episode280 機構天使との決戦、開始!

 翌日、しっかりと休息を取った俺達は七手に別れて待機していた。


「……そろそろ良いかしら?」


 数分ほど待機したところで、エリサは通信用の魔法道具を使って全員に確認を取る。


「……分かったわ。それじゃあこれから例のクリスタルを起動するわね」


 どうやら、全員準備は整ったようで、これから機構天使を解放するつもりのようだ。


「大丈夫なのか?」


 通信を切ったところで、俺はエリサにそんな確認を取る。

 直接起動するとなると、解放された機構天使に真っ先に狙われる可能性が高く、かなりの危険が伴うからな。

 その点は大丈夫なのか聞いておくことにする。


「遠隔で起動するから、大丈夫よ」

「そうか」


 それなら七体に一斉に狙われることはないだろうからな。特に問題は無いか。


「それじゃあ行くわよ?」


 そして、話が済んだところで、エリサは例のクリスタルを起動した。


「全員構えなさい」

「分かっている」


 エリサに言われたところで、俺達は戦闘に備えて構える。


「……本当にこれで大丈夫なのか?」

「ええ。機構天使は基本的に単独で動くし、殲滅対象が複数か所にいる場合は個別に対応するはずよ」

「そうか。……来たな」


 と、そんな話をしていたところで、一体の機構天使がこちらに飛んで来ていた。


「みんな、行くわよ!」

「ああ!」


 そして、機構天使と接敵したところで、戦闘を始めたのだった。






 機構天使が向かったのは他のメンバーのところも同様だった。


「……来たか」


 ヴァルトは機構天使が来たところで、血で爪を形成して構える。


「対象を発見。殲滅し――」

「――砕けろ」


 そして、翼を広げて風を纏うと、超高速で機構天使に接近して爪でコアを突いた。


「――っ!」


 機構天使は準備が整っていなかったからなのか、その一撃を躱すことができずに直撃してしまった。

 それによって機構天使は大きく吹き飛ばされる。


「出力最大で対応。抹殺します」


 その一撃で抹殺対象ヴァルトが全力で対応すべき敵だと判断した機構天使は即座に魔力を解放する。


「できるのか?」


 ヴァルトは空間魔法で機構天使の後方に転移して、そのまま追撃を仕掛ける。


「――対処」


 だが、その一撃は展開された魔力障壁によって防がれてしまった。

 さらに、機構天使は空間魔法で転移して距離を取ると、魔法陣を展開して反撃を仕掛けて来る。


「速いと言えば速いが、我には及ばんな」


 ヴァルトはそれらの魔法を躱しながら接近すると、血で大剣を形成して機構天使に斬り掛かった。


「――斬」


 それに対して機構天使は魔力で形成した刃をぶつけて、それを打ち消そうとする。


「――!?」


 だが、その刃は大剣をすり抜けてしまった。

 その結果、ヴァルトが放った大剣での一撃に直撃してしまう。


「流石にこれには気付かなかったようだな」


 もちろん、これはヴァルトが仕掛けたものだ。

 彼は刃がぶつかり合う部分だけを液体化させることで、攻撃をすり抜けさせていた。


「相変わらず硬いな」


 しかし、直撃したとは言っても、硬い装甲がある肩の部分だったので、全く効いていないようだった。


「――斬」


 ここで機構天使は腕を水平に振って、視界を真っ二つにするかのような遠隔斬撃を放つ。


「受けてやろう」


 ヴァルトは避けるという選択肢もあったが、敢えてそれを正面から受けることにした。

 魔法陣を展開して、そこから放った黒い斬撃をそれにぶつける。


「はっ……」


 さらに、斬撃がぶつかり合っているところに近付いて、血で形成した大剣で直接追加の斬撃を加えた。

 それによって、機構天使が放った斬撃は完全に打ち消される。


「――殲滅」


 だが、斬撃一つが打ち消されたところで何の問題も無い。

 そう言わんばかりに空間魔法で上方に転移して、巨大な魔法陣を展開した。


「我に魔法で挑むか。……受けてやろう」


 ヴァルトはそれに対抗するように巨大な魔法陣を展開する。


「はっ……」

「――天罪」


 そして、双方同時に魔法陣を起動して、それぞれの魔法陣から大量の光弾と闇弾が放たれた。


「――壊」


 機構天使は魔法弾が飛び交う中でヴァルトに接近して攻撃を仕掛ける。


「その程度で我に勝てるとでも思ったか?」


 だが、それに対してヴァルトは接近すら許さないと言わんばかりに、無数の魔力の斬撃を放った。


「――転移」


 しかし、当然その程度では機構天使の接近は止められない。

 機構天使は空間魔法を使って転移して、一気に距離を詰める。


「はっ……」


 だが、その動きはヴァルトにとっては想定内の動きだ。

 彼は転移直後を狙って、血で形成した六つの刃を使って機構天使を挟み込む。


「――転移、不可」


 機構天使は空間魔法を使って拘束から逃げ出そうとしたが、空間転移を封じる術式が仕込まれていたので、それもできなかった。


