく広げる。全身を包む光が、コスチュームへと姿を変える。

 そして最後に、出現した黒と白の輪っかが、両手に装着された。




「さぁ……はじめますよ」


 そう言ってもゆが、一歩踏み出した。



 学ランを可愛くアレンジしたようなコスチュームに、学帽風のキャップ。


 キャップから白い羽根が、腰元から羽根のような黒いひらひらが、それぞれ生えている。


 そして、オッドアイを覆い隠す髪の毛を揺らしながら――演出上現われた月の光を浴びつつ、宵闇の中で振り返る。



「常闇 混沌 深淵 ……雨。漆黒の乙女、我が名はノワールアンジェ」



 続く百合紗は、紫色の瞳を煌めかせ、同色のショートヘアを揺らした。


 頭から薄紫色の半透明な布をかぶり、口元はもう一枚の分厚い同色の布で隠している。なんだか知らないけど、アラビアンなコスチューム。


 薔薇でできたビキニのようなトップスに、裾の大きく広がったパンツスタイル。お腹は完全に露出されており、艶めかしいへそがちらりと覗いている。


 そして椅子から立ち上がると同時に、エアギターを一撫でした。



「ネットの中だけ溢れる勇気。電脳の乙女、我が名はPCアンジェ」



 最後の雛舞は、赤髪のロングヘアに白いヘッドドレスを装着している。


 裾や袖にフリルのついた、メイド服のようなコスチューム。


 膝あたりまでしかないスカートから覗く脚には、白いニーハイソックスとガーターベルトが装着されており、可愛さと妖艶さがブレンドされている。


 背中には巨大な剣。両手には黒と白のリング。


 そして、ビシッと右手の人差し指を天に突き立てたかと思うと、大きく横に薙いだ。



「夜空に輝く一番星は、不敵に無敵なナンバーワン! 最強の乙女、我が名はトップアンジェ」



 ノワールアンジェ。PCアンジェ。トップアンジェ。


 三人の中心に立ったノワールが、左手で唇を押さえ、右手の人差し指で右目を拭う。



「生まれし罪に悪魔の接吻キスを。戦う罰に天使のるいを」


「「「我ら選ばれし民。殲滅魔天ディアブルアンジェ」」」



 そして三人は、頬に両手を当てて目を閉じると、苦悶するように腰を捻った。



「「「嗚呼……今宵も魔天は、血に濡れる」」」




 南関東の次世代魔法少女――殲滅魔天ディアブルアンジェ。


 その記念すべき、三人揃っての初名乗りが…………遂に決まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る