も~っと! 4-5「どうせ魔法少女をやるんなら、わたしは――」

 黄色いツインテールに、チェックのエプロンドレス。

 両手にはナイフとフォークを携えている。



 年齢的には限りなくアウトな格好だけど……あくまで毅然としてるのは、リバイバルイーター。


 その後ろにいるのは、つぶらな瞳をした、めちゃめちゃ大きな妖精インド象パオン。



「リバイバルトップ。相手は魔法連盟アルスマギカの手先だお? 口車に乗せられて、戦いをやめてどうするお。『ミッドナイトリバイバルカンパニー』にいる限り、貴方はリーダーであり魔法少女の頂点でいられる……その立場を、ふいにしたいのかお?」


「う、ううん! ごめん、ちょっとだけ動揺しちゃったっ!!」


 そう言うと、トップは後ろに跳躍し、イーターの隣に立つ。



 チャームサーモン。チャームパウダースノウ。ノワールアンジェ。PCアンジェ。


 リバイバルトップ。リバイバルイーター。



 更地と化した栃木県の観光地で、両陣営はジッと睨み合う形となる。



 そこへ――爆音とともに。


 グリーンカラーのバイクが、砂煙を上げながら近づいてきた。



 わたしはそのバイクに、見覚えがある。


 魔法少女を辞めかけたわたしが、もやもやした気持ちを抑えられなかったとき――。


 あいつが、後ろに乗せて海に連れてってくれたな。



 バイクから降りると、あいつはゆっくりとヘルメットを脱いだ。

 羨ましいくらい艶やかな黒いロングヘアが、バサリと揺れる。



「……薙子なぎこ

「よぉ」



 気安い感じでそう言って。


 わたしと雪姫ゆきひめの幼なじみ――新寺しんでら薙子は。


 ポケットに手を突っ込むと……おもむろに煙草を吸いはじめた。



「って! 流れるように煙草を吸うな!! 仮にも魔法少女でしょうが、あんた!!」


「大丈夫だ。自然破壊は、しない」



 猫のぬいぐるみを取り出し、薙子はその口の中にジュッと煙草を押し付ける。


 あー、見たことあるな……そのファンシー灰皿。



「そういえば、サーモン。道中で、化け蛇と化けワニが転がっているのを見たが?」


「ああ……そういえば、さっきからいないわね」



 多分、さっき山が吹っ飛んだときに巻き添えを食らったんだろう。


 あーしまったー助けられなかったー棒読み。



「放っておいて、いいか?」


「まぁ死にゃしないでしょ。仮にも妖精だし」


「だな」



 そうして軽口を叩き合っていると。

 薙子に向かって、リバイバルイーターがにっこりと微笑んだ。



「薙子。何しにきたお?」


 薙子は、イーターに背を向けたままだ。


 いや。多分――向けないんだと思う。



 イーターを直視したくないから。



「ふーちゃんはね、キューティクルチャームを可愛がってきたお。とても大切な後輩だと思ってきたお。その中でも……薙子。貴方は、特別だった」


「……同じ『剣』の戦士、ですもんね」


「ふーちゃんにとって薙子は、直属の後輩だお。でも、それだけじゃない……貴方の義理人情に厚い性格。そんなところが、ふーちゃんは――とても、大好きだお」


「……そんなの、あたしだって」



 薙子の肩が僅かに震える。


 そして俯いたまま、絞り出すような声で。



風仁火ふにかさんのこと、大好きでした。こんなあたしだけど……尊敬、してたんです」


「そっか……過去形、なんだね?」


「……ごめんなさい」



 薙子がグッと唇を噛み締める。


 そんな薙子に駆け寄り、変身を解くわたし。



「なんで戦いの最中に、変身解いてんのさぁ! そんな隙を見せるなら、うちが――」


「魔法のオッドアイ『夜光虫やこうちゅう』――『三角障壁バリアフィールド』」



 今にもわたしたちに飛び掛かろうとしたトップが、ゴンッと見えない壁にぶつかる。



「わらわたちの周りには、三角形状にバリアが張り巡らされているのです」


「つまり、おたくは……自分たちとしばらく、ここで待機ってことっすよ」



 そしてノワールは、すっと右手を前に出して。



「先輩方の大事なお話、邪魔をするのは神が許したとて――わらわが許さぬのです」


「ってこって。自分たちと一緒に、お留守番するっすよ……リバイバルトップ!」


「……上等じゃん。後悔させてあげるよ、殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェ!!」



 見えない壁に囲まれた空間で、ノワール&PCとトップが、再び戦いはじめる。



