episode286 機構天使との決戦

 機構天使の姿を確認した俺達はそれぞれで警戒して構えていた。


「アタシが行くよ」

「私も前に出ます」


 機構天使の姿を確認したところで、アーミラとスノーホワイトが素早く前に出る。


「俺達は……少し様子を見るか」


 俺も前に出たいところだが、ここはひとまず様子を見ることにした。

 他のメンバーはそれぞれで武器を構えて、様子を窺う。


「……生命反応を確認。殲滅します」


 俺達のことを発見した機構天使は大量の魔法陣を展開して、光魔法によるビーム状の光を放つ。


「行くよ!」

「行きます」


 アーミラとスノーホワイトはそれを掻い潜りながら接近して、そのまま接近戦を仕掛けた。


「せいっ!」

「はっ!」

「――対抗」


 すると、機構天使もそれに対抗して、互いに斬撃をぶつけ合う接近戦になった。

 機構天使はアーミラの素早い爪撃とスノーホワイトの冷気を纏った斬撃を腕に形成した刃で受けて、その度に魔力の衝撃波が発生する。


「――対象を決定」


 ここで機構天使はスノーホワイトの方が相手しやすいと思ったのか、攻撃対象を彼女に移し替えた。


「っ……」


 スノーホワイトは何とかそれを大剣で受けて防いでいくが、彼女の速度では機構天使の速度には対応できない。

 防ぐことができなかった攻撃が体を掠めて、ドレス風の魔法装備の服が斬られていく。


「――加勢する」

「ボクも行くよ!」


 ここで後方に回り込んでいた俺とシオンは同時に攻撃を仕掛けた。

 刀に魔力を込めて、二人を邪魔しないように居合斬りを放つ。


「――転移」


 だが、機構天使は囲まれている状況は不利だと判断したのか、空間転移して仕切り直そうとして来た。


「甘いわね」

「――そこです」


 しかし、こちらはその四人だけではない。

 エリサが転移先を狙って火魔法による槍状の炎を放って、レーネリアが接近して攻撃を仕掛ける。


「――対応」


 機構天使はエリサが放った炎の槍を躱すと、そのままレーネリアに対応した。


「はぁっ!」

「――斬」


 レーネリアは目にも留まらぬ速度で連続で突きを放つが、機構天使はそれを難なく弾いていく。


「俺も行こう」

「ボクも!」


 もちろん、彼女一人で戦わせはしない。すぐに俺とシオンは加勢に向かう。


「――虚風」


 だが、機構天使は大量の魔力の斬撃を飛ばして、それを妨害して来た。


「くっ……」


 その攻撃はかなり激しく、そう簡単に接近できそうになかった。


「あたしもいるぜ!」


 ここでフードレッドはスナイパーライフル型の魔法銃で攻撃して援護する。


「――冰牢」


 しかし、その攻撃は氷壁を展開することで防がれてしまっていた。


「その程度で――」

「――止められると思うなよ?」


 だが、そんなもので俺達は止められはしない。

 俺とシオンは魔力の斬撃を掻い潜って接近して、同時に居合斬りを放って氷壁を斬って破壊する。


「そこよ!」

「私も行きます」


 エリサはそれに合わせて火魔法による槍状の炎を放って、それと同時にスノーホワイトは機構天使に接近する。


「――転移」


 しかし、またしても空間転移することで、状況を戻されてしまった。


(やはり、空間転移をどうにかする必要がありそうだな)


 空間魔法を封じなければ、空間転移で仕切り直されてしまうからな。

 まずは空間魔法による転移をどうにかする必要がありそうだった。


「――エリサ」

「空間魔法は私がどうにかするわ」


 エリサはその一言だけで俺の意図が伝わったようで、すぐに準備を始めた。


「――斬」


 ここで機構天使はフードレッドに狙いを定めて、接近して魔力の刃を振り下ろす。


「ぐっ……」


 フードレッドは銃剣の付いたショットガン型の魔法銃に持ち替えて対応するが、あの機構天使が相手ではそれでは対抗できない。

 超速の斬撃を捌くことができずに、一瞬にして体中を斬り刻まれる。


「この……」

「――破壊」

「っ!?」


 さらに、ショットガン型の魔法銃を真っ二つに斬られて破壊されてしまった。


「フードレッド!」

「援護します!」


 そこに俺とレーネリアが割り込んで、サポートに入る。


「――転移」


 すると、機構天使は空間転移して、仕切り直して来た。


「大丈夫か?」

「ああ。あたしは大丈夫だ」


 フードレッドは魔法装備である服はボロボロになっていて、身体も傷だらけだが、身体は丈夫なのでそんなに問題は無さそうだった。


「今度はボクが相手だよ!」

「私も行きます」


 今度はシオンとスノーホワイトが接近して、機構天使に攻撃を仕掛ける。


(数の優位はあっても、長期戦は不利か)


