episode278 断界への出発
それから一週間が経過して、機構天使の討伐に出発する日になった。
今は討伐に向かうメンバーがルミナの店に集まって、最終確認をしているところだ。
「それにしても、これだけの面々が集まるとはな……」
「そうね」
今集まっているのは俺、シオン、エリサ、アーミラ、レーネリア、ルミナ、エルナ、レイルーン、アーニャで、これだけのメンバーが集まるのは珍しいからな。
この面々が集まるのは後にも先にもこれ限りだと思われた。
「さて、確認するけど、一旦霧の領域の基地に向かって、そこで他の参加メンバーと合流して一泊してから遺跡に向かうわ」
「遺跡?」
「そう言えば、あなた達はそのことを知らなかったわね。説明しておくと、霧の領域の中心付近には断界に転移するために必要な施設がある遺跡があるわ」
どうやら、霧の領域内には遺跡があって、その遺跡内に機構天使が残っている断界に向かうために必要な施設があるらしい。
「そうなのか。それで、何故そんな物が存在しているんだ?」
「神々が
「ふむ、そうか」
そのままエリサに詳細を尋ねてみるが、残念ながら詳しいことまでは分かっていないらしい。
まあ神々のことに関しての記録はあまり残っていないようだからな。それも仕方が無いか。
「そもそも、断界とは一体何なんだ?」
それはそうと、俺達はそもそも断界というもの自体が何なのかをよく分かっていない。
なので、まずはそのことについて聞いてみることにした。
「断界は一言で言うのなら、かつての神域といったところね。元々は神々がいた世界だったけど、神々が滅んだことで強力な魔物が徘徊することになった世界よ」
「神域、か……」
神域と言うとマキナがいたあの空間のことが思い浮かぶが、話を聞いた感じだと、彼女がいたあの場所とは違うように思える。
「ただ、強い魔力が漂う空間だから、魔力の籠った優秀な素材がたくさん採れるわね」
「そうか」
「まあ実際に行って現地を見た方が早いし、断界についての説明はこのぐらいで良いかしら?」
「ああ」
事前に聞いておく必要のあることはもう無さそうだからな。断界について聞くのはこのぐらいにしておくことにする。
「参加メンバーは今ここにいる面々に加えて、フェルメット、リュードラン、フィルレーネ、ヴァージェス、ヴァルト、それとスノーホワイト、フードレッドが参加するわ」
もちろん、討伐に向かうメンバーはこれだけではない。
自律思考型の人型ゴーレムであるスノーホワイトとフードレッドに加えて、霧の領域の基地にいるメンバーの何人かも参加する予定だ。
「残る機構天使は七体よ。一体ずつ撃破していく予定だけど、七体同時に相手することになったときのことも考えて、メンバー分けを決めておくわ」
「分かった。どうするのかは決めてあるのか?」
「ええ。まず、フィルレーネ、フェルメット、ヴァルトは単独で相手してもらう予定よ」
「ふむ……その三人なら問題無いか」
三人とも非常に戦闘能力が高く、単独で行動しても問題無いだろうからな。それには同意できる。
「ルミナとエルナ、リュードランとヴァージェス、レイルーンとアーニャは二人一組で動いてもらうわ。残った一体は残りのメンバーで相手するわよ」
「と言うことは、七人で動くのか?」
残りのメンバーということは、俺、シオン、エリサ、アーミラ、レーネリア、スノーホワイト、フードレッドの七人で動くということになるからな。
ここだけ人数がかなり多くなってしまう。
「戦力的にはそれぐらいでちょうど良いわ」
「まあそれもそうか」
他のメンバーはSランククラスの実力があるのに対して、俺達はそうではないからな。
人数的なバランスは悪いが、戦力的に見れば妥当なところか。
「みんなもそれで良いわね?」
「ええ。……レーネリアのことは任せたわよ」
「分かっているわ。最悪、命に代えてでも守り抜いてみせるから、安心して良いわよ」
「そう言われると、余計に安心できないのだけど?」
自分のことはどうでも良いと言っているように聞こえるからな。
ルミナの言うように、そう言われると安心できなくなってしまう。
「あくまで最悪のケースを想定してのことよ。基本的に死ぬつもりは無いから、安心して良いわ。単に何十年も生きた私よりも、まだ十四歳の彼女の方が未来があるから、優先して生かした方が良いというだけの話よ」
「……いまいち安心できないけど、まあ良いわ。そちらのことは任せたわね」
ルミナは完全に安心してはいないようだが、これ以上話しても仕方が無いと思ったのか、それ以上は言及しなかった。
「ええ、任されたわ。それじゃあそろそろ出発しましょうか」
「そうだな」
確認は昨日の内に済ませておいたし、もう準備は万端だからな。早速、出発することにした。
そして、最終確認を終えた俺達はそれぞれで騎乗用の魔物に乗って、霧の領域の基地へと向かったのだった。
街を出た俺達は霧の領域の基地に向けて一直線に飛行して、無事に基地まで辿り着くことができていた。
道中では何度か魔物と遭遇したが、実力者が揃っていて瞬殺だったので、何の問題も無かった。
「思っていたよりも早かったですね」
