episode274 フェルメットvsフラウロ
「掛かって来るが
フェルメットは鎌を取り出して構えると、挑発気味にそんなことを言って余裕を見せる。
「相変わらず一々気に障る奴だな」
「そうかの? まあ
「……フラウロだ」
悪魔は、いや、フラウロはフェルメットがわざとやっていることを承知しながら名乗る。
「……まあ良い。その余裕、どこまで持つか見てやるよ!」
フラウロはそう言って空間魔法で大剣を取り出すと、一瞬で距離を詰めてフェルメットに斬り掛かった。
「それで本気かの? ニシシ……」
フェルメットはそれを鎌で受け止めると、まだまだ余裕だと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。
「俺の実力を忘れたのか? だったら、すぐに思い出させてやる!」
そう言うと、フラウロは距離を取ってから魔法陣を展開した。
「何じゃ? そんなものが妾に通用するとでも思っておるのかの?」
フェルメットはそれに対抗するように魔法陣を展開する。
「はあっ!」
そして、フラウロが魔法を起動すると、黒い雷が複雑に何度も曲がって、不規則な軌道を描きながらフェルメットに迫った。
「――遅いの」
フェルメットは魔法陣から闇魔法による闇弾を放って、それを迎撃する。
(これを簡単に迎撃するか)
フラウロが放った魔法はその速度も相まって軌道を見抜くことは困難なはずだが、フェルメットはその軌道を正確に見抜いて、一直線に飛んで行く魔法で迎撃していた。
「どうしたのじゃ? 以前と何も変わっておらぬぞ? あれだけでは足りなかったようじゃな」
「……俺が何も変わっていないかどうか、試してみろ!」
フラウロはそう言って大量の魔法陣を展開すると、魔法を放つと同時に接近して攻撃を仕掛けた。
闇魔法による闇弾と大剣とは思えない速度で放たれる斬撃がフェルメットを襲う。
「そんなものかの?」
だが、フェルメットは鎌一つでそれらの攻撃を全て捌いていた。
「余裕振りやがって……はぁっ!」
フラウロはそう言ってさらに速度を上げる。
「……まあこんなものかの」
フェルメットは落胆した様子を見せると、一瞬の隙を突いて鎌を一文字に振って魔力の斬撃を飛ばした。
その一撃によって発生した魔力の斬撃は禍々しいオーラを纏っていて、その強大過ぎる魔力によってフラウロの魔法は打ち消されてしまう。
「チッ……」
フラウロはその一撃を大剣で何とか受け流す。
受け流した斬撃は上空に飛んで行き、消えることなく見えなくなるまでどこかに飛んで行った。
「全く……妾には勝てぬとそろそろ理解したらどうじゃ? 一度妾が勝っておろう?」
「…………」
フェルメットとフラウロは以前に戦ったことがあるが、その際にはフェルメットが勝っている。
なので、どちらが強いかということは既に分かっていることだった。
「
「……何が誰だったか、だ。しっかりと覚えているではないか」
最初に誰なのかと名前を聞いていたが、案の定フェルメットはフラウロのことをしっかりと覚えていた。
「さて、次は何をして来るのかの?」
「……その舐めた態度は相変わらずだな」
フェルメットの態度を見て、フラウロは若干の苛立ちを見せる。
「まあ良い。望み通りに本気を見せてやろう」
フラウロはそう言って自身の真下に魔法陣を展開すると、そこに集約させた魔力を一気に自身に流した。
「…………」
当然フェルメットはその隙に攻撃することも可能だったが、敢えて何もせずにそれを見守っていた。
「はぁっ!」
そして、フラウロは集約した魔力を全身に纏った。
彼には溢れんばかりの膨大な魔力が集まっていて、先程とは比べ物にならないような状態になっている。
「……準備は済んだかの?」
通常であれば警戒を強めるところだが、フェルメットは相変わらずの態度でそれを歓迎していた。
「……ああ。止めなかったことを後悔させてやる」
そして、フラウロは素早くフェルメットに接近すると、大剣に魔力を込めて斬り掛かった。
「行くぞ!」
フラウロはフェルメットを相手に小細工が通用しないことは分かり切っているので、純粋な力と速度で攻めていく。
「……ほう?」
それに対してフェルメットは鎌を複雑な軌道で振り回しながら、それを弾いていく。
「――遅い」
「っ!」
ここでフェルメットは全ての攻撃を捌き切れずに、フラウロの攻撃を掠めてしまう。
「はっ! 大したことはなさそうだな!」
「…………」
フェルメットはそのまま攻撃を捌き続ける。
「どうした? その程度か?」
「……それはこちらのセリフじゃな」
「っ!」
ここでフェルメットは鎌を回転させながら攻撃を受け流して、カウンター攻撃を放った。
