episode281 機構天使vsアーニャ&レイルーン

「にゃ~。待つにゃ~」


 アーニャはこの状況にも関わらず、呑気に丸まってごろごろしていた。


「そろそろ来るはずよ。準備しなさい」


 レイルーンはアーニャをペットであるかのように撫でながら、優しく準備するように伝える。


「……にゃ!」


 すると、アーニャは耳と尻尾をピンと立てると同時に起き上がって、機構天使が来ると思われる方を向いて構えた。


「私も久々に戦うことにしましょうかね」


 レイルーンはそう言って腰を上げると、アーニャと同じように構える。


「……来たわね。前衛は頼んだわよ」

「にゃ!」


 機構天使が接近していることを感じ取ったレイルーンは前衛をアーニャに任せて、素早く後方に下がる。


「……殲滅対象を発見。殲滅します」


 そして、陣形を整えたところで、機構天使が飛んで来た。


「にゃ!」


 その姿を確認したアーニャは風魔法を使って跳んで接近して、先制攻撃を仕掛ける。


「――迎撃……!?」


 機構天使はアーニャの一撃を受け止めるが、想定以上の威力があったからなのか、勢いを殺し切れずに吹き飛ばされてしまった。


「にゃにゃ!」


 アーニャはすぐにそれを追って、追撃を仕掛ける。


「私も行きましょうかね」


 レイルーンは魔法陣を展開して、アーニャに合わせて攻撃を仕掛けた。

 魔法陣から放たれた竜のような形状をした炎が機構天使に迫る。


「――回避」


 機構天使は空間魔法で転移して、それを回避しようとする。


「にゃ!」

「それで逃げられると思わないことね」


 だが、それで避けられるほど二人は甘くない。

 アーニャは即座に転移先に向かって跳んで接近して、レイルーンが放った魔法はぐにゃりと曲がって、再び機構天使に迫った。


「――切断」


 しかし、機構天使がそれに対して何も対応しないはずもなかった。

 機構天使はすぐに魔力の遠隔斬撃を放って、アーニャを迎撃しながらレイルーンの魔法を打ち消そうとする。


「にゃ!」

「はっ!」


 だが、アーニャは風魔法を使って空中で跳んでそれを躱して、レイルーンの魔法は意思を持っているかのように動いて斬撃を避けた。


「私もやるわよ」


 ここでレイルーンは五つの魔法陣を展開すると、そこから五つの竜のような形状をした魔法を放った。

 それらはそれぞれ氷、雷、風、光、闇の五つの属性になっていて、最初の炎の物と合わせて魔力で形成された竜が六属性揃っていた。


「ここからが本番よ」


 レイルーンは魔力で形成された六つの竜を操って、攻撃を仕掛ける。


「――回避」


 機構天使は高速で飛び交うそれらの竜を空間転移して躱すが、レイルーンの操る魔力の竜はそれを追跡するように転移先に向かって飛んで行く。


「にゃ!」


 さらに、そこにアーニャも加わって、二人は転移による回避を上回る手数で攻撃を仕掛けていた。


「――対応」


 機構天使はアーニャの攻撃を捌きながら魔力の竜を斬って打ち消すが、レイルーンはその度に新たに魔力の竜を形成しているので、その数は減っていない。

 なので、状況は一向に変わらず、一方的な展開が続いていた。


「――離脱」


 ここで機構天使はそんな二人の攻撃から逃れようと、上空に向けて急上昇する。


「展開」


 そして、上方に巨大な魔法陣を展開した。


「にゃ!」


 だが、二人がそれを黙って見ているはずもなく、すぐにアーニャが接近して攻撃を仕掛けた。


「この魔法の真髄、見せてあげるわ」


 レイルーンは魔力で形成された炎の竜と氷の竜を融合させて、冷気を纏った炎を形成する。

 さらに、雷の竜と風の竜を融合させて雷鳴が轟く風を、光の竜と闇の竜を融合させて黒い輝きを放つ光を形成した。


 そして、それらを機構天使に向けて飛ばして攻撃する。


「――殲光」


 ここで魔法の準備が整った機構天使が魔法を起動すると、魔法陣から大量の光属性の魔力で形成された剣が降り注いだ。


「それじゃあ弱いわよ?」


 だが、その威力は高くはないので、レイルーンの魔法には一方的に打ち消されてしまっていた。


「にゃにゃ!」


 加えて、アーニャは超高速で跳び回って、それらを全て回避しながら攻撃していた。

 なので、状況は全く好転していなかった。


「対象を変更」


 このままでは埒が明かないと思ったのか、機構天使はレイルーンに攻撃対象を変更する。


「転移」


 そして、レイルーンの後方に転移して、攻撃を仕掛けようとした。


「――!」


 だが、転移した先にいたのはアーニャだった。


