episode271 姿を現す潜入者
発表の予定時刻である昼に近付いて来たので、俺達は広場に向かっていた。
「あ、来たね」
広場の近くに行くと、そこではアリナ達が待っていた。
「予定通りだな。では、アレリアのことは任せるぞ」
「うん。任せて」
「エリサ、行くぞ」
「ええ」
俺とエリサは他のメンバーと別れて、広場の方に向かう。
「だいぶ人が集まっているな」
「そうね」
広場に向かうと、そこにはかなりの人が集まっていた。
「……そちらの準備は良いか?」
ここで俺は通信を繋いでいる他のメンバーに確認を取る。
「うん。いつでも行けるよ」
「こっちも大丈夫だよ」
「そうか。敵はどうだ?」
「広場に馬車で集まって来てるよ。そろそろ例の範囲に入るよ」
「分かった。では、俺とエリサで最初に動こう。その後は手筈通りに頼んだぞ」
そろそろ動いても良い頃合いなので、早速、二人で動くことにした。
俺とエリサは魔法陣を展開して、火魔法による術式で広場の近くの人のいない道を爆破する。
「何だ何だ!?」
「何が起こった!?」
すると、広場に集まっていた人々は爆発の音を聞いて混乱し始めた。
「……爆ぜろ」
俺はそのまま彼らの方に向けて火魔法を使って火球を放つ。
「させません!」
だが、ミリアが魔力障壁を展開して防いだので、その魔法が彼らの元に届くことは無かった。
俺の放った魔法は着弾点で爆発して、周囲に爆風が吹き
「皆さん、逃げてください!」
「きゃーー!」
「逃げろ!」
そして、ミリアがそう叫ぶと、広場にいた人々は一斉に逃げ始めた。
「させないよ!」
ここでアリナが自分が相手だと言わんばかりに俺達の前に飛び出して来る。
「……そっちは頼んだよ」
「はい」
アリナが前に出たところで、ミリアはすぐに広場の方に向かう。
「落ち着いて避難してください!」
「こっちだよー」
そして、アリナ以外の『
「それじゃあ行くよ! せいっ!」
「ふっ……」
アリナが素早く接近して来て剣を振り下ろして来るが、俺はそれを刀で受け止める。
「……ねえ、他に方法は無かったの?」
ここでアリナが
「他に良い方法でもあったか?」
普通に言っても広場から離れてくれないだろうからな。
広場にいる者を逃がすために、騒ぎを起こすという方法を取らせてもらった。
「特に思い付かないけど……どう考えても危ないよね?」
「多少は仕方が無いだろう?」
あれだけの人数の者が一斉に動くので、怪我人が出る可能性が高いが、他に方法も無さそうだったからな。
多少の怪我人が出てしまうのは仕方が無いだろう。
「それに、そのためにミリアを行かせた上で他のメンバーには治癒ポーションを持たせたのだろう?」
だが、怪我人が出ることを想定して、治療できるように備えているからな。
万全とは言えないが、対策はちゃんとしている。
「何だ、この騒ぎは?」
と、ここで騒ぎを聞き付けた暗殺組織の者が広場に駆け付けて来ていた。
「アリナは避難の誘導に加わってくれ」
「分かったよ」
こうなれば、騒ぎを演じる必要は無いからな。アリナには避難の誘導に加わってもらうことにする。
「おい、逃がすな! 奴らを殺れ!」
その様子を見た暗殺組織の者はそれを止めようとこちらに仕掛けて来る。
(あいつは……モータスだな)
彼らを指揮しているのはモータスだった。
予想は付いていたが、やはり彼が暗殺組織のリーダーらしい。
「悪いが、お前達を行かせるつもりは無い。俺達が相手になろう」
俺は居合の構えを取って、臨戦態勢に移る。
「……邪魔者は全員殺れ」
「分かっている。さっさと片付けて――」
指示を受けた下っ端はすぐに動こうとしたが、動き出す前にその胴体が真っ二つになった。
「っ!?」
「――遅い」
一人が殺られたところで俺に接近されていたことに気付くが、遅い。
俺は続け様に近くにいる敵を次々と斬り裂いていく。
「チッ……散開して、他の奴を狙え! 何人かは足止めをしておけ!」
モータスは部下にそう指示を出すと、一目散に逃げていく。
それに合わせて、指示を受けた部下は足止めをする人員を残して退散していった。
「たった十五人で時間稼ぎをするつもりか?」
「それで時間稼ぎになると良いわね」
そして、俺達はそれぞれで武器を構えて、暗殺組織の者達と対峙した。
エリュ達が暗殺組織の者達と戦っていた頃、アリナ達は避難の誘導をしていた。
「冷静に避難してくださーい」
