魔法少女ほのりは今すぐ辞めたい。~今すぐ辞めたいアルスマギカ ドッカ~ン!~

マジカル★プロローグ

マジカル★プロローグ ドッカ~ン!「そろそろマジで、ケリをつけようじゃない?」

「わたし……この戦いが終わったら魔法少女辞めるんだ」



 小さな声で呟いて、わたし――有絵田ありえだほのりこと魔法少女チャームサーモンは、ブレザー風マントを翻した。


 黄色いハートの飾り付きリボンが、ふわりと揺れる。



「――なんて。ごめん、わたしらしくなかったね」



 すぐに頭を左右に振って、自分の言葉を訂正。


 ごめんね。パウダースノウ、番長。


 リーダーのわたしが、真っ先に弱音を吐くなんて……駄目だよね。



「大丈夫っ! これだけ強大な敵と戦ってるんだもん……弱音のひとつくらい、仕方ないよっ☆」



 わたしの幼なじみ――雪姫ゆきひめこと魔法少女チャームパウダースノウが、雪色のツインテールを風になびかせながら、お姫様のように笑った。


 白銀のティアラは、かわいい『彼女』によく似合ってる。



「あたしも、少し心が折れそうになってた。だが――もう少し、頑張ってみる」



 同じく、わたしの幼なじみ――新寺しんでら薙子なぎここと魔法少女チャーム番長が、オレンジ色の髪をたくし上げ、身に纏った和服の帯を締め直した。


 その鋭い眼差しが放つ気迫の凄まじさに……わたしは少しホッとする。


 いつもありがとう。やっぱり番長は、わたしたちにとっての『お姉ちゃん』だね。



「もう一回――アドレナリン全開で、行くよっ!!」



 わたしの言葉を号令に、魔法少女キューティクルチャームの三人は、各々の武器を片手に走り出す。



 ――――だけど。



【愚かだな、幼き魔法少女たちよ――】



 黒い光が、何もない空間から生まれて、弾けた。


『黒い光』としか説明できない、奇妙な現象。


 その巨大な爆風に吹き飛ばされて、わたしたち三人は地面に倒れ込んだ。



「ぐっ……強……っ!」



 派手に打った背中が痛い。


『黒い光』のかすった頬が、ビリビリと痺れる。



 そして――目の前にいる強大な敵を見て、わたしは思わず息を呑んだ。



 それは、間違いなく人の形をしている。

 だけどそれは、人の形をしていない。



 どす黒い何かが渦を巻いて。覗き込むと、まるで吸い込まれそうな恐怖を覚える。


 小学校で習った言葉。



 そう、多分これが――『混沌』。



【さぁ――終わりにしよう、魔法少女たち。これまで貴様たちには、ことごとく作戦を邪魔されてきたが……それも今日で終わりだ。世界はようやく、混沌に呑み込まれる】



 …………終わる?

 わたしたちの世界が?



 嫌だよ。わたしは、この戦いが終わったら――あの教室に帰るんだ。


 四年三組のみんなと一緒に、六年生を送る会をするんだ。


 それから、雪姫と薙子と一緒に、チョコレートパフェを食べに行くんだ。


 かぶとにも、お菓子を買っていく約束をしてるんだ。



 だから――――。



「そんなことは! 魔法少女キューティクルチャームが……絶対に許さない!!」



 大きな声で叫んで。


 わたしはよろよろと立ち上がった。



 痛み。息苦しさ。泣き出しそうなほどの恐怖。



 それでも、わたしは――立ち上がったんだ。



「人間の『負の感情』に寄生して、『チャクラー』を覚醒させて、人間界を支配しようとしてきた『ブラックチャクラ』――あなたたちはこの一年、たくさんの人を泣かせてきた。たくさんの人を苦しめてきた。そんなのもう……終わらせるんだ!!」



 わたしの肩にポンッと手を置いて。


 チャームパウダースノウも、ゆっくりと立ち上がる。


「そうだよ……これ以上、誰かの涙は見たくないから。最後まで、キューティクルチャームは……戦い続けるよっ!!」



「お前で最後だ。これで、すべてが終わる。なのに、ここで諦めるなんて……できるわけ、ないだろう?」


 チャーム番長も続いて立ち上がると、口元の血を拭った。



 わたしたちは、『三種の魔器』に選ばれた。


 そして――お母さんたちから、『南関東魔法少女』を引き継いだんだ。


 だから、こんなところじゃ……絶対に負けられないっ!