「一気に終わらせてやろう」


 ここでヴァルトはすかさずに魔力と血で槍状の物を形成して、それを機構天使のコアに向けて放つ。


「――対抗」


 動くことができない機構天使は魔力の槍をぶつけることで、相殺を試みる。


「その程度か?」


 だが、ヴァルトが万全の状態で放った一撃を打ち消せるはずも無く、押し切られて攻撃がコアに直撃してしまった。


「……コアの破壊はできなかったか」


 押し切ることができたので相殺はされなかったが、威力を減衰させられてしまったので、コアの破壊にまでは至らなかった。


「――破壊」


 ここで機構天使は自身を中心に光魔法を放って、拘束していた刃を破壊する。


「……さて、あまり時間を掛けて文句を言われても面倒し、そろそろ片付けるか」


 そう言ってヴァルトは血で装甲を形成すると、それを全身に装備した。


「――抹殺します」


 機構天使もここで終わらせると言わんばかりに魔力を纏う。


「ふっ……」

「滅殺」


 そして、二人は同時に飛び出して、魔力で形成した刃による斬撃をぶつけ合った。

 それによって魔力の衝撃波が発生して、周囲の空気がびりっと震える。


「まだ行くぞ?」


 ここでヴァルトは血で大量の剣を形成すると、それを操作して無数の斬撃を放つ。


「はっ……」

「――対抗」


 そして、そのまま空間魔法を使っての転移も織り交ぜた斬撃の応酬になった。

 それぞれの魔力で形成した刃がぶつかり合って、血で形成された赤い剣が乱舞する。


 その速度は一般人には視認できないほどの速度で、残像が発生していた。

 最早、本体よりも残像の方が多いレベルで、さらに攻撃がぶつかり合ったところからは火花のような物も発生している。


「――そこだ」


 ここでヴァルトは一瞬の隙を突いて、手に持っていた血で形成した剣に魔力を込めて、コアに向けて突きを放つ。


「――防御」


 しかし、その一撃は魔力でコアを覆うことで防がれてしまった。


「――転移」


 機構天使は空間魔法で転移して、距離を取って仕切り直そうとする。


「甘いな」


 だが、ここでヴァルトは転移先に向けて手に持っていた剣を投げた。


「――!」


 投げた剣は転移直後の機構天使に命中して、コア付近に突き刺さる。

 すると、その直後に剣から魔法陣が展開された。


「討つ」


 さらに、指をパチンと鳴らすと、宙を舞っていた剣が一斉に機構天使の方を向いた。


「――転移、不可」


 機構天使は相変わらず空間魔法で転移して事態の解決を図るが、転移術式が不発に終わってしまった。


 もちろん、その原因は剣から展開された魔法陣だ。

 これは周辺の空間状態を固定させることで空間を歪ませることができないようにして、空間魔法を封じるというものだ。


 そのため、術式自体は起動したが、空間を歪ませることができずに転移に失敗したのだ。


「無駄だ。諦めろ」


 そして、ヴァルトがそう言うと、剣が一斉に機構天使に向けて飛んで行った。


「――防御」


 機構天使は仕方無く魔力障壁を展開して、それを防ごうとする。

 すると、その障壁に剣が突き刺さって、その攻撃は防がれた。


「そろそろ決着と行こうか?」


 ここでヴァルトがそう言って腕をばっと振ると、剣が溶けるようにして変形を始めて、それらが融合して檻を形成した。


「――破壊」

「終わりだ」


 機構天使は檻を破壊しようとするが、既にそれは手遅れだった。

 ヴァルトはその間に三十メートル近い長さの巨大な大剣を血で形成して、それを振り下ろす。


「――防御」


 それを受けて機構天使は方針を防御に切り換えて、より強力な魔力障壁を展開する。


「無駄だ」


 だが、Sランククラスの実力があるヴァルトの全力の一撃をその程度の魔力障壁で防げるはずも無かった。


 込められるだけの魔力を込めて大剣を振り下ろしたことで、空間ごと切断するかのような強烈な斬撃が放たれて、魔力障壁ごと機構天使を真っ二つにする。

 機構天使は神々によって戦闘用に創られた存在なので非常に硬いが、彼はそれをあっさりと斬り裂いていた。


 さらに、その余波で地割れが発生して、衝撃波と爆風が周囲に拡散される。


「……終わったか」


 ヴァルトは機構天使が完全に停止したことを確認したところで、血で形成された物を回収して警戒を解く。


「相変わらずの戦闘能力だが、我には及ばんな」


 機構天使は非常に高い戦闘能力を持っているが、それでも彼には及ばなかった。


「……他のメンバーの様子も見に行くか」


 場合によっては加勢が必要になるかもしれないので、機構天使の残骸の回収が終わり次第、他のメンバーのところに向かうことにした。


「……では、行くか」


 そして、無事に機構天使の残骸を回収できたところで、まだ戦闘をしていると思われるメンバーに合流しに向かったのだった。

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