episode195 リコットの手掛かり?
夕食を摂り終えた俺達は、少女が注文した持ち帰りの料理が届いたところで酒場を出た。
「多いですね」
「そうだな。まあここは俺が届けてやろう」
持ち帰りの料理は俺が持っているが、二十人分なのでそこそこ量が多い。
彼女一人で持ち帰れる量ではないので、俺達が届けた方が良いように思える。
「いえ、何から何までしてもらうわけには……」
「まあここで会ったのも何かの縁だ。最後まで付き合わせてもらおう」
このまま一人で荷物を持って戻れるとは思えないからな。ここは俺達が彼女が暮らしている場所まで送ることにする。
「俺は先に戻って、明日以降のことを考えておくぞ」
「ああ」
アデュークはそれだけ言い残すと、先にキーラがいる倉庫に戻って行った。
「それじゃあ行く?」
「そうだな。と、その前にお前にはこれを渡しておこう」
ここで俺は男達が持っていた十万セルトが入った袋を少女に渡す。
「えっと……良いのですか?」
「ああ。遠慮はしなくて良い。持って行け」
元々彼女が行っていた賭けの賭け金だしな。俺達には必要無いので、これは彼女に渡すことにする。
「……分かりました。ありがとうございます」
断っても無駄だともう分かっているのか、彼女は素直にお金の入った袋を受け取った。
そして、それをそのままスカートに括り付ける。
「うわっ!?」
だが、その重さに耐え切れずに、留め具が壊れてスカートごと落下してしまった。
まあ袋には大銀貨が百枚入っていて、それなりに重さがあったからな。古くなった留め具ではその重さに耐えられなかったらしい。
「み……見ないでください!」
「エリュは見るな!」
少女は下着を破かれて何も着けていない状態だったので、下半身が丸出しになっていた。
すぐにリメットがその前に立って、それを隠す。
「……とりあえず、スカートを穿き直したらどうだ?」
「でも、留め具が壊れてしまって……」
「見せてみろ。リメット、スカートを渡してくれ」
「分かった」
リメットからスカートを受け取って、状態を確認する。
「これなら問題無いな。すぐに直す」
確認したところ、錬成魔法を使ってすぐに直すことができそうだった。
早速、錬成魔法を使って留め具を変形させて、元の形に直していく。
「できたぞ」
そして、修理が終わったところでスカートをリメットに返すと、それをそのまま少女に渡した。
スカートを渡された少女はそれをすぐに穿き直す。
「とりあえず、それも俺達が持って行こう」
「お願いします」
彼女に持たせてまた同じようなことになっても困るので、お金の入った袋も俺達が持って行くことにした。
「リメット、そのまま袋を持って行ってくれ」
「分かった」
リメットは足元に落ちている袋を拾い上げて、それを腰のベルトに括り付ける。
「シオン、新品の下着を持っていないか?」
「持ってないよ」
「そうか。途中で店で買うか?」
「いや、持ち帰りの料理があるし、そんな余裕は無いぞ」
今は荷物として持ち帰りの料理があるからな。残念ながら、そんなことをしている余裕は無い。
「だからって、このまま歩かせるのか?」
「仕方が無いだろう? まあ気を付けて歩けば大丈夫なのではないか?」
「大丈夫なわけがないだろう! 気になって仕方が無いし、うっかり見えたらどうするんだ?」
「そうならないために気を付けて歩けと言っているのだが?」
「あの……買っていただくのも悪いですし、このままで構いません」
俺とリメットが言い争っていると、少女がそれを止めるようにして話に入って来た。
「……ということだそうだ」
「……まあ本人がそう言うのなら、それでも良いか」
「では、このまま案内してくれるか?」
「分かりました」
そして、俺達は少女の案内で彼女の暮らしている場所へと向かった。
少女に案内されて、俺達はメインである大通りを外れて北東に向かっていた。
「思ったよりも道は暗いね」
「そうだな」
メインである大通りと比べると街灯が少ないので、道は思っていたよりも暗かった。
「こちらの方は旧区画ですので」
「旧区画?」
「はい。今はあまり使われていない区画で、廃屋などが多い区画です。ここには私達も含めて多くの貧民が住んでいます」
「なるほどな。スラム街といったところか」
どうやら、彼女達が住んでいる場所はスラム街のようなところらしい。
「言われてみれば古くなってる建物ばかりだし、かなり寂れてるね」
「そうだな」
この辺りは古くなった建物ばかりで、道も古くなって罅割れている部分が多く見られた。
