も~っと! 3-6「冗談で、鉄パイプは振るわない」

 ――それから数分のことは、あまり覚えていない。



 魔法の洗剤スプレー『マジック☆凛々』と、魔法の鉄パイプ『巌流武蔵がんりゅうむさし』で、決死の攻防を繰り広げたような気はするけれど。



 わたしは番長と距離を取って、『マジック☆凛々』を正面に構える。


 一方の番長も『巌流武蔵』を片手に、まっすぐにわたしのことを見据えている。



「ば、番長!? 一体全体、どうしたのっ!?」


「……なんの冗談なわけ、番長? 正直、あんまり笑えないやつなんだけど」


「すまない、サーモン。冗談で、鉄パイプは振るわない」



 普通の人間は、どんな理由があっても鉄パイプは振り回さねーよ。


 まぁ……そんな些細なツッコミはどうでもいい。



 今、深刻に受け止めなきゃいけないのは――番長が大まじめに、わたしに向かって鉄パイプで攻撃してきたってことだ。



「状況が分かってて、やってんの? 番長」


「ああ。第八十九番目の敵組織に認定された、『ミッドナイトリバイバルカンパニー』と交戦中……だろ?」



 番長がちらりと、完全に戦意喪失しているあだっちーのことを見る。


 パウダースノウにもたれ掛かっていたあだっちーは、恐怖に目を大きくした。



「ひ、ひぃ!? て、鉄パイプは! 鉄パイプは勘弁して!!」



 懇親会のときのトラウマでも蘇ったのか、あだっちーは慌てて立ち上がると、走るようにしてその場を逃げ去ってしまった。


 あのときはひどかったもんね……おかげであのカフェ、未だに出禁だし。



 そんなわけで――残されたのは、南関東魔法少女キューティクルチャームと、再雇用魔法少女ミッドナイトリバイバルだけ。



「ちょっと、イーター! あだっちーの奴、逃がしちゃっていいわけ?」


「かまわないお。あの程度の魔法少女、トップがいればいつでも倒せるお」



 唇を尖らせるトップに対し、イーターは余裕綽々といった態度で言い切る。


 そして、鉄パイプを持った花魁風魔法少女に向かって、にっこりと微笑みかけた。



「チャーム番長。ふーちゃんたちの仲間になる気に、なってくれたのかお?」



 ぴくりと、番長の肩が揺れる。


 その微妙な反応を見て、わたしはカッと、身体が熱くなるのを感じた。



「……本気で言ってんの、あんた? 分かってんの!? 相手は魔法少女を軒並みぶっ潰そうなんて考えてる、物騒な連中なんだよ!?」


「いや……仲間になるとは、言ってない」



 だけど――と。


 番長は歯噛みしながら、イーターに対して背を向けて。


 鉄パイプ片手に、まっすぐにわたしのことを睨みつける。



「だけど、イーターは……風仁火ふにかさんは、あたしの師匠だから。今のあたしがいるのは、風仁火さんのおかげだから。そんな恩人に向かって……あたしは、鉄パイプなんて向けられない」


「いやいや! 幼なじみにも、鉄パイプ向けたらダメだろ!? あんた、鉄パイプのことを軽く考えすぎなんじゃないの!?」



 良い子のみんなは、絶対に人に向かって鉄パイプを振るわないでね。


 っていうか、鉄パイプ持った時点で良い子じゃねーな。



「……で? 恩人と戦えない気持ちは分かったけどさ。だからって、わたしらに攻撃してくるのは違うんじゃない?」


「そうだよ、番長! みんな仲良くが、南関東魔法少女のモットーでしょ?」


「ああ、分かってる。頭では、分かってるんだ。だけど……」



 ギュッと鉄パイプを握り締めて、番長は苦しそうに顔を歪める。


 そんな番長を見て……わたしは「はぁ」とため息を漏らした。



「前は逆の立場だったっけね? 恥ずかしながらわたしが、『電脳ライブハウス』に洗脳されちゃったとき」


「ああ、あれは恥ずかしかったな」


「やかましいわ!」



 第八十七番目の敵組織『電脳ライブハウス』が造った『黒き雑音エボニーボイス』の影響で、正気を失ってヘッドバンキングを繰り返していたわたし(黒歴史)。


 そんなわたしを止めるために、番長は正面からぶつかってきてくれた。



 だから今度は――わたしの番だ。



「かかってきなよ、番長。わたしが全力で受け止めてあげる。そして絶対に――『ミッドナイトリバイバルカンパニー』の野望を、打ち砕いてみせるんだから!!」

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