episode282 機構天使vsリュードラン&ヴァージェス
「……来たか」
ヴァージェスは機構天使が解放されて、自分達のところに近付いて来ていることを察知する。
「それが分かっているなら構えろ」
リュードランはそう言いながら素早く前に出ると、武器である大剣を構えた。
「準備ならできている。自分の方の心配だけしておけ」
「そうか。それなら良い」
これまでの付き合いで、ヴァージェスをあまり細かく相手しても仕方が無いということは分かっているので、それ以上は何も言わなかった。
「……生命反応を確認。臨戦態勢に移行します」
と、そんな話をしていると、飛んで来た機構天使の姿が確認できた。
「ワシがやる」
ヴァージェスはそう言って巨大な魔法陣を展開すると、機構天使に向けて闇魔法による黒い光を円錐状に放った。
「損傷軽微。活動に影響無し」
非常に攻撃範囲が広い魔法だったので、完全な戦闘態勢でない機構天使には避けることはできなかった。
だが、その分威力が低かったので、強固な体躯を持つ機構天使にはほとんど効いていなかった。
「……まあ仕方無いか」
とは言え、この距離から攻撃範囲の狭い魔法を使っても避けられるだけなので、攻撃範囲を優先したのは間違いでは無かったと言える。
「敵対の意思を確認。殲滅します」
その一撃で二人が敵であると認識した機構天使は戦闘態勢に移る。
「俺が相手だ」
「――戦闘開始」
そして、リュードランの大剣と機構天使の魔力で形成した刃がぶつかり合った。
「はっ……」
「――斬」
そのまま互いに出せる限りの速度で斬撃を繰り出すと、それぞれの刃がぶつかり合って、その度に魔力の波動が発生する。
「っ……」
だが、大剣を扱っているリュードランよりも、腕に刃を形成して斬撃を放っている機構天使の方が速いので、少し押されてしまっていた。
「ならば……!」
しかし、速度が全てではない。リュードランは駆け引きでそれを補う。
(限界はあるか)
とは言え、機構天使の方が速度が速いことに変わりは無いので、時折、攻撃を掠めてしまっていた。
ただ、その鱗は魔力強化と相まって非常に強固で、ほとんど効いていないので、大きな問題では無かった。
「そろそろ行くか」
ここでヴァージェスは魔法陣から魔力で形成されたオーブを大量に出現させると、それを機構天使に向けて飛ばした。
「――一時離脱」
機構天使は多量に魔力が込められたオーブを警戒してか、リュードランから素早く離れて距離を取る。
「俺も加わるぞ」
ここでリュードランは光魔法を使って光弾を飛ばして、距離を取った機構天使に攻撃を仕掛けた。
「――回避」
機構天使はそれらを回避しようと上に移動すると、真っ直ぐと飛んでいたリュードランの放った光弾はそのまま外れた。
しかし、ヴァージェスの放ったオーブは軌道を変えて、機構天使を追尾した。
「――迎撃」
機構天使はそれを撃ち落とそうと、オーブと同数の魔法弾でそれらを正確に撃ち抜く。
「……ワシの魔法をそんなものでどうにかできると思ったか?」
だが、魔法弾は相殺されることなくすり抜けて、そのまま機構天使に迫った。
「――警戒しつつ回避」
機構天使はオーブを打ち消すことができないと分かったのか、すぐに方針を変更する。
あのオーブは打ち消すことはできないが、速度は大して速くもないので、避け続けることは可能だ。
もちろん、行動を制限されはするが、打ち消せない以上は仕方が無いので、その方針で行くことにした。
「攻撃対象を変更」
機構天使はリュードランよりもヴァージェスの方が厄介であると判断したのか、攻撃対象をヴァージェスに変更する。
「させるか!」
それに気付いたリュードランはすぐに接近して仕掛けた。
「転移――!?」
機構天使は空間魔法を使ってヴァージェスの近くに転移しようとするが、魔法が不発に終わってしまった。
「はっ!」
「――!」
さらに、転移が不発になったことで、リュードランの大振りで振り上げた一撃に直撃してしまった。
大剣を振り抜いた後に光の軌跡ができて、隕石が衝突したかのような衝撃と共に大きく上空に吹き飛ばされる。
「ワシが空間魔法に対する対策をしていないとでも思ったか?」
