episode164 各組織の再建計画

 個室に向かって資料を受け取った後はアーミラを部屋に呼んで、二人で資料の内容を確認していた。


「結構、被害が出てるみたいだね」

「そうだな」


 改めて資料に目を通してみたが、奇襲だったこともあり、かなりの被害が出ていた。


「他の街の組織も襲撃されたみたいだね」

「まあそれはそうだろうな」


 リグノートやリグサイドにいる組織を襲撃するだけでも戦力を削るという目的は果たされるが、それだと他の街にいる組織から人員を補充することで、比較的容易に立て直すことができるからな。

 同時に他の街にいる組織も襲撃しておくことで、更なる戦力の減殺げんさいをすると同時に立て直しを難しくしたのだろう。


「これだけ被害が出ているとなると、組織を統合するのが良さそうだな」


 これだけ被害が出ているとなると、それぞれで立て直すのは難しそうなので、ここは組織を統合するのが良さそうだった。


「統合するって言っても、どの組織を統合するつもりなの?」

「そうだな……まずは上が同じであることは条件の一つだな」


 統合する組織の条件の一つとして、まずは所属している組織が同じである必要がある。

 これらの組織がエンドラース家側に付いている組織であることには違いは無いが、全てがエンドラース家の直属というわけでは無い。

 エンドラース家側に付いている貴族などの配下の組織も多い、と言うよりそちらの方が圧倒的に多い。


 そして、上が違うと指揮権の問題などもあって統合するのは難しいので、所属している組織が同じである必要がある。


「それと、活動方針が同じか少なくとも近いことも条件だな」


 加えて、活動方針が近い組織であることも条件だ。

 活動方針が違う組織を統合しても仕方が無いからな。これも統合する条件の一つになる。


「そうだね。その上でどう統合するのが良いと思ってるの?」

「ふむ……こんな感じでどうだ?」


 適当な紙に統合案を書いて、それをアーミラに見せる。


「あれ? でも、違う所属の組織が混じってるよ?」

「まあ所属が同じでかつ活動方針が同じ組織を纏めるだけでは立て直しができそうに無いからな」


 所属が同じでかつ活動方針が同じ組織を纏めるだけでは人数が足りないからな。どうしても、他の所属の組織を組み込む必要が出て来る。


「違う組織と言っても、基本的には組み込んでいるのはエンドラース家の直属の組織だ。エンドラース家の直属の組織の者であれば、セミアスが指揮を任せれば指揮権なんかの問題は解決するからな」

「なるほどね」


 別の所属の者だと色々と問題が生じるが、一番立場の高いエンドラース家の組織から人員だけを派遣させる形を取れば、その問題は無くなるからな。俺が提示した方法で立て直せば何とかなるはずだ。


