も~っと! 4-8「根拠はないんだけど、ね」

「魔法のオッドアイ『夜光虫』――『時間逆行タイムリバース』」



 ノワールの魔法によって、栃木県の街並みが、見る見るうちに元通りになっていく。


 中禅寺湖も。いろは坂も。日光東照宮も。すべての民家も。


 みんなみんな――最初から何事もなかったかのように、平和を取り戻す。



「これで、本当の終わりですね……って痛ぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 ようやく人心地ついたところで、ノワールは左目を押さえて倒れ込むと、のたうち回りはじめた。



「ひぃぃぃ!? ノワール、しっかりするっすよぉ!?」


「何やってんの、あのおちびちゃん?」


「ノワールは強大な魔法を使える分だけ、魔力消費が激しいにょろ」


「なので、魔力を消耗しすぎると、常人の百倍痛いドライアイに苦しむことになるがぶ」


「うわぁぁぁぁ!? 蛇とワニが、化けて出たぁぁぁ!?」



 ノワールの地獄のドライアイよりも、ニョロンとガブリコがすっと現われたことに度肝を抜かれるわたし。


 そんなわたしをジト目で見ながら、化けて出た妖精二匹が詰め寄ってくる。

 ひぃぃ、呪い殺される!!



「って、お化け扱いするなにょろ! どっこい、ミーたちは生きてたにょろよ!」


「……え? 真面目に、どうやって無事だったわけ?」


「そんなこと、僕ちゃんたちが知るか、がぶ!!」



 え、雑じゃね……?

 昭和の特撮かよ。シチュエーション的にも、見た目的にも。



「――魔法のフラフープ『白黒空間オセロゾーン』」



 そうやって騒いでる、わたしたちを尻目に。


 リバイバルトップは、ブラックフープとホワイトフープの間で、魔力の球体を行き来させはじめた。


 その繰り返しによって、魔力エネルギーは増幅していく。



 そして、最後に何やら加工を施すと。


 ころんと……地面に何かが転がり落ちた。



「使いなよ、ノワール」


「は……はいぃぃ……?」


「だーかーら。その目薬! うちが魔力を錬成して作ったやつだから、使えば魔力が補充できるっての!!」



 トップに言われるがまま、目薬を差すノワール。


 すると、先ほどまでの苦悶が嘘だったみたいに、けろっとした顔になる。



「痛くないのです……」


「そりゃそうよ。なんたって、魔法少女の頂点に立つうちが作った、最強の目薬なんだからねっ!!」



 そう言って変身を解いて、雛舞ひなむはぷいっとそっぽを向く。


 そんな雛舞にぺこりとおじぎして――もゆも変身を解除した。



「ありがとうなのです、ヒナリア。この魔法の点眼薬『漏斗誓約ろうとせいやく』――大事にするのです。貴方との、血の盟約のもとに」



 それに続いて、わたしたちも変身を解く。



 有絵田ありえだほのり。雪姫ゆきひめ光篤みつあつ新寺しんでら薙子なぎこ

 鈴音りんねもゆ。茉莉まつり百合紗ゆりさ

 ニョロン。ガブリコ。

 そして――緒浦おうら雛舞ひなむ


(なお、キューティクルチャーム応援団は目障りなので、気にしないものとする)



「雛舞。どうよ、人助けやってみて?」

「…………別に」


 雛舞は仏頂面なままだけど……ぽそっと、小さな声で呟いた。



「うちは、どんなことでも一番じゃないと気が済まなかった。一番じゃないと、認めてもらえない気がして……だから、誰よりも強くなりたかった。そのために、魔法少女になった……んだと、思う。多分」


