episode193 ガンヴルインへ!

 翌日、予定通りにリメットと合流した俺達はキーラに乗ってランスヴェイガスにまで来ていた。

 道中は特に何事も無かったのと、適度な速度で飛んで来たので快適な空の旅だった。


「もう日が落ちかけているな」


 しかし、適度な速度で飛んで来たことで時間が掛かったので、もう日が落ちそうになっていた。


「こんなに早く着くのか。相変わらず魔物に乗って来ると早いな」


 だが、それでも馬車や飛空船とは比べ物にならないぐらいに早いので、これでも十分だ。


「ふむ、あれがランスヴェイガスか」


 眼下にはランスヴェイガスの街の光景が広がっていた。街の中央にはここからでも分かるほどの大きなカジノがあり、多くの人々が出入りしている。


「とりあえず、下りるぞ。キーラ、正面の門の前に下りろ」

「キィッ!」


 アデュークが指示すると、キーラは急降下して門の近くの着地した。


「キーラは休んでいてくれ」

「キィッ!」


 そして、キーラを空間魔法を使って収納したところで、俺達は門に向かった。


「通って良いぞ。次!」


 あまり人がいなかったので、俺達の順番はすぐに回って来た。身分証を見せて、それぞれで手続きを進めていく。


「ふむ、問題は無いな」

「そうか。では、通らせてもらうぞ」

「いや、少し待ってくれ」

「何だ? 他に何かあるのか?」


 通常であればこれで通してくれるのだが、まだ何かあるらしく門を通してくれなかった。


「街の中に魔物を入れて暴れられると困るからな。魔物が安全なのかどうかを確認させてもらう」


 どうやら、門番達はキーラに暴れられることを警戒しているらしい。


「とりあえず、呼び出せば良いか?」

「ああ、そうしてくれ」

「分かった。キーラ!」

「キィッ!」


 俺はすぐに空間魔法を使ってキーラを呼び出す。


「それで、どうすれば良い?」

「少し待っていてくれ。上と相談して来る」


 門番の兵士にどうすれば良いのかを聞いてみるが、彼はそれだけ言い残して詰所に向かってしまった。


「……仕方が無い。このまま待つか」

「だね」


 彼が戻って来ないことにはどうしようもないので、ひとまずキーラの面倒を見ながら待つことにした。

 そして、キーラの世話をしながら待っていると、しばらくしたところで先程の門番が戻って来た。


「お前達、処遇が決まったぞ」

「どうなったんだ?」

「その魔物は近くの空き倉庫に入れて待機させておいてくれ。街にいる間はその倉庫から出すことは許可できない。分かったか?」

「ああ」


 その程度の制約であれば問題は無いので、その条件で了承する。


「では、倉庫まで案内する。付いて来てくれ」

「分かった」


 そして、門番に案内されて、俺達は空き倉庫へと向かった。






「ここだ」

「ふむ、これなら広さは十分だな」


 空き倉庫は床は二十メートル四方、高さは十メートルほどで、キーラを預けておくには十分な広さだった。


「キーラ、しばらくここで待っていてくれるか?」


 俺は空間魔法でキーラ用の毛布を取り出して、それを倉庫の右奥に敷く。


「キィッ!」


 すると、キーラはその毛布の上に座り込んだ。


「その魔物の監視のために常に誰か一人はここにいてくれ。それと、警戒のために兵士を常にこの近くに置いておくが、それで良いな?」

「ああ、構わないぞ。……スノーホワイト、フードレッド!」


 ここで空間魔法を使ってスノーホワイトとフードレッドを呼び出す。


「……何でしょうか?」