基地に入ると、いつものようにフェリエが出迎えてくれた。
「まあこれだけ実力者が揃っているからな。それで、部屋の準備はできているか?」
「はい。部屋は泊まれるように整えておきましたよ」
「では、今日はこのまま各自自由ということで良いか?」
「ええ。それで良いわよ」
準備は既に整っていて、明日になるまで特にすることが無いからな。今日はもう各自で静かに過ごすことにした。
「それでは、それぞれの部屋にご案内致しますので、こちらへどうぞ」
そして、方針が決まったところで、フェリエは俺、シオン、エリサ、アーミラ以外のメンバーを部屋に案内しに行った。
「ボク達はどうする?」
「普通にリビングで過ごしておけば良いのではないか?」
俺達の部屋はいつものところで、確認する必要は無いからな。
このままリビングでのんびりと過ごすことにする。
「それもそうだね」
「エリサとアーミラはどうする?」
「私達もリビングで適当にくつろいでおくわ」
「分かった。では、行くか」
そして、そのままリビングに向かった俺達は就寝の時間までのんびりと過ごしたのだった。
翌日、少し早めに起きた俺達は出発の準備を整えて基地の出入口に集まっていた。
「以前来たときも思いましたが、辺境だとは思えないほどに快適でしたね」
ここで合流して来たエルナがそんなことを言う。
「まあ物資はあるし、フェリエが家事をしてくれているからな」
彼女の言うように人里から隔絶された場所ではあるが、物資は定期的に補給しているし、何よりフェリエがいるからな。
この基地も何だ
「適当に魔物を狩って来れば食料も集まるしね」
また、霧の領域には魔物も多く、アーミラの言うように狩って来れば食料も集まるからな。
まあそれだと集まるのは肉ばかりになるので、結局他の食材を買うために街に行く必要はあるのだが。
「さて、全員集まったわね。それじゃあ行きましょうか」
「そうだな」
そして、全員が集まったところで、遺跡に向けて出発したのだった。
遺跡とやらはそんなに遠くなかったようで、到着まではそんなに時間が掛からなかった。
「着いたわよ」
エリサにそう言われたところでザッハートから降りると、そこには柱だと思われる壊れた機械チックな物があった。
「ふむ……何のための物なのかは分からないが、何と無く神代の物という感じはするな」
見たところ、これらは何かしらの魔法道具のようだが、流石に何のための物なのかまでは分からない。
だが、その見た目から神々の時代の物であることだけは分かった。
「あら、よく分かったわね」
「まあ流石にそのぐらいはな」
「何て言うか……どことなく神秘的な感じがするね」
「……そうだな」
壊れたまま長らく放置されているところを見ると、廃退的なものを感じてしまうが、儚くもかつての時代を象徴するかのように残された残滓はどこか神秘的だった。
「そうね」
「……時代は移り変わる。まあそれだけの話か」
「……かつての時代を完結させて、神々の手から完全に独立する。それがマキナの願い」
と、ここでその話を聞いていたフィルレーネが珍しく口を開いた。
「……そうか」
彼女は機構天使の殲滅に対して特別な想いがあるようだからな。
そのあたりのことに関して言いたいことがあったらしい。
「それで、転移用の装置はどこにあるんだ?」
「地下にあるわ。そこの階段から行けるわよ」
「そうか。では、行くか」
俺達は遺跡を見に来たわけではないからな。魔物に見付かっても面倒なので、俺達はそのままそそくさと地下に向かったのだった。
地下に向かうと、部屋の中心には転移に必要なものだと思われる装置が設置されていた。
中心には魔法陣があって、その周囲にはそれを補助するためだと思われる柱が八本設置されている。
「これが転移用の装置か?」
「ええ、そうよ」
「……ねえ、気になってたんだけど、この装置を作って別の場所から転移するって選択肢は無かったの?」
と、ここでシオンがエリサにそんな疑問をぶつけた。
確かに、彼女の言うように装置を作ることができれば、わざわざここに来る必要も無かった。
まあ作る方が手間なので、作らなかっただけの気もするが。
「それはできないわね。特殊な転移になるし、機構天使と同様に神代の高度な術式が使われていて再現できないから、同じ装置を作ることはできないわ」
「そうなんだ」
そう思ったが、そもそも同じ物を作ることができなかったらしい。
「それに、転移に際して膨大な魔力も必要だから、魔力を集められるこの場所の方が都合が良いわ。だから、仮に装置を作れたとしても、この辺りに来ることに変わりは無かったはずよ」
「そっか」
「話はこのぐらいにして、そろそろ行きましょうか。全員集まってくれるかしら?」
「分かった」
エリサに言われたところで、全員が魔法陣の上に集まる。
「それじゃあ行くわよ?」
そして、全員が集まったことを確認したところでエリサが魔法陣を起動すると、俺達は魔法陣から放たれた眩い光に包まれた。
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