も~っと! 3-7「ちょっと今は、深夜アニメのテンションだから」
「先輩たち、遅くなったのです!」
声とともに空間が裂けて、二人の魔法少女が姿を現した。
ノワールアンジェ。
左目を覆い隠すほどに伸びた漆黒の髪が特徴的な、学ラン風コスチュームの中二病魔法少女。
PCアンジェ。
紫色のショートヘアにアラビアンコスチューム。だけどデスクトップパソコンの前でだるそうに座ってる、引きこもり系魔法少女。
ふたりは
わたしたちの、マックスハートな後輩たちだ。
「よく来てくれたわね、二人と……も……っ!!」
二人に気を取られた瞬間、横薙ぎの鉄パイプが脇腹に当たりそうになって、わたしは慌てて洗剤スプレーでガードした。
そのまま後ろに跳躍して距離を取ると、洗剤スプレーのノズルを番長に合わせる。
「『マジック☆凛々』――火炎放射ッ!!」
「『
魔法の洗剤スプレーから噴射される、真っ赤に燃える炎。
まともに浴びたら、たとえ魔法少女であってもひとたまりもないはず。
けれど番長は、鉄パイプを正面に突き出した格好で、炎も恐れず駆け出した。
そして――炎に巻き込まれる直前で。
鉄パイプによる、『突き』を繰り出した。
「……ちっ」
ぎりぎりのところで、鉄パイプの直撃を避ける。
僅かにかすめた頬に走る鈍痛。
顔の横にある鉄パイプを、両手で掴む。
そのままぐるんと回転させると、鉄パイプを握っていた番長の身体が、宙を舞った。
地面に叩きつけられる番長。
吹き上がる粉塵。
「えっ、えっ!? なんなのですか、これは? 終わりのはじまり……黙示録は既に、禁断の章へと進行しているというのですか!?」
「キューティクルチャームの二人が戦ってる……どういうことなんすか、これ?」
「…………」
荒い息をしながら振り返ると、ノワールとPCが明らかに動揺してる。
パウダースノウは、その隣にいるけど――何も答えない。
いや、なんも言えないよね。
分かる。分かるよ、パウダースノウ。
わたしも色んな気持ちがごっちゃになってて……なんも言えないわ。
「おー、来た来た! ちょうどよかった、殲滅魔天のお二人さん」
そんな緊迫した空気の中で。
無邪気極まりない声で、リバイバルトップが笑った。
「ちょうど退屈してたとこなんだよね。うちが華麗にチャームサーモンをぶちのめして、世代の違いを見せつけようって思ったのに、身内で戦いはじめるんだもん。もー、どっちでもいいから、戦ってよって感じ!」
「何をふざけたこと言ってるのですか、トップ。戦に飢え、血を欲するその姿は……さながら亡者のよう。それがあなたの求めた、魔法少女なのですか?」
「うっさいなぁ。うちはただ、頂点に立ちたいの! 魔法少女のトップに立つってことは……どの魔法少女よりも強いってこと。それを証明するには、戦うしかないじゃん」
「その腐った考えが、もう魔法少女じゃないっすよね。ロックじゃねぇっす」
「別にいいし? ロックじゃないんなら、何? デスメタルとか? なんでもいいよ、ジャンルにこだわりはないから。うちは、なんだっていいんだ――自分がトップになれるんだったらさぁ!」
吼えるようにそう言うと、トップはノワールたちの方へと駆け出した。
イーターが目を丸くして、声を上げる。
「トップ、今は戦うときじゃないお!」
「口出し無用! リーダーは……うちなんだから!!」
トップが両腕のリングを外す。
瞬間、リングは巨大化し――白と黒のフラフープへと変化する。
「魔法のフラフープ『
ブラックフープでガリガリと、足元の砂利を削っていくトップ。
そしてホワイトフープを、ノワールたちの方に向けて。
――紫色の怪しい光に覆われた、凄まじい量の土砂が放たれる。
「魔法のオッドアイ『夜光虫』――
ノワールが髪の毛を掻き上げて、金色の左目を露わにする。
眼前に迫った土砂が、まるで内部から爆砕したように四散した。
最新の魔法少女たちによる、ど迫力の魔法バトル。
うんうん。魔法少女って、こんなんだよねー。分かるー。
ちなみにこっちは、洗剤スプレーと鉄パイプだよ?