また、街灯も古くなっているせいなのか、光が弱くなっている物もある。
このようなことから、この辺りはあまり整備がされていないことが分かる。
「そこの通りに入ってください。私の暮らしている場所はその先です」
「分かった」
俺達は少女に言われた通りに指定された細い裏路地に入る。
「暗いので気を付けてください」
「ああ」
裏路地には街灯も無いので、そこを照らすのは僅かに差し込む月光だけだった。
なので、この裏路地はほとんど何も見えないほどに暗く、気を付けておかないと罅割れた道に躓いて転んでしまいそうだった。
「ここです」
裏路地を五十メートルほど進んだところで、少女はそう言って立ち止まる。
どうやら、この建物が彼女が暮らしている場所のようだ。
「ここは……食堂か?」
その建物は元々食堂だったと思われる小さな店で、敷地は十五メートル四方ほどだった。
見たところ、この店には居住用の空間は無いようなので、この店の元の持ち主は別の居住用の場所に住んでいたと思われる。
「はい。ここは放棄された食堂で、今は私達が利用しています」
「そうか。とりあえず、中に入れてくれるか?」
「分かりました。皆さん、帰りました。開けてください」
少女がそう言って扉をノックすると、鍵が内側から開けられる。
すると、その直後に内側から扉が開けられて、そこから一人の少女が現れた。
「お帰りなさい。遅かったね」
「ちょっと色々とありまして」
「そうなんだ。それで、その人達は誰?」
中から現れた少女は俺達のことを見て何者なのかを尋ねて来る。
「えっと……説明は中に入ってからで良いですか?」
「分かりました。それでは、中にどうぞ」
そして、俺達はその少女によって建物の中に招き入れられた。
建物に入ると、そこでは二十人ほどの少女が部屋で過ごしていた。
建物内は食堂となるこの部屋がメインになっていて、タンスや布団などが置かれていた。
なので、基本的にはこの部屋で過ごしているようだった。
明かりは古くなっているせいなのか光が弱く、部屋は少々薄暗い。
また、他には部屋が二つあるが、見たところトイレと倉庫用の部屋ようだった。
「それで、あなた達は誰なの?」
「ああ、それは今から話そう」
そして、全員を集めて俺と最初に会った少女とでこれまでのいきさつを話した。
「そうだったんだね」
「ああ。これが持ち帰った料理だ。好きな物を選ぶと良い」
いきさつを話し終わったところで、持ち帰った料理を渡す。
「こんなに良いのですか?」
「ああ、お前達のために買って来たのだからな。遠慮無く食べると良い」
「分かりました」
そして、少女達はそれぞれで料理を選んでいく。
「それと、これも渡しておこう」
ここで最初に会った少女に十万セルトが入った袋も渡しておく。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
「ああ、そうしてくれ。それで、全員どれにするのかは決まったのか?」
「はい。それではいただきますね」
「ああ」
そして、どれにするのかが決まったところで、彼女達は夕食を食べ始めた。
「あの……少し聞いても良いですか?」
「何だ?」
「スカートを直したときに魔法を使っていたみたいですが、色々と魔法が使えるのですか?」
「ああ」
「冒険者か何かなのですか?」
「一応Bランク冒険者ではあるな」
冒険者であることに間違いは無いが、冒険者としての活動はあまりしていないからな。ここは「一応」の一言を付けておくことにする。
「Bランク冒険者って、かなり凄くないですか!?」
「まあな」
「私達とは違いますね……」
「違う、とは?」
「はい。私達の内の何人かはお金を稼ぐために冒険者をしているのですが、Eランクですので……」
どうやら、彼女達の内の何人かはお金を稼ぐために冒険者をしているらしい。
まあ冒険者であれば基本的には身分などに囚われずに稼ぐことができるからな。少々危険は付き纏うが、その選択はありだと言える。
「武器や防具があるのはそのためだったのか」
部屋の隅には武器や防具が置かれていたが、それらは冒険者として活動している少女達の物だったようだ。
「はい」
「軽く整備してやろうか?」
「良いのですか?」
「ああ。大して手間は掛からないからな。そのぐらいなら構わないぞ」
整備する程度であれば大して手間は掛からないからな。話をしながら、ついでに装備品を整備しておくことにする。
「シオン、取って来てくれるか?」
「はーい」
