episode270 オールドルクでの決戦準備

 翌日、留守番を他のメンバーに任せて、俺、シオン、エリサ、アーミラの四人は街に調査に出ていた。


「さて、街の様子を見に来たが……何やら掲示板の方が騒がしいな」


 街を見て回っていると、街の中心付近にある掲示板の前に人が集まっていた。


「何か発表があったみたいね」

「そうだな。とりあえず、発表の内容を見てみるか」

「そうね」


 見てみないことには何も分からないからな。

 ひとまず、掲示板の貼り出しを見て、発表の内容を確認してみることにした。


「ふむ……どうやら、明日の昼に王族から発表があるようだな」


 貼り出しを見てみると、そこには明日城の近くの広場で重要な発表を行うということが書かれていた。


「城の近くの広場ってことは、例の術式が仕掛けられてる場所だよね?」

「そうだな」

「でも、術式は起動できないんだよね?」

「現状では、ね」


 その質問をエリサは含みのある言い方で返す。


「何かあるの?」

「メインの術式を組んでおいた物を運び込めば、起動可能な状態にできるはずよ」

「補助用の魔法道具は壊したが、それでも使えるのか?」

「ええ。魔力の変換効率が悪くなるだけで、起動することはできるはずよ」

「そうか」


 まあ俺達が壊したのはあくまでも補助用の物だからな。

 やはり、本体の術式をどうにかしない限りは魔法自体は止められないらしい。


「とりあえず、城の近くの広場に行ってみるか?」

「それが良さそうね」


 何か仕込みをしている可能性は十分に考えられるからな。

 ここは城の近くの広場に行って、様子を見てみることにする。


「既に奴の配下が待ち構えている可能性もある。注意して向かうぞ」

「分かったよ」


 そして、掲示板で情報を確認した俺達は、敵に注意しながら城の近くの広場に向かったのだった。






 移動を始めた俺達は城の近くの広場に近付いていた。


「さて、ここまでは特別怪しい奴はいなかったが……」

「広場周辺はそうじゃないみたいね」


 ここに来るまでにも巡回している暗殺組織の者は見掛けたが、広場周辺にはそれとは別に警備目的で暗殺組織の者が配置されていた。


「やはり、広場に人を集めて例の魔法を使うつもりのようだな」

「そのようね」


 多くの魔力を集めるためには、広場により多くの人を集める必要があるからな。

 重要な発表があると言って広場に人を集めて、例の魔法を使うつもりのようだ。


「広場の方は……特に変化があるようには見えないな」


 ここで広場の方を遠目から見てみるが、広場の様子に変化は無さそうだった。


「流石にまだメインの術式を仕込んだ物は運び込んでいないと思うわ」

「まあそれもそうか」


 昨日動きがあったばかりだからな。向こうはまだ運び込む準備を進めている段階だと思われた。


「どうする? 運搬部隊を見付け出して襲撃するか?」

「その必要は無いわ」

「と言うと?」

「明日の昼までに運び込まれることは確実だから、運び込まれた後に破壊すれば良いわ」

「なるほどな」


 こちらとしては例の魔法が使われる明日の昼までに破壊できれば良いからな。

 いつ運び込まれるかも分からない物をわざわざ監視して運び込まれる前に破壊しなくとも、運び込まれてから破壊した方が楽なので、そうした方が良さそうだった。


「明日の午前中に広場を調べて、それらしき物があれば破壊するわ。無ければ運搬してそのまま起動すると思われるから、運搬中の部隊に襲撃を仕掛けるわ」

「分かった」

「それじゃあ今日はもう戻りましょうか」

「そうだな」


 敵に見付かってしまうと面倒だからな。これ以上の調査は必要無さそうなので、さっさと戻ることにした。


 そして、必要な情報を得られた俺達は潜伏場所に戻ったのだった。






 潜伏場所に戻った俺達は今回の調査結果を報告していた。


「――ということだ」

「なるほどね」

「と言うことで、明日が決戦になると思われる。明日の朝から動くので、今日は早めに休んで万全の状態に整えておいてくれ」


 明日が決戦になる可能性が高いからな。それに備えて怠らないように準備を進めておくことにする。


「分かったよ」

「…………」

「どうした、アレリア?」


 アレリアは物思いにふけっているのか、静かにうつむいていた。


「……いえ、ようやく終わると思うと、色々と思うところがあったので」

「……そうか」


 俺達にとっては一週間の出来事だったが、彼女にとっては三年だからな。色々と思うところがあるらしい。


「思うところがあるのは分かるが、今日はしっかりと休んでくれよ? 必要であればアレリアにも動いてもらうつもりだからな」

「分かりました」

「では、今日はもう各自で過ごしてくれ。今日も夜の見張りはフェルメットに任せるということで良いな?」

「ええ、それで良いわよ」


 そして、その日は普段よりも早めに休んで、明日の決戦に備えたのだった。






 翌日、しっかりと休んで万全の態勢を整えた俺とエリサは朝から広場に向かっていた。

 広場の様子を見てからどうするのかを決めるつもりなので、他のメンバーは潜伏場所で待機してもらっている。


「相変わらず警備はいるが……それらしき物は設置されていないな」


 広場の様子を確認してみるが、昨日見たときと変わった点は見られなかった。


「そうね」

「となると、昼に運び込んで、そのまま起動するつもりか」

「そのようね。それじゃあそのつもりで動きましょうか」

「そうだな。とりあえず、他のメンバーに連絡するか」


 俺はすぐにスカーフ型の通信用の魔法道具で他のメンバーに通信を繋ぐ。


「聞こえているか?」

