も~っと! 3-4「見た上で『死ね』って思ってるよ」

 翌日。


 わたしが登校すると、昨日まで教室だったはずの場所は動物園に変わっていた。



「フレえええええええええ! フレええええええええええ!! キューティクルチャームぅぅうぅぅうぅぅ!!」


「負けるな、負けるな、ディアブルアンジェぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 雉白きじしろくんと、パウダースノウ応援団長と番長応援団長(名前忘れた)が教卓のあたりに陣取って、教室内にひしめき合う応援団の連中を鼓舞している。


 応援団どもは、他の一般生徒の迷惑も考えずに、『CCキューティクルチャーム』と印字された旗をぶんぶんと振り回していやがる。



 あーあ。魔法でもぶち込んでやろうかなぁ。



「お。有絵田ありえださん、来たんだね。見てくれよ、俺たちの本気の応援を!」



 汗まみれの雉白くんが、ドヤ顔で言ってくる。


 見てるよ。見た上で「死ね」って思ってるよ。



「ったく。応援団の連中、マジでうざいよね……」


「それに満更でもない顔してる有絵田さんも大概だけどね……」



 ひそひそ声で、なんだか悪口が聞こえてくるぞー?


 聞こえてないのか? お前は耳なし芳一か? えぇ、雉白ぉ!?



「聞こえるだろ、有絵田さん? 応援団のみならず、この教室にいる全員が、君たちのことを応援してるんだぜ!!」



 聞こえてて、その反応か!


 耳鼻科で精密検査してこいよ、異常だらけだろうからさぁ!?



「わ、わしも応援しとります! 有絵田さん!!」


「じ、自分もです! あのエターナル∞トライアングルの一人を相手にするなんて、大変だと思いますが……キューティクルチャームの勝利を、願ってやみません!!」



 雉白くんの隣にいる団長二人が、熱い視線を送ってくる。


 興味ないから、名前が微塵も思い出せないけど。



「『カレースパイス◎カラカラ』に続いて、『ミッドナイトリバイバルカンパニー』――俺たちも応援のし甲斐があるってもんだぜ!!」



 なんで、こいつらが『ミッドナイトリバイバルカンパニー』の存在を知ってるかって?



 それは――パオンと風仁火ふにかさんと雛舞ひなむが、朝のニュースのタイミングに合わせて「魔法少女殲滅計画」の声明を発表したから。



 全国に自分たちの存在を周知させることで、『ミッドナイトリバイバルカンパニー』は退路を断った。



 つまり、それだけ――魔法連盟アルスマギカを潰すことに、本気ってことなんだろう。



「相手はあの、穂花本ほかもと風仁火さんだもんな!! かつての最強の魔法少女が、『悪の戦士』となってキューティクルチャームたちに牙を剥く……燃える展開だけどよ、当事者たちにとっては厳しい戦いなんだと思う。だからこそ、俺たちは――今まで以上に、有絵田さんたちを応援するぜ!!」



 ――――『悪の戦士』。



 空気が読めない雉白くんの言葉が、なんだかちくりとわたしの胸に突き刺さる。



「……雉白くんたちは、風仁火さんのことを『悪の戦士』だと思ってるの?」


「ん? そりゃあそうだろ! なんたって第八十九番目の敵組織だからな!! 俺たちの癒やしの存在、魔法少女をぶっ潰そうだなんて、絶対許さねぇ!」


「トップアンジェにもがっかりしとります! 仲間になったかと思えば、即闇落ちスキャンダル! ファンを冒涜する行為でごわす!!」


「パオンさんもそうでありますね。妖精の本分を忘れて、魔法少女と敵対するなんて……ニョロンさんやガブリコさんの爪の垢でも、煎じて飲んでほしいくらいです」



『ミッドナイトリバイバルカンパニー』に対して、非難囂々の応援団の連中。


 確かに、朝のニュースだけ見てれば、そんな反応になるのかもね。



 だけど、わたしは――風仁火さんを『悪の戦士』と断じるのは、違う気がする。



 風仁火さんのやり方が正しいとは、決して思わない。


 でも、風仁火さんには、風仁火さんなりの『正義』がある。



 ここ最近の変質者集団みたいな敵組織の、どうしようもない目的とは違う。違うんだ。



 そんな気持ちで堪らなくなって、わたしは思わず叫びそうになる。



「ほのりんっ!」



 まさにそのときだった。


 雪姫ゆきひめがガラリと教室のドアを開けて、駆け込んできたのは。



「ふおおおおおおおおおおお! 雪姫さぁぁぁぁぁぁぁん!!」



 瞬間、沸き立つ応援団連中。


 露骨に嫌そうな顔をする、アンチ魔法少女のクラスメートたち。



 げんなりするわたしだけど、そんなことはおかまいなしに、雪姫はわたしに対して腕を絡めてきた。



「大変だよ、ほのりんっ! じいやから連絡があったんだ!!」


「なんだよ? 『カレースパイス◎カラカラ』が、辛いカレーでも食べさせてるって?」


「違うにょろ!」



 応援団に囲まれて鼻高々な様子だったニョロンが、突然キリッとした顔をして、こちらに近づいてくる。


 キリッとするな。ただでさえ見た目が化け物なんだから、圧がすごい。



「強い魔力の気配を感じるにょろ……これは『カレースパイス◎カラカラ』じゃない。もっと強力な、すさまじい魔力にょろ!」


「それって、つまり……」


「風仁火さんたちだよっ!」



 雪姫がこくりと頷いて、わたしのことをじっと見てくる。


 その真剣な眼差しに、わたしもごくりと生唾を呑んだ。



 そして雪姫は、重々しい口調で――告げる。



「数分前に、足立区にミッドナイトリバイバルが出現。現在、東京二十三区魔法少女『TKY23』の一人が交戦中……だって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る