「今は、どうなんすか?」


 俯き気味な雛舞に向かって、百合紗が微笑み掛ける。



「殻を破った先の景色――見えたっすか?」


「……ぶっ倒す以外の強さも、あるんだって思ったよ。おちびちゃんの――もゆの姿を見てたらさ」


「ヒナリア……ヒナリアぁ!!」



 感極まったらしいもゆが、雛舞に向かって抱きつこうと、ジャンプする。


 雛舞は頬を赤くして、もゆを一瞥すると――。



 すっと、避けた。



「ぎゃんっ!?」


 地面に激突するもゆ。

 呆気に取られるわたしたち、キューティクルチャーム陣。


 そして、流れとかそういうのをまったく気にせず――――雛舞は。



 ギュッと百合紗に抱きついて、胸に顔を埋めやがった。



「へ? お、おたく……何してるんすか?」


「はぁはぁはぁはぁ……」


「怖っ!? 今すぐ離れてくださいって! 体温が上がって、貧血起こしたらどうするんすか!? ……もゆとすら、こんなにベタベタしたことないってのに……」


「はぁはぁはぁはぁはぁ!!」



 こりゃ、ヤバいわ。



 わたしは慌てて、百合紗から雛舞を引っぺがす。

 それでもジタバタする雛舞の両肩を、雪姫と薙子が押さえる。


 そして、わたしは正面に立って。



「雛舞……あんた、キャラを見失ってるわよ? 何がどうなったら、引きこもりに抱きついた挙げ句、はぁはぁする流れになるわけ? 今のあんた、気持ち悪さでは確実にトップに立ってたわよ?」


「ふひぃ……だって、だってぇ!」



 完全にキャラチェンジした雛舞は、百合紗のことを爛々とした目で見て――叫んだ。



「うち――『ジャスミン』の大ファンなんだから!」



 ……はい?



「だって、ほのりさん言ってたじゃん! 『ジャスミン』……なんでしょ? あの、ミーチューブのトップに立つ、最強の歌い手の!!」


「えっと……おかしいな。電脳ライブハウスによる洗脳作戦は、確か失敗に終わったはずなんだけど……」


「違う! 洗脳とかじゃなく、『ジャスミン』を頂点の器として尊敬してんの! あれ大好きです『センチメンタル水族館』!! ぎょぎょーん ぎょぎょーん 愛する貴方は♪」


「……うおーん うおーん 釣れない男♪」


「想いはくるくるお寿司のように♪」


「回って回って――――へい一丁!!」



 クソ歌を二人揃って歌ったかと思うと。


 百合紗と雛舞は、なんかハイタッチを交わしあった。



「……案外、気が合うっすね。雛舞」


「うん。敬語とか苦手だから、親しみを込めて呼ばせてもらうね……百合紗」


「あーちょっとーえっとー……ユリーシャぁ。ヒナリアぁ」



 意味不明な意気投合をしてる二人のそばで、おたおたしているもゆ。


 そんな可愛い神の子を見て、百合紗と雛舞はぷっと吹き出すと。



「安心するっすよ。もゆの方が、もーっと仲良しっすから」


「……ふん。まぁ、今日のところは……認めてやらなくもないわ。もゆ」



 こうして、なんだかんだで。


 それなりにうまくまとまった後輩三人組を、わたしたち三人は見つめる。



「ふふっ! 仲良し三人組を見てたら、こっちまで嬉しくなっちゃうねっ★」


「雪、はしゃぎすぎだぞ。カレーの奴は倒したが……すべてが、終わったわけじゃないんだから。なぁ、ほのり?」


「……薙子の言うとおりよ。まだ、第八十九番目の敵組織『ミッドナイトリバイバルカンパニー』が――パオンと、風仁火ふにかさんが。残ってるんだから」



 地獄コックが、なんでゾンビみたいになってたのか。

 風仁火さんたちが、どこに向かったのか。


 この先、一体――『ミッドナイトリバイバルカンパニー』は、何を企んでいるのか。


 考えることが多すぎて、頭がパンクしちゃいそう。



 でも、まぁ……。



 雪姫の言うとおり、もゆたち三人を見てたら――ちょっとだけ、ほっこりした気持ちになるのは、なんか分かる気がするわ。



 世界は確かに、危機的状況なのかもしれないけど。


 わたしたち三人と、後輩ちゃん三人が、力を合わせれば…………。



 なんだか、どんな困難だってぶっ飛ばして。


 明るい未来を切り開けるような……そんな気がするんだ。




 ――根拠はないんだけど、ね。

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