episode287 機構天使との決戦後

「……終わった、か」


 光が晴れると、着弾点には大きなクレーターができていた。

 周囲には機構天使の残骸が散らばっていて、戦いが終わったことを実感させてくれる。


「そうね」

「……大丈夫か?」


 エリサ達は機構天使の攻撃をかなり受けていたからな。

 機構天使が討伐できたことを確認したところで、彼女達の様子を確認しに向かう。


「ええ。このぐらいなら大丈夫よ」

「……本当に大丈夫か?」


 装備品である魔法装備の服はボロボロになっていて、体中切り傷だらけになっているからな。

 出血で体も赤く染まっていて、とても大丈夫なようには見えない。


「すぐに治療するから大丈夫よ」

「そうか。……む?」


 と、ここで俺はこちらに近付いて来る複数の気配を感じ取った。


(この魔力は……他のメンバーか)


 どうやら、他のメンバーも討伐が終わって、合流しに来ているらしい。


「終わったみたいだな」


 ここで撤退して離れていたフードレッドが合流して来る。


「ああ。何とかな」


 無事というほどではないが、治療すれば治せる程度の怪我だからな。さほど問題は無い。


「全員終わったようね」

「そうらしいな」


 フードレッドに続いて、他のメンバーも次々と合流して来る。


「すぐに治療するわ。とりあえず、怪我をしているあなた達はここに集まってくれるかしら?」


 ここで俺達の状態を見たルミナはシートを敷いて、そこに集まるよう指示して来た。


「分かった」


 地面に座るわけにはいかないからな。

 ひとまず、ルミナが用意してくれた清潔なシートの上に移動することにした。


「治療なら俺も手伝おう」

「頼んだ」


 リュードランは回復魔法が得意だからな。彼が加わってくれるのは助かる。


「それじゃあ私とリュードランが治療するから、他のみんなには周囲の警戒を頼むわ。エルナ、他のみんなにそのことを伝えてくれるかしら?」

「分かりました」


 ルミナの指示を受けて、エルナはすぐに動いた。

 彼女はすぐに他のメンバーの元に跳んで移動する。


「行ったわね。……また随分とボロボロになったわね」


 ここで改めて俺達の状態を見たルミナはそんなことを呟く。


「そうね。またあなたには魔法装備の服の作製を頼むことになりそうね」


 俺とシオンの装備品は修理すればどうにかなりそうだが、機構天使の攻撃を激しく受けた他の五人の装備品は損傷が激しく、ほとんど裸に近いぐらいの状態になっているからな。

 ルミナにはまた装備品を作ってもらうことになりそうだった。


「とりあえず、治療をするから、服を脱いでもらうわね」

「ああ」


 このままだと治療をしづらいだろうからな。

 ひとまず、服は全部脱いでしまうことにする。


「それじゃあ脱がせるわね」

「いや、自分で脱ぐ……おい、聞いて……おわっ!?」


 俺は自分で服を脱ごうとするが、その前にルミナに無理矢理脱がされてしまった。

 ルミナは服を手早く脱がせて行って、そのまま俺は全裸にされる。


「きゃっ!? な……何故、下着を着けていないのですか!?」


 だが、それを見たレーネリアは顔を赤くしながら目を逸らした。


「いや、着けていなかったわけではなく、破けて無くなっただけだ」


 もちろん、初めから着けていなかったわけではない。

 戦闘中に破けて無くなってしまっただけだ。


「まあ下着は魔法装備じゃないし、破けるのも仕方が無いわ。あなたもそうでしょう?」


 エリサはそう言いながらレーネリアの服を脱がせる。


「え……きゃぁっ!?」


 エリサに言われて自分の状態に気が付いたレーネリアは、胸と下のあの部分を手で隠して丸くなる。


「痛っ……」


 だが、体中が切り傷だらけの状態で急に動いたので、傷口が痛んでしまっていた。


「その状態で急に動くな。治療してやるから、足を伸ばして座ってくれ」

「あの……毛布か何かはありませんか?」


 リュードランは治療しやすい姿勢になるよう言うが、レーネリアは裸を見られるのを恥ずかしがって、隠す物を要求する。


「レーネリアは私が治療するわ」


 その様子を見たルミナは、俺からレーネリアが見えなくなるような位置に移動して、リュードランを俺達の方に誘導した。


「……分かった。とりあえず、回復魔法の領域を展開するぞ」


 ここでリュードランは術式を起動して、魔法陣を展開する。

 すると、その魔法陣の範囲内にいる俺達の傷が治り始めた。


「服は脱いだな」


 ここでシオン、エリサ、アーミラの三人の方を見てみると、彼女達はいつの間にか服を全部脱いで全裸になっていた。


「では、包帯を巻くので、足を伸ばして座ってくれ」

「はーい」

「分かったわ」

「分かったよ」


 リュードランの指示を受けて、三人は足を伸ばして並んで座る。


「エリュも早く座ったら?」


 動こうとしていない俺の様子を見たシオンは、少し横に移動してエリサとの間を空けると、そこに座るよう促して来た。


「そうだな」


 俺はそのままシオンとエリサの間に座る。


「あら、随分と仲が良さそうね」


 と、ここでルミナはレーネリアの治療が終わったのか、こちらに様子を見に来ていた。


(レーネリアは……もう治療されたようだな)