【我は、混沌の守護者・ブラックウィザード――『ブラックチャクラ』を統べる者。それがこんな子ども如きに……負けると思うのか?】


「そうだよ……あなたは、こんな子ども如きに負けるんだ!」



 叫ぶと同時に、飛び上がる。


 そして光とともに、両手の洗剤スプレーがひとつの巨大なスプレー缶へと変化する。



「サーモン・マーメイドバブルデリーターッ!!」



 虹色に輝く泡が、一気にブラックウィザードを包み込んだ。


 だけど――すぐに泡は、黒い闇の中へと消えていく。



【無駄だ】



 黒い光が爆発する。


 わたしは再び吹き飛ばされながら……黒く淀んだ空を見た。



 青い空。鳥が歌う、綺麗なあの空。


 護りたかった。護りたかったんだ。


 でも……もう、駄目かも。



 ごめんね――――お母さん。



「なぁに、情けない顔してんのよ」



 ふわりと。


 穏やかな声とともに、わたしは柔らかな温もりに包まれた。



 そっと顔を上げる。


 そんなわたしを見つめて、まるで太陽のようにニコッと笑っているのは。



「……お母さん?」



【貴様たちは――なんだ?】


「喋るな、カスが。黒いんだよ」


「後輩のピンチだから、助太刀に来たんだお。つまり、貴方は……終わりってこと!」



 お母さんの隣には、見知った怖い顔と、見知った優しい顔があった。


 ああ。この三人は――。



 有絵田ありえだ麦月むつき塔上とうじょうどくみ。穂花本ほかもと風仁火ふにか


 先代魔法少女――魔法乙女隊エターナル∞トライアングルだ。



【こしゃくな――人間如きが!】



 黒い光が波のように、エターナル∞トライアングルへと襲い掛かる。


 だけど、三人が両手を前に突き出すと。


 黒い光が、まるでバリアにぶつかったみたいに、その場で動かなくなる。



【な…………!? 馬鹿な。変身もせずに、なぜ……!?】


「キューティクルチャーム! もう引き継ぎは終わってる。この一年、あんたたちは充分、魔法少女として頑張ってきた。だから、これは……最後の助太刀だよ!!」


「二度と私の手を煩わせるな。死ぬ気で頑張れ」


「ふーちゃんは、貴方たちをずっと応援してるお! だから――とどめは貴方たちが!!」



 三人の言葉に後押しされて。


 わたしとパウダースノウと番長は、三人で右手を重ね合わせた。



「響け三つの歌よ」

「海に大地に空にと溶けて」

「今、一筋の光とならん!」



 これは、混沌の守護者・ブラックウィザードを倒すために産み出した、合体魔法。


 今のわたしたちにとっての、最強最大の魔法。



 この力で、魔法少女キューティクルチャームは――。


 どんな混沌だって、打ち払ってみせるから!



「「「キューティクルチャーム・チャーミングフェアリーテイラー!!」」」




 ――――こうして、今から七年半くらい前の春。


 わたしたち魔法少女キューティクルチャームは、第一の敵組織『ブラックチャクラ』を倒したんだ。


 魔法乙女隊エターナル∞トライアングルの三人に助けてもらって、どうにか勝てた……って感じだったけど。




 それから、色んな敵と戦ったっけな。


 強い奴もいた。意味分かんない奴もいた。気持ち悪い奴もいた。



 そんなこんなで、敵組織も八十九番目。


 ふざけた数だと思うし、マジでありえないとしか言いようがない。




 さぁてっと――第八十九番目の敵組織『ミッドナイトリバイバルカンパニー』。


 そろそろマジで、ケリをつけようじゃない?




 最後の敵をぶっ倒して、殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェにきちんと引き継いで。


 必要な手続きを全部踏んだら……魔法少女なんて、辞めてやるんだから。






        最終章



   魔法少女ほのりは今すぐ辞めたい。


~今すぐ辞めたいアルスマギカ ドッカ~ン!~

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