「それと、各街には必要最低限の戦力だけを残して、リグノートとリグサイドに戦力を集めたいな」


 今回の争いのメインとなる舞台はリグノートとリグサイドだからな。できるだけその二つの街に戦力を集めておきたい。


「入るわよ」


 と、ちょうど案が纏まったところで、ルミナが部屋に入って来た。


「ルミナさんか。タイミングが良いな。ちょうど案が纏まったところだ」

「あら、そうなのね。こちらも無事に話し合いは終わったわ」

「そうか」

「それで、そちらはどんな感じの案になったのかしら?」

「こんな感じだ」


 アーミラから統合案を記した紙を返してもらって、それをそのままルミナに渡す。


「……なるほどね。中々良い案じゃない。細かい調整は必要だと思うけど、これを原案にして問題無さそうね」

「そうか。それで、そちらはどうなったんだ?」

「こちらは商会を併合する方向で決まったわ」


 ルミナの方は最初の提案通りに三つの商会を併合する方向で決まったようだ。


「その日程は?」

「できるだけ早く併合するつもりよ。そんなに日程が気になるのかしら?」

「まあ護衛の兼ね合いもあるからな。できれば、予定がはっきりしているとありがたい」

「護衛? それなら明日から商会の重要人物の護衛をすれば良いじゃない」

「言い方が悪かったな。護衛の兼ね合いというのは、他の街から集める戦力に付ける護衛との兼ね合いだ。リグノートとリグサイドに戦力を集めようと思っているからな」

「なるほどね」


 他の街から戦力を集めるのは良いが、その者達には護衛を付けておきたい。

 と言うのも、街の外だと襲撃を受ける可能性が高いからだ。


 街の外であれば襲撃しても魔物のせいにするなどして足を付けずに処理することができるからな。

 街の外での襲撃は何かと都合が良いので、街の外で襲撃して来る可能性は高い。


「それなら、こちらに来るまでの日程も細かく調整する必要がありそうね」

「そうだな」

「とりあえず、この案は良さそうだから、このまま詳細を詰めましょうか」

「ああ」


 そして、その後はルミナと相談して、その詳細を詰めていった。






 俺達がセミアスの元を訪れてから三日が経過して、商会の拡大の件が本格的に動き出していた。


「慌ただしそうだね」

「そうだな」


 三つの商会は併合することになったので、それに伴ってそれらの商会の者はかなり忙しそうにしていた。


「これでマーチャット商会に次ぐ規模の商会になったわけだが、問題は今後どうなるかだな」


 併合することになったのは良いのだが、これがうまく行くのかどうかはまだ分からない。

 最悪、折り合いが付かずに分裂する可能性もある。


「話し合いはうまく行ったし、必要なら私が指示するから多分大丈夫よ」

「そうか」


 ここはルミナが指揮することになりそうなので、彼女の手腕が問われるところだな。


「それじゃあエリサ達を迎えに行きましょうか」

「そうだな」


 今日はエリサ達がこちらに合流する日で、そろそろ到着するはずだからな。

 ルミナがいないと面倒なことになる可能性が高いので、早速、彼女達を迎えに行くことにした。






 ルミナと共に街の門に向かうと、そこでは馬車に乗ったエリサ達が検問待ちの列に並んでいた。


「無事に着いたようだな。とりあえず、順番になるまで待っておくか」

「そうね」


 今行っても仕方が無いので、とりあえずエリサ達の順番が回って来るまで待つことにする。


「エリサ達の順番だな。では、行くか」

「ええ」


 そして、エリサ達の順番が回って来たところで、合流しに向かう。


「ちょっと良いかしら?」

「誰かと思えばルミナ殿ですか。どうか致しましたか?」

「私が呼んでおいた子達が来たから迎えに来たのよ。通してくれるかしら?」

「分かりました。それでは、身分証を確認させていただきます」


 ルミナに急かされた兵士はすぐにエリサ達の身分証を確認していく。


「……そちらの方々は?」


 だが、ここで兵士は身分証の無い元奴隷達を見てそんなことを尋ねた。


「あら? 見て分からないのかしら?」


 それに対してルミナは一言そう言うと、兵士に対して無言の圧力を掛けた。


「……分かりました。通ってください」


 すると、兵士はそれ以上何も聞かずに通してくれた。


「あんな強引な感じでも通してくれるなんて、流石はエンドラース家ね」

「たまには役に立つでしょう?」

「そうね」

「それじゃあその子達が泊まれるアパートを作っておいたから、とりあえずそこに向かいましょうか」

「分かったわ」


 そして、エリサ達と合流したところで、そのままアパートへと向かった。






 それから俺達も一緒に馬車で移動して、しばらくしたところで目的のアパートに着いた。


「着いたわよ」

「これがあなたが作ったアパートなのね。思ったよりも立派な建物ね」


 アパートは作りのしっかりした二階建てで、二日で作ったとは思えないような出来だった。


「一部屋に二人になるから狭いと思うかもしれないけど、それは我慢してね」


 さらに、各階五部屋で計十部屋あるので、これであれば一部屋に二人泊まることで、二十人全員が泊まることができる。


「いえ、泊めていただけるだけで十分です」

「捕まる前に住んでいたところよりも良いぐらいです」

「これでも捕まる前よりも良いって……奴隷にされる前はどこに住んでいたんだ?」

「スラム街の廃墟に住んでいました。寒い季節は隙間風が寒かったのをよく覚えています」

「……そうか。悪いな、辛いことを思い出させて」


 ここにいる二十人は全員孤児だったらしいしな。考えればある程度は予測できることだったか。


「いえ、気にしないでください。そのぐらいは平気なので」

「そうか」

「ところで、これを本当に二日で作ったのか?」


 ここで話は変わって、アルフがルミナにアパートについてのことを尋ねた。


「ええ、そうよ。驚いた?」

「ああ。たった二日でこんなちゃんとした建物ができるとはな」

「作ろうと思ったらもっと早く作れたけど、他にも色々とすることがあったから、少し時間が掛かったわね」

「これでも時間が掛かった方なのか」