ふざけてんな
「……よそ見してる、場合か?」
そうして、ノワールたちの戦いを傍観していると。
ゴンッと――鉄パイプを振り下ろされました。
「いったぁ!?」
鉄パイプで殴られた勢いで、わたしの足元に亀裂が走る。
そしてわたしの額には、凶器の鉄パイプ。
「あのさぁ……あんた、マジで殺す気? 半端なく痛いんだけど!?」
「…………」
わたしが怒鳴っても、番長は応えない。
だけどその瞳は――少しだけ、ほんの少しだけ、揺れている。
「ああ……もう! バカだね、あんたは!! いくつになっても、バカだよ。ほんっと単細胞! 脳筋!!」
昔っからあんたは、ほんっとうに変わんない。
ぶっきらぼうで、気まぐれで。面倒なことがあると、すぐにサボって。
だけど義理と人情には厚くって。困ってる仲間は放っておけない姉御肌で。
ほんと。マジで。
あんたは、わたしの――愛すべき幼なじみだよ。
「グオオオオオオオオッッッッ!!」
額に鉄パイプを叩きつけられたまま、物思いに耽っていると。
わたしの眼前で、番長が――巨大な『獣』によるラリアットで吹っ飛ばされた!
「ええっ!?」
凄まじい勢いで、番長がビルに激突する。
「ごほっ……?」
そんな番長に向かって、再び肉薄する『獣』が一体。
それは――魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』。
わたしは慌てて、後ろに向き直る。
そこには完全に目が据わった、パウダースノウがいた。
「ちょっと、パウダースノウ!? あんた、何やってんの?」
「お仕置き」
吐き捨てるようにそう言うと、パウダースノウはギリッと歯噛みした。
「『しずねちゃん』――やっちゃって」
「グオオオオオオオオッッッ!!」
パウダースノウの号令によって、繰り出される『しずねちゃん』の拳撃。
「魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』――おらおらおらおらおらおらおらおら!!」
「ぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?」
「ぎゃああああああああああ、番長ぉぉぉぉぉぉ!?」
わたしの悲鳴も虚しく。
番長の顔がお腹が腕が脚が全身が――ボコボコに殴られていく。
獰猛なぬいぐるみの打撃がやむ。
力尽きた番長は、全身の筋肉を弛緩させて……ドサッと、ビルの壁面から地面へと落下した。
「ちょっ、ちょっとパウダースノウ! 過剰防衛も甚だしいでしょ、番長が死ぬわよ!? 魔法少女アニメだったら、PTAから苦情がくるレベルの暴行じゃない!?」
「いや。ちょっと今は、深夜アニメのテンションだから」
わたしのツッコミも意に介さず、パウダースノウが番長に近づく。
そして、暗黒微笑を湛えて。
「何やってんだよ? ふざけるのも大概にしたら?」
「……男の
「うるせぇよ」
雪色のツインテールに、白銀のティアラ。
ふりふりのスカートから覗くほっそりとした脚。
そして、白いハイヒール。
そんな女子女子しさ全開の格好で……パウダースノウは番長の襟元を掴んで、ぐいっと持ち上げた。
「君が迷う気持ちは分かる。風仁火さんは君にとって、大事な人だから。でも……その迷いに、ぼくたちを巻き込むな。自分の心くらい、自分で処理しろよ」
「……そう、かもな」
パウダースノウが手を離した。
ドサッと、番長が砂利に膝をついて――変身を解く。
「すまない、パウダースノウ……ごめんな、サーモン」
「いいよ、しばらく休んでな。気持ちの整理は、君がしないといけないことだけど……それまでの間、君の穴を埋めるくらいは、ぼくたちがやるから」
パウダースノウが薙子に背を向ける。
そして。
わたしに向かって――キラッと、ウインクして。
「なーんちゃって★ てへっ、暴走しちゃったぁ。恥ずかしいなぁ★」
「いやいやいや!? そんなんじゃごまかされないから! こわっ!! むしろ、その切り替えの方が、こわっ!?」
ビビるわたしに向かって、パウダースノウは不満そうにベーッと舌を出す。
「ぶー、何それぇ。いつも可愛く美しく! そんなパウダースノウのイメージは、きちんと保っておかないとだもんねーだ」
「……凄まじく、ロックっす」
「これこそまさに、神の怒りですね……嗚呼。風が泣いてる」
ほら、見なさいよ。
あまりの豹変ぶりに、遠くで戦ってるノワールとPCまで動揺してんじゃないのさ。
イーターも、久しぶりに見る『男』なパウダースノウに、目を丸くしてるし。
って、あれ……?
そういえば、トップの奴は?
「――あっははははははっ!」
高笑いが響き渡ったかと思うと。
いつの間にかパウダースノウに肉薄していたトップが――その拳を、まっすぐに打ち出した!
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