「うん。聞こえてるよ」

「広場を確認したが、それらしき物は無かった。アーミラに姿を変えてもらったら、そのまま配置に着いてくれ」


 配置に関しては事前に決めておいたからな。その通りに動いてもらうことにする。


「分かったよ」

「何かあったら連絡してくれ。では、もう切るぞ」


 そして、必要なことを伝えたところで、通信を切った。


「さて、俺達もするべきことをするか」

「そうね」


 俺達もすべきことがあるからな。早速、準備を始めることにした。






「……来たな」


 事前に決めた場所で待っていると、予定通りに彼女が合流して来た。


「はい」

「では、掲示板がある場所に行くか」


 無事に合流できたところで、俺達はそのまま掲示板がある場所に向かう。


「掲示板には例の張り紙を貼っておいた。人も集まっているし、多少の効果はあると思うぞ」

「だと良いのですが」

「まあこれはあくまでもおまけのようなものだ。メインはアリナ達の方になるので、そちらの働き次第だな」


 こちらも多少の効果はあるだろうが、アリナ達の方がメインになることに変わりは無いからな。

 こちらが効果が無くても、向こうがどうにかしてくれれば何とでもなるので、結局のところアリナ達の活躍次第になる。


「そうですね」

「とりあえず、様子を見てみるか」


 どのような状態になっているかはまだ確認していないからな。

 ひとまず、集まっている者の様子を見てみることにした。


「中止? 何かあったのか?」

「事情までは書かれてないわね」


 集まっている者は掲示板に新たに貼られていた紙を見て、がやがやと騒いでいた。

 どうやら、俺が貼っておいた発表の中止の知らせを見てくれたらしい。


 そう、先程行った準備というのはこれのことだ。

 中止を発表しておけば、広場に集まる人数を減らすことができるだろうからな。

 少しは効果があると思って、勝手に発表の中止を知らせることを記した紙を貼っておいたのだ。


「では、頼めるか?」

「はい」


 俺が頼むと、彼女はそのまま人混みの方に向かう。


「度重なる予定変更をしてしまい、申し訳ありません」

「む?」


 彼女に話し掛けられた男はこちらを振り向く。


「アレリア様!?」


 その姿を見た男はアレリアがいるとは思っていなかったのか、驚き声を上げた。


「えっ!? アレリア様!?」

「どうしてここに!?」


 それを皮切りに周囲にいる者達も次々とそのことに気付いていく。


「アレリア様は何故こんなところに?」

「度重なる予定変更について謝罪しようと思いまして」

「いえいえ。そこまでしなくとも……」

「いえ、こちらも不手際がありましたので、ここで周知させようと思います」


 まだ知らない者も多数いるだろうからな。ここに残って、他の者にも知らせるつもりだ。


「そうですか。……失礼ですが、声がお変わりになりましたか?」


 と、ここで彼女の声を聞いた男がそんなことを尋ねて来た。


「……そうでしょうか?」

「……いえ、気のせいなら良いのです」

「私はしばらくここで皆様にこのことをお知らせしています。皆様も他の方々にお伝えしてくれますか?」

「分かりました」


 そして、彼女の話が済んだところで、集まっていた人々は解散して行った。


「……ここで一度確認しておくか」


 ここで一度他のメンバーの様子も確認してみることにした。

 俺はスカーフ型の通信用の魔法道具を使って、他のメンバーに通信を繋ぐ。


「そちらはどうだ?」

「特に動きは無いよ」

「こっちも特に何も無いよ」

「そうか」


 確認してみるが、他のところもまだ動きは無いらしい。


「となると、運び込んでそのまま魔法を起動するつもりのようだな」


 この時間になっても動きが無いからな。

 事前に運び込むのであれば既に動いているはずなので、運び込んでそのまま魔法を起動するのは確定と言っても良さそうだった。


「だね。このまま予定通りで良い?」

「ああ。奴らが動き出したら報告してくれ」

「分かったよ。それじゃあね」


 そして、確認が済んだところで、通信を切った。


「例の潜入者も確実に来るんだよな?」

「ええ。集めた魔力を自身に付与するためには直接来る必要があるから、確実に来るはずよ」

「そうか」


 とりあえず、例の潜入者が来ることは確実なようだ。


「奴らが広場に来たら開戦だな」

「そうね」

「……大丈夫だよな? フェルメット」


 そう簡単にフェルメットが負けるとは思えないが、万一、彼女が負けるとリュードラン頼みになるからな。

 相手の実力を考えると、街が壊滅する可能性もあるので、フェルメット次第でこの街の命運が決まることになる。


「そこは心配しなくて良いと思うわ」

「……その自信はどこから来るんだ?」

「あの余裕を見れば分かるわ。本気でどうにかしないといけない相手なら、こんな悠長なことはしていないはずよ」

「それもそうか」


 エリサの言うように、フェルメットはここまで悠長にしていたからな。

 その様子を見た感じだと、十分に倒せる相手であることを分かった上で余裕を見せていた可能性が高い。


「バックアップはリュードランに任せて、私達は私達のすべきことをしていれば良いわ」

「それもそうだな」


 俺達には俺達ですべきことがあるからな。向こうのことはフェルメットに任せて、こちらはこちらですべきことをすることにした。


 そして、その後は掲示板の近くで来た人に発表を中止したことを伝えながら、決戦の時間になるのを待ったのだった。

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