シオンに頼むと、彼女はすぐに装備品を取って来てくれた。
装備品を受け取った俺はそのままそれらの整備を始める。
「ふむ……今まで整備はしていなかったようだな」
確認してみると、装備品はどれも整備がされていないようだった。
「はい、やり方も分かりませんでしたし……」
「そうか。……ところで、先程は魔法が使えるかどうかを聞いて来たが、それがどうかしたのか?」
「いえ、実力がある方に見えたので、少し気になっただけです。やっぱり、他の街から来たのですか?」
「ああ。ワイバートのワイバスから来たぞ」
別に隠す必要も無いので、俺は素直にワイバスから来たことを伝える。
「そうだったのですね。何故この街に来たのですか?」
「ある人物を探すためだな」
「ある人物ですか?」
それを聞いた少女はそう言って首を傾げる。
「ああ。リコット・レイターという人物なのだが、何か知らないか?」
期待はできないが、何か手掛かりが得られるかもしれないので、リコットについて何か知らないのかを聞いてみる。
「いえ、私は何も」
「そうか。何か知っている者はいないか?」
「えっと……良いですか?」
俺が全員に対して尋ねると、一人の少女が手を上げた。
「何だ?」
「リコットは私と一緒に捕まっていたメンバーの内の一人だと思います」
「……詳しく話してくれるか?」
ひとまず、その少女から詳しい話を聞いてみる。
「はい。私はガーグノットで捕まって、最終的にこの街にまで連れて来られたのですが、その際に一緒に捕まったのがリコットです」
どうやら、彼女はリコットと一緒に捕まって、この街にまで連れて来られたらしい。
「それで、リコットはどうなったんだ!?」
ここでその話を聞いたリメットが割って入って来る。
「えっと……どこかに纏めて売られてしまいました」
「纏めて売られた?」
「はい。何人かを纏めて安値で売ったみたいです」
詳しいことまでは分からないが、どうやら纏め売りをして安値で売り払ったらしい。
「そうか。それで、何故お前はここにいるんだ?」
「私は売られませんでしたので。私はその奴隷商人が捕まった後に解放されました」
「そうだったのか」
彼女は売れ残っていたおかげで、奴隷商人が捕まった後に解放されたらしい。
「リコットが誰に売られたのかは分かるか?」
「いえ、私には何も」
「そうか」
まあ彼女は捕まっていた身だからな。詳しいことまでは知らないか。
「お役に立てなくてすみません」
「いや、気にするな。さて、整備は終わったぞ。シオン、元の場所に戻しておいてくれるか?」
「分かったよ」
ここでちょうど装備品の整備が終わったので、それらをシオンに渡して元の場所に戻してもらう。
「さて、俺達はもう帰らせてもらうぞ」
「そうですか。今日は色々とありがとうございました」
「ああ。シオン、リメット、帰るぞ」
「はーい」
「分かった」
そして、話を終えたところで、俺達はアデュークの待つ倉庫に戻った。
倉庫に戻った俺達はアデュークに先程のことを報告をしていた。
「ふむ、リコットと一緒に捕らえられていた奴がいたのか」
「ああ。ルミナさんにリコットがランスヴェイガスに売られたときの取引リストを送ってもらうか?」
「それが良いな」
「では、俺が連絡しておこう」
何かの参考になるかもしれないからな。後でルミナに頼んで、データを送ってもらうことにする。
「明日の予定だが、予定通りにルートヴィルに話を聞きに行くぞ。それ以降は話を聞いてから決める」
「分かった。では、今日は俺とシオンが先に見張りをするということで良いか?」
「俺はそれで良いぞ。では、俺はもう休ませてもらう」
アデュークはそう言うと、準備しておいた寝袋に潜って休み始める。
「リメットも着替え次第、休むと良い。そこの仕切りの先で着替えたらどうだ?」
「ああ、そうさせてもらう」
俺達が倉庫に戻って来ると、アデュークによって倉庫内には高さ二メートルほどの仕切りが設置されていたので、そこを利用することにした。
リメットは仕切りの裏に行って、そこで着替えを始める。
「スノーホワイトとフードレッドも休んで良いぞ」
「分かりました」
「分かった」
俺が二体に休むよう指示すると、彼女達は稼働を停止した。
稼働が停止されたことを確認したところで、俺が空間魔法を使って収納する。
「俺達はこのまま見張りをするぞ」
「分かったよ」
そして、残った俺達はいつものように見張りを始めた。
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