episode196 ランスヴェイガスの公認の奴隷商館

 翌日、俺達は予定通りにルートヴィルのいるランスヴェイガスの公認の奴隷商館へと向かっていた。


「ここは確か高級商店街だったか?」

「ああ、そうだ。ここは高級商店街で、富裕層向けの店が並んでいる」


 現在、俺達がいるのは西エリアで、高級商店街になっているエリアだ。

 高級商店街とだけあってしっかりと整備されていて、全体的に綺麗に整えられている。


「やっぱり、ここに奴隷商館があるの?」

「ああ」


 どうやら、このエリアに目的の奴隷商館があるらしい。


「さて、着いたぞ」


 と、そんな話をしていると、俺達は目的の奴隷商館に着いていた。


「ふむ……普通に館のような感じだな」


 店は二階建ての館のような建物だった。

 見たところ、建物は廊下に部屋を並べたような単純な構造のようだが、建材は普通に良質な物が使われていて、高級な印象を受ける。


「正式な店だからな。裏で取引をしているようなところとは違う」

「まあそれもそうか」


 奴隷取引と言うと違法なイメージが強いが、この店は合法的な店だからな。扱い的には他の店と変わらないので、体裁を整えているのも当然か。


「では、さっさと入るぞ」

「ああ」


 店の前で話をしていても仕方が無いので、さっさと店に入ることにした。

 俺達はそのままアデュークを先頭にして店に入る。


「いらっしゃいませ。どのような奴隷をお探しでしょうか?」


 店に入ると、身なりの良い店員に迎えられた。

 店員はどのような奴隷が欲しいのかを尋ねて来る。


「ルートヴィルに用があるのだが、今居るか?」

「ルートヴィル様はおりますが……どのようなご用件で? 本日は誰かと会うような予定は無かったはずですが?」

「用件は本人と直接話す。案内してくれ」

「急に案内しろと言われましても、それはできませんね。会う約束も無しに正体も分からないような者に会わせるわけにはいきません」


 アデュークはルートヴィルに会わせるよう伝えるが、普通に断られてしまった。

 まあいきなり現れて、アポも無しに会わせろと言っているわけだからな。それも当然の対応だ。


「何をしている? 迷惑客か?」


 店員と話をしていると、一人の男が階段から下りて来た。


(服装はそれなりに良い物のようだな)


 男は他の店員よりも高級そうな服装をしていて、立場の高い人物であることが窺えた。


「はい。彼がルートヴィル様に会わせて欲しいと言っていまして……」

「ふむ……」


 それを聞いた男はこちらを見て、一人一人のことを確認していく。


「……ワイバスから来た一行か」


 そして、確認が終わったところで、男は呟くようにしてそう言った。


「ほう? よく分かったな。街のことに詳しいとだけあって、情報が早いな」


 彼は俺達とは会ったことが無いはずだが、その正体を見抜いていた。

 俺達が街に来たのは昨日の夕方だったが、既にその情報を掴んでいたらしい。


「あれだけ騒ぎになっていれば、注目を集めるというものではないか?」

「そんなに騒ぎになったか? 俺達は特に何もしていないはずだが?」


 街に来てからは軽く調査をしただけで、特に騒ぎになるようなことはしていないからな。そんなに騒ぎにはなっていないはずだ。


「……連れていた魔物の監視に兵士達は慌ただしくしていたぞ?」

「ふむ……暴れないし、安全だとは言ったのだがな」


 霧の領域で飼っている魔物は全員そうだが、かなり懐いていて指示を無視して暴れるようなことは無いからな。基本的には安全なので、そこまで警戒するほどのものではない。


「その言葉に確固たる保証など無かろう。それに、討伐がBランククラスを推奨されている魔物となれば、暴れればかなりの被害が出るからな。国がそれを見過ごすはずが無かろう」

