#2-3「毒キノコでも食べたの?」

「なるほど。そのようなことがあったのですね」



 放課後。商店街にある小さなカフェ。


 わたし・雪姫ゆきひめ・ニョロンは、もゆ&ガブリコと待ち合わせると、校内ヘッドバンギング事件の詳細を語った。



「ということは、またまた魔法少女キューティクルチャームの出番なのですね! そして当然、その見習いたる殲滅魔天せんめつまてんも一緒に大活躍なのです!!」


 瞳を輝かせながら、新たな敵の出現を喜ぶもゆに、わたしは苦言を呈する。


「喜んでる場合じゃないわよ。もしも黒墨くろすみの仕業だとすれば、今回は一筋縄じゃいかないかもしれないんだから」


 一見するとただの黒ずくめのロリコンだが、実際に戦ったわたしには分かる。


 復讐に燃え、こつこつとサバゲーで修練を積んだその実力は、キューティクルチャームと互角。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。


 そんな奴が策を巡らせてきてるんだから、こちらもチーム一丸となって対策を講じる必要がある。



 ――――にもかかわらず。



「なんでこの一大事に連絡がつかないのよ、薙子なぎこの奴!!」


「まぁ薙ちゃんだしねぇ。ここは三人で戦うしかないんじゃない?」


「四人、にはできないのですか?」



 猛り立つわたしの正面で、もゆが三つ編みをくるくると指先で遊ばせながら、ぽつりと呟いた。


「四人て。薙子が捕まらないのに、一体どうするっていうのよ?」


「その……ですね。薙子先輩ではなくてですね……」


 もじもじと身体をくねらせながら、もゆは囁くように言った。



「二人目の殲滅魔天を見つける、というのはどうでしょう?」


「二人目……って、『ジャスミン』のこと?」


「ああ、なるほどっ! 最大のピンチを前にして駆けつける、新たな魔法少女……うん、燃えるシチュエーションだねっ★」


「そうなのです! そして二人になった殲滅魔天は、神の力を地上に顕現させて、邪なるものたちに遥かな眠りの旅を捧げるのですよ!!」



 雪姫ともゆが手を取り合って、瞳の中に炎を燃やしはじめる。


 二人の中ではもう、使えない薙子の代わりに『ジャスミン』を見つける方向性で固まっているみたいだ。


 けど――。



「どしたの、ほのりん? そんな難しい顔しちゃって」


 雪姫がわたしの方を見て、心配そうに言う。


「や、確かに魔法少女が増えてくれれば助かるんだけどさ。わたしの引退にもリーチが掛かるわけだし。でも、わたしたちは相手をミーチューブ越しにしか知らないのよ? 勧誘のしようがないじゃない」


「……確かに。さしずめ彼女は、彼方の海をたゆたう漂流者。血色の糸で繰られた絆を辿ってみても、容易く届かぬ定めなのですね――嗚呼、なんという悲哀。神の子は、今日の日も孤独」


 そーですね。



「ふっふっふっふ」


 なんて、もゆの妄言を聞き流していると。


 雪姫が目を閉じて、得意げに人差し指を立ててみせた。



「何よ、変な笑い声出して。毒キノコでも食べたの?」


「ふっふっふ、ほのりん。『ジャスミン』の居場所だったら、既にゆっきーが調査済みなんだよっ!」


「はぁ!? 一体どうやって調べたってのよ?」


「じいが一晩でやってくれたよっ。雪姫家の情報網は伊達じゃないってね★」



 学園だけじゃなく、そこまでの力を持ってるのか雪姫家。


 感心するっていうか、逆にちょっと引くレベルだわ。



「というわけだから、今からでも『ジャスミン』のところに行くことができるんだけどぉ……どうする、ほのりん?」


「行きたい! 行きたいのです雪姫先輩!!」


「ちょっと、もゆ。落ち着きなさいよ、ったく……でもまぁ、今は猫の手でも借りたい状況なわけだしね。取りあえず『ジャスミン』に会うだけ会ってみようか」


「ん。ほのりん。ん」



 わたしの言葉を満足げに聞き届けると、雪姫はおもむろに頭を垂れた。


 そしてその頭を、ぐりぐりとわたしに押しつけてくる。



 ほのかに漂う、シャンプーの甘い香り。



「な、何よ!? 脇腹はくすぐったいからやめ――あははっ!!」


「こんなに有益な情報を持ってきたゆっきーには、ご褒美が必要なんだよっ! そう、それはほのりん渾身のなでなで!! なでなでするまで、ゆっきーは決して口を割らないんだからねっ」


「分かった、分かったからやめ――あははははっ!!」



 雪姫を引っぺがすと、わたしはしぶしぶその金髪ゆるふわパーマに手を添える。


 なでなで。


 雪姫はくすぐったそうにはにかみながら、頬を桃色に染めた。



「ったく。なんでわたしが、女装男子の頭を撫でなきゃいけないのよ……」


 言葉にしたら、異性の頭を撫で回している現実が、なんか無性に恥ずかしくなってきた。


 いくら相手が雪姫とはいってもほら、二人とも高校生なわけだし……ねぇ?



「ほら、もうおしまいよ。さっさと『ジャスミン』のいるところを教えなさいよ」


「はーい★」




 ご満悦らしい笑顔満開な雪姫を見て、わたしは小さくため息をついた。


 まったく――いつからこんなキャラになっちゃったんだろうね? 雪姫は。

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