も~っと! 4-6「栃木《ソドム》」

 わたしは、噴き上がった泡のカーテンの裏で、いそいそと衣装に着替える。

 黄色のリボンを巻くと髪が伸び、サーモンピンクに染め上がる。



 雪姫ゆきひめは、用意されたカーテンの裏側で着替えを済ませて、白銀のティアラを装着する。

 髪は腰元まで伸びて、雪色のツインテールに自動的に整えられる。



 薙子なぎこは、現われた磨りガラスの裏側で、着物を身に纏う。

 そしてキューティクルソードでガラスを切り裂き、片足だけのガラスの靴を作る。



「さぁ、行くよ!」



 わたしは水中から飛び出した。


 ふりふりのミニスカートコスチュームに、ブレザーを模した形状のマント。


 左腕を伸ばしてポーズを決めると、両腰のホルダーから魔法の洗剤スプレー『マジック☆凛々』を引き抜き、くるくる回して正面にかざした。



「泡立つ声は海をも荒らす! チャァァァムサーモン!!」



 雪姫は白のハイヒールで、カツンと地面を鳴らした。


 輝く白銀のティアラに水色のコスチューム。


 ビシッと右手で相手を指すと、ぐるりと右腕を回す。それを合図に、空から落下してくる――筋骨隆々な魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』。



「林檎がなければ毒を喰え! チャームパウダースノウ!!」



 薙子は鉄パイプを背負ったまま、前に踏み出した。


 肩と胸元を大胆に露出させた、花魁のようなコスチューム。たなびくオレンジ色の髪。


 無表情のまま魔法の鉄パイプ『巌流武蔵がんりゅうむさし』を背中から引き抜き、目の前のガラスの靴を、木っ端微塵に粉砕した。そして、鉄パイプを回転させてから、右手に構える。



「ガラスの靴を叩いて壊す! チャームゥゥゥ……番長!!」



 サーモン・パウダースノウ・番長の三人で、天へ届けと重ねた右手を伸ばして。


「「「世界に轟く三つの歌は、キュートでチャームな御伽のカノン」」」



 さぁ、三人で行くよ!



「「「我ら魔法少女! キューティクルチャーム!!」」」



 そして、魔法少女キューティクルチャームは、まっすぐに前を見据える。



「ちまたに溢れる社会のクズ共」

「この魔法少女キューティクルチャームがぁ?」

「今日もシュシュッと……」


 最後は三人でウインクを決めながら。



「「「――お掃除しちゃうゾ★」」」



 変身と名乗りのノルマを終えたわたしたちは、リバイバルイーターとパオンと対峙する。



「さぁ、みんな――アドレナリン全開で行くわよ」


「へぇ……そっか」



 リバイバルイーターは、わたしたち三人を見回して、ふぅとため息をつく。


 そして、にっこりと笑った。

 少しだけ哀しそうに。



「残念だお……本当に、ね」

「カレエエエエエエエエエッ!!」



 リバイバルイーターが呟くと同時に、地面を突き破って、何者かが咆哮した。


 え、緊迫した場面で何よ、こいつ。



 頭にはターバン。口元はもじゃもじゃのひげ。身に纏うは純白のエプロン。



「あんた……地獄コック!?」


 魔法少女キューティクルチャームの第八十八番目の敵組織『カレースパイス◎カラカラ』。その構成員である、たった一人の男――地獄コック。



 いや、まだ倒してなかったけどさ。いつ出てきてんの? 今じゃないでしょ?


 しかも、なんか様子がおかしいような……。



「カレエエエエエエエエエッ!!」



 奇声を上げながら、お玉と鍋を持った地獄コックが、こちら目掛けて走ってくる。


 目はうつろで、口もだらんと開いてて。



「サーモン! なんか変だよ、気を付けてっ!」


「変なのはもともとだけど……これはちょっと尋常じゃないやつね」


「取りあえず、ぶん殴るか」



 完全にゾンビのような佇まいの地獄コックは、お玉で鍋からカレーをすくうと、口に含んだ。



「バアアアアアアモントオオオオオオオオッ!!」



 そして、咆哮とともに――激しい炎を吹き出した。


 慌ててわたしたちは飛び上がり、直撃を避ける。



「地獄コックはもはや、ふーちゃんたちの手に落ちてるお」

「せいぜい、地獄のカレーパーティーを、楽しむでござるぱお」



 そんな捨てゼリフを残して、リバイバルイーターとパオンが、戦場を去っていく。



「あ、ちょっとちょっとぉ! リーダーのうちを置いて、どこに行くのさ!?」


 トップも後を追おうとするけど、ノワールの『三角障壁バリアフィールド』に阻まれて、ぐぬぬ……ってなってる。



「ちょっ……まずいわよ、イーターたちを逃がすのは!!」

「ククレエエエエエエエエエッ!!」



 慌ててイーターたちを追跡しようとするわたしたちの前で、地獄コックが――全身を燃え上がらせた。


 そして――四方八方に向かって、炎の渦を噴射する。



「ボンボンボンボオオオオオオンッ!!」



 炎は更地となった区画を超えて、無事だった栃木の街並みにまで広がった。


 そして――燃え上がる。



「嗚呼、なんということ。地獄の業火が、栃木ソドムを焼き尽くす……終焉の炎が、赤く輝く」


 栃木に『ソドム』なんてふりがな振る奴、はじめて見たわ。



 とかなんとか思っている間に、ノワールは『三角障壁バリアフィールド』を解除した。



「おおっとっと……おっしゃあ! 動けるようになった!!」


 自由を取り戻したトップがはしゃいでいるのを横目に、ノワールとPCはわたしたちの方に駆け寄ってくる。



「サーモン先輩。わらわたちが消火活動に当たるのです。先輩方は、あの白い悪魔の相手を!」


「助かるわ、ノワール。パウダースノウ、番長――一気にケリを付けるわよ!」


「PC、それにトップ……わらわたちは、あの炎を消しながら、民間人を救出に向かうのです」


「ええ、うちも!?」



 ノワールの指示に対して、トップは明らかに不満そうな声を上げる。


 そして、頬を膨らませながら。



「そういう地味なのは、トップのやることじゃないって。そっち系を他のみんなでやってよ? うちがこの、ゾンビみたいなコックさん、ぶっ倒してやるからさ!!」


「――魔天の音符が電子に踊り、狂ったフェスタでシェケナベイベー」


 突然聞こえる、意味不明な呪文。



「PC・ジャスミンアバタープログラム!!」



 すると、半透明な『リバイバルトップ』が、本物のトップへと飛び掛かって――。



 その顔面を、容赦なくぶん殴った!

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