episode165 盗賊団との交渉

 リグノートを出た俺達は俺とアーミラ、シオンとエリサの二組に別れて行動していた。


「……そろそろ動きがある頃か。一旦、連絡を取るか」

「そうだね」


 時間的にそろそろ動きがある頃だと思われるので、ここで一度連絡を取ることにした。

 端末を操作してエリサとルミナと通信を繋ぐ。


「エリサ、ルミナさん、今話せるか?」

「こちらは大丈夫よ」

「こちらも問題無いわ」

「そうか。では、ルミナさん、状況を報告してくれるか?」


 とりあえず、話をする時間はあるようなので、早速、状況の確認をしてみることにした。


「分かったわ。とりあえず、は無事に出発したわ」

「そうか。第一陣に気付かれた様子は?」

「今のところ無いわ」


 そう、実は今回出発したのは第二陣だ。第一陣は気付かれないようにこっそりと二日前に出発している。


「そうか。第二陣にする予定の部隊に敢えて怪しい動きをさせたのは正解だったな」


 第一陣の部隊から目を逸らすために第二陣にする予定の部隊には敢えて怪しい動きをさせていたが、そのおかげもあってか第一陣の存在には気付かれていないようだった。


「第二陣の二重尾行用の部隊からの報告は?」

「第二陣の部隊の様子見をしているらしいわ」


 二重尾行用の部隊というのは、その名の通りに第二陣の部隊の動きに気付いて動いて来たルートライア家の部隊を監視するための部隊だ。

 わざと目立たせているぐらいだし、第二陣の部隊の動きには気付かれるだろうからな。第二陣の部隊に仕掛けて来ることを想定して用意しておいたのだ。


「仕掛けて来てはいないのか?」

「ええ。様子を見ているだけみたいよ」

「そうか。敵の動きはどんな感じだ?」

「概ね予想通りの動きよ。予想外なのは、仕掛けて来ていないことぐらいね」

「ふむ、そちらも同じか」


 俺達が監視している部隊もそうだが、どの部隊も監視をするだけで動いていないようだった。


「となると、少し予定を変えても良いかもしれないな」

「そうね」


 元々の予定では襲撃を仕掛けて来たところを迎撃するつもりだったが、この様子だとしばらく動きは無さそうなので、少し予定を変えるのも良さそうだった。


「とりあえず、街までの移動ルートを変更してみるか? うまくやれば敵を纏めて叩くことができると思うぞ?」


 元々の予定では襲撃がすぐに来ることを想定していたが、そうでないのであれば合流させる余裕がある。

 なので、うまく合流させて敵を纏めることができれば纏めて叩き潰すことができる。


「確かに、それは良さそうね。ルミナもその方向で良いかしら?」

「ええ。それで構わないわよ」

「では、詳細を詰めるか」


 そして、方針が決まったところで、三人で相談しながら計画の詳細を詰めることにした。






 翌日、俺達は朝からある場所に向かっていた。


「確か、この辺りのはずだが……あったな」


 しばらく空を飛んで移動したところで、目的の場所は見付かった。


「アーミラ、適当な姿に変えてくれるか?」


 このままの姿で行くわけにはいかないので、まずはアーミラに姿を変えてもらうことにした。


「分かったよ」


 アーミラは手の平に展開した魔法陣から自身の血を出すと、それを俺と自身に纏わせてその姿を変えた。


「リュークスはこのまま上空で待っていてくれ」

「グルッ!」

「では、行くか」

「だね」


 そして、姿を変えてもらったところで、リュークスから飛び降りて、目的地から少し離れた場所に着地した。


「交渉は俺がする。アーミラは基本的に何もしなくて良いぞ」

「分かってるよ」


 アーミラに交渉ができるとは思えないからな。ここは俺が交渉をすることにする。


「では、行くぞ」


 そして、この後のことを確認したところで、歩いて目的地に向かった。






 それから少し歩いたところで、無事に目的地に到着した。


「あの洞窟が盗賊団がアジトにしてるっていう洞窟?」

「情報が正しければな」


 俺達がやって来た場所はとある盗賊団がアジトにしているという洞窟だった。

 何故こんな場所に来ているのかと言うと、盗賊団と交渉をするためだ。


 もちろん、交渉の内容はルートライア家の組織への襲撃の協力だ。

 俺達だけで襲撃を行っても良いのだが、協力してくれれば襲撃箇所を増やせて楽になるからな。そのための交渉だ。


「では、行くぞ」


 このままここで様子を見ていても仕方が無いので、早速、洞窟に向かうことにする。


(中には……人がいるようだな)