 こちらは数の優位があるので、絶え間無く攻撃を仕掛けることが可能だ。

 だが、向こうは疲労しないし、魔力切れにも期待できないので、長期戦が不利なことに変わりは無さそうだった。


 まあ先に討伐を終えた他のメンバーの援護に期待しても良いが、確実ではないので、それは状況を見て考えることにする。


「次で行くわ」

「アタシも行くよ」


 と、ここでエリサとアーミラは準備が整ったようで、術式をいつでも発動できるように構えていた。


「分かった」


 それを聞いた俺は素早く機構天使に接近して、攻撃を仕掛ける。


「――転移」


 すると、思った通りに機構天使は空間転移して仕切り直して来た。


「そこよ!」


 そして、転移直後を狙ってエリサが魔法を起動すると、闇魔法による黒い影のような物が機構天使に絡み付いた。


「そこだよ!」


 さらに、アーミラが自身の血で形成した鞭を使って、機構天使をより強く拘束する。


「――転移、不可」


 機構天使は空間転移して脱出しようとするが、空間魔法を封じる術式が仕込まれているのか、不発に終わった。


「――斬る」

「斬るよ!」

「――行きます」


 そこに俺、シオン、レーネリアの三人で攻撃を仕掛ける。

 俺とシオンは刀で居合斬りを、レーネリアは槍での突きを放って、機構天使に攻撃を叩き込む。


「――防御」


 機構天使はエリサとアーミラによって空間転移も移動も封じられているので、魔力障壁を展開してそれを防ごうとして来た。


「そんなもので――」

「――防げると思うなよ?」


 だが、その程度で俺達の攻撃を止められはしない。

 俺達の攻撃は機構天使が展開した魔力障壁を砕いて、そのまま攻撃を直撃させた。


「――!」


 その攻撃によって強烈な衝撃と共に装甲の一部が破壊されて吹き飛ぶ。


(流石に硬いな)


 攻撃は命中したが、相変わらず機構天使は非常に硬く、コアの破壊には程遠かった。


「一撃で足りないのであれば、何度も叩き込むだけだ」


 だが、一撃で倒せないのであれば、何度も叩き込めば良いだけの話だ。

 俺は抜刀した勢いを残したままコア部分を狙った斬撃を放つ。


「――虚風、殲光」

「っ!」


 しかし、そこで魔力の斬撃と光魔法を使って反撃して来た。


(離れるしかないか)


