も~っと! 3-2「メーカーにクレーム電話するレベルだわ」
それから数分。
ノワールとトップは睨みあったまま、互いに一歩も動かず、膠着状態に陥っていた。
そんな二人を、心配そうに見ている
そうだよね。こんな仲間割れみたいな光景――同じチームメイトとして、見てるのは辛いよね。
「ノワール! あんた、挑発に乗るんじゃないわよ!!」
わたしはギュッと拳を握り締めているノワールに向かって、声を上げる。
「そうだよっ! 魔法少女同士でケンカしたって、なんにもならないんだからぁ!!」
「トップ」
そんなわたしたちの思いを掻き消すように、リバイバルイーターは告げた。
「ノワールアンジェを、完膚なきまでに叩き潰してくるんだお。貴方が最強だってことを、証明してみせて。すべては――
「イーター……いや、
ソファから立ち上がった
「こんなの、違います。
「あーあ。外野は黙っててよね」
そんな薙子の悲痛な訴えを遮って。
リバイバルトップは――まっすぐにノワール目掛けて、駆け出した。
「イーターの言うとおり、うちが最強だってことを証明してみせる! うちは魔法少女においても、頂点に立つ女なんだから!!」
「……やって見せろ、なのです!」
そんなトップを睨みつけて、ノワールは叫んだ。
そして、髪の毛に覆い隠されていた左目を、ゆっくりと露出させる。
「魔法のオッドアイ『夜光虫』――
呪文の詠唱と同時に、トップの周囲を炎が包み込んだ。
さすがノワール。チートすぎるその能力で、とち狂ったおバカさんを止めてやれ!
「魔法のフラフープ『
しかしトップは物怖じすることなく、固有の魔法武器名を呟いた。
その瞬間、両手首に巻かれていたリングが、フラフープのような形状へと変化して――トップの両手に握られる。
「ブラックフープ!」
右手に持った黒のフラフープを使って、トップは周囲の炎をひと撫でしながら、くるりと一回転した。
すると――ノワールの
「な……っ!?」
動揺するノワールに向かって、今度は白のフラフープを目の前にかかげるトップ。
「ホワイトフープ!」
叫ぶと同時に……巨大な炎の濁流が、ノワールに向かって噴出した。
「くっ……!? 『夜光虫』――
しかし、そこはさすがノワール。
瞬時の判断で魔法のバリアを召喚すると、自らを呑みかけた炎の一撃を、瞬間的に霧散させた。
「へぇ。さすがに一発カウンターじゃあ、とどめとはいかなかったか。一応、ディアブルアンジェのリーダーを名乗るだけはあるってことね」
フラフープを手元で遊ばせながら、トップが余裕綽々といった様子で呟く。
「今の魔法……それが、トップの能力なのですか?」
「そ。魔法のフラフープ『
「ちょっと、どんな魔法も物理攻撃もって……吸収できないものはないわけ?」
わたしが動揺する姿を楽しむように、トップはウインクをかましてくる。
「当然! うちに無効化できないものはない。そして無効化したエネルギーは……ぜーんぶ、相手に撃ち返せるってわけよ」
魔法のオッドアイ『夜光虫』。
魔法のデスクトップパソコン『ファッキントッシュ』。
それに――魔法のフラフープ『
なんなの。
キューティクルチャームに比べて、ディアブルアンジェの設定、強すぎじゃない?
これがゲームだったら、メーカーにクレーム電話するレベルだわ。
「ノワール、落ち着くっす! 相手の魔法は、吸収・反射の能力!! こっちが何もしなければ、カウンターを放つことはできないはずっすよ!」
「あははっ。頂点に立つうちの能力を、なめないでよね!」
そう言うが早いか、トップはブラックフープを眼前にかかげた。
すると――ゴオッという轟音とともに、空気が凄まじい勢いで吸収されていく。
そして、ノワールに向かってホワイトフープを突き出すと。
「『
いわゆる『かまいたち』とでも呼ばれるような勢いで、一気に空気が放出された!