機構天使の空間魔法が不発に終わったのは、ヴァージェスが対策をしていたからだ。
当然のことではあるが、空間魔法を使って来ることは分かっていたので、事前に対策もしてある。
そう、彼は周囲の次元空間の状態を固定して、歪ませることができないようにすることで、空間転移できないようにしていたのだ。
「――強襲」
機構天使はすぐに体勢を立て直すと、空間魔法を使わずにヴァージェスに接近する。
「無駄だ」
「――!?」
だが、二十メートルほどのところにまで近付いたところで、いきなり結界が展開されて弾き飛ばされてしまった。
「準備の時間はあったからな。色々と仕込ませてもらったぞ」
もちろん、これもヴァージェスが機構天使の封印を解く前に事前に仕掛けていた物だ。
今回使われたのは、一定の距離にまで近付かれると自動で結界を展開する術式だった。
その結界は物理的に接触した相手を弾き飛ばす効果があるので、それによって機構天使は弾き飛ばされていた。
「――っ!?」
さらに、そこに追尾していたオーブが追い付いて、大爆発を起こした。
「やっと掛かったか」
この魔法は指定した対象を追尾して、対象に近付くと爆発を起こす魔法だった。
また、機構天使の魔法がすり抜けたことからも分かるように、この魔法には通常の方法では干渉されない効果もあるので、当たるまで追尾し続けることが可能な、相手からするとかなり厄介な魔法だった。
「俺も行くぞ」
ここでその様子を見たリュードランが素早く接近して、追撃を仕掛ける。
「はっ……!」
「――回避」
リュードランは大剣に込められるだけの魔力を込めて、一文字に振り抜くが、空間魔法で転移して躱されてしまう。
「それで避けたつもりか?」
だが、彼の一撃はそれで終わってはいない。
振り抜いた勢いのまま転移先に向けて大剣を振って、白く輝く光属性の魔力の斬撃を飛ばした。
「――! 防御」
転移直後で回避ができなかった機構天使は、それを腕で受けて防ぐ。
「――損傷、微小」
「それだけで済むと思わないことだな」
リュードランはそのまま距離を詰めると、ここで決めると言わんばかりに大剣を振り回して一気に攻める。
そして、そのままリュードランと機構天使による接近戦が始まった。
「はぁっ!」
「――神速」
リュードランは機構天使が放つ斬撃を必要最低限の動きで捌いて、隙を窺う。
「――そこだ」
ここで機構天使が大振りで振り下ろして来るのを見たリュードランは、その攻撃を大剣を後方に引きながら体を捻って躱して、そのまま大剣での横薙ぎの一撃でカウンターをお見舞いする。
「――!」
その一撃は機構天使のコアを捉えて、装甲に罅を入れた。
「相変わらず硬いな」
だが、最重要の機構であるコアを守る装甲は特に硬く創られているので、装甲に罅を入れる程度に留まった。
「――殲光」
それを見て接近戦が必ずしも有利ではないと思ったのか、機構天使は連続で空間転移をしながら光魔法で攻撃する。
「っ……厄介だな」
リュードランも光魔法を使って反撃しているが、転移の速度が速く、転移先を狙って攻撃しても当たらない。
もちろん、転移先を先読みして攻撃しているが、一秒に何度も転移している機構天使には当たっていなかった。
「全く……こうすれば良いだろう?」
その様子を見ていたヴァージェスは複数の魔法陣を展開すると、そこから魔力で形成された透明なオーブを飛ばす。
すると、それらのオーブはリュードランと機構天使が戦っている場所の近くにまで飛んで行って、爆発を起こした。
「――周囲の次元空間の不安定化を検知。空間転移の座標指定が安定化しないと推測されます」
その魔法は周囲の次元空間を不安定化させることで、空間転移の際の座標指定を安定させないようにするためのものだった。
これによって、座標指定に時間が掛かる分、空間魔法の発動までに必要な時間が増加するので、空間転移を使いづらくすることができる。
「支援助かる。はっ!」
ヴァージェスの支援を受けたリュードランはすぐさま機構天使に接近して、大剣での一撃を見舞う。
「……そろそろ終わらせるか」
ここでヴァージェスは直径百メートル近い巨大な魔法陣を展開すると、その外周に沿うように結界を張った。
「はっ……」