「怪我をした方はこちらに来てくださーい」
避難の際に怪我した者はミリアの元に集めて、彼女が回復魔法で治療していた。
「避難は粗方終わったね」
避難は順調に進んでいて、広場周辺からはほとんど人がいなくなっていた。
「そうですね。そろそろ私達の出番も終わり……とは行かないようですね」
ネフィアはそう言って振り向いて、現れた人物に視線を向ける。
「…………」
彼女が視線を向けた先には暗殺組織の者がいた。
彼らは既に武器を構えていて、攻撃を仕掛けて来ようとしている。
「……私に任せてください」
「アレリア様!?」
前に出た彼女を見て、治療を受けていた者達はそれを止めようとする。
「……アリナ、ここは任せてください」
「分かったよ。みんな、付いて来て」
「ですが……」
「大丈夫だから、急ぐよ」
そして、アリナ達は集まっていた者達を有無を言わさずに連れて行って、その場を離れた。
「王女だろうと関係無い。全員殺るぞ!」
一人になったのを見た暗殺組織の者達は、チャンスと言わんばかりに接近して攻撃を仕掛ける。
「……私は王女ではありませんよ?」
「っ!?」
だが、その攻撃は彼女が槍を使って放った薙ぎ払いによって弾かれて、それと同時に発生した爆風によって暗殺組織の者達は吹き飛ばされた。
「……偽物だったか」
そこにいたのは変身を解いて槍を構えたレーネリアだった。
そう、彼らがアレリアだと思っていた者はアーミラに変身させられたレーネリアだ。
「王女様を一人で出歩かせたりはしませんよ?」
エリュと合流する際には一人で移動していたが、もちろん本物のアレリアを一人で歩かせたりはしない。
本物のアレリアは他の姿に変身させて、アリナ達と一緒に行動させている。
「……まあ良い。どの道ガキ一匹なら――ぐはっ!?」
暗殺組織の男は子供一人なら楽勝だと言わんばかりに余裕を見せるが、彼はその瞬間に蹴り飛ばされた。
「……甘く見ない方が良いと思いますよ?」
「がっ……」
「ぐわっ……」
彼らはそのまま次々とレーネリアによって吹き飛ばされていく。
「こいつ……お前ら、本気で殺りに行け! ガキだからといって甘く見るな!」
「「「はっ!」」」
暗殺組織の者達は指揮している男の指示を受けて、すぐに陣形を整えて構え直す。
「準備はできたようですね。それでは、行きますよ?」
そして、それぞれの準備が整ったところで、レーネリアは飛び出して戦闘を開始した。
撤退したモータスは例の潜入者に合流して、現在の状況を報告していた。
「――ということだ」
「……流石に仕掛けて来たか」
戦闘になっていることを伝えたが、この程度のことは想定内だったのか、特に驚いた様子はなかった。
「どうするんだ?」
「……結局、奴とは真正面から殺り合うことになるか。組織の奴らを集められるだけここに集めろ。今すぐにだ」
「集めてどうするんだ?」
「それは
「……分かった。おい、お前ら、足止めをしてる奴ら以外は全員今すぐに戻って来い」
モータスは通信用の魔法道具を使って、足止め役以外の全員に戻って来るよう指示する。
「…………」
「どうした? 何か問題でもあったか?」
ここでモータスの思案しているかの様子を見た潜入者はそんなことを尋ねる。
「……いや、何でもねえ。俺は奴らの足止めをして来るが、良いな?」
「…………」
(流石に気付いたか)
その様子を見て、潜入者はモータスがこちらの狙いを悟っていることに気が付いた。
「……好きにしろ」
だが、それを分かった上で彼の独断での行動を許可した。
「では、もう行かせてもらおう。……じゃあな」
そして、モータスは意味深な一言を言い残すと、そこから一度も振り向かずにそこから去った。
「……もうお前も用済みだ。抵抗される方が面倒だっただけだ」
狙いが見透かされている以上、彼にはそれに抵抗される可能性があった。
こちらにとっては抵抗されるのが一番面倒だし、一人減ったところでどうせ誤差範囲なので、潜入者はそれをあっさりと見送っていた。
「フェルメット、今度こそ決着を付けてやる」
そして、決意を新たにしたところで、術式の準備を進めたのだった。
シオンとアーミラは魔法道具を運んでいる部隊を建物の屋根の上から監視していた。
「それにしても、随分と馬車が多いね」
「魔物もいるみたいだからね」
「そうなの?」
「うん。この魔力の感じは間違い無いよ」
