episode279 断界

 光が晴れると、俺達はどこかの遺跡の中にいた。


「転移には成功したようだな」


 遺跡の中だからなのか、先程と似たような景色ではあるが、内装が異なっているからな。

 どうやら、転移には無事に成功したらしい。


「ここが断界?」

「ええ、そうよ。外に出てみたら分かるわ」

「分かったよ。それじゃあ行く?」

「そうね。とりあえず、フィルレーネが前に出なさい」

「……分かった」


 フィルレーネは珍しく素直に指示に従って、俺達の先頭に立つ。


「行くにゃー」


 その様子を見たアーニャも一緒に先頭に立つ。


「それじゃあ行きましょうか」

「そうだな」


 そして、軽く陣形を整えたところで、俺達は遺跡を出た。


「ここが断界か……」


 外に出ると、そこには見渡す限りの荒野とくすんだ空が広がっていた。

 あちこちに陸や水晶のような物が浮いていて、神秘的な印象を受ける。


 また、くすんで紫色になっている空には黒く輝く天体のような物があり、その空の色と相まってどこか不気味だ。


「何て言うか……終末を迎えたって感じだね」

「そうだな」


 そこからは終末感が漂っていて、かつての時代が終わったことがはっきりと伝わって来た。


「まああながち間違いじゃないわね」

「ところで、機構天使はどこにいるんだ?」

「それはまだ確実なことは言えないわ。何度か調査に来たことはあるから、ある程度場所は絞れているけど、確実にいる場所は分からないわね」

「そうか……」


 となると、あまり当ては無いが探し回ってみるしかないか。


「それで、どこから探すんだ?」

「とりあえず、北の方から探すわ。危険だから全員で固まって動くわよ。スノーホワイトとフードレッドを呼び出しておいてくれるかしら?」

「分かった」


 エリサに言われたところで、俺は空間魔法を使ってスノーホワイトとフードレッドを呼び出す。


「……指示をお願いします」

「出番か?」

「機構天使の捜索に出発する。基本的に戦闘は他のメンバーで対応するが、機構天使に遭遇したときのことを考えて、いつでも戦えるように準備はしておいてくれ」


 今回は他に戦えるメンバーがいるからな。

 機構天使以外の敵は他のメンバーに任せて、彼女達には機構天使戦に備えておいてもらうことにする。


「分かりました」

「分かった」

「ではエリサ、指示は頼んだぞ」

「分かったわ。それじゃあこのままの陣形を保って進むわよ」


 そして、全員の準備が整ったところで、移動を始めたのだった。






「……景色が変わらないな」


 それからしばらく移動を続けていたが、変わり映えのしない景色が続いていた。


「断界はどこもこんなものよ」

「迷子になりそうだね」

「そうだな」


 シオンの言うように、似たような景色が続いているので、気を付けておかないと迷子になってしまいそうだった。


「そうならないようにちゃんと案内してあげるわ」

「一応、自分で戻れるように覚えてはいるが、まあ万一忘れたときには頼んだ」

「敵にゃ!」


 と、そんな話をしてると、アーニャが耳をピンと立てて、視線で前方を指し示していた。


「アーニャ、フィルレーネ、頼んだわよ」

「分かったにゃ!」

「……うん」


 指示を受けた二人は速度を上げて先行する。


(……見てみるか)


 ここで俺は望遠鏡を取り出して、前方を確認する。


(あれは……蜥蜴とかげか)


 前方を確認してみると、そこには体長が五メートルほどの蜥蜴の魔物がいた。

 その魔物は体中から鉱石のような物が生えていて、かなりとげとげしい見た目をしている。


「……!」


 と、ここでアーニャとフィルレーネの接近に気付いた蜥蜴の魔物は、生えている鉱石のような物を輝かせた。


「っ!?」


 すると、光に包まれた範囲が爆砕されて、砕けた地面や浮いていた水晶のような物が周囲に飛び散った。


「……防ぎます」


 スノーホワイトはすぐに氷魔法で氷壁を展開して、こちらまで飛んで来た破片を防ぐ。


「にゃ!」


 光が晴れた直後、上空に跳んで避けていたアーニャは急降下して、蜥蜴の魔物に攻撃を仕掛けた。


「……にゃ!」

「……!?」


 蜥蜴の魔物は目にも留まらぬほどの速度で這って移動して回避しようとしたが、アーニャは移動先に向けて軌道を変えて攻撃を直撃させた。

 氷属性と風属性の魔力を込めた一撃によってとげとげした氷塊が発生して、それと同時に強烈な衝撃波が発生する。


「っ!」


 その衝撃波はこちらにまで届いて、スノーホワイトが張った氷壁に罅を入れた。


「……!」


 だが、魔物はまだ倒れてはいない。大きなクレーターができるほどの威力だったが、生えている鉱石のような物が少し剥がされる程度に留まった。


(あれでも余裕で耐えるのか)