「まあそれもそうか」


 安全であるとは言ったのだが、その言葉だけで全面的に信用するわけにはいかないだろうからな。万一暴れられて被害が出ると困るので、それも仕方が無いと言えばそうなる。


「それに、酒場でも派手にやったそうではないか」

「……そんな予定は無かったのだがな」


 酒場では夕食を摂って、軽く情報収集をするだけのつもりだったからな。酒場での件に関しては完全に想定外のことだった。


「ところで、お前は何者なんだ?」


 ここまで話をしておいて何だが、まだ彼のことについて聞いていなかったので、そのことを聞いてみることにする。


「私はルートヴィル。この商館の支配人だ」


 薄々感付いてはいたが、彼はこの商館の支配人であるルートヴィルだった。


「知っているとは思うが、俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」

「ボクはシオン・イリオスだよ」

「あたしはリメット・レイターだ」

「俺はアデューク・ヴァーテッドだ」


 彼は俺達のことを調べたようなので知っているだろうが、形式的にそれぞれで自己紹介をしておく。


「それで、私に何の用だ?」

「ある人物の情報が欲しくてな。少し話をしたいのだが、良いか?」

「……分かった」


 ルートヴィルは少し考えた後にそれを承諾する。


「良いのですか? 素性の知れない人物ですよ?」

「構わん。お前は業務に戻っておけ」

「分かりました」


 そして、ルートヴィルに指示を受けた男は業務に戻って行った。


「では、こちらに来い。応接室は二階だ」


 思った通り、事務所関連の施設は二階にあるらしく、応接室もそこにあるようだ。


「……行くか」

「うん」


 そして、俺達はルートヴィルに案内されて、二階の応接室に向かった。






 二階に向かった俺達は二階に上がってすぐのところにあった応接室に案内された。

 応接室は店の雰囲気に相応しく気品のある部屋になっていて、高級な店といった印象を受ける。


「失礼します」


 応接室に入ってから少しすると、一人の女性が飲み物を持って部屋に入って来た。

 その女性はそのまま飲み物を全員に配ると、配り終えたところで部屋を後にする。


「さて、早速話を聞こうか」


 ルートヴィルは飲み物に一口だけ口を付けると、それを置いてから本題である話に入った。


「俺達の目的はある人物を探し出すことだ」

「誰を探している?」

「リコット・レイターという人物だ」

「ふむ……どんな人物だ?」

「それは今から説明する」


 そして、俺はルートヴィルに彼女のことに関して、これまでに分かっていることを説明する。


「そうか」

「それで、何か知らないか?」

「調べれば何か分かるかもしれんが、今は何とも言えんな」

「そうか」


 まあ調べていたとしても、特定の一人のことなど覚えていないだろうからな。それも当然か。


「では、調べてもらっても良いか?」

「それはそちらの出す条件次第だな」


 ルートヴィルに調べるよう頼んでみるが、彼はそれに対する交換条件を要求して来た。


「悪いが、俺達はそちらのことはあまり知らないものでな。具体的な条件をこちらから出すことはできないな」


 だが、俺達は向こうのことをあまり知らないし、希望することも分からないので、こちらから条件を出すことはできなかった。


「こちらが好きに条件を出しても良いと?」

「分かっているとは思うが、何でも良いというわけではないぞ? 出された条件は吟味して受けるかどうかを決める。あくまで対等な立場で行われる取引だ」


 これはあくまでも対等な立場で行われる取引だからな。取引の内容を提示する権利を譲っただけで、立場に変わりは無い。


「それは分かっている。そうだな……あの件を任せるか」

「あの件?」

「ああ。街で少し困っていることが起こっていてな。それを解決してもらおう」

「困っていること?」


 そう言われても俺達には分からないので、ひとまずその内容を聞いてみる。


「ああ。最近、街で盗みを働く奴がいるらしくてな。そいつを捕まえてほしい」

「ふむ、ただの盗賊……であれば騎士団が解決しているか」


 ただの盗賊であれば普通に騎士団が捕まえて解決するだろうからな。わざわざ俺達に頼むようなことは無いはずだ。


「そうだな。ただの盗賊であれば、こんなに手を焼いていない」

「だろうな。それで、犯人について何か分かっているのか?」


 情報が無いと探しようがないからな。まずは犯人についての情報を聞いてみることにする。


「まず、犯人は単独だ。夜に活動していて、馬車で運搬中の金品を奪っているらしい」


 どうやら、犯人は建物に侵入したりして金品を奪っているのではなく、馬車での運搬中の金品を狙って奪っているらしい。

 まあ建物への侵入や襲撃よりも、馬車への襲撃の方が成功しやすいだろうからな。この点に関しては特に不審な点は無い。


「それと、襲撃対象ターゲットになっている馬車は、いずれも黒い噂の絶えない者や組織の管轄の馬車だな」

「ふむ、それであればおびき出すのは難しく無さそうだな」


 活動時間も襲撃対象ターゲットも分かっているのであれば、その状況を作り出せば良いだけだからな。犯人をおびき出すことは難しくない。


「それで、犯人の何が問題なんだ?」

「問題は犯人は実力者だと思われることだ」

「なるほどな。それで、騎士団も手古摺っていると」


 犯人は単独とは言え、実力者となると話は変わって来るからな。それであれば騎士団が手古摺っていることにも納得できる。


「それで、実力のある俺達にそいつを捕まえて欲しいと」

「まあそういうことだな」


 俺とシオンがBランク冒険者であることは知っているようだからな。それを見込んで、俺達に犯人を捕まえて欲しいとのことらしい。


「この奴隷商館の馬車も被害に遭ったのか?」

「いや、私のところは被害に遭っていない」

「そうなのか。……聞くが、俺達にその依頼をするメリットはあるのか?」


 自分のところに被害が出ていないのであれば、言ってしまえば他人事なので、俺達にわざわざ依頼をするメリットは無いように思える。


「街が騒がしいとこちらも迷惑なだけだ。それに、この調子だと騎士団に解決できそうにないからな。お前達に解決してもらおうと思っただけだ」

「……そうか」


 まあ本人がそう言うのであればそれで良いか。


「犯人について他に何か情報はあるか?」

「犯人は不意打ちで襲撃を仕掛けて、空間魔法を使って荷物を奪っているらしい。犯人の意図によるものなのか、襲撃による人的被害は無い」

「まあ意図的なものだろうな」


 奪うのであれば手加減をせずに殺ってしまった方が楽だからな。人的被害が出ていないのは犯人の意図によるものだと思われる。


「他に情報は?」

「犯人は黒い外套を纏っているので、姿を確認した者はいない。今分かっている情報はそれだけだ」

「そうか」


 他にも情報が無いのかどうかを聞いてみるが、残念ながらそれ以上の情報は無いらしい。


「どうだ、この条件で?」

「……分かった。その条件で受けよう」


 こちらとしてはそれで問題無いので、この条件で受けることにした。


「一応言っておくが、私は調査をするだけだ。それ以上の協力はしないぞ」

「分かっている。俺達は彼女の居場所さえ知れれば良い。そこから先は俺達だけで解決する」


 こちらとしてはリコットの居場所が分かればそれで十分だからな。これ以上、彼に頼るつもりは無い。


「それならば良い」

「では、話も纏まったことだし、もう行くか」

「そうだね」


 そして、話が纏まったところで、俺達は奴隷商館を後にした。

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