も~っと! 4-2「群馬県じゃねーか、それ」
「もしもし、もゆ? 今度は栃木県を、『ミッドナイトリバイバルカンパニー』が襲撃してるらしいわ」
鬼怒川温泉方面行きの特急スペーシアのボックス席で、わたしはもゆに連絡を入れる。
『栃木県……あの納豆で有名なところなのですね!』
「それ、茨城県よ」
『違うっすよ、もゆ。あれっすよ、ヤンキーがバイクに乗ってひゃっほうしてる、世紀末ロックなところっす』
「それ、群馬県」
『むぅ……とにかく。その二つじゃない方に、行けばよいのですね?』
「そうね。あとで襲撃地点をRINEで送るから。もゆと
通話を切ってスマホをテーブルに置くと、わたしは車窓から見える景色を眺める。
南関東に比べると、本当に何もないな。
ただただ、農場や山ばかりが、窓の外を流れていく。
「あー、だめだぁ!
「ちっ……あだっちーみたいに、間に合わないか……」
栃木県魔法少女・
魔法少女サンシャインいろはとして、春苺が活動を開始したのが三年前かな?
当時はわたし以上に緊張しやすくて、百合紗以上にコミュ障だった春苺。
そのせいか、栃木県民からのクレームが殺到して、病んじゃってた時期もあるけど。
彼女なりの頑張りを続けた結果――今では。
『ゆる魔法少女』として、栃木県の観光大使に任命されてる。
「ストラップとかぬいぐるみとか、グッズが売れまくってるのよね、サンシャインいろは。最近はアニメもはじまったとか」
「栃木県庁が、町おこしのために全面バックアップしてるからねぇ。もう三年前の、泣きすぎて過呼吸で病院に運ばれた春苺ちゃんじゃないんだよ……立派な、ベテラン魔法少女だからねっ!」
「南関東も、栃木を見習ってほしかったものにょろ! 早くしないから、ほのーりたちのコンテンツとしての賞味期限が過ぎてしまったにょ――」
ガチャンッと。
スペーシアの窓が割れて、化け蛇が虚空へと姿を消した。
「あーもぉ、ほのりんってばぁ……良い子のみんなは、絶対にスペーシアの窓を割って物を捨てないでねっ★」
スペーシアを降りて、わたしと
いろは坂は、急カーブを何度も繰り返すことで有名な、運転手殺しの坂。
バス酔いになりそうなのを、堪えて堪えて。
そして、わたしと雪姫は――中禅寺湖の近くに辿り着いた。
「い、いきますます! 『サンシャイン大権現』!! 当たって当たって、お願いですからぁぁ!!」
おどおどした声色で告げられる、変な必殺技名。
瞬間――まばゆい光とともに、巨大な仏像が飛んでいく。
…………しかし。
「魔法のフラフープ『
怜悧な声が聞こえたかと思うと、光は吸い込まれるようにして消えていった。
そして、光を吸い込んだ先にあるのは――黒いフラフープ。
それを片手で遊ばせているのは、再雇用魔法少女リバイバルトップ。
「リバイバルトップ!」
「お、ほのりさんに雪姫さん。意外と早く嗅ぎつけてきたね? ま、それでも……うちのトップスピードには追いつけないけどね!!」
得意げにそう言うと、トップはホワイトフープを構えた。
白いフラフープの中から放射される、凄まじい速度の光る仏像。
向かう方向は――サンシャインいろは。
「いろは!」
振り返ったときには、もう遅かった。
『
変身が解け、明日利春苺が苦悶の表情を浮かべる。
「春苺ちゃん!」
「ちょっと、大丈夫?」
「ぐすっ……雪姫さん、ほのりさん。来て、くれたんですです?」
わたしたちの顔を見て安心したのか、春苺は少しだけ微笑みを浮かべた。
ったく、相変わらず泣き虫なんだから。ゆる魔法少女め。
「そんなメンタルで、よく今まで魔法少女やってたよ。頑張ってきたのは認めるけどさ……やっぱうちみたいな、頂点に立てる人間こそが、魔法少女やらないとだよねぇ」
「……トップ! あんた、いい加減にしなさいよ!!」
わたしはふつふつと湧き上がる怒りのままに、立ち上がった。
その目の前で――ピカッとまばゆい閃光が瞬いたかと思うと。
二人の魔法少女と一匹のワニが、姿を現した。
「常闇 混沌 深淵 ……雨。漆黒の乙女、我が名はノワールアンジェ」
「ネットの中だけ溢れる勇気。電脳の乙女、我が名はPCアンジェ」
「がぶ? え……えっと。一度でいいから見てみたい、ワニがガブガブするところ! 妖精ワニ、我が名はガブリコがぶ」
ノワールアンジェ。PCアンジェ。妖精ガブリコ。
「って、ちょっとノワール!? あんたなんで、連絡したばっかなのに、もう到着してんのよ!? スペーシア、そんなに本数ないでしょ!?」
「ふふふ……わらわは、
「ノワールのおかげで助かったすよ。電車で一時間以上も出掛けるなんて、引きこもりにとっては戦闘よりも憂鬱っすから」
「でも最初、違うところに着いたがぶよ? なんかモヒカンでバイクに乗った集団が、街中で暴れ回ってて、怖かったがぶ」
群馬県じゃねーか、それ。
わたしはがくっと膝をついて、独り言ちる。
「何それ……だったら、わたしたちも一緒に来ればよかった! 交通費、めちゃめちゃ高かったのに!!」
「まぁまぁ、ほのりん。いち早く春苺ちゃんのところに来れたんだから、それで良しとしようよ。ねっ?」
「よくないわよ、スペーシアの料金はしゃれにならないのよ!? これで今月のわたしは、極貧生活決定よ。ふざけんな!」
「うわぁ……ほのりさん、やっぱり怖いですです……だから人気がないのではでは……」
「はぁ!? 何それ、喧嘩売ってんの!?」
ゆる魔法少女になって、収入を得てるからって、こいつは……。
う、うらやましくはない。うらやましくはないんだからね!
「ねぇ、ちょっと。いつまでそこで、お喋りしてるのさ?」
そんなやり取りをしていると、痺れを切らしたらしいトップが一歩踏み出した。
そして、人差し指を天に向かって突き上げると。
「足立区の魔法少女も、栃木県の魔法少女も、うちが倒した! この調子で、どんどん魔法少女を倒して――うちが最強になる!! なんたってうちは、魔法少女の頂点に立つ女なんだから!」
堂々と宣言してから、リバイバルトップはフラフープを両手に構えて。
ディアブルアンジェの二人を、舐めるように見渡した。
「さぁ、はじめよっか? どっちが最強なのかを決める戦いをさ……殲滅魔天ディアブルアンジェ!」
「……嗚呼。今日も現世に、哀しき雨が降る。貴方と微笑む桃源郷を、わらわたちは夢見ていたのですよ……ヒナリア」
「何言ってんのか分かんない子だね、相変わらずさ!」
――こうして。
リバイバルトップと殲滅魔天ディアブルアンジェの戦いの火蓋が、切って落とされた。
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