も~っと! 4-4「――大切な先輩に、教えてもらいました」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 更地と化した観光地に膝を付き、ノワールはトップを見た。


 トップもその場に座り込み、ぜぇぜぇと荒い呼吸をしている。



「やりますね、さすがト――いたぁ!?」


 そうしてシリアスな雰囲気を醸し出してるノワールの頭を……変身を終えたわたしは、思いっきりはたいてやった。


 そりゃあもう、全力でね!



「な、何をするのですか、サーモンのマリネ先輩!? まさか、貴方まで闇の手に……」


「誰がサーモンのマリネだ! それじゃあチャームマリネって名前みたいだろ!! あ、そっちの方がよかったかも……ってなるからやめろ!! あと、闇堕ちしてねーから!」


「チャームサーモン……邪魔しないでよね。まだ、そこのおちびちゃんとの決着は、ついてないんだからさ……っ!!」


「じゃなくって、お前らやり過ぎなの! 見ろ、この惨状を!? 山ひとつ消えてんだからね!? っていうか、わたしとパウダースノウだって、変身しなきゃ一緒に死んでたわ!!」



 わたしの後ろには、春苺はるいちごをお姫様だっこしたパウダースノウ。そしてPC。



 ニョロンとガブリコ?


 さぁ、知らない子ですねぇ……?



「大丈夫ですよ。先ほどわらわが『空間転移ワープ』を使って、近隣住民は被害地域から既に逃がしてありますので」


「だから、そういう問題じゃないって前に教えたろ! このすかぽんたん娘!!」


「あうー、ほっぺがー、ひっぱられてー、いたいのですー」



 わたしにうにょーんとほっぺたを引っ張られて、半泣きになるノワール。



「まぁ、そんな年増女の言うことは無視してさ? ノワール、続きやろ? うちと最強決定戦! ま、勝つのはうちだけどね?」


 そんなノワールのことを笑いながら見て、トップは立ち上がった。


 その笑顔が、あまりにも無邪気だったから。



 ――わたしは確信した。



 リバイバルトップこと緒浦おうら雛舞ひなむには、ほんっとうに……悪気がないんだって。



「パウダースノウ……あいつ、ほんとにただ、『一番』ってことにこだわって。それを見せつけるためだけに戦ってんだね」


「そうだねっ。誰かを傷つけたいとか、悪いことをしたいとかじゃなくって多分……みんなに『一番な自分』を見せたいだけなんだと思う」



 だったら……と。


 わたしは思いきって、トップに向かって声を張った。



「ねぇ、トップ。あんたが最強なのは分かったよ。一番強いよ、はいはい……だからさ、『ミッドナイトリバイバルカンパニー』はやめなって? あんたがどんなに強くても、今のままじゃあんた……一番の、悪者になっちゃうでしょうが」


「別にいいし」



 わたしの必死の説得を、さらっと却下して。


 トップはえっへんと胸を張った。



「だって、殲滅魔天せんめつまてんに戻っても、リーダーはできないじゃん? チームの一番は、『リーダー』。だから殲滅魔天になったら、うちは絶対に一番になれない……だったら、たとえ悪に手を染めたって――一番になれた方がいいもんね!」


「……甘ったれてんじゃ、ねーっすよ」



 ドスの利いた声で、そんなことを言ったかと思うと。


 PCアンジェは、キャスター付きの椅子に座ったままトップの方へと移動して――。



 タイヤで、トップの足を踏んだ。



「ぎゃあああ!? いった! いったぁ!?」


 うわ、地味にえぐい攻撃……ある意味、ロックだな。


 そんなことを思いながら眺めていると、PCが椅子から立ち上がった。



 そして、アラビアンコスチュームを振り乱して、トップの着ているメイド服みたいなコスチュームの襟元を掴んだ。



「何すんのよ、この二番手!」


「うっせーんすよ、おたく。一番一番って……ダサすぎて、演歌みたいっす」


 演歌歌手に謝れ、この引きこもり。



「要はおたく、自己顕示欲の塊なんでしょ? 自分がすげーってとこを、みんなに見せつけたいだけの……中身すっかすか野郎。一番にこだわってるだけで、本質的にはなんもねーんすよ、おたくは」


「はぁ!? 一番でもないあんたが、最強のうちに説教垂れてんじゃないよ!」



 ノワールが、すくっと立ち上がって。


 まっすぐにトップのことを見つめた。



「一人で目立って、ちやほやされて。その先に何があるっていうの……ですか?」



 ノワールが優しく、だけど力強く言った。



「リーダーの仕事は、チームの個性をまとめること、なのです。だから……日陰者だっていいのです。目立たなくたって。大切な仲間たちと一緒に、愛と正義とチームワークで戦う……それこそが魔法少女、なのですから」


 そして、ノワールはわたしのことを一瞥して。


 気恥ずかしそうに笑った。



「それを、わらわは――大切な先輩に、教えてもらいました」


「ノワール、あんた……」



 ―― 一人で目立って、ちやほやされて。その先に何があるっていうのよ。



 それはかつて、一人で暴走するノワールに向かって、わたしが伝えた言葉。


 わたしの言葉が後輩に引き継がれて、今度は後輩が、それを胸に戦っている。



 そう思うと……なんだか、胸が熱くなるじゃない。



「おたくがやってるのは、リーダーじゃないんすよ。ただ、自分の凄さを見せつけたいだけ。でも本当は……一人の方が楽だから、そうしてるんじゃねーっすか?」


 PCがトップの襟元を掴んだまま、言う。



「はぁ!? なんなの、あんたら? うちの何が分かるってのよ!」


「おたくのことは知らねっすけど……自分は少なくとも、一人ぼっちで生きてる方が楽だったっす。殻に篭もった雛鳥は、誰からも傷つけられることはないっすから。でも……殻を破らなければ、綺麗な青空を見ることは決してできない――殻を破った先の景色は、意外と綺麗だったっすよ? ねぇ……もゆ?」


「ユリーシャ……」



 ノワールを見て気恥ずかしそうに笑うPCを見て、ノワールは瞳を潤ませる。


 最初は噛み合わなかった殲滅魔天の二人だけど。



 今は本当に……最高のパートナーになってるなって、心から思う。



 そんな――南関東魔法少女の空気に触れて、何かを感じたのか。


 いつも最強ぶってたトップが、初めて……迷いの表情を浮かべた。



「う……うちは……えっと……んっと……」



「どうして戸惑ってるんだお、トップ? ……敵の言葉を真に受けたら駄目だお」

「まったくぱお。本当に、魔法少女というのは……口だけはうまいでござるぱお」



 強い風が、一気に吹き寄せてきた。


 思わず瞑ってしまった目を、ゆっくりと開けると。



 そこには――先ほどまでいなかった、一匹と一人の姿があった。




 妖精インド象のパオン。


 そして、再雇用魔法少女リバイバルイーター――穂花本ほかもと風仁火ふにか

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