第2話 ピリカピピララ☆引きこもり

#2-1「知らんがな」

「ほのり先輩! ロンギヌス! おはようございますなのです!!」


「がぶ!!」



 ガブリコの衝撃発言を聞いた翌日。


 わたしとニョロンが登校しようと家を出たところ、待ち伏せしていたらしいもゆとガブリコが、脇の方から飛び出してきた。



 もゆの服装は、今日も紺のワンピースに黒いケープ。真っ赤なバッグには血飛沫や『GOD』の刺繍やら、珍妙なデコレーションが施されている。


 そして左手には、持ち込むのは校則違反じゃないかと思われる、綺麗に磨かれた水晶玉。



「ガブリエルから聞いたのですよ。ついにもゆの血の盟友が見つかったのですね!」


「だからガブリエルじゃなくて、ガブリコがぶ。ニョロン先輩も、ロンギヌスじゃないがぶし」



 ガブリコの言葉を無視して、もゆは赤茶色の三つ編みを揺らし、透き通るほど真っ白な腕を腰に当てて「ふふん」と不敵に鼻を鳴らした。


 その口元は猫のように、にんまりと笑っている。



「あぁ、殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェとなってから幾星霜……血と血で繋がれた仲間との出逢いを、もゆはずっと待ちわびていました。戦場に咲く友情の花言葉は、そう『大いなる愛』――花びらで契って、二人は箱庭を飛び立つ鳥となるのです」


 相変わらず言ってる意味は欠片も分からないが、どうやら自分の仲間となる魔法少女が見つかって、嬉しくて仕方ないらしい。



「まぁ確かに見つかったことは見つかったんだけどさ。相手はネットの向こうの人間だから、コンタクトの取りようがないのよね」


「ふふーん。仲間、仲間♪」


 冷静に現状を話すが、もゆは鼻唄なんて歌って、まるで聞く耳なんざ持ってやしない。



「ほのり先輩、仲間ってどんな感じなんですか? 向こうがピンチになると右腕が疼いて危機を知らせてきたり、そういう神の御加護が訪れるのですか?」


「そんな便利機能、仲間には実装されてないわよ。仲間ってのはね、呪いと一緒よ。どんなにサボる奴だろうと、どんなに女装して騒ぐ奴だろうと、『仲間』って呪縛のせいで一緒に活動せざるを得ないし、周りからは同類みたいな扱いをされる……そのせいでわたしが、どれだけ苦労してきたことか……っ!」



 雪姫ゆきひめ薙子なぎこのことを思い浮かべながら、わたしは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 しかしもゆはそんな話を聞いても、ますます目を輝かせるばかり。



「『血』と『呪い』で繋がった友達――切っても切れない、鎖の如き絆。その重き運命を司る前世には、果たしてどのような因果があったのでしょうね?」


 知らんがな。


「嗚呼……それにしても僥倖なのです。先輩方と一緒に活動するうちに、仲間という存在の大きさを感じて、ずっと羨ましく思っていたものですから。どのような御方かまだ存じ上げませんが、仲良くなれると嬉しいな、なのです」



 落っこちてしまいそうなほど、もゆの頬は緩みきっている。


 そんなあどけない、中学一年生らしいもゆの笑顔に、わたしの心もほだされる。



「ま、あんたみたいに軽く引き受けてくれるかは分かんないけどさ。まずは本人に会ってみないとね……とっとと引退するためにも。だから、もゆ――ミーチューブの人気歌い手『ジャスミン』を、草の根分けてでも探し出すわよ」


「はい、なのです!」



 ったく、本当に嬉しそうな顔しちゃってさ。


 いつも生意気な態度ばっかり取ってるくせして。



 本当――素直にしてれば可愛いんだから。この後輩ちゃんは。

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