 ここでレーネリアの方を見て確認してみると、彼女は包帯を巻かれてバスタオルを身に纏っていた。


「そうか?」

「まあそれは良いわ。とりあえず、治療するわね」

「ああ。頼んだ」


 そこからはルミナも加わって、治療を続行する。


「……ようやく終わったわね」

「そうだね。……エリサはこれからどうする?」

「まだ細かいことは考えていないわ。あなたはどうするつもりなのかしら?」

「アタシはエリサに付いて行くよ」

「そう。まあそれも悪くないわね」

「相変わらず仲が良いな」


 付き合いが長いので当然と言えばそうかもしれないが、相変わらず二人は仲は良さそうだった。


「当たり前だよ!」


 アーミラは自慢気に胸を張って言う。


「……張る胸も無いのに、自慢気だな」

「……喧嘩売ってる?」


 アーミラはそう言いながら俺を一瞬睨み付けるが、すぐに視線を外して自分の胸に視線を移した。


「って言うか、何堂々と見てんのよ! 変態!」


 そして、こちらに飛び掛かると、そのまま殴り掛かって来た。


「おい、まだ治療が終わっていない……痛ぁ!?」


 まだ治療は終わっていないからな。伸し掛かられると傷が痛む。


「アーミラ、大人しくしなさい。治療が済んでからにしてくれるかしら?」


 だが、すぐにルミナが止めてくれたので、それ以上騒がれることは無かった。


「……はい。済んだわよ」


 そして、そのまま待っていると、無事に全員の治療が終わった。


「お前達、大丈夫か?」


 治療が済んだところで、他のメンバーの状態を確認する。


「ええ。これならしばらく安静にしていれば完治するわ」

「そうか」


 フェイラスノアで機構天使と戦ったときほど怪我は酷くないからな。

 全員の状態を見てみるが、この様子だと特に問題は無さそうだった。


「だから、何で堂々と見てるのよ!」

「怪我の状態の確認をしただけだ」

「うるさいわね!」

「だから、暴れる……な!」


 アーミラが暴れ出そうとこちらに飛び掛かって来るが、俺は空中にいる彼女の首を右手で掴んで押し倒して、そのまま上から抑え付けた。


「ちょっと! 何するのよ!」

「お前が暴れるからだろう?」


 だが、これでは抑え付けられそうにないので、もう少し強めに抑えることにした。


 まずは右手を離して、その代わりに左の前腕で首を抑え付ける。

 そして、密着して右腕をアーミラの背中に回して締めることで、上半身の動きを封じた。

 さらに、脚を絡ませることで下半身の動きも封じる。


「ちょっ……顔近い! って言うか、下が当たってるし、擦れて……んにゅっ……」

「だから、暴れるな! と言うか、変な声を出すな!」

「アンタが密着してるからでしょ!」

「あらあら……もうそんな関係にまで発展していたのかしら?」


 ルミナは止めようとせずに面白そうにその様子を眺める。


「いや、そういうわけでは――」

「あなたがいる前で裸になっていたし、もうそういうことをする関係にまで――」

「だから、そういうわけではないと――」

「それは良いけど、そんなに動いたら傷口が開くし、場所も場所だから、ワイバスに戻るまでは大人しくしてくれるかしら? 戻ってから好きなだけ励むと良いわ」

「…………」


 俺はそれを否定するが、ルミナは聞く耳を持たない。


「あの……早く服を着てください!」


 ここでレーネリアは顔を赤くしながら服を着るよう急かして来た。


「む、それもそうだな。ルミナさん、服を出してくれるか?」

「分かったわ」


 ルミナはそれぞれの着替えを取り出すと、それらを全員に渡す。

 そして、着替えを受け取った俺達はそれぞれで自分の服に着替えた。


「それじゃあそろそろ帰りましょうか」