その一撃に直撃したフラウロは吹き飛ばされて、結界に叩き付けられる。
「……五回だけか」
フェルメットはそう言うと、ゆっくりと鎌を構え直す。
「……何の話だ?」
「妾に攻撃を当てられたのはたったの五回。期待外れじゃの」
五回というのはフラウロがフェルメットに攻撃を当てられた回数だった。
フラウロはあれだけの手数を以て攻撃をしていたが、それでも当てられたのはたったの五回だけだった。
しかも、その五回の中に直撃は一つもない。
「……だが、当たったのは事実だ。捌き切れなくなり、反撃する余裕も無い。つまり……」
「つまり、何なのじゃ?」
「お前は詰んでいるということだ!」
そして、勢い良くそう言い放つと、距離を詰めて袈裟斬りを放った。
「――話にならんの」
それに対して、フェルメットは呆れた様子でそう言うと、フラウロの攻撃を迎撃するように正面から鎌での攻撃をぶつけた。
「っ!?」
真っ向から攻撃がぶつかり合えば純粋に威力が高い方が勝つ。
故にフラウロが吹き飛ばされるのは当然の摂理だった。
「さて、そろそろ妾も戦うことにするかの」
フェルメットはそう言って禍々しい魔力を纏うと、鎌を引いて攻撃の構えを取った。
「…………」
その様子を見たフラウロはより警戒を強めて大剣を構える。
「では、
「っ!」
フェルメットは百メートル以上あった距離を一瞬で詰めて、その鎌を斜め上方向に向けて斬り上げた。
「――遅いの」
フェルメットは先程よりも遥かに速い速度で動いて、複雑な軌道を描く鎌で攻撃を仕掛ける。
「チッ……」
フラウロはそれを防いでいくが、フェルメットの速度には付いて行けていなかった。
防げなかった攻撃が体を傷付け、一つ、また一つと切り傷が刻まれていく。
悪魔の戦闘能力は個体によって変わるが、フェルメットとフラウロの戦闘能力の差は大きなものだった。
決してフラウロの戦闘能力が低いわけではない。フェルメットの戦闘能力が高すぎて、相対的に弱く見えるだけだ。
「――そこじゃの」
「がはっ……」
ここでフェルメットは一瞬の隙を突いて、強烈な一撃を叩き込んだ。
その一撃によってフラウロは腹を斬り裂かれて、そのまま吹き飛んで行く。
「さっさと終わらせるかの」
「っ!」
だが、その程度でフェルメットの攻撃は終わらない。
空間魔法で吹き飛んだ先に転移すると、そのまま追撃を仕掛ける。
「こいつ……」
フェルメットは連続で転移して攻撃を仕掛けるが、フラウロはその速度に対応することができていなかった。
フラウロは何度も攻撃を受けて、確実に一歩ずつ追い詰められていく。
「妾はこの後に重要な用事があるからの。憂い無く臨めるように、ここで終わりにさせてもらうぞえ」
「重要な用事?」
「まあ
当然のことではあるが、フェルメットも機構天使の討伐には参加するつもりだ。
なので、その前に片付けられることは全て片付けておこうと考えていた。
もちろん、今回の一件も憂い無く機構天使戦に臨めるように、因縁に決着を付けておこうと思って行ったことだ。
「さて、そろそろ終わらせるとするかの」
フェルメットはそう言って魔法陣を展開すると、周囲に黒い空間を展開する。
「……断絶境界付きの物理障壁か」
「ほう、よく分かったの。では、終わらせるとするかの」
そして、フェルメットは鎌に魔力を込めて、次の一撃で終わらせると言わんばかりに構えを取った。
「それはこちらも望むところだ」
フラウロも大剣に魔力を込めて、同じように構えを取る。
「…………」
「…………」
二人は距離を保ったまま様子を窺う。
「はぁっ!」
「ふっ……」
そして、二人同時に飛び出して、互いの全力の一撃がぶつかり合った。
「が……ぁ……」
だが、その力の差は歴然だった。
フェルメットが放った一撃によってフラウロは大剣ごと真っ二つになって、発生した魔力の爆発によって周囲の建物と共に吹き飛んで行く。
「ふむ……大剣は残した方が良かったかの?」
フラウロが持っていた大剣は売ればそれなりの金額になると思われたので、破壊せずに残しておけば良かったと終わってから思うが、それも後の祭りだった。
「まあ残骸と奴の死体は回収しておいてやるかの」
大剣の残骸でも修理は可能だし、悪魔の素材は貴重なので、それらはしっかりと回収しておくことにした。
フェルメットは大剣の残骸とフラウロの死体を回収して、それらを空間魔法を使って収納する。
「さて、妾の方は片付いたし、様子を見に行くかの」
そして、フラウロと決着を付けたフェルメットはエリュ達の方に合流しに向かったのだった。
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