第57話 元同僚の近況

 夕食を終えた後。

 俺はオズを家まで送り届けると皆に伝え、オズと共に一足早く帰路に着いた。


「いやー、皆いい人だったね!」


「そうだな。物分かりも良くて助かる。お前とは大違いだ」


「むー、相変わらず28はボクに冷たいなぁ。……あ、もしかしてアレかな。好きな人には意地悪したくなるっていう――あいたっ!?」


「しばくぞ」


「もうしばいてるしっ!?」


 頭を押さえ「うー」と不満そうな声を漏らすオズを、俺は無視する。


「オズは今、局に所属しているのか?」


「うん。だからオズって名前は今だけのものだよ。……トゥエイトと違ってね」


 どこか棘を含んだその口調に、俺は少し考えてから質問を繰り出した。


「オズは、機関が解体された後、どうして局に所属したんだ?」


「ボクの場合、最初から選択肢がなかったんだよ。年齢と性格的に、まだ外に出すのは危険過ぎる……だって。まったく、失礼しちゃうよね。トゥエイトにできるならボクにだってできるに決まってるよ!」


「いや、それはどうだろうな……」


 オズは俺と比べて人当たりはいい。だがその分、自由奔放で隠密行動には向いていない。

 今回は俺が舵取りをするが、彼女が単身で俺と同じことができるとは限らない。


 それに――俺自身、まだまだだ。


 オズは「トゥエイトにできるなら」と言ったが、俺も完璧にできているわけではない。

 そんな風に考えていると、不意にオズが複雑な面持ちを浮かべた。


「……ねえ、やっぱり二人きりの時は28って呼んでいい? なーんかトゥエイトって呼び慣れないし、気持ち悪い」


「気持ち悪いって、語感は殆ど同じだろ」


「うーん、でも……なんか、嫌」


 要領を得ないオズの発言に、俺は溜息混じりに「好きにしろ」と伝えた。


「というか28って護衛もできたの?」


「いや、今回は条件が揃っていたから俺が依頼を受けただけだ。俺としては正直、あまり得意ではない」


「まあそうだよね。28が本領発揮できるシチュエーションって、結構限定的だし。それに普通、ボクたちの中で護衛って言ったら11イレブンじゃない?」


「確かにそうだが……あの男が得意とするのはあくまで一般的な護衛だ。今回は護衛対象にも気づかれてはならないという、少し厄介な制限があるからな」


「ああ、成る程。じゃあ不器用な11には無理だね」


「お前も大概だろ」


「そんなことないよ~。あ、そう言えばこの前11に会ったよ。なんか28に髪の毛ひっこ抜かれたとかで、めちゃくちゃ怒ってた」


「怒っていた? 悪く思うなと伝えた筈だが……?」


「……それ謝罪になってなくない?」


 そうかもしれない。

 だがあの時、落ち度は明らかに11にあった。俺は悪くないので本当は謝罪自体、必要ない筈だ。


「夕食の時に話したが、明日はまずオズの冒険者登録に付き合う。それから依頼を受ける予定だ」


「りょーかい! 第二種の方だね」


 この登録には、俺だけでなくミゼたちも付き添うことになっている。

 夕食の時、オズの登録がまだであることを伝えると、ミゼが「折角だから一緒に行きましょう」と提案したのだ。護衛対象はなるべく近くにいてくれた方が助かるので、俺たちにこの提案を断る理由はなかった。


「ところで、基本的なプランはどうするの? やっぱりボクか28、どちらかは常にミゼの傍にいた方がいいよね?」


「ああ。だから敵の規模によって対応を変えるつもりだ。少数なら俺が処理する。だが今日みたいな大規模な襲撃があった場合は、オズが処理してくれ」


「うん、わかった。あ、でも……ぶっちゃけボク、派手だよ?」


 オズが言った。

 だが、そんなことは俺も重々承知している。


「それでいい」


「え、いいの?」


「ああ。ついでに言うなら、ミゼの傍にいる時もある程度は派手に動いてくれ」


 どういうこと? と首を傾げるオズへ、詳しい説明を述べる。


「今回、オズには敵を牽制する役割も担ってもらう。要するに、ミゼの周りに強い人間がいることを敢えて敵に認識させるんだ。オズが目立てば目立つほど、敵はオズを警戒して動きにくくなる」


「成る程。じゃあボクは自然体でいればいいんだね?」


「ああ。但し、平時と護衛中で武器や魔法は使い分けてくれ。護衛中、平時と同じ戦い方をしているとすぐに正体がばれる」


 りょーかい、とオズが頷く。

 大規模な襲撃があった直後にオズの投入だ。敵は最初からある程度、オズのことを警戒するだろう。ならいっそ開き直って、とことん警戒させた方が効果的である。


 護衛中の戦闘も今後は派手になっていくだろう。だが背に腹はかえられない。幸い敵も注目を避けたがっているため、恐らく襲撃の規模が大きくなるのは街の外に限った話だ。街中ならともかく、外なら多少派手に戦っても、『魔物が暴れていた』など適当な言い訳で済む。


 任務を遂行するためには、多少目立ってもいい。

 要はミゼに悟られなければいいだけだ。


「思ったより大変そうだけど……弱音は言ってられないね。先代の顔に泥を塗らないためにも、頑張らなきゃ」


 その何気ない言葉に、俺は薄らと自分が属していた組織のことを思い出した。


 オズ――今の02は、二代目だ。


 初代02は戦争中に死んだ。享年五十八歳だった。

 オズは、初代02が戦争中に拾ってきた孤児である。つまり俺と似たような経歴の持ち主だった。


 初代02に恩を感じたオズは、拾われてから初代02に師事するようになった。元々才能があったのだろう。今では初代と同程度の実力を身につけ、遂にはそのナンバーを引き継ぐまでに至った。


 魔法は才能によって大きく左右される。

 だが、ここまで顕著に才能を発揮した兵士は、俺たちの中でもそう多くはない。


「期待しているぞ、オズ」


「ふふん、任せてちょうだい」


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