 洞窟の前で気配を探ってみると、洞窟内にはかなりの人数がいることが分かった。

 情報によると、五十人規模の組織とのことなので、まあこんなものだろう。


「誰か来るみたいだよ」

「分かっている」


 だが、ここで俺達の存在に気が付いたのか、洞窟内から誰かがこちらに向かって来ていた。


「何だお前達は?」


 そして、洞窟から明かりを持った二人組の男が現れた。

 二人ともいつでも戦えるように皮製の防具を装着していて、腰には剣を装備している。


「お前達のリーダーに用がある。会わせてくれ」


 交渉するにはリーダーと直接話をする必要があるからな。まずはリーダーに会わせるように伝える。


「はあ? いきなり何言ってやがる。お前らのような得体の知れない奴らに会わせてやるわけがないだろ!」


 しかし、その申し出はあっさりと断られてしまった。

 まあいきなり現れてリーダーに会わせろと言っているわけだからな。向こうからすれば得体の知れない連中なので、それも無理は無い。


「良い話を持って来てやったのだが……話ぐらいは聞いてみたらどうだ?」

「んなもん聞くまでもねえよ! さっさと死にな!」


 話を聞くよう求めるが、二人は聞く耳を持たずに剣を抜いて斬り掛かって来た。


「全く……素直に話を聞けば良いものを……。はっ……」

「えいっ!」

「ぐはっ!」

「ぐっ……」


 俺達は右足を一歩分引いて、次の動作の構えを作りながら、剣の側面を弾いて斬撃の軌道を変えることでそれを躱して、そのまま手の平で敵の胸のあたりを突いて弾き飛ばす。


「お前達は客人を追い出すように言われているのか?」

「…………」


 弾き飛ばされて仰向けに倒れている二人を見下ろしながらそんな質問を投げ掛けるが、二人は黙ったままだった。


「おい、どうした!」


 と、ここで騒ぎを聞き付けた盗賊団の他のメンバーが駆け付けて来た。


「ちょうど良い。こいつらでは話にならないと思っていたところだ。お前達のリーダーに話がある。案内してくれないか?」

「リーダーに何の用だ?」

「良い話があってな。そのことについて話をしようと思って来た」

「……内容は?」

「良いカモを見付けてな。そのことについて話をしに来た」

「そうか。…………」


 盗賊団の男はそれを聞いて考え込む。


「どうした、お前ら?」


 と、ここで奥からさらに一人の男が現れた。

 その男は宝石の付いた指輪や首飾りなどの装飾品を着けていて、盗賊とは思えないような身なりをしている。


「お頭、突然こいつらが良い話があると言って現れて……」


 すると、先程の男がその男に向けて事情を説明し始めた。

 どうやら、この男が盗賊団のリーダーのようだ。


「……お前ら、何者だ?」

「こういう者だ」


 ここでリーダーだと思われる男に身分証を渡す。


「……これだけでは分からんな」

「端的に言うと俺達はハイスヴェイン家の者だな」


 今の俺達は地下闘技場の襲撃の際に使ったハイスヴェイン家の組織の者に姿を変えている。

 もちろん、この身分証も奴らの物だ。


「そのハイスヴェイン家の奴らが何の用だ?」

「少し協力して欲しいことがあってな」

「協力だと?」

「ああ。少し話を聞かないか?」


 話はできそうなので、早速リーダーの男に交渉を申し出る。


「タダで協力してやると思ってるのか?」

「協力して欲しいこととは別に良い話を持って来ている。どうだ?」


 もちろん、タダで協力してもらえるとは思っていない。こちらは対価となる情報を持って来ている。


「……良いだろう。話ぐらいは聞いてやる。こっちに来い」


 リーダーの男はそれを聞いて話をする気になったらしく、俺達はそのまま洞窟内に案内された。


(流石に洞窟内には明かりが設置されているようだな)


