episode276 ルーメインの今後

 オールドルクでの戦いが終わってから三日が経過した。

 戦いがあった直後は街にはかなりの混乱が見られたが、今はもうだいぶ落ち着きを取り戻している。


「それにしても、城に泊めてもらえるなんて思わなかったね」

「そうだな」


 俺達は今回の一件を解決したこともあって、城に泊めてもらっている。

 なので、今はエリサ以外のメンバーが城の一室に集まって話をしているところだった。


「一時はどうなることかと思ったけど、人的被害が無くて良かったね」

「だね」


 アリナの言うように建物への被害はあったが、避難させたおかげで人的被害は無かったからな。

 その点に関しては不幸中の幸いであると言える。


「それに、復興の手配も済んでいるようだし、日常に戻るのにも時間は掛からないだろうな」


 アレリアから現状は聞いているが、復興の手配が済んで、再建が始まっているようだからな。

 街が日常を取り戻すのにもそんなに時間は掛からないと思われた。


「まあ信頼の方はそう簡単には戻らないだろうがな」

「そうですね。失った信頼はそう簡単には戻りませんし、今後どうなるのかが気になりますね」


 今回の一件は国の根幹を揺るがすような大事件だったからな。

 大きく信頼は失ってしまったので、それをどう取り戻していくかが今後の課題になる。


「加えて、フラウロの方が政治面でも優秀だったわけだからな。王族の今後が心配ではあるな」


 フラウロの政策は概ね好評で、王族よりも悪魔の方が優秀だったということを証明してしまったからな。

 それも信頼をより落とす要素になっているので、今後どうなるのかが少々気になるところだ。


「それは大丈夫なんじゃない? アレリア様はすごいやる気になってたし、良くなっていくと思うよ」

「良くなっていく、か……。そんなものは希望的観測でしかないな」

「ちょっと! エリュは国が悪い方に向かうと思ってるの?」

「別にそういうわけではない。だが、現実は厳しいぞ? まあ応援はするがな」


 彼女からは本気で国のことを考えている気概が伝わって来たからな。

 良い方向に向かって欲しいとは思っているが、残念ながら現実はそう甘くはない。


「為政者がアレリアのような者ばかりであるのが理想だが、まあ彼女がそうなのは純粋故か」


 為政者が善人であれば良いが、悪人ばかりなのが実情だからな。

 まあ悪人と言うか、社会の闇に毒された成れの果てかもしれないが、どちらにしても民のことを考えた為政ができる人物ではない。


(フラウロが民に支持を得られるような為政ができたのも、そういったしがらみに囚われていなかったからなのかもしれないな)