 それを聞いてアルフは少し驚いた様子だ。


「これでも彼女はトップクラスの錬成魔法の使い手よ。だから、この程度なら簡単に作れるわ」

「そうなのか」

「とりあえず、二人一組になってくれるかしら?」

「分かった」


 そして、元奴隷達は言われた通りに組を作っていく。


「決まったようね」

「ああ。それで、あたし達はこの後はどうすれば良いんだ?」

「あなた達は無理をせずに事が済むまで休んでいると良いわ」

「手伝えることは無いのか?」

「無くはないけど、無理しなくても良いわよ」

「いや、手伝えることがあるんだったら手伝わせてくれ」


 エリサは無理をしなくても良いと伝えるが、よほど恩返しがしたいらしく、手伝いを申し出て来た。


「……ルミナ、どうするの?」

「そうね……それじゃああなた達には商会の護衛をしてもらおうかしら」

「分かった。それで、あたし達はどうすれば良いんだ?」

「今日の護衛のシフトは決まっているから、明日に備えて休むと良いわ。今日の夜までにはシフトを組んで伝えるわね」

「分かった」


 そして、話が纏まったところで、元奴隷達はそれぞれの部屋に向かった。


「……俺達も行くか。準備はできているな?」


 元奴隷達の案内は終わったが、こちらはこちらですることがあるからな。

 できるだけ早く出発したいので、シオンとエリサに準備ができているか確認を取る。


「できてるよー」

「問題無いわ。それじゃあルミナ、行って来るわね」

「ええ。気を付けて行ってらっしゃい」


 そして、準備が整っていることを確認したところで、俺、シオン、エリサ、アーミラの四人で裏口へと向かった。






 その夜、オールドイスはいつものように定期報告の資料を眺めていた。


「今よろしいでしょうか?」

「構わん。入れ」


 そこにイヴリアに代わって正式に『護邸近衛団バトルサーヴァント』のリーダーになったメイドが入って来る。


「報告か?」

「はい。エンドラース家の組織に大きく動きがありました」

「動き?」

「はい。他の街のエンドラース家の裏組織のいくつかが街を出たようです。恐らく、この街にいる組織と合流しようとしているのかと」


 報告というのは、いくつかのエンドラース家の裏組織が一斉に街を出たことが確認されたということだった。


「そうか」

「いかが致しますか?」

「すぐに襲撃を掛けたいところだが……少し考えてからにしたいな」

「すぐに襲撃しないのですか? 街の外であれば襲撃に適しているとは思いますが?」


 街の外であれば襲撃しても足を付けること無く処理できるので、一見チャンスのように思える。


「ルミナが関わっている以上、その程度のことは想定して対策されている可能性が高い。下手に手を出せば、返り討ちに遭うことも考えられる」


 だが、ルミナはセミアスと違って切れるので、そのことを想定して対策している可能性は十分に考えられた。


「ルミナが関わっていることは確実なのですか?」

「商会の併合をしたようだが、明らかに手際が良すぎるからな。ルミナがセミアスから指揮権を奪って動かしている可能性が高い」


 エンドラース家が抱える三つの商会が併合したことは今日の報告で確認したが、既に新体制での営業が始まっているとのことだった。

 併合するには色々と話をしたり動いたりする必要があるが、それが迅速にかつ外部に情報が漏れないように行われていた。

 その手際はとてもセミアスにできるものとは思えないので、少なくとも商会の併合の件にルミナが関わっているということは間違い無さそうだった。


「確かに、それもそうですね。では、どう致しますか?」

「ひとまず、様子見をさせる。各所に手配しておけ」


 なので、ここは下手に手を出さずに様子見をさせることにした。


「畏まりました。それと、もう一つ報告が」

「何だ?」

「エリュ、シオン、エリサ、アーミラの四人が姿を消しました」

「姿を消した? どういうことだ?」

「はい。いつものように四人の監視をしていたのですが、見失った一瞬の隙に姿を消しました」


 報告によると商業施設の中の人通りの少ない場所に入られて、その一瞬見失った隙に姿が消えたとのことだった。


「すぐに周辺を探さなかったのか?」

「探しましたが見付かりませんでした」


 当然、他の組織の者も使ってすぐに周辺を探させたが、彼らを発見することはできなかった。


「それどころか、それ以降彼らは街中を探しても見付かりませんでした」

「街を出られたのか?」

「いえ、裏口も含めて街の出入口は全て張っていましたが、四人が街を出た形跡はありませんでした」


 もちろん、街の出入口は常に張っているが、四人が街を出た形跡は無かった。


「奴らの姿すら見当たらないだと?」

「はい。残念ながら」

「…………」


 それを聞いて、オールドイスはこれまでのことを振り返りながら考え込む。


「光魔法による幻影か?」


 そして、彼は一つの答えを導き出した。

 彼の出した答えは光魔法による幻影を纏っていたというものだった。


「確かに、その可能性はありそうですね」


 そうだとすれば、今までの地下闘技場の襲撃や今回の件も説明が付くので、その可能性は十分に考えられた。


「しかし、そうだとすると高度な術式が必要になりますね」


 だが、幻影を纏うだけならともかく、他の者が見ても分からないほどに完璧に動きに合わせた幻影を維持するには、高度な術式が必要になる。


「ルミナが信頼を置いてメインに動かしているぐらいだ。その程度であればできてもおかしくはない」


 そうは言っても、あのルミナが信頼を置いて使っているとなればかなりの使い手である可能性が高いので、そのぐらいのことができても驚きはしない。


「それもそうですね。それを踏まえた上でどうしますか?」

「とりあえず、予定に変更は無い。街を出たエンドラース家の裏組織の奴らの監視をするように連絡しておけ」

「畏まりました。それでは失礼します」


 そして、指示を受けて『護邸近衛団バトルサーヴァント』のリーダーのメイドは各所に連絡を始めた。

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