「お前達はこの倉庫でキーラのことを見ていてくれ。軽く調査をしたら戻る」

「分かりました」

「……あの、その二人は?」


 そのまま調査に向かおうとしたが、それを見た門番の兵士が二体のことを聞いて来た。


「私は自律思考型戦闘用ゴーレムのスノーホワイトです」

「あたしは自律思考型戦闘用ゴーレムのフードレッドだ」

「自律思考型戦闘用ゴーレム? これがゴーレムなのか?」


 それを聞いた門番の兵士は信じられていない様子で、二体のことを見て回して確認し始めた。


「ああ。可能な限り見た目は人間に近付けているからな。まあ俺が作ったわけではないがな」

「ふむ……見た目では全く分からないな」

「一応、言っておくが、戦闘用とは言っても今は護衛の指示しかしていないので、襲って来たりすることはないぞ」

「……そうか」

「では、これでもう良いな? もう行くぞ?」

「ああ」


 そして、キーラを倉庫に預けたところで、俺達は街に出て調査に向かった。






 街に出た俺達はアデュークを先頭にして通りを散策していた。


「アデューク、どこに行くつもりなんだ?」

「情報収集と夕食を兼ねて酒場に向かうつもりだ」

「そうか。では、このまま案内してくれ」


 街の地図は頭に入っているが、俺には店の細かい情報までは分からないからな。

 ここは過去にもこの街を訪れたことのあるアデュークに任せることにする。


「……着いたぞ」


 しばらく歩いたところで、俺達はある一軒の酒場に着いた。


「酒場にしては大きいな」

「この街の酒場は賭場代わりになっているからな。人が集まる分、全体的に大きめに作られている」

「そうなのか」


 人が集まるというのであれば、通常よりも大きめに作られているのにも納得だ。


「それで、賭場代わりになっているとは言うが、どんな感じになってるんだ?」

「それは実際に見てみた方が早い」

「それもそうだな。では、入るか」


 アデュークの言うように実際に見てみた方が早いので、さっさと店に入ることにした。

 俺達はアデュークを先頭にして店に入って、適当に空いていた席に着く。


「俺は適当に情報を集めて来る。お前達は適当に夕食でも摂っていろ」


 だが、アデュークはそれだけ言い残すと、他の席に向かってしまった。


「……とりあえず、言われた通りに夕食を摂るか」

「だね」


 ここはこの街のことをある程度知っているアデュークに情報収集を任せて、俺達は夕食を摂ることにした。

 残った俺達はメニュー表を見て注文する料理を選んでいく。


「全員決まったな?」

「うん」

「ああ」

「そこのウエイトレス、少し良いか?」

「はい、何でしょう?」


 そして、全員の注文が決まったところで近くにいたウエイトレスを呼んで、料理を注文した。


(少し様子を見てみるか)


 待っている間は暇なので、料理を待っている間に周りの様子を見てみることにした。


「ふむ、椅子も多いしテーブルが大きめになっているな」


 大人数で集まって賭けをするためなのか、一つのテーブルに対して椅子が多めに用意されていて、テーブルは大きめになっていた。


「普通に賭けをやってるね」

「そうだな」


 周囲を見てみると、多くのテーブルでは賭け事が行われていた。


「まあ大金は賭けていないようだがな」


 だが、ここでは皆ちょっとした娯楽程度の感覚で遊んでいるようで、大金は賭けていなかった。

 賭け金は数百セルト単位で行われているところが多く、銀貨がメインに使われている。


(まあ本格的な賭けをしたいのであればカジノに行くか)


