第3話 プリパルプレパル★裏切りの変身
も~っと! 3-1「社畜根性丸出しじゃん」
――
はっきりと、きっぱりと。
「辞めたい」って言うばっかで、実際には辞めらず悶々としながら生きてきたわたしと違って、即断即決な行動。
これが若さか、ちくちょう! 若さ、若さってなんだ!!
……とかなんとか考えているうちに、雛舞とパオンは『再設定』を行いはじめた。
さすがに我慢の限界に達したらしいガブリコが、悲痛な声を上げる。
「雛舞! いい加減、バカなことはやめるがぶ!! お前さんは、ビビビッときた僕ちゃんに選ばれた、殲滅魔天ディアブルアンジェの偉大なる戦士がぶよ!? トップアンジェとしての設定だって、行ったばかりがぶよ!? それを反故にするなんて……こんなの絶対、おかしいがぶ!」
「そうにょろ!」
ちろちろと不気味な舌を動かしながら、ニョロンが追撃する。
「ユーが魔法少女になるために、
「や。うち、学生だし」
ばっさりと、ニョロンの言葉を切り捨てて。
雛舞はビシッと、わたしたちの方を指差してきた。
「それにさぁ。なんの対価も払ってないくせに、束縛だけはしてくるなんて、ブラック企業も甚だしくない? DV男もびっくりだよ。それに比べてミッドナイトリバイバルカンパニーは、給与も交通費も支給される。リーダーの選出も、フレキシブルに対応してくれる。超ホワイトじゃん? うちに言わせりゃ、みんなが
「辞めれるもんなら、とっくに辞めてるわよ!」
わたしはギュッと、血が滲むほどに唇を噛み締めて、あらん限りの声で叫んだ。
「
「社畜根性丸出しじゃん、ほのりさん」
肩をすくめつつ、雛舞がわたしのことを鼻で笑った。
「代わりがいないから、辞められない? そんなの、向こうの事情でしょ? それをバカ正直に受け止めて辞められないとか――精神病むよ? 辞めたけりゃ、辞めちゃえばいいんだって。それで困ったら、なんだかんだで代わりの魔法少女はいくらでもいるんだから。自分が幸せで、トップを目指せる環境を考えた方がいいよ?」
フリーダムな雛舞の言動に苛立ちを覚えつつも――わたしはそれに、返す言葉が思いつかない。
だって雛舞の言っていることには、何も矛盾がないから。
むしろわたしの方こそ、辞めたいくせになんで魔法少女にしがみついてるんだって……思い知ってしまったから。
「『再設定』完了ぱお」
そう言って、妖精インド象が大きく鼻を振るう。
「おっけー」
雛舞はにやりと不敵に笑い、背負っていた黒い刀剣の竹刀を抜く。
それは『魔天の剣』と呼ばれる、殲滅魔天ディアブルアンジェに変身するための『三種の魔器』のひとつ。
だけど今は――鍔の部分に刻印されていた、『天使と悪魔が抱きあっているレリーフ』が消失している。
「『魔天の剣』は、『リバイバルブレード』に修正されているぱお。これを使うことによって、汝は再雇用魔法少女ミッドナイトリバイバルの、リバイバルトップへと変身することができるぱお」
「それが再雇用魔法少女の、リーダーってわけね?」
「そうだお」
それを満足そうに受け止めて――雛舞はゆっくりと、眼前に竹刀を構えた。
「定年退職パワー! パラシューティング!!」
瞬間――雛舞の服が透過して、全身が白い光に包まれる。
竹刀から長剣へと変化した『リバイバルブレード』を振るって、天を切り裂く。するとその切れ目から、赤い光が滝のように流れ落ちてきて、雛舞の全身を満たしていく。
雛舞が、両腕を広げる。
同時に全身を包んでいた光は、魔法少女のコスチュームへと変化し――最後に天から降ってきた二つのリングが、両手首に装着される。
そうして、わたしたちの眼前に姿を現したのは。
トップアンジェではなく――リバイバルトップ。
白いヘッドドレスを装着した、深紅のロングヘア。
裾や袖にフリルのついた、膝丈くらいのスカートをした、メイド服のようなコスチューム。白いニーハイソックスから伸びる、艶めかしいガーターベルト。
左手首には白の、右手首には黒のリングが、それぞれ装着されている。
見た目はトップアンジェの頃と、ほぼ変わってない。
だけど彼女は間違いなく、