「……もゆちん、すっごく大人になったよねぇ」


 同じく変身を解いた雪姫が、ポンッとわたしの肩を叩く。


 その言葉に素直に頷いて、わたしは笑った。



「そりゃそうよ。なんたって、わたしの可愛い――後輩ちゃんなんだから」



 有絵田ありえだほのり。雪姫光篤みつあつ。新寺薙子。


 変身を解いたキューティクルチャーム三人が、並んで前を見る。



 そこに立ちはだかるのは――かつての先輩・リバイバルイーター。


 そして、妖精インド象パオン。



「リバイバルイーター……いいえ、風仁火さん。わたしたち、どうですか? 少しは先輩から見て、成長できましたか?」


 わたしの問いに、答えはない。


 だけどかまわず、わたしは続ける。



「雪姫の良いとこはさ、なんていうか……いつも、ほわほわしてるとこ?」


「何それぇ? なーんか、褒められてる感じがしないんですけどぉ。ゆっきーにだって、怒るときあるもんっ。ぷんぷんっ!」


「確かに。怒ると雪、怖いもんな」


「褒めてるって。そりゃ人間だから、怒ったりもあるけど……いつだって、周りのことを見て、みんなで一緒に頑張ろうってしてくれる。そういうとこが――雪姫の良いところ」


「えへへー、ほのりん大好きっ!」



 わたしたちの会話に、イーターがイライラした表情を浮かべる。


「ほのり……何が言いたいお」



「薙子の良いところは、義理とかそういうの、大事にするとこ。気まぐれでサボり魔で、困ることの方が多いけど? ……なんだかんだで、面倒見いいんだよね。薙子は」


「……褒めても、何もやらないけどな」


「ちなみに、薙ちゃん? ほのりんの良いところって、どんなとこだと思うっ?」


「んー……そうだな。やっぱりあれ、かな」



「「くそ真面目で、頑張り過ぎちゃうところ」」



「って、なんであんたらハモってんのよ!? しかも褒められてる気がしないし!」


「褒めてるって。ゆっきーも薙ちゃんも、ほのりんのこと……大好きなんだから」


「頼りにしてるぞ。リーダー」



 わたしと雪姫と薙子は、三人で顔を合わせて、笑い合う。



 ――――ドンッと。


 地面を踏み鳴らし、イーターはぷるぷると肩を震わせている。



「なんなの……そうやってキューティクルチャームの仲良さを見せつけて、精神攻撃でもしたつもり!? どんな説得をされようと、『ミッドナイトリバイバルカンパニー』の理念は変わらない! 魔法少女になるのは、やる気のある人間だけでいいんだ!!」


 お母さんや塔上とうじょう先生のような人間じゃなくって……という言外の意味を感じる。


 それだけ風仁火さんにとって、魔法乙女隊エターナル∞トライアングルの時代は、後悔だらけの過去なんだろうね。それは分かったよ。だけどね……。




「分かるけどさ、風仁火さんの気持ちも。だけど、それでも、わたしは――誰かを傷つけてまで行う革命は、やっぱり認めない。あだっちーや春苺はるいちごみたいな、傷つく魔法少女を、わたしは見たくないから。だから、わたしは――あなたたちと戦う。それがわたしの……『正義』だから」




「ゆっきーはいつだって、魔法少女を頑張ってきたからねっ。魔法少女を潰すやり方は、ぜんっぜん合わない。それに――ゆっきーはね、大切な人が少しでも幸せだといいなって思うから。その人が決めた道を、一緒に歩くんだっ! それが、ゆっきーの『正義』」



「あたしは……風仁火さんに、色んなことを教わった。だから、恩返しがしたかった。それで悩んだ……けど。こんなやり方は、やっぱり風仁火さんらしくない。だから、止める。それが、あたしが風仁火さんにできる、一番の恩返しだと思うから。それが、あたしの仁義で――『正義』だ」




「ふざけるな……ふざけるなぁ!!」


 風仁火さんが――リバイバルイーターが、吼えるように叫んだ。


 そんなイーターを見て、わたしは二人に向かって声を上げる。



「行くよ、雪姫! 薙子!!」


「もっちろんっ! 準備はOKだよっ」


「ああ……覚悟なら、もうできてる」



 性格もバラバラ。考え方もバラバラ。

 ぶつかり合うこともしょっちゅうだけど。



 どうせ魔法少女をやるんなら、わたしは――この三人がいい。



「キューティクル勾玉エナジー!」

「キューティクルミラーエナジー!」

「キューティクルソードエナジー!」



「「「チャームアップ!!」」」

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