 フラウロは金や権力には興味が無かっただろうからな。

 だからこそ、民に支持を得られるような為政ができたとも言える。


 まあ彼には魔力を得て自身を強化するという目的があったので、それを効率良く達成するための手段として良い為政をしただけな気はするが。


「入るわよ」


 と、ここで戻って来たエリサが部屋に入って来た。


「どうだった?」

「最終確認をしたけど、フラウロが設置した物はもう無さそうだったわ」

「そうか」


 エリサは何をしていたのかと言うと、フラウロが設置していた魔法道具が残っていないかどうかの確認をしていた。

 魔法道具の捜索と撤去は昨日の段階で済んでいたが、万一残っていると困るからな。

 今日ワイバスに戻る予定なので、最終確認を行っていたのだ。


「悪いな。魔法道具の捜索を任せて」


 魔法道具の位置は魔力を供給するクリスタルから供給先を特定して見付けたらしいが、エリサに任せ切りだったからな。

 ちゃんと謝意を伝えておくことにする。


「魔法道具自体はすぐに見付けられたし、撤去はあなた達にも手伝ってもらったから問題無いわ」

「それはそうだが、指揮も任せていたからな。今日はゆっくりして良いぞ」


 撤去に関しては俺達も手伝ったが、指揮はエリサに任せていたからな。

 それなりに働いてくれたので、帰りのザッハートの指揮は俺達が担当することにする。


「折角だし、そうさせてもらうわね」

「ああ、そうしてくれ。エリサも出発の準備はできているか?」

「ええ。準備は最終確認の前に済ませておいたから万端よ」

「そうか」

「今よろしいでしょうか?」


 と、エリサと話をしていたところで、その一言と共に扉がノックされた。


「構わないぞ」

「失礼します」


 そして、俺が許可すると、アレリアが部屋に入って来た。


「どうした?」

「今日出発するとのことで、その前にお会いしておこうと思いまして」

「そうか」

「本当にもう行ってしまわれるのですか?」

「ああ。こちらでの用は済んだからな。このまま戻るつもりだぞ」


 俺達がここに来た目的はフェルメットの用事を済ませることだからな。

 彼女の目的であったフラウロは片付いたので、このまま予定通りにワイバスに帰るつもりだ。


「そうですか……」

「……随分と寂しそうだな」


 アレリアは俺達との別れを惜しんでいるようで、少し消沈してしまっていた。


「はい。かなりお世話になりましたので」

「俺はこちらの目的を果たすために保護していただけだ。そこまで畏まる必要は無い」

「そんなに謙遜なさらないでください。私がお世話になったことは事実ですし、とても感謝しています」

「そうだよ、エリュ。捻くれてないで、素直に感謝の言葉を受け取ったらどう?」


 ここでその話を聞いていたアリナが俺に注意して来る。


「別に俺は捻くれてなどいない。事実を述べただけだ」

「それを捻くれてるって言うんだけど? まあ良いや。アレリア様、勿体無きお言葉ありがとうございます」


 アリナは片膝を着いて、主に仕える騎士であるかのような仕草をする。


「……アリナはアレリアに仕えるか? このまま置いて行っても良いぞ?」

「ダメに決まってるでしょ!」

「私としてはそれでも構わないのですが……」

「そんなに俺達のことが気に入ったのか?」

「……ダメですか?」

「いや、別にそんなことは無いぞ」


 俺はアレリアと目線の高さを合わせるように腰を曲げて、彼女の頭を優しく撫でる。


「だが、俺達には俺達の生活があるし、すべきこともあるのでな。悪いな」

「そうですか……」


 ワイバスでの生活もあるし、機構天使の討伐という大きな目的もあるからな。

 いつまでもここにいるわけにはいかないので、彼女が何と言っても予定通りにワイバスに戻るつもりだ。


「まあ人との出会いと別れなんてそんなものだ。そんなに気落ちしないでくれ」

「はい……」

「まあたまには会いに来てやっても良いぞ?」

「本当ですか!?」

「ああ。暇と言えば暇だからな。それぐらいなら構わないぞ」


 遊びに行く暇も無いほどに忙しいわけでもないからな。

 騎乗用の魔物もいて割と気軽に来ることができるので、そのぐらいであれば問題無い。


「分かりました。またお会いできるのを楽しみにしていますね」

「ああ」

「それでは、私はもう行きますね」


 そして、また会えると分かったアレリアは浮き浮きした様子で部屋を出て行った。


「……生きて戻って来る理由ができたわね」

「……初めから死ぬつもりは無い。その理由ができたのはそちらなのではないか?」


 以前の機構天使戦で思ったことだが、エリサはあまり自身の生還に拘っていないようだったからな。

 生きて戻って来る理由ができたのはむしろエリサの方だと言える。


「そうかもしれないわね。でも、今はそこまででもないわよ」

「そうなのか?」

「ええ。あなたと出会ってからは何かと楽しめているし、元々死ぬつもりも無いわ。まあそこまで生きることに執着していないのも事実だけど」

「ならば、ちょうど良かったのではないか?」

「……そうね。それじゃあそろそろ行きましょうか」

「そうだな」


 そして、最終確認を終えたエリサが合流したところで、城を出たのだった。






 城を出た俺達は城門の前でアレリアに見送りをされていた。


「すいません。お見送りが私だけで……」

「まあ後処理で忙しいだろうからな。別に気に留めていないし、そんなに気にしないでくれ」


 城内は後処理で慌ただしくしていたからな。

 こんなところで悠長に見送りをしている暇は無いので、それも仕方の無いことだろう。


 まあそもそも見送りを望んでいたわけでもないので、どうでも良いと言えばそうなるのだが。


「……分かってはいましたけど、やっぱり寂しいですね」


 アレリアは門の前で並んでいる俺達を見て別れを実感しているのか、寂しそうな様子で視線を落とす。


「別れはいつか訪れるものだ。そんなに気を落とすな」

「はい、分かってはいます」

「王女様がそんな状態では、国も立ち直れないぞ?」


 一番国の再興に前向きなアレリアがこの状態では、国の未来に希望は無いからな。

 彼女にはもっと明るくなってもらわないと困る。


「……そうですね。私が頑張らないといけませんよね」


 それを聞いて気を取り直したのか、アレリアは落としていた視線をこちらに戻す。


「皆さんが再訪されるまでにもっと良い国にしておきますね」


 そして、破顔して国をより良いものにすることを宣言した。


「ああ。期待しているぞ」


 俺はアレリアの頭に優しく手をポンと乗せて、彼女のことを励ます。


「今回は何から何までありがとうございました」

「ああ。さて、そろそろ出発するか」

「そうね。それじゃあまたいずれ会いましょう」


 そして、別れを告げた俺達は一斉に振り返って歩みを進めた。


「それにしても、ここまでのことになるとは思わなかったな」

「そうね」


 俺達の目的は城の地下にいたフラウロを引き出すことだったので、城に干渉することになるのは分かっていたが、まさか王族の者と直接関わることになるとは思っていなかった。


「まあ貴重な経験になったし、良いんじゃない?」

「別に初めから悪いことだとは思っていない」


 想定外だったというだけで、悪いことだとは思っていないからな。別に不満があったりしたわけではない。


「そう。それなら良いけど」

「さて、しばらくは平穏に過ごせそうだし、戻ってのんびりするか」

「だね」


 機構天使の討伐が始まるまでは特にすることは無いだろうからな。

 平和な日々が続きそうだし、今回の騒動での疲れもあるので、さっさとワイバスに戻って休むことにした。


「……今後のこの国の行方、期待しているぞ」


 そして、少女が築く国の未来に期待しながら街を後にしたのだった。

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