「じゃあ、ふーちゃんも……変身するお!」
そう言って、ピンク色のナイフ『リバイバルナイフ』を突き出す風仁火さん。
「定年退職パワー! パラシューティング!!」
オーロラのような光が、風仁火さんの全身を包み込む。
その中でくるくると、まるでアイススケートでもするかのように、回転する風仁火さん。回るたびに脚・手・身体と、次々に洋服が魔法少女のコスチュームへと変化していく。
そして最後に髪の毛が、煌めく光を放って――リバイバルイーターの変身は完了した。
陽の光のように輝く、黄色いツインテールの髪型。
チェックのエプロンドレスを身に纏い、両手にはナイフとフォークが握られている。
「それじゃあ、イーター! うちらの最強の決めゼリフ、見せてやろうじゃない!!」
「もちろんだお!」
リバイバルトップはビシッと、右手の人差し指を天に向かって突き上げる。
そして右手を、大きく横に振るうと。
「夜空に輝く一番星は、不敵に無敵なナンバーワン! 最強の乙女、我が名はリバイバルトップ」
続いてリバイバルイーターが、フォークを正面に向けながら、満面の笑みを浮かべる。
「今日もあなたを食べちゃうお★ リバイバルイーター!」
そしてトップが右向きに、イーターが左向きになって、背中を合わせる。
「「今、蘇る。再雇用魔法少女――ミッドナイトリバイバル!!」」
そのまま二人は、十字を切り――黙祷を捧げた。
「「魔法少女よ、永遠に」」
ミッドナイトリバイバルカンパニーのオフィス内が、静まり返る。
「あははっ。うちのトップレベルな変身に、言葉も出ないみたいだね?」
いや、唖然としてるだけだよ。
っていうかあんたの場合、定年退職でも再雇用でもねーだろ。転職だろ、転職。
「ヒナリア、目を覚ますのです!!」
もはやツッコむのも面倒くさいわたしに代わって、もゆが大きな声を上げた。
「もゆとヒナリアとユリーシャは、前世からの因果で結ばれた、決して切れないひとつの魂。思い出して! あの日あの丘で契った、永遠の約束を!!」
「知らん!」
もゆの妄言をぶった切って、リバイバルトップは眉尻に指を当てる。
「ったく。なーんでこんな中二病のおちびちゃんが、殲滅魔天のリーダーなんだか。どう考えたって、頂点に立つうちの方が適任だったのに……そういうところが嫌だったんだよね、南関東魔法少女。先輩たちは、なんかダサいし」
唐突にキューティクルチャームをディスるな! ぶっ飛ばすぞ!!
「魔天の雫の加護を浴び……」
そのときだった。
もゆが、魔天の雫を構えて、変身の呪文を唱えはじめたのは。
「ちょっ……もゆ? あんた、何やって……!!」
「今、咲き誇れ! 百花繚乱!!」
鈴のような音とともに、もゆの服が魔法少女のコスチュームへと変化していく。
左目を覆い隠すほどに長い、膝のあたりまで伸びた漆黒の髪。
学ランをアレンジしたような服。学帽風のキャップからは小さな白い羽根が、腰元からは黒い羽根に見立てたひらひらが、それぞれ生えている。
「常闇 混沌 漆黒 ……雨。漆黒の乙女、我が名はノワールアンジェ」
目を瞑り、左目を手で押さえながら口上を言い挙げると、ノワールは片足を上げてポーズを決める。
そして――傲岸不遜な態度で立っているトップのことを、キッと睨みつけた。
「トップ! いい加減、闇の言葉に惑わされていないで、目を覚ますのです!!」
「惑ってないし。うちは、うちの意思でディアブルアンジェを辞めたんだし」
「嗚呼……なんという悲劇。ようやく見つかった血の盟友は、大いなる闇に心を呑まれていた……これが神話の一ページだとするならば、神はなんという辛き試練をわらわに与えるのでしょう? 神の子は、やはりいつの日も孤独」
「浸ってんじゃないって、この中二病は。御託はいいからさ……そろそろ決着をつけようじゃん?」
何やら神の子モードに入っているノワールを、トップはビシッと指差して、自信満々な様子で言い放った。
「本当にトップレベルなのは――どっちかってことをさ!!」
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