「……その前に行きたい場所があるのだが、良いか?」

「行きたい場所?」

「ああ」


 俺はそう言いながら上空にある白い球体に視線を向ける。


 その球体は輪郭がはっきりとしていない、白い光が一定の範囲内に収められたような感じの見た目だった。

 その白い光はどことなく神秘的な輝きを放っていて、転生するときにマキナに会った神域を思わせる。


 また、それを囲むように灰色の古びた機械のような物でできたリングがあり、その見た目は神代の遺物を思わせた。


「……あれがどうかしたのかしら?」

「『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』を起動した際にあそこから共鳴するものを感じてな」


 もちろん、理由も無くあの場所のことが気になったわけではない。

 あれが気になった理由は『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』が共鳴して、あの場所から感じるものがあったからだ。


 その理由に予想は付いているが、確認しないことには確定しないからな。

 それの確認のためにあの場所に向かいたいということだ。


「『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』の共鳴? もしかして……」

「ああ。恐らく、マキナだろうな」


 俺はエリサが言い切る前に答える。


 そう、あの場所にいると思われるのはマキナだ。

 『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』が共鳴した理由としてはそれが一番考えられるからな。

 あの場所の見た目からも、その可能性は高いと思われた。


「……残念だけど、あの場所へのアクセスはできないわ」

「そうなのか?」

「ええ。気になって調査をしたことはあるけど、他の場所とは比べ物にならないぐらいの強固な結界と高度な術式が使われていたわ」

「つまり、解析不能でどうにもならないと?」

「まあそういうことよ」


 どうやら、調査に赴いたことはあるらしいが、解析はできなかったらしい。


「それに、かなり高い場所にあるから行くのも大変よ。調査をしても解析できるとは思わないし、諦めることね」

「……そうか」

「……落胆したかしら?」

「いや、元々二度と会えるとは思っていなかった相手だ。そんなに気にしてはいない」


 再会できるとは思っていなかったからな。

 これまでと何も変わらないというだけの話なので、落胆すると言うほどのことでもない。


「……そう。何か言っておくことはあるかしら?」

「そうだな……」


 ここで俺は上空を見上げて、そこに浮かぶ例の白い球体を捉える。


「……発端は偶然だったのだろう。だが、それが俺達を変えてくれたことは確かだ。礼を言おう」


 そして、マキナに向けての感謝の言葉を述べた。


「……聞こえていないと思うわよ?」

「そんなことは分かっている。気持ちの問題だ」


 こんな場所で呟いたところで、物理的に考えて聞こえるはずがないからな。

 もちろん、そのことを分かった上で言っている。


「……もうここに心残りは無いかしら?」

「……ああ」


 これでもう思い残すことは無いからな。

 ここに来ることはもう無いかもしれないが、後悔することも無いはずだ。


「分かったわ。それじゃあ戻りましょうか。私達の帰るべき場所へ」

「……ああ!」


 そして、無事に機構天使の討伐を終えた俺達は、それぞれ思うところを胸に秘めながら、ワイバスの街に戻ったのだった。

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