そして、複数の魔法陣によって形成される、複合術式による魔法を構えた。
「――阻止」
だが、明らかに危険なことを察知した機構天使は、それを止めようとヴァージェスに接近しようとする。
「させるか!」
「――排除」
「っ!」
リュードランはそれを止めようとするが、機構天使は自身の周囲を爆破する光魔法を使って、それを無理矢理押し退ける。
その攻撃によって自身にもダメージはあるが、そうしてでも止めなければならないと、機構天使は感付いていた。
「結界があることを忘れたか?」
しかし、そう簡単にヴァージェスに接近することはできない。
機構天使が彼に近付くと、先程と同じように結界が展開された。
「――壊」
だが、機構天使も策も無しに突っ込んではいない。
結界が張られることが分かっていれば、対処することはできる。
機構天使は自身の後方に物理障壁を張って弾き飛ばされないようにすると、そのままヴァージェスの結界に向けて、至近距離で光魔法による爆発を発生させた。
「結界一つを破壊したところで、何も変わらん」
結界は破壊されたが、その程度であれば何の問題も無い。
ヴァージェスは今構えている魔法とは別に魔法陣を展開する。
「砕けろ」
そして、そこからバチバチと弾けんばかりの勢いを見せる、ビーム状の黒い雷を放った。
その雷撃に飲み込まれて、機構天使の姿は黒に塗り潰される。
「――防御」
通常であれば、それを魔力障壁を展開せずに受けることはほぼ不可能で、受けた者を跡形も無く消し飛ばしていただろう。
だが、機構天使となると話は別だ。
機構天使はその史上最強クラスの耐久力でヴァージェスの魔法に耐え切っていた。
「――斬」
かなりのダメージを負いながらも、ヴァージェスの魔法に耐え切った機構天使は、そのまま魔力で形成した刃で彼を斬り裂いた。
「がっ……」
肋骨内にある球体を斬られたヴァージェスは風圧で吹き飛ばされて、着地と共に崩れ落ちる。
「――コアの破壊により対象を抹殺」
ヴァージェスは人の姿を捨てているので、活動には専用の術式を組んだコアが必要だ。
なので、コアを破壊すれば活動を停止させることができる。
そして、そのコアを破壊したので、ヴァージェスの抹殺は無事に完了したこととなった。
「――!?」
だが、ここで前触れも無く結界が急速に収縮を始めて、そのまま機構天使は直径三メートルほどの球状の結界の中に閉じ込められてしまった。
さらに、使用者は倒したはずなのに、複合術式による魔法も止まっていない。
「……それで仕留められたとでも思ったのか?」
ここでヴァージェスはそう言いながらむくりと起き上がる。
「あれがコアだとでも思ったか? 自ら弱点を晒す馬鹿がどこにいる?」
機構天使がコアだと思って破壊した球体はヴァージェスのコアではない。
あの球体は魔法を補助するための物で、コアは別次元の空間に存在している。
なので、魔法の威力などは低下するが、普通に活動することが可能だ。
「では、消えてもらおうか」
そして、ヴァージェスが構えておいた複合術式による魔法を起動すると、魔法陣が輝き始めた。
「破壊――」
「――遅い」
機構天使はそこから脱出しようとするが、もう遅い。
魔法陣から放たれた炎が集約して、極限まで圧縮された炎が白い輝きを放つ。
そして、その炎が結界に閉じ込められていた機構天使を焼き尽くした。
「……終わったか」
戦闘が終わったことを確認したリュードランはヴァージェスの前に着地する。
「相変わらずの威力だな」
先程まで機構天使がいた場所の周辺を見てみると、高温によって地面が溶けて赤熱していた。
あの魔法を見るだけでも高威力なのは分かるが、そのことからも、いかに高威力だったのかを窺うことができる。
「当たり前だ。ワシを誰だと思っている?」
「……最高峰の魔術師、だろう?」
下手なことを言って文句を言われても面倒なので、そう言って適当に持ち上げる。
「分かっているのなら良い」
「では、合流しに向かうか」
そして、何とか機構天使の討伐を終えたリュードランとヴァージェスは、他のメンバーに合流しに向かったのだった。
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