 洞窟内にはところどころに明かりが設置されていて、生活ができるようになっていた。


「入れ」


 そして、俺達は会議室のような部屋に案内された。


「それで、依頼とは何だ?」


 全員が席に着いたところで、早速リーダーの男が依頼の内容を尋ねて来る。


「依頼というのはある組織への襲撃だ」

「どこの組織だ?」

「ルートライア家の組織だ。詳細は話が決まったら話す」


 もちろん、依頼の内容はエンドラース家の第二陣の部隊を監視しているルートライア家の組織の襲撃だ。


「そうか。それで、良い話とは何だ?」

「ある貴族が金品の保管場所を変えるためにそれらを運び出すらしくてな。俺達はその情報を掴んでいる」

「ほう? それは期待できそうだな」

「そうだろう? 依頼を受ける気にはなったか?」

「……ひとまず、依頼の襲撃についての詳細を話せ」


 どうやら、報酬である情報に魅力を感じたらしく、内容次第では受けるつもりのようだ。


「襲撃対象はルートライア家の裏組織。五日後にこの辺りを通るはずだ」


 まずは地図を広げて襲撃予定の場所を指し示す。


「数は?」

「二十五人ほどだ」

「二十五人か……まあ何とかなりそうだな」


 人数を聞いて人数差でどうにかなると思ったのか、依頼を受けることに乗り気のようだ。


(実力の確認はしないのか)


 人数差さえあればどうにかなると思っているようだが、実際のところはそんなことは無い。人数差以上に実力は重要だ。


 実力者がいるとそれ一人に戦況をひっくり返される可能性があるからな。

 そのため、敵の実力を確認するのは当然なのだが、それを怠っている時点でこの盗賊団の熟練度は察することができる。


「では、依頼は受けるということで良いのか?」

「それはお前達の持っている情報次第だな」

「そうか。では、詳細を話してやる」


 依頼に乗り気のようなので、報酬である話の詳細を話してやることにした。


「……と言いたいところだが、この情報を教えるのは依頼を達成してからだ」

「……それで俺達が依頼を受けるとでも思っているのか?」

「そう言うと思って、前払いの報酬を用意しておいたぞ」

「ほう?」


 依頼の前に本命である情報を教えてしまうと、報酬を持ち逃げされる可能性があるからな。本命である情報を教えるのはこちらの依頼を達成してからだ。


 だが、それだと依頼を受けてくれない可能性があるので、こちらが先に提供する前払いとなる情報を用意しておいたのだ。


「聞かせてみろ」

「裏マーチャット商会が大きな被害を受けたのは知っているか?」

「いや、知らんな」


 かなり大きな出来事なので知っていて然るべきだとは思うが、盗賊団はここに籠っているせいなのかそのことを知らないようだった。


「そうか。まあ知らないのであればそれはそれで良い。とにかく、裏マーチャット商会はある事件で大きな被害を受けて立て直しのために動いている。そして、そのために他の街から商品を運んで来ているのだが、その護衛がかなり手薄なようでな。その情報を前払いの報酬として提供する」