 この街には国内最大の大きなカジノがあるからな。本格的な賭けをしたいのであればそちらに行くので、ここでは小規模な賭けしか行われていないのも当然のことだった。


「……? どうしたの、エリュ?」


 ここで俺が隣のテーブルのことを気にしていることに気が付いたのか、シオンがそのことについて聞いて来た。


「いや、そこでの賭けが少し気になってな」


 俺はそう言いながらリメットにも分かるように隣のテーブルに視線を移す。

 隣のテーブルでは十五歳ぐらいだと思われる少女が、複数人の柄の悪そうな男を相手に賭けをしていた。


「確かに、少々気になりはするが……そんなに不審か?」

「ああ。少女の方が賭け金を出していないだろう?」


 一見すると、普通に賭けをしているようだが、問題は賭け金だった。

 男達の方には出した賭け金らしきお金がテーブルの上に置かれているが、少女の方にはお金が置かれていないので、彼女は賭け金を出していないようだった。


「言われてみればそうだな」

「あ、次のゲームが始められるみたいだよ」


 と、そんな話をしていると、次のゲームが始められようとしていた。


「コイントスをするみたいだね」


 賭けの内容はコイントスの裏表を当てるという単純なものだった。

 男はコインを右手の親指の上に乗せて、コイントスの準備をする。


「……イカサマか」

「イカサマ? 何かしたのか?」

「ああ。あの男が指に乗せているコインは両面が表だった」


 男がコインを乗せる際にそのコインをよく見てみたが、コインは両面が表だった。

 なので、あのコインには裏面が存在しない。


「でも、それでどうするんだ? 裏を宣言されると負けになるが?」


 だが、それだとリメットの言うように裏を宣言されると負けてしまう。


「その点は問題無い。奴はそれとは別に右手の中にコインを隠しているからな。恐らく、そちらは両面が裏になっているか、裏側が上になるような持ち方をしているのだろうな」


 手に隠しているコインに関しては直接確認はできていないが、コインを乗せている右手の形が若干不自然なので、手にコインを隠していることはすぐに分かった。


 それに、表しか出ないコインだけを使っても意味が無いからな。そう言った意味でも他にも何かを仕込んでいることは確実なので、コインを隠していることは確実と言えた。


「さて、行くぞ?」

「……はい」


 と、俺達が話をしていると、次のゲームが始まっていた。

 男はコインを弾くと、それを左手の手の甲の上に落として、それを右手で隠す。


「……表で」

「表か。それで良いんだな?」

「はい」

「…………」


 表が宣言されたことを確認した男は右手の手の平に挟んでいるコインを落とすと、それと入れ替える形で両面が表のコインを手の平に挟んだ。


 そして、コインをすり替えたところで、男は右手を退けてコインの裏表を確認させた。


「残念。裏だな」


 だが、男はイカサマをしていたので、もちろんコインは裏だった。


「ほら、負けたんだから約束通り脱げよ!」

「…………」


 男達に言われて、少女は躊躇いながらも服を脱ぎ始めた。

 少女は上着とスカートを脱いで下着姿になる。


「後二回だな。ほら、続けるぞ」


 男はそう言ってコインを弾くと、先程と同じように左手の手の甲の上にコインを落として、それを右手で隠した。


「裏です」

「……表だ」


 少女は裏を宣言するが、男はイカサマをしているのでまたしても外れてしまう。


「じゃあ今度はそれを脱いでもらおうか?」

「…………」


 男に脱ぐよう言われるが、少女は下着に手を掛けたところで躊躇って動きを止める。


「お前も来い」

「ああ」


 その様子を見た男達はその内の二人が席を立つと、少女を挟むように両側に立った。


「ほら、早く脱ぎな!」


 そして、その二人はそれぞれ少女のブラジャーとショーツ掴んで、それらを無理矢理破いて脱がせた。

 それによって、周囲に少女の裸体が晒される。


「きゃーっ!?」


 少女は羞恥で頬を赤くしながら、すぐに手で胸と下半身のあそこを隠す。


「次で最後だ。これで次に俺が勝ったら、約束通りお前を売らせてもらう」

「……私が勝てば、その賭け金を出してくれるのですよね?」


 ここで少女は男に条件の確認を取る。


「ああ。お前が勝てば約束通りこの賭け金はやろう」


 どうやら、彼女は自身を身売りすることを賭け金代わりにして賭けを行っていたようだ。


「……なあ、放っておいて良いのか?」

「何がだ?」

「あの賭けだよ。あのままだとあいつに好きにされるぞ!」

「……俺達には関係の無いことだろう?」


 リメットは止めようとするが、俺達に彼女を助けるメリットは無い。

 それに、俺達の目的はリコットを探すことだ。トラブルを起こして目的の情報を集めるのに支障が出ると困るので、目的を見据えるのであれば、ここは下手に手を出さない方が良い。


