も~っと! 3-3「ヤクザのけじめみたいだな」
わたしたち五人と二匹は、ミッドナイトリバイバルカンパニーを後にした。
夕焼けの日差しが、道先をオレンジ色に染めている。
だけど、わたしの心は――とんでもなく、暗澹としていた。
「はぁ……なんでこんなことになっちゃったんだか」
思わずぼやいてしまう。
そんなわたしの肩を、ポンと
「気にしない、気にしないっ。あの状況じゃあ仕方なかったし、ほのりんが落ち込んだって仕方ないよっ★」
相も変わらずな満開スマイルで、わたしのことを励ましてくれる雪姫。
その笑顔に、少しだけ救われた気持ちになるけど……状況が最悪なことは変わらない。
風仁火さんやパオンと決裂してしまった。
これによって『ミッドナイトリバイバルカンパニー』は、魔法少女と敵対する存在――つまり、わたしたちの第八十九番目の敵組織に認定されたことになる。
第八十八番目の敵組織『カレースパイス◎カラカラ』とすら、まだケリがついてないってのに……まぁあっちはアンチカレー派を大量に生み出したいだけの、どーでもいい連中だけど。
取りあえず、あんな下っ端雑魚は放っておこう。
第一の問題は、元・魔法乙女隊エターナル∞トライアングルの風仁火さんが敵に回ってることだ。
南関東魔法少女史上、最強とも謳われた魔法少女三人組の一角。
わたしたちの――師匠といっても過言ではない存在。
そんな彼女と真っ向勝負して、果たしてその野望を食い止められるのか……想像しただけで身震いしちゃう。
「ヒナリア……嗚呼。何故、神はこのような試練を与えるのでしょうか」
「もゆ。あんまり気落ちしないっすよ。あれは完全に、彼女の人格的問題っすから」
珍しく気落ちしている様子のもゆを、
……まぁ、もゆが落ち込むのも無理はないんだけどね。
わたしだって、泣きそうだよ。
第二の問題は――ニューフェイスの
魔法少女の選定は、妖精の直感による。
「ビビビッとくる」なんて抽象的な言葉だけど……とにもかくにも、妖精が直感で選んだ相手が次世代魔法少女になるし、それを覆すことはできない。慈悲はない。
覆すことができないってのは、つまり……雛舞がディアブルアンジェに入らなければ、一生ディアブルアンジェが結成されなくなることを意味する。
そうすると当然――わたしたち魔法少女キューティクルチャームの解散が、永遠に叶わないものになるってわけだ。
つまりわたしたちは、生涯魔法少女現役。
九十歳くらいになっても、『魔法少女』なんて名乗りながら、頭のおかしなコスチュームを身に纏って、ウインクなんて決めなきゃならない。
やる方も発狂しそうだし、見てる方もいたたまれなくなりそう。
「……冗談じゃないわよ。あのバカ娘は……っ!!」
超高齢者魔法少女を想像して、わたしは背筋がぞぞっとするのを感じた。
我慢できず、髪の毛をぐしゃぐしゃっと掻きむしっちゃう。
「諦めるにょろ。試合終了にょろ」
横から淡泊な調子で言ってきやがった化け蛇妖精に、問答無用のドロップキック!
ぶっ飛んだニョロンはブロック塀に激突して、「ぐぎゃああ!」と絶叫するけれど……わたしは攻撃の手を緩めず、首元に腕を回してヘッドロックをかましてやる。
「ぎぶっ! ぎぶにょろよ、ほのーり!?」
「くくくっ……雛舞が辞職した今となっては、正攻法で魔法少女を辞めることは不可能。だからわたしは……あんたを
「ダメだよ、ほのりんっ! そんな邪悪な笑みを浮かべながら動物虐待を行っている絵面は、魔法少女どころか犯罪者だってば!!」
「だけど、もう……殺すしかないじゃない!」
「言い方、言い方! どこの闇落ちヒロインなのさ、ほのりんはっ!?」
「……まぁ、落ち着け。ほのり」
もう一息でニョロンの意識が飛ぶところまで締め上げていたわたしを、たしなめる
こちらに視線も向けずに、虚空を見つめながら。
「……何よ。あんただって、魔法少女辞めたいくせに」
ジト目を作って睨みつけてやるけれど、薙子はこちらに見向きもしない。
まるで景色の向こうに――何かあるかのように。
「なぁ、ほのり。魔法少女って、なんなんだろうな?」
いつになく元気のない調子で、薙子が言う。
「なんで風仁火さんは、こんなふざけた役回りを……またやろうなんて、思ったんだろうな?」
「薙子……」
わたしはニョロンの首元にかけた腕を緩めて、ゆっくり立ち上がる。
泡を吹いたニョロンは道路に突っ伏してるけど、気にしない。
「風仁火さんは、
「
なんだか逡巡している様子の薙子に、わたしはきっぱりと言い放つ。
「気持ちは分かるよ。わたしだって、
「そのおかげで、魔法少女から足抜けすることが、できるとしてもか?」
薙子は相変わらずこちらに視線も向けずに呟く。
「たとえば、ほのり。お前が風仁火さんに、ボコボコにされたとしよう」
「死ぬよ、そんなの」
「そりゃあ死ぬほど痛いだろうが……その結果、魔法少女からは足抜けできる」
なんかそういう言い方すると、ヤクザのけじめみたいだな。
「暴力を肯定はしない。だけど、
「それは……」
薙子の質問に、わたしは思わず言い淀む。
雛舞がいなくなった今、わたしたちは正攻法で魔法少女を辞めることができない。
だったらいっそ、ミッドナイトリバイバルにボコボコにされてでも、魔法少女とさよならできた方がいいんじゃないかって、思わなくもないから。
でも――わたしは。
「薙子の言いたいことは分かる。どんな方法だろうと、魔法少女を辞められた方が幸せなのかもね。ボコボコになって魔法少女を足抜けするのも、ひとつの手だよ。だけど、わたしは――
「……相変わらず、学級委員タイプだな。お前は」
「損な性格だよね」
「まったくだな」
ようやくそこで、薙子が苦笑した。
つられてわたしも、小さく笑う。
夕日が西の空へと沈んでいく。
もうすぐ、完全な――夜が来る。
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