 そう、アーニャは機構天使が転移することを察知して、転移するよりも先にレイルーンの元に移動していたのだ。

 通常であれば、察知したとしてもこれだけ早く移動することはできないはずだが、アーニャにとっては難しいことではなかった。


「――不明」


 しかし、機構天使はそれに対して違和感を覚えた。


 違和感というのは察知が早過ぎたことだ。

 転移先の空間を歪ませることによって発生する魔力を探知することは可能だが、アーニャは明らかに歪みを発生させるよりも早く動いていた。


「にゃ!」


 だが、機構天使にそんなことを考えている時間は無い。

 そのままアーニャは拳に魔力を込めて、コアを狙った一撃を放つ。


「――防御」


 機構天使は咄嗟にそれを腕で受けて防ぐが、その程度では彼女の攻撃は止められない。

 殴った箇所から冷気の爆発が起こって、大きく吹き飛ばされてしまう。


「にゃ!」


 アーニャは吹き飛ばされる速度を上回るスピードで機構天使に接近して、追撃を試みる。


「――再試行」

「にゃ!」


 ここで機構天使はレイルーンの上に転移して攻撃を仕掛けるが、結果は同じだった。

 転移するよりも先にアーニャが先回りして、攻撃を防いで反撃する。


「対象の感覚的な感知能力が異常に高いと推測」


 アーニャはその高すぎる戦闘能力も純粋に脅威だが、一番の脅威は最早異常とすら呼べるレベルの直感だった。

 彼女は非常に直感が優れていて、その未来予知じみた直感によって、術式から何と無く転移先を特定して動いていた。


「――神速」


 それを考慮した上で機構天使が出した方針は、アーニャと打ち合いつつ、隙を見て後方にいるレイルーンを狙うというものだった。

 そのまま腕に魔力の刃を形成して、アーニャに接近戦を仕掛ける。


「にゃにゃにゃにゃにゃ!」


 アーニャは拳での突きと蹴りで、正面からそれと打ち合う。


「――抹殺」

「にゃ!」


 機構天使は隙を見てレイルーンを狙って光魔法で攻撃するが、アーニャの蹴りで打ち消されてしまう。


「私もやるわ」


 ここで準備が整ったレイルーンは大量の魔法陣を展開すると、そこから魔力で形成された竜のような形状をした魔法弾を放った。

 放たれた魔法弾は上空で融合して、強力な魔法となって降り注ぐ。


「ちょっと離れておくわね」


 そして、魔法を放った彼女は別次元の空間に転移した。


「転移先の次元の特定を開始――」

「にゃっ!」

「――優先対象の排除は困難と判断。目的を変更」


 機構天使はすぐに移動先の次元を特定して引き摺り出そうとするが、アーニャの相手をしながらそれをする余裕は無かった。

 なので、先にアーニャを始末する方向に方針を切り換えた。


「にゃ!」

「――!」


 二人はそのまま打ち合うが、機構天使はアーニャの強撃を受けて一瞬バランスを崩す。


「にゃぁっ!」

「っ――!」


 そして、アーニャはその隙を突いて拳で突くと、冷気を伴った爆発が発生して、機構天使を吹き飛ばした。

 地面には扇状に破壊の跡ができて、その威力は岩を跡形も無く消し飛ばすほどのものだったが、機構天使は持ち前の耐久力で何とか耐える。


「――損傷」


 だが、流石に機構天使の耐久力を以てしても無傷とはいかなかった。

 その一撃を受けて、機構天使の全身に少しだけ罅が入る。


「――回避」


 ここでその様子を見てか、レイルーンの放った魔法が一斉に機構天使の方に向けて軌道を変えた。

 それを受けて、機構天使は着弾する直前に空間魔法で転移して、それを回避する。


「――撃墜」


 魔法弾が着弾して爆発が起こるが、着弾したのは直前まで迫っていた数発だけで、残った魔法弾は再び軌道を変えて機構天使を追跡していた。

 機構天使は魔法と斬撃で残った魔法弾を打ち消していく。


「追加しておくわね」


 ここでレイルーンが現れて、減った分の補充だと言わんばかりに竜のような形状をした魔法弾を放つと、再び別次元の空間に退避した。


「撃墜完了。次弾が来る前に対象を抹殺します」


 魔法弾を全て打ち消した機構天使は、先程追加された魔法弾が降って来る前にアーニャを始末しようと、一気に接近して攻め立てようとする。


「そろそろ行くにゃー」


 だが、ここでアーニャは自身に魔力を集約させると、全身にとげとげしい氷を纏った。


「……対象の魔力の膨張を検知。警戒します」


 それによって、先程よりも明らかに魔力が強くなっていて、相手するに当たって警戒を強める必要があった。