「だからって、放っておくのか!?」

「……目的を忘れるな。俺も目的が無ければ止めている」


 今回はリコットを探すという目的があるからな。それが無ければ止めに入っている。


「では、行くぞ?」


 と、俺達が言い争っていると、最後のコイントスが始められていた。

 男は先程と同じように少女に隠したコインの裏表を問う。


「……裏です」

「ふっ……」


 そして、少女の回答を聞いた男はニヤリとしながら手を退けた。


「……仕方が無いか」


 ここで俺は男の右手に向けてフォークを投げる。


「痛っ!」


 そのフォークは男の右手に軽く刺さって、それによって隠していたコインがテーブルの上に落下した。


「イカサマを使って勝って楽しいか?」


 俺は席を立って、男のいる席にゆっくりと歩いて近付く。


「何だ、お前は?」

「部外者が邪魔してんじゃねえ!」


 すると、数人の男が勢い良く立ち上がって、俺の前に立ちはだかって来た。


「お前達に用は無い」

「何だと!?」

「ああ!? やんのか!? ――っ!?」


 ここで男達の内の一人が掴み掛かって来るが、俺はそれを視線を外させた隙に通り抜けて、男達が座っていた椅子に座った。

 男達は俺が視界から消えて、いつの間にか後方に回り込んでいたことに驚き戸惑いを見せる。


「どうした、そんなに驚いて?」

「こいつ、いつの間に……」

「それで、こんな二枚のコインでイカサマをしていたのか」


 俺は男がテーブルの上に落とした両面が同じの二枚のコインを手に取って、それを指の間でクルクルと回す。


「まあイカサマをしていた以上、先程の賭けは無効だな。とりあえず、お前は服を着たらどうだ?」


 ここで俺は脱ぎ捨てられていた服を拾い上げて、それをそのまま少女に渡す。


「おい、賭けをしていたのは俺達だ! 勝手なことをするんじゃねえ!」

「……何か問題でもあるか?」

「当たり前だ! 部外者が邪魔してんじゃねえ!」

「……そうか。では、賭けに参加したくなったということで良いか?」


 彼の主張によると、部外者でなければ良いようなので、俺も賭けに参加することにする。


「適当なこと言ってんじゃねえ! 舐めてんのか!」

「何だ? 俺は参加してはいけないのか?」

「そういうことじゃねえ! 後からしゃしゃり出るなと言ってるんだ!」


 だが、何故か彼はさらに怒りだしてしまった。


「……エリュ、からかうのはそのぐらいにしたらどうだ?」

「それもそうだな」


 このままからかっていては話が進まないので、このぐらいで止めておくことにした。


「と言うことで、俺も賭けに参加させてもらうが良いな?」

「そんな勝手なことを認めるわけが――」


 ここで俺は金貨の詰まった袋を取り出して、男の言葉を遮るようにしてそれを勢い良くテーブルの上に置く。


「三百万入っている。これで賭けをしないか?」

「…………」


 すると、それを見た男達は目の色を変えた。


「……良いだろう」


 そして、その大金に惹かれて俺の話に乗って来た。


「では、賭けの内容を確認しよう。ゲームの内容はお前がコイントスをして、俺がその後にその裏表を当てるというもので良いか?」

「ああ、ゲームの内容に関してはそれで良いぞ」

「一応、言っておくが、イカサマはさせないぞ? 普通のコインを使ってもらう」


 当然ではあるが、イカサマは無しだ。それだと勝負にならないからな。


「分かってる」

「次に賭ける物についてだが、俺は三百万セルトを賭けるので、お前が勝てばこの三百万セルトはお前の物だ。だが、俺が勝った場合は彼女とその賭け金をいただく。それで良いな?」

「ああ、良いぞ」

「では、始めるか」

「いや、待て」


 確認が終わったところで賭けを始めようとしたが、男はそれに待ったをかけた。


「何だ? まだ何かあるのか?」

「俺達が賭けを行っていたところで、お前は後から入って来た。それも都合の良いところでな」

「……何が言いたい?」

「俺達はこいつに三回勝っていて、あと一回勝てばこいつを手にすることができた。つまり、四勝すればようやくこいつを手に入れることができていたということだ。だが、お前は一回勝っただけでこいつを手にできる。それはおかしいと思わないか?」


 どうやら、この男は公平性に欠けると言いたいらしい。


「つまり、俺も四回勝てと?」

「いや、お前は後から都合良く出て来た身だ。それを上回る五勝でお前の勝ちということにする」

「……お前が一勝するまでの間にか?」

「そうだ」


 そして、後から都合の良い場面で参加して来たことを理由に、こちらに不利な条件を提示して来た。


「……ちょっと待てよ。その代わりに三百万を賭け金にしたのだろう? そこにさらに条件を付け加える方がおかしいとは思わないのか?」


 だが、その不利過ぎる男の提案に対してリメットが異議を唱えた。


「待て。これは俺とこいつとの勝負だ。リメットは黙っていてくれるか?」


 これはあくまでも俺とこの男との勝負で、リメットは部外者だからな。彼女には悪いが、少し黙っていてもらうことにする。


「……良いのか? こちらが勝てる確率は三十二分の一で、明らかに不利過ぎる勝負だぞ? 分かっているのか?」

「そんなことは分かっている。俺がその程度の簡単な確率の計算もできないと思っているのか?」

「いや、そういうことではない。勝算はあるのかと聞いている」

「俺が不利な勝負に、それもわざわざする必要の無い勝負に乗るとでも?」


 一見すると三百万セルトを賭けた勝てる確率が三十二分の一の圧倒的に不利な勝負だが、当然、俺がそんな不利な勝負に乗るはずが無い。

 もちろん、勝てる見込みがあってこの勝負に乗っている。


「……分かった。ここはエリュに任せよう」

「ああ、任せてくれ」


 それを聞いたリメットは俺のことを信用して、こちらに全てを任せてくれた。


「リメットはそこで見ていてくれ」

「ああ。そうさせてもらう」


 そして、リメットは元居たテーブルから椅子を持って来て、シオンと一緒にこちらのテーブルの近くに座った。


「おい、勝負が始まるぞ!」

「やれやれー!」


 大金を賭けたゲームが始まると聞き付けて、周囲には人が集まって来ていた。

 他のテーブルで賭けをしていた者も一時中断して見に来ている。


「盛り上がって来たな。では、始めるか?」

「そうだな」


 そして、俺と男との三百万セルトを賭けたゲームが始められた。

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