 あれほどの威力であれば、跡形も無く消し飛んでもおかしくはなかったが、蜥蜴の魔物は余裕でそれに耐えていた。


「……!」


 魔物は最初のように鉱石のような物を輝かせて、それと同時に大量の魔法陣を展開する。


「にゃ!」


 それを見たアーニャは大きく跳んで、すぐにその場から離れた。

 その直後、魔物の周囲は強烈な光に包まれて、魔法陣から光弾が放たれる。


「……貫く」


 ここでフィルレーネは風魔法を使って風を纏うと、光弾の隙間を抜けながら急降下して光の中に突っ込んだ。


「っと……」


 その一撃によって最初にアーニャが放った一撃以上の衝撃が発生して、離れている俺達までもが吹き飛ばされそうになる。


「……終わった」


 光が晴れると、その中心にはフィルレーネが魔物の死体の上に立っていた。

 魔物は彼女の一撃によって真っ二つになっていて、もうぴくりとも動かない。


「……エリサ、ここにいる魔物はどれもこのレベルなのか?」

「ええ、大体こんなものよ」

「そうか」


 どうやら、あの魔物が特別強かったわけではなく、断界の魔物はこのぐらいの強さが普通なようだ。


「見ての通り、ここは強い魔力が漂っているから、それに影響されて魔物も強くなっているわ。まあ今回は他のメンバーがいるから、そこまで気にしなくて良いわ。戦闘に巻き込まれないようにだけ気を付けておきなさい」