アーミラは魔力を感じ取ることで、馬車の中に魔物がいることを確認していた。
「暴れるつもりなのかな?」
「普通に魔物は足止め用じゃない? まああんな魔物じゃアタシ達は止められないけどね」
「だね。ところで、さっきからあいつらが集まってるような気がするのは気のせい?」
「……気のせいじゃないと思うよ」
それはそうと、騒ぎを受けて守りを固めるためなのか、暗殺組織の者達が着々と集まっていた。
「だね。……あ、エリュからの連絡だ」
と、そんな話をしていたところで、エリュからの連絡が入った。
「準備が整った。もう仕掛けて良いぞ」
「分かったよ。それじゃあアーミラ、行こっか」
「だね」
エリュからゴーサインが出されたところで、シオンとアーミラは魔法陣を展開して魔法を放つ準備をする。
だが、その瞬間に中央にあった馬車から闇魔法による黒い弾が飛ばされて来た。
「っ!」
「うわっと!?」
二人はそれを左右に別れて跳んで躱す。
「……やはり、邪魔しに来たか」
そして、その馬車の中から魔法を放った者が姿を現した。
「やっぱり、悪魔だったね」
その姿を見たアーミラは予想通りだったと言わんばかりにそんなことを言い放つ。
馬車の中から現れたのは黒い体皮をした体長が三メートルほどの悪魔だった。
「だが、奴がいないのならば、何の問題も無いか」
悪魔はそう言って飛び立つと、翼を広げてシオンとアーミラを見下ろす。
「……何かちょっと神秘的だね」
悪魔のちょうど真後ろに太陽が来ていて、まるで日食であるかのようにその輪郭が陽光によって輝いていた。
対照的に体が暗く見えることによって、確かな輝きを持ったその深紅の瞳が強調されて、妖しく光っている。
「何だ!?」
「悪魔だと!?」
だが、何故かそれを見た暗殺組織の者達は驚き戸惑っていた。
「あれ? もしかして、悪魔ってことを知らなかったの?」
「知ってるのはリーダーのモータスだけだったんじゃない?」
あの暗殺組織が悪魔の配下だったことは確かだが、繋がっているのが悪魔だと知っていたのはモータスだけだったらしい。
「予定とは程遠いが、仕方無い。これで起動するか」
悪魔はそう言って一つの馬車に指先を向けると、そこから巨大な魔法陣が展開された。
「シオン、離れるよ!」
「分かってる!」
普通はそれを見ただけでは何の魔法なのかは分からないだろうが、二人はこれまでの情報でそれが何なのかを分かっていた。
シオンとアーミラはすぐに風魔法を使って後方に跳んで、素早くその場を離れる。
「何だこれは!? ぐわーーー!」
魔法陣の範囲内にいた暗殺組織の者は生命力と魔力を吸収されて、次々と力尽きていく。
そして、数十秒程度で吸収は終わって、吸収された魔力が悪魔に集約した。
「……この程度か」
想定よりも少なかったのか、悪魔は少し不満気に言葉を漏らす。
「ニシシ……少しは強くなったかの?」
「っ!」
その直後、上空から高速でフェルメットが降下して来て、そのまま爪で悪魔に攻撃を仕掛けた。
「……久々だな、フェルメットよ」
悪魔はその攻撃を爪で受け止めて、久々の再開を歓迎する。
「お前達は邪魔が入らないように時間を稼げ!」
「ブモーーー!」
「シャァーーーッ!」
そして、悪魔が指示すると、馬車から魔物が飛び出して四方八方に散って行った。
「エリュ、魔物が解放されて散り散りになったよ」
「お前達は結界内の魔物に対処してくれ」
「結界がまだ張られてないけど?」
「それは今から張る。エリサ!」
「それならちょうどできたわよ!」
エリサがそう言うと、その直後に直径五百メートル近い大きさのある半球状の結界が展開された。
「この結界は……チッ……俺が仕込んだ物を利用しやがったか」
この結界を展開する術式は周囲の建物に仕込んでいた補助用の術式の中に仕込んでいた物で、本来は集めた者達を逃がさないようにするための物だった。
だが、エリサは術式を調べた際にそのような術式が仕込まれていることに気が付いたので、それを悪魔を閉じ込めるために転用していた。
「これで
「……まあ良い。どの道、殲滅することに変わりは無い」
「そうじゃろう?」
「……アタシ達はもう行こっか」
「だね」
そして、フェルメットと悪魔のやり取りを見ていたシオンとアーミラは、戦闘が始まると察してその場を離れたのだった。
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