第56話 問題児オブ問題児
オズと名乗ったその少女は、間違いなく俺の元同僚――即ち、かつて機関に属していた兵士だった。
明るいオレンジ色の髪は外ハネしたショートカットで、円らな瞳やあどけない顔立ちと相まって活発な印象を受ける。背は俺の胸辺りで、体格的には中等部の女子生徒と近い。実際、年齢もそのくらいだった筈だ。
少女の姿は以前と何も変わらない。
良く知っている――ああ、本当によく知っている、
「何故、お前なんだ……」
「どしたの28? あ、もしかして久々にボクと会ったから緊張しちゃった?」
「……チェンジで」
「またまた冗談を~。嬉しいくせに~」
うわぁ、めんどくせぇ……。
肘で脇腹を突いてくるオズに殺意を抱く。ぶん殴りたい衝動に駆られるが、辛うじてその感情を留め、俺はまだ繋がっている『通信紙』でクリスに声をかけた。
「おいクリス。どういうことだ、これは」
『どうと言われても、貴方の希望通り、火力を持つ人員よ。02がいれば、貴方の苦手な局面にも対応できるでしょ』
「それはまあ、確かにそうだが……俺の心労にも気を遣ってくれ」
『こちらも人手不足なのよ。……忙しくなってきたからそろそろ切るわ。またね、トゥエイト』
若干、雑な形で通信が切られる。
急に全身が重たくなった。オズが協力してくれる以上、体力的な負担は軽減されるだろうが、精神的な負担は逆に倍増しそうだ。
「……取り敢えず、護衛対象にオズのことを紹介しに行こう」
「あ、もう紹介してくれるんだ? 暫く様子見すると思ってた」
「本音を言うとそうしたいところだが、既に余裕がない。今後二人で護衛するなら、一人がミゼの傍にいて、もう一人が賊を倒しにいくといった作戦も取れそうだ。どちらがミゼの傍にいてもいいよう今のうちに面識を持ってもらう」
「了解。まあボクは28と違って人当たりがいいから、簡単に馴染めると思うよ」
「しばくぞ」
「事実じゃん」
確かに事実だが……腹立つなぁコイツ。
「他の人がいる前では、俺のことをトゥエイトと呼べよ」
「あ、そうだったね。まだ慣れてないから前の呼び方しちゃってた」
天真爛漫というか、考え無しというか……。
確かに現状を考えるとオズを投入するのは悪くない。彼女の得意分野は俺の苦手分野を補う。代わりに、彼女の手綱を握ることに苦労しそうだ。
「遅かったな、トゥエイト。……って、その子は?」
ギルドの酒場に戻ると、グランが俺の隣にいるオズを見て訊いた。
「俺の元、仕事仲間だ」
「オズでーす! よろしく!」
オズが明るい笑みを浮かべて挨拶をする。
「仕事仲間って言うと、例の掃除屋さんか? でも随分と幼いような……」
「あはは、まあうちは年齢不問のちょっと変わった職場だからね。まあ、それは置いといて――」
オズがその場にいる、俺の学友たちの顔を見渡して言う。
「――よかったら、ボクを仲間に入れてくれないかな?」
その提案に、グラン、エリシア、ミゼの三人は目を丸くした。
唐突な提案であることは俺も理解しているので、補足説明をする。
「オズは最近、職場の寮を引っ越して一人暮らしを始めてな。そのせいで色々と金がかかるようになったんだ。それで今度、ギルドに登録するという話を聞いて……折角だから一緒に依頼を受けてみないかと提案してみた。別に無理強いするつもりはないが……一応、戦力になることは保証する」
「成る程、そういうことか。……いいんじゃねぇの? トゥエイトの紹介だし、悪い奴じゃなさそうだ」
「私も問題ないわ。人数多い方ができることも増えるでしょうし」
グランとエリシアが早々に賛成する。
次いで、ミゼも頷いた。
「私も問題ないです。こうやって人脈が広がるのも冒険者の醍醐味ですから。……よろしくお願いしますね、オズさん」
「うん! よろしくね、皆!」
その後はオズを加えて夕食を再開し、五人の友好を深めた。
人当たりが良いと自分で言うだけあって、オズはあっという間に馴染んでみせた。未だにエリシアから「怪しい奴」呼ばわりされている俺とは大違いである。
「というかトゥエイトが保証する実力って、ちょっと気になるわね」
「ふっふーん。それは後のお楽しみってことで」
食事中、エリシアの言葉にオズが不敵な笑みを浮かべて答えた。
俺と違ってオズの戦い方は派手だ。恐らく、三人とも驚くことになるだろう。
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