「分かった」


 エリサの言うように、今回は戦闘は他のメンバーに任せておけば良いからな。

 戦闘に巻き込まれるだけでもかなりの被害を被るので、それにだけは気を付けておくことにする。


「……回収、終わった」


 と、そんな話をしている間に魔物の死体の回収を終えたフィルレーネとアーニャが戻って来ていた。


「それじゃあ行きましょうか」

「そうだな」


 そして、無事に魔物の討伐を終えた俺達は移動を再開したのだった。






 それから十時間ほど移動を続けた俺達は岩場に洞穴を見付けて、そこで休憩をしていた。


「悪いな。何もしていなくて」

「初めからあなた達は戦わない予定だったし、問題無いわ。機構天使戦に備えておくだけで良いわよ」

「そうか。ところで、この後はどうするんだ?」

「この辺りなら安全そうだし、今日はこのままここで休むわ」

「ふむ……言われてみれば、時間的にはもう休んだ方が良いか」


 空がずっと変わらないので分かりにくいが、時間的にはもう夜に差し掛かるぐらいの時刻だからな。

 エリサが言うように、今日はもうこのまま休んでしまうのが良さそうだった。


「見張りはどうする?」

「見張りの方もあなた達の出番は無いわ。話はこちらで付けておくから、もう休んでいて良いわよ」


 そして、それだけ言い残すと、エリサはルミナ達が集まっている入口付近に向かった。


「……この調子だと、どのぐらい時間が掛かるのか分からないな。アーミラ、以前調査に来たときはどんな感じだったんだ?」

「南方面を調査したけど、特に何も見付からなかったよ」

「そうか」

「まあ当てはあるし、今回こそは見付かると思うよ」

「そうだと良いがな。……とりあえず、今日はもう休むか」

「だね」


 そして、戦闘に参加しないメンバーは見張りを他のメンバーに任せて、俺達はそのまま休んだのだった。






 俺達が断界に入ってから五日ほどが経過した。

 あれから移動を続けているが、ひたすら荒野が続いているだけで、特に変化は見られない。

 一応、時折遺跡のような物は見掛けるが、それ以外には特に何も見当たらない。


「何と言うか……変化が無いな」

「だね」

「……止まってくれるかしら?」


 と、そんな話をしていると、エリサが全員のことを静止して来た。


「どうした?」

「この先に候補となる場所があるから、慎重に進むわよ」


 どうやら、この先に候補となっている場所があるらしい。


「そうか。少し見てみよう」


 ここで俺は望遠鏡を取り出して、前方を確認する。


「……あれか?」


 確認すると、そこには黒いクリスタルのような物が浮いていた。

 そのクリスタルのような物は十メートルほどの高さがあり、文字のような物が刻まれている。


「ええ、そうよ」

「あれは何なんだ?」

「正確には分かっていないわ」

「分かっていない?」

「ええ。解析し切れなくて、あれが何なのかは正確には分からなかったわ」

「そうか」


 まあ機構天使を含めて神代の物に仕込まれている術式は高度過ぎて中々解析が進まないらしいからな。それも仕方が無いか。


「だが、わざわざここに来たということは、あれに何かがあるというということだろう?」

「そうね。一応、説明しておくと、転移系の術式が仕込まれていると思われるわ」

「ふむ、そうか。それで、どうするんだ?」

「もう一度あれを調査をしてみるわ。何かの拍子に起動してしまうかもしれないから、常に警戒しておいてくれるかしら?」

「分かった」

「それじゃあ行きましょうか」


 そして、軽く説明を受けたところで、そのクリスタルのような物に接近した。


「調査は私とヴァージェスとルミナで行うわ」

「調査をすると言っても、調べれば何か分かるのか? 以前の調査では分からなかったのだろう?」


 既に調査をした上で「よく分からなかった」と結論を出したわけだからな。

 再度調査をしても結果は変わらないように思える。


「今までの調査で得られた情報から新たに分かったこともあるし、解析もより詳しくできるようになったわ。加えて、今回はルミナもいるから、新たに分かることもあるはずよ」

「そうか」


 まあ解析を繰り返したことで精度も上がっているだろうし、ルミナもいるからな。

 少なくとも、以前よりは詳しく解析できるか。


「あなた達は警戒しながら待機しておいてくれるかしら?」

「分かった」


 クリスタルのような物に近付いたところで、三人は調査を始める。


「……で、ボク達はどうする?」

「そう言われても、言われた通りにするしかないだろう。このまま解析が済むのを待つぞ」

「分かったよ」


 今は俺達にできることは何も無いからな。

 解析に参加しないメンバーはそのまま解析が終わるのを待つのだった。






 それから数時間の解析の末に何かが分かったらしく、解析が済んだところで俺達は近くにあった遺跡の地下に移動していた。


「それで、何か分かったのか?」


 移動が済んだところで、早速エリサに解析の結果を尋ねる。


「ええ。あれは残りの七体の機構天使が封印されている物だと思われるわ」

「機構天使が封印されている物?」

「まあそれは今から説明するわ」

「分かった」


 聞きたいことは色々とあるが、話を聞けば氷解するかもしれないからな。

 ひとまず、このままエリサの話を聞いてみることにする。


「かつての大戦で機構天使が使われたわけだけど、創られた機構天使が全て使われたわけじゃないらしいわ」

「と言うと?」

「詳しいことは分かっていないけど、機構天使は必要に応じて戦力として投入されていたらしいから、戦争に投入されないまま残っていた個体だと思われるわ」

「なるほどな」


 まあそれなら封印された状態で残っているのにも納得だな。


「それで、何故残りの七体の機構天使が封印されていると分かったんだ?」

「それは遺跡に残された記録から、複数体の機構天使を封印している物があるっていう記録が見付かったからよ」

「それがあれだと?」

「ええ、そうよ。あれは別次元の空間にアクセスして、封印されているものを召喚するための物みたいだったから、間違い無いと思うわ」

「そうか」


 どうやら、根拠は色々とあるらしく、あのクリスタルのような物に残った七体の機構天使が封印されている可能性が高いらしい。


「と言うことで、ここで一泊してから決戦にしたいと思うのだけど、それで良いかしら?」

「ああ、構わないぞ」

「ええ、良いわよ」


 万全の状態で挑みたいからな。ここは一度休憩してから決戦に挑むことにする。


「それじゃあ今までと同じように見張りをして、明日決戦と行きましょうか」

「そうだな。では、泊まる準備をするか」


 そして、方針が決まったところで、全員で準備を始めた。


「……いよいよか」


 断界に入る前にも思っていたことだが、それが目の前に迫って来たことで、その思いはより強くなっていた。


「そうだね」

「あら、不安なのかしら?」


 ここでその様子を見たルミナがそんなことを聞いて来る。


「……いや、そういうわけではない。もうすぐ決戦だと考えると、色々と思うところがあっただけだ」

「そう。それなら良いわ」


 それを聞いて安心したのか、ルミナはそれだけ言って自分の方の作業に戻って行った。


「まああれこれ考えるだけ無駄か」


 考えたところで何も変わらないからな。思考を切り上げて、さっさと泊まる準備を整えることにした。


「こんなところか」

「だね。それじゃあ今日はもう休もうか」


 そして、泊まる準備が整ったところで、その日は決戦に備えてゆっくりと休んだのだった。

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