 また、その見た目は獣が毛を逆立てて警戒しているかのような感じで、その目には獲物として捉えた機構天使を映している。


「……にゃ!」

「――!」


 そして、アーニャは瞬間移動かと見紛うほどの速度で接近すると、そのまま形成した氷の爪で攻撃を仕掛けた。

 氷の爪を振るう度に強烈な冷気の爆発が発生して、徐々に機構天使は追い詰められていく。


「――継続的な戦闘は困難」


 その爆発の威力は非常に高く、機構天使の耐久力でも耐え切ることができないほどの威力だった。

 なので、このまま戦い続けると、いずれ押し負けることは火を見るよりも明らかだった。


「――反攻」


 そう判断した機構天使は素早く距離を取ると、魔力を集約させて強力な一撃を準備する。


「にゃにゃにゃにゃ!」


 もちろん、アーニャはその隙を見逃したりはしない。

 すぐに接近して、目にも留まらぬ速度で連撃を放つ。


「――対応」


 機構天使はその攻撃に対応するが、強力な一撃の準備のためにリソースを割いているので、彼女の攻撃を防ぎ切ることはできなかった。

 何度も攻撃を受けて、着実に削られていく。


「――準備完了」


 だが、その甲斐もあってか、無事に攻撃の準備を整えることができていた。


「――封印」


 そして、その魔法を起動すると、直径三百メートル近い大きさの結界が展開された。


 さらに、その結界は段々と収縮し始めて、直径五メートルほどの大きさになってアーニャを閉じ込める。

 もちろん、結界内には機構天使自身もいたが、彼女は結界をすり抜けて外に出ていた。


 また、これだけ大きい結界を展開する必要は無いように思えるが、アーニャが相手だと話は別だ。

 彼女が相手だと、狭い範囲の結界では展開する前に逃げられてしまうので、これだけ大きな結界を展開する必要があった。


 尤も、この大きさでも結界外に出るまでには一秒も掛からないので、その程度の時間しか稼げないが、結界の展開に必要な魔力を考えると、これ以上大きくはできない。


 結果的には閉じ込めることに成功したが、失敗していれば痛手になっていたことに違いは無かった。


「にゃ!」


 アーニャは結界を破壊しようと爪で結界を斬るが、非常に強固で一撃では破壊できなかった。


「――終獄、天滅」


 直後、機構天使は準備しておいた魔法を起動すると、光属性と闇属性の複合属性の魔法である黒い光が放たれた。

 アーニャはその光に包まれて、黒に塗り潰されて姿を消す。


 さらに、着弾点では大爆発が起こって、砕けた地面が巻き上がった。


「……それだけの一撃となると、反動で少しの間は動けないでしょうね」


 その様子を見て上空に現れたレイルーンは、魔力で形成された竜のような形状をした魔法弾を全て集約させる。


「これで終わりよ」


 そして、全てを集約させて、極限まで魔力が圧縮された光を放った。


「――防御……!」


 機構天使はそれを躱そうとするが、あれだけの攻撃を放った直後なので、魔力の出力が間に合わずに動くことができなかった。

 だが、そのまま受けるわけにもいかないので、何とかそれを防ごうと出力できるだけの魔力を使って魔力障壁を展開する。


「無駄よ」


 しかし、その程度で元Sランク冒険者であるレイルーンの攻撃を防げるはずもなかった。

 魔力障壁はあっさりと砕けて、光に包まれた機構天使はその身体が砕けていく。


「……やっと終わったわね」


 着地して機構天使の活動が停止したことを確認したレイルーンは、そう言って息をく。


「跡形も無く消し飛ぶと思っていたけど、残骸は残ったわね。流石は機構天使といったところかしら」


 彼女の放った一撃は巨大なクレーターができるほどのものだったが、それでも機構天使は完全には消滅しておらず、残骸が残されていた。


「にゃーーーっ!」


 と、そんなことを思っていたところで、アーニャが落下して来た。


「アーニャ、大丈夫?」

「大丈夫にゃ~」


 彼女は機構天使の攻撃に直撃したように見えたが、目にも留まらぬほどの連続攻撃で冷気の爆発を起こして相殺していたので、何とか無事だった。


「疲れたにゃぁ……」


 アーニャは先程の戦闘で疲れたのか、そう言ってレイルーンの背中に飛び乗る。


「それだけ勢い良く飛び乗れるぐらいなら大丈夫だと思うけど……まあ良いわ。機構天使の残骸を回収したら行くわよ」

「分かったにゃ!」


 そして、無事に討伐を終えたアーニャとレイルーンは、機構天使の残骸を回収してから他のメンバーの元に向かったのだった。

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