「詳しく聞かせろ」

「運搬部隊の人数は五人。二日後にこの辺りを通るはずだ」

「たった五人か。余裕そうだな」

「そうだろう?」


 相変わらず人数で判断しているようだが、その判断基準でどうなろうとも俺の知ったことでは無いので、気にせずに話を進めることにする。


「それで、運んでいる商品とやらの内容は分かってるのか?」

「詳しくは分かっていないが、裏ルートで流通させるような物だと思われる。だが、楽な仕事だし悪くは無いと思うぞ?」


 裏ルートで流通させるような物だと捌くのが面倒だが、かなり楽に奪うことができるからな。捌くのに手間が掛かるというデメリットを考えても割に合うはずだ。


「……良いだろう。その話に乗ってやる」

「そうか。では、お前達は襲撃場所の近くで待機しておいてくれ」

「お前達は襲撃に参加しないのか?」

「ああ、少し用があるからな。俺達は襲撃には参加しない。相手は五人だけだし、お前達だけでもどうにかできるだろう?」


 俺達は暇では無いからな。色々とすることがあるので、襲撃は彼らに任せることにする。


「もちろん、奪った物はお前達が全て持って行って良いぞ」

「そうか。それなら文句は無い」

「では、俺達はそろそろ行かせてもらう」


 そして、話が纏まったところで、俺達は盗賊団のアジトである洞窟を後にした。






 洞窟を出た俺達はリュークスに乗ってリグノートの方向に向かっていた。


「……エリュ、ちょっと聞いても良い?」

「何だ?」

「貴族が金品の保管場所を変えるために運び出すって言ってたけど、そんな情報どこで手に入れて来たの?」

「いや、あれは嘘だぞ。そんな話は存在しない」


 報酬としてこちらの知っている情報を渡すと言ったが、あの話は嘘だ。

 そもそも、ある貴族が金品の保管場所を変えるために運び出すという話自体が作り話なので、存在しない。


「もしかして、裏マーチャット商会が商品を運んでるっていう話も?」

「ああ、それも嘘だ」


 さらに、前払いの報酬として提供したその話も作り話だ。


「それも嘘って……貴族の話は依頼が終わった後だから問題無いけど、前払いの報酬として話した裏マーチャット商会が商品を運んでるっていう話の方はどうするの? それが嘘だってバレたら依頼は受けてくれないよね?」


 アーミラの言う通りにメインの報酬の話の方は依頼が終わった後なので問題無いが、前払いの報酬の話の方は依頼の前なので、何とかする必要がある。


「そこはちゃんと考えてある。そのためにリグノートに向かっているのだからな」


 だが、当然そのことも既に考えてある。そうでなければあんな話などしていないからな。


「そうなんだ。それで、どんな計画なの?」

「まずは俺達が裏マーチャット商会を襲撃して商品を奪う。そして、それをヴァルトの分身に馬車を使って運搬させることで、裏マーチャット商会が商品を運んでいるように見せ掛けて、それを襲撃してもらうといった感じだな」


 アデュークとヴァルトはイヴリアの護衛をしている振りをしていたが、それを監視していたルートライア家の者が既に退いているので、二人は現在フリーの状態だ。


 さらに、それに伴って馬車も必要無くなったので、ここはヴァルトに協力してもらって裏マーチャット商会が商品を運んでいるという状態を演出することにする。


「分かったよ」

「と言うことで、まずはヴァルトに連絡を取るぞ」


 俺は端末を取り出して、協力してもらうヴァルトに連絡を取る。


「どうした? 我に何か用か?」

「少々協力してもらいたいことがあってな」

「そうか。言ってみろ」


 そして、ヴァルトに盗賊団との交渉のことと今回の計画のことを話した。


「ふむ……つまり、我は適当に五体の分身を使って戦わせれば良いのだな?」

「ああ。ただし、分身は撤退させるようにしてくれ。残すと怪しまれる可能性が高いからな」


 分身は血でできているので、倒されたように見せ掛けて残してしまうと不審な点に気付かれてしまう可能性が高い。

 なので、分身は必ず撤退させるように言っておく。


「当然その程度のことは分かっている。我に任せておけ」

「では、そちらは襲撃予定の場所近くで待機していてくれ。何かあったら連絡する」

「分かった」


 そして、話が済んだところで、通信を切った。


「話は纏まったみたいだね」

「ああ」


 すぐに計画の内容を理解してくれたからな。話はすぐに纏まった。


「では、さっさとリグノートで必要な物を取って来るか」

「だね。リュークス、急ぐよ!」

「グルッ!」


 そして、必要な物を調達しに俺達はリグノートへと急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る