 機構天使は拘束している物を破壊するためなのか、自身を中心に魔法を放っているからな。

 ここは一度離れるしか無さそうだった。


「――貫きます」


 だが、レーネリアは逃げようとはせずに、槍に魔力を集約させると、目にも留まらぬ速度で機構天使に突進した。


「――防御」

「はぁっ!」

「っ!」


 レーネリアの槍での一撃と機構天使の攻撃が同時に炸裂して、破壊音と共に周囲が光に包まれる。


「…………」

「…………」


 光が晴れると、先程の攻撃で双方が吹き飛ばされて、互いに距離を取って警戒している状態になっていた。

 二人がぶつかり合った場所は衝撃でクレーターができている。


「……コア部分の装甲に重大な損傷」


 また、レーネリアの一撃で機構天使のコアを守る装甲の大部分が破壊されていた。

 なので、次はうまくコアを破壊できそうだった。


「大丈夫か?」


 それはそうと、レーネリアは危険を顧みずに攻撃を仕掛けて、近距離で攻撃を受けていたので、魔法装備のドレスが少々斬られてしまっていた。

 それに伴って、少しではあるが出血もある。


「はい。腕と脚は無事ですので」

「そうか」


 どうやら、戦闘に影響が出ないように腕と脚は守っていたようで、確認するとその部位は無事だった。


「――最大出力で対応。殲滅します」


 機構天使はそろそろマズいと思ったのか、全魔力を解放して仕掛けて来た。


「援護は難しいから、私はサポートに回るわ」

「ああ、頼んだ」


 機構天使の速度を考えると、遠隔攻撃による援護は難しいからな。

 エリサには先程のようにサポートに回ってもらうことにする。


「――斬」


 魔力を解放した機構天使はフードレッドの後方に転移すると、腕を振って斬撃を放った。


「っ……!」


 フードレッドはその一撃でスナイパーライフル型の魔法銃を斬られて、破壊されてしまう。


「――抹殺」


 そして、機構天使はそのまま一気に仕留めようと超速で斬撃を放った。


「俺が相手だ」

「私もいます」

「ボクもいるよ!」

「アタシも行くよ!」


 フードレッドは遠距離タイプで、近接武器は持っていないからな。

 このままだと確実にやられてしまうので、すぐに俺、レーネリア、シオン、アーミラの四人で援護に加わる。


「――旋嵐」


 だが、機構天使は自身を中心に風の斬撃を発生させることで、それに対抗して来た。


「少々強引にでもやるしかないか」


 竜巻を纏っているかのような状態で、接近するだけでも身体が斬り裂かれてしまうだろうが、このまま黙って見ているわけにもいかないからな。

 少し無理することにはなるが、援護に加わることにする。


「――斬る。……ぐっ……」


 魔力強化による防御では防ぎ切ることができず、身体を斬り裂かれてしまうが、止めるわけにはいかないので、そのまま攻撃を続ける。


「――対象の抹殺を優先」


 しかし、機構天使は一人ずつ確実に始末していくつもりなのか、そのままフードレッドから攻撃対象を変えることは無かった。


「あたしのことは気にするな! ぐっ……」


 フードレッドは何とか攻撃を捌こうとするが、機構天使との性能差は決して覆ることが無いほどに圧倒的だった。

 彼女は一方的に攻撃を受けて、壊れそうなほどに身体がボロボロになる。


「私が守ります」


 だが、ここでスノーホワイトが無理矢理フードレッドと機構天使の間に割って入った。


「――対象の抹殺は困難と判断。目の前の対象を優先します」


 機構天使はスノーホワイトに邪魔されてフードレッドを倒すことは難しいと思ったのか、攻撃対象をスノーホワイトに切り替えた。

 そのまま魔力の刃を振り回して、スノーホワイトに集中的に攻撃を浴びせる。


「フードレッドは下がれ!」


 フードレッドはもう戦えそうにないからな。彼女はもう下がらせてしまうことにした。


「分かった。任せたぞ」


 指示を受けたフードレッドは素早く下がって、そのまま撤退する。


「――対象の戦闘からの離脱を確認。優先対象から外します」


 戦闘から離脱して脅威にならないと判断したのか、機構天使がそれを追撃することは無かった。

 機構天使は攻撃対象を変えずにそのままスノーホワイトに攻撃をし続ける。


「――転移」


 と、ここで機構天使は囲まれている状況は不利だと判断したのか、空間転移して一旦仕切り直そうとして来た。


「――状況が好転すると思ったか?」


 だが、空間転移して状況を抜け出しても、また同じ状況になるだけだ。

 俺達はレーネリアを最前にして接近して、先程と同じような状況に持ち込みにいく。


「――対象を変更」


 ここで機構天使は孤立していたエリサの後方に転移すると、そのまま魔力で形成した爪で攻撃を仕掛けた。


「――読み通りね」


 しかし、その動きは想定内のものだった。

 エリサが構えておいた術式を起動すると、足元に展開された魔法陣から闇魔法による黒い影のような物が出現して、先程と同じように機構天使に絡み付いた。


「――虚風、嵐撃」


 機構天使は空間魔法が封じられているのか、エリサに向けて魔力の斬撃を放って攻撃する。


「くっ……」


 その攻撃は非常に激しく、隙間もほとんど無いほどに斬撃の数が多かった。

 見たところ、全魔力をその攻撃に集中させているようで、威力に関しても非常に高い。


 エリサは魔力を魔力強化の方に回しているが、それでも防ぎ切ることができずに、体中を斬られてしまって鮮血が舞う。


「エリサ!」

「私のことは良いわ! あなたとシオンは準備をしておきなさい!」

「分かった。シオン!」

「分かったよ!」


 その一言で俺の意図を察したシオンはすぐにこちらに駆け寄って来る。


「行きます」

「はっ……」

「アタシも行くよ!」


 スノーホワイト、レーネリア、アーミラの三人も意図を察すると、斬撃にも臆せずに機構天使に突っ込んで攻撃を仕掛けた。


「はっ……」

「っ……はぁっ!」

「っええぇぇい!」


 三人は斬撃で体中を斬られるが、攻撃の手は緩めない。

 激しい斬撃の中で攻撃を続けて、機構天使の注意を引き付ける。


「シオン、やるぞ」

「うん!」


 合流した俺達は『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』を呼び出すために集中を始める。


「くっ……アーミラ!」

「分かってるよ」


 ここでエリサは拘束を維持し切れなくなるが、アーミラが血で檻を形成して拘束を維持する。


(向こうのことは信じて任せるか)


 向こうのことは任せるしか無さそうだからな。

 俺達は彼女達のことを信じて、自分のすべきことをすることにする。


(焦らず、より深く……)


 失敗は許されないからな。急ぎつつも焦らずに集中して、『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』へのアクセスを試みる。


(……エリュ、行くよ)

(……ああ!)


 そして、精神の奥底で共鳴した俺達は『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』を呼び出した。


「――強大な魔力を検知。対処します」

「させません!」


 『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』を脅威と見た機構天使はこちらに攻撃しようとするが、レーネリアが光魔法で檻を形成してそれを阻止する。


「助かる。後は俺達に任せてくれ」

「分かったわ。全員退きなさい」

「はい」

「分かりました」


 『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』の召喚を確認した四人はすぐにその場を離れる。


「シオン」

「分かってるよ。えいっ!」


 俺達は『機構擬神の劫臘廻路マキナチェイン』で増幅した魔力で光属性の魔力の鎖を形成して、それを使って機構天使を拘束する。


「これで――」

「終わりだよ!」


 そして、火属性と光属性の複合属性の魔力で槍状の物を形成して、それを機構天使に向けて飛ばした。

 それによって、機構天使に極限まで圧縮された魔力による破壊が迫る。


「――魔法の起動に失敗」


 機構天使は俺達の攻撃を防ごうとするが、光の鎖によって魔力を封じられているので、魔法の起動に失敗する。

 そして、そのまま俺達の放った攻撃が着弾して、大爆発と共に辺りが光に包まれた。

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