#1-4「ほのりちゃんは人生の半分以上を損してる!!」

「さぁ、みんなでお昼ご飯食べよー!!」



 まりかちゃんが大仰な仕草で、「いただきます!」と声を上げた。


 しかしわたしは、緊張のあまり硬直してしまって、まるで身動きが取れない。


 それもそのはず。


 円形に並べられた六つの机には、わたしとまりかちゃんの他に、ろくに喋ったことのないクラスメートがあと四人も座っているのだから。


「あーっと、ごめんほのりちゃん! まだ紹介してなかったね」


 まりかちゃんが「えへっ」と、頭をこつんと叩く仕草を取る。



「この四人は私のグループの友達。まずこっちの大人っぽい巨乳ちゃんが、『てぃろねぇ』」

「よろしくね、有絵田ありえださん」


「こっちのボーイッシュなのが、『みきさや』」

雉白きじしろって、ほんとバカ。あたしらは、有絵田さんの味方だからねっ!」


「こっちでリンゴかじってるのが、『あんこ』」

「へっへー、よろしくぅ。まぁ仲良くやろうぜ」


「そして最後に、『ぽむぽむ』」

「……ぽむ」



 うおおお、すっげぇ。これが世間様で有名な女子の仲良しグループって奴か。


 そしてそのグループとやらに、なんの因果か混ぜてもらっている自分に、思わず涙が零れそうになる。



 ありがとう、神様。


 日夜頑張っているわたしに、ささやかなご褒美をくださったんですね。



「みんな、ほのりちゃんと話してみたいって思ってたんだよ? だけど魔法少女だから、これまで近づきにくくって」



 ――ずきり。


 やっぱり普通の女子高生にとって、魔法少女は珍獣みたいな存在なんだね。


 いや、分かっちゃいたけどさ。いざ実感させられると、軽くショックだわ。



「ほら、隣のクラスの雪姫ゆきひめくんとか、超ノリノリでやってんじゃん? 男なのに」


「ほんと、バカ」


「だから、有絵田さんも魔法少女大好きなのかと思ってましたわ。ねぇ、ぽむぽむ」


「ぽむ」


「ち、違いますよ!! わたしは雪姫と違って、全然乗り気じゃないっていうか、むしろ恥ずかしいくらいで……」



 ――ああ。


 なんか今のわたしってば、普通の女子高生っぽい時間を過ごしてない?


 魔法少女という呪いのせいで、許されることのなかった当たり前の日常。


 その『普通』という名の幸せを噛み締めながら、わたしはお昼ご飯を食べつつ五人との楽しい会話を続けていく。



「――なぁなぁ、てぃろ姉。昨日アップされた『ジャスミン』の動画って観た?」

「昨日のはまだ見てないわ」


「てぃろ姉ってば、ほんとバカ。今度の曲は超最高なのに。ねぇ、ぽむぽむ?」


「ぽむ」


 さっきから、ぽむぽむさんが気になって仕方ない。



「やっぱそうだよね、みきさや! 昨日アップされた奴は、過去最高傑作かもしんないくらいの出来だったよね!! 私もう、何回もループしちゃってさ。ねぇ、ほのりちゃん。ほのりちゃんはどうだった!?」


「え? えっと、すみません……『ジャスミン』って、なんですかそれ?」



 …………しーん。


 あ、やばっ。完全にやっちゃった感じだ、これ。



「有絵田さん、『ジャスミン』を知らないの?」


「マジかよ。女子高生のカリスマだぜ?」


「ほんと、バカ」


「ぽむ」



 ちょっと引き気味な表情で、四人が思い思いの言葉を口にしてくる。


 そして最後に――まりかちゃんがバンッと、机を勢いよく叩く。



「ほのりちゃん、それはまずいよ!! 『ジャスミン』はミーチューブの歌い手! 今や女子高生で彼女を知らないものはいないっていうほど、人気沸騰中のカリスマだよ!? 『ジャスミン』の歌を聞いてないとか、ほのりちゃんは人生の半分以上を損してる!!」



 ミーチューブは、ネット関係に疎いわたしでも、さすがに聞いたことがある。


 ミーチューバ―って呼ばれる人たちが、人気曲のカバーとかオリジナルの楽曲とか、色々歌ってアップしてるんだよね。確か。


 捲し立ててくるまりかちゃんの話を総合すると、『ジャスミン』という女性が投稿しているオリジナル楽曲が、女子高生の間で大流行してるらしい。



「……というわけだから、ぜひほのりちゃんも聴いてみてね! っていうか、これを聴いてないとか、普通の女子高生じゃないよ!?」


「き、聴く! 絶対聴くから!!」



『普通の女子高生』という憧れのフレーズに、わたしは何度も首を縦に振る。



 魔法少女のせいで奪われ続けてきた普通の生活。普通の友達。


 それが今、目の前で手を広げて待ってくれている。


 こんな千載一遇のチャンス、逃す手はないわ!



「それじゃあ明日は、『ジャスミン』の話で盛り上がろうね! ほのりちゃん!!」

「……うん!」



 そんな約束を交わしつつ。


 わたしの学園生活史上、最高のお昼休みは、幕を閉じたのだった。

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