床が抉れる。ソファが弾け飛ぶ。
「『夜光虫』――
再びノワールが、魔法のバリアを生成する。
空気を切り裂く凄まじいエネルギーが、バリアに衝突するとともに爆ぜた。
爆発の勢いによって、ノワールとトップは、それぞれ後方へと飛び退く。
「どうよ? 魔法少女の頂点に立つ、うちの能力は? 相手からの攻撃がなくたって、エネルギーを吸収しさえすれば、いくらでも攻撃はできるんだから」
「……さしずめ、これはラグナロク。かつて契りを結んだ者と戦わねばならないとは、神々が黄昏れる日は近いのかもしれませんね」
――えっと。
相変わらずノワールは、わけ分かんないこと言ってるけど。
いくらなんでも……こいつらの魔法、強すぎねーか!?
この僅かな攻防だけでも、わたしたちが倒してきた組織が数十個は吹き飛んでそうな勢いだぞ?
ちょっと自分の存在がむなしくなるっていうか、もうケンカしてないでさっさと引き継ぎさせろよ、マジで。
「トップ。今日のところは、ここまでにしておくんだお」
緊迫した空気を切り裂くように、二人の間にイーターが割り込んだ。
そんなイーターに対して、トップは不満げに唇を尖らせる。
「えー……今、いいところなんだけど。これからうちが、この小生意気なおちびちゃんをぶっ潰して、最強だってことを見せつけて――」
「このまま続ければ、一対一というわけにはいかないお?」
イーターはそう言って、ノワールの後ろの方へと視線を向ける。
そこには、魔天の鏡を構えてギロッとトップを睨みつけている、百合紗の姿があった。
「なにさ。もう一人魔法少女が増えたくらいで、頂点に立つうちが、負けるとでも思ってんの?」
「ディアブルアンジェだけじゃない。いざとなったら、キューティクルチャームの三人だって変身するお? こちらはたった今、結成したばかりのチームだお。態勢を整えてからでないと、五人の魔法少女を相手にするのは骨が折れるお」
「……態勢を整える、ねぇ」
深く嘆息しながら、リバイバルトップは変身を解除し、
そして、頭の後ろで手を組んで。
「そこまで言うからには、何か良い策があるってことなんだよね?」
「任せるお。リーダーを支えながら策を巡らせるのは、サブリーダーの務めだお」
「そ。じゃ、まぁいいわ。どうせ何回やったって、うちが勝つことには変わりないし」
雛舞が納得したのを見て、風仁火さんともゆも、それぞれ変身を解く。
「そういうことだから。ほのり、今日のところはいったん引いてもらえるかお?」
「……これから悪巧みをしようとしてるのが分かってて、引き下がれるとでも思ってるんですか?」
試すような風仁火さんのことをまっすぐに見据えて、わたしは応える。
だけど風仁火さんは、顔色ひとつ変えずに。
「――引き下がらないんだったら、この場で全面戦争しかないけど?」
ぞくっと、背筋が凍るのを感じた。
かつて魔法乙女隊エターナル∞トライアングルとして、数々の死線を乗り越えてきた先輩のその言葉は――あまりに重い。
「……分かりました。今日のところは、いったん帰ります」
「ほのりん、いいの?」
雪姫が心配そうに、わたしのことを見てくるけど。
「雛舞が裏切るなんてイレギュラーが発生したのよ? こっちも作戦を練り直す必要があるでしょ。この場で全面衝突は、得策じゃないわ。だけど――風仁火さん。これだけは、はっきり言っておきます」
「なんだお」
脚が軽く震えるのを感じる。
唇は乾いて、なんだかパサパサして気持ち悪い。
それでも、わたしは……はっきりと言い放った。
「必ず近い未来、わたしたちは風仁火さんたちの計画を、止めます。止めてみせます。それが風仁火さんたちから引き継いだ――魔法少女キューティクルチャームの、やるべきことだと思うから」
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