マジカル★エピローグ

も~っと! マジカル★エピローグ「光栄に思うぱお――群馬県」

 ――――これは地獄コックとの戦いから数時間後。


 ノワールアンジェの『夜光虫』による『千里眼光テレパス』が、わたしたちに見せた光景。



 そう……あのとき姿を消した、風仁火ふにかさんとパオンの。

 足取りの、記録だ。



「着いたお。ここが……群馬県だお」

「ふむ。ここが彼の有名な、群馬県でござるぱおか」



 黄色に染めたツインテール。カラーコンタクトを入れた瞳は水色。


 ややぽっちゃりで白いゴスロリな格好をした、年甲斐のなさが常軌を逸してる彼女は――かつて、わたしたちの先輩だった穂花本ほかもと風仁火さん。


 そして、そのそばで長い鼻を高々と持ち上げているのは、妖精インド象パオン。



 ん? パオンの鼻先に、なんか見覚えのある水晶玉があるな?


 ああ――地獄コックが持っていた、アレか。



 そう、確か――風仁火さんたちは、時の宝珠『リバイバルクリスタル』とか呼んでた。



「ふーちゃんたちが、この宝珠を手に入れた本当の目的――ほのりたちは、気付いてるのかな?」


「分からないでござろうぱお。おそらく現役の者たちは、拙者たちが『再雇用魔法少女』を生み出すためだけに、これを用いたと思い込んでるぱお」


「願いをかければ、時間を巻き戻すことができる魔力結晶――『リバイバルクリスタル』。ノワールアンジェって子も『時間逆行タイムリバース』なんて技が使えるみたいだけど、彼女が使える規模なんて比じゃない……もっと過去に遡って、強大な力を蘇らせることができる」



 過去を悔やみ続ける再雇用魔法少女。

 過去を憎み続ける妖精。


 そんな一人と一匹の手に渡った――時間を巻き戻すことができる魔力結晶。



 風仁火さんが、水晶玉を覗き込み、ニヤッと笑う。



雛舞ひなむが時間を稼いでくれて、本当に助かったお」


「最初、汝が彼女を仲間にすると言ったときは、どういうつもりかと思ったぱおが……」


「手駒は多い方がいいから、それだけだお。最強を目指すために、味方も無下にするような子は――嫌いだお」



 どす黒い影が、風仁火さんの背中に見えたような気がした。


 味方を無下に――それって、ひょっとして。


 お母さんと、塔上とうじょう先生のこと…………。



「やっぱり、魔法連盟アルスマギカの選んだ魔法少女は――適格者じゃないお」



 底冷えするような声で、そう呟いて。


 風仁火さんはゆっくりと、『リバイバルクリスタル』を天にかかげた。



「やる気がない魔法少女。正義に反する魔法少女。自己顕示欲を満たすためだけに活動する魔法少女。狂った魔法連盟アルスマギカの産み出した、愚かな『偽者』の魔法少女たちよ!! これから革命がはじまる……そして、すべての魔法少女はいなくなる!」



 パオンが長い鼻を天にかかげ、風仁火さんは言葉を続ける。



「革命により――魔法連盟アルスマギカは滅ぼす。そして、愛と正義を胸に抱いた、正しき魔法少女による世界平和を……実現させてみせる。必ず!!」


「革命の地に選ばれたことを、光栄に思うぱお――群馬県」



 群馬県は、日本の中でもイレギュラーな場所だ。



 かつては伝統的に、二人組の『北関東魔法少女』が、茨城県・栃木県・群馬県を守護していた。


 だけど、サンシャインいろはと、もう一人の折り合いが悪くなって――事実上の解散。


 その結果として……サンシャインいろはが、栃木県を担当。

 もう一人が、茨城県を担当することになり。



 群馬県は――日本で唯一、『魔法少女が管轄しない土地』となったのだ。



「魔法少女不毛の地において、魔法少女の革命がはじまるっていうのも……なんだか皮肉でござるぱお」


「魔法少女不毛の地――その事実こそが、現在の魔法少女が間違っていることの証明だお。本来は管轄地域だった場所を、諍いによって放り捨て……結果的に、世紀末のような無法地帯と化した群馬県。ある意味、魔法連盟アルスマギカ最大の被害者だお」



 吐き捨てるように、そう言った瞬間。


 風仁火さんのかかげた『リバイバルクリスタル』が、黒く輝いた。



 そして、水晶玉の中にぼんやりと――シルエットが浮かんで見える。



【今度こそ……混沌に世界を包んでみせよう……今度こそ……】



 まるで地獄の底から響くような、その重々しい声。

 そして、水晶玉の中に見えるシルエット。



 その姿に、わたしは……いや。わたしたち三人は、見覚えがあった。



 さすがのわたしでも、忘れない。


 忘れるはずがない。


 あれは……あれは、魔法少女キューティクルチャームが、最初に戦った敵。



 第一番目の敵組織『ブラックチャクラ』――混沌の守護者・ブラックウィザード。





 そう、これは――かつての魔法少女と妖精が、魔法連盟アルスマギカに反旗を翻す物語。


 群馬県からはじまる、終焉へと続く革命の物語。




 そして、わたしたち魔法少女キューティクルチャームの…………最後の物語だ。

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