episode159 地下闘技場の襲撃

 その夜、予定の時刻が近付いて来たところで、変装をして地下闘技場へと向かった。

 今回は昨夜殺したハイスヴェイン家の組織の者に変装している。


「何か上にはあまり人がいなかったね」

「そうだな」


 地下闘技場に続く階段を下りる前に商業施設の方を見てみたが、シオンの言う通りに何故か商業施設にはあまり人がいなかった。


「裏マーチャット商会の裏品目の品の一斉入荷を行うから、今日の夜は彼らの営業する店は休業なのよ」

「なるほどな」


 店の関係者しかいなかったので、あまり人がいなかったということか。


「……内部の地図は頭に入っているわね?」

「当然だ」


 イヴリアからの情報で内部の地図の情報は持っていて、その内容も確認してある。

 なので、地下闘技場の構造についてはバッチリだ。


「アーミラも準備は良いわね?」

「うん。いつでも行けるよ」

「それじゃあそろそろ時間だから合わせてくれるかしら?」

「分かったよ」


 エリサは端末で時刻を確認して、正確に時間を計る。

 そして、二人は時間に合わせて魔法陣を展開した。


 一直線上に等間隔で並んだ三つの魔法陣は一つの術式を組み上げていて、複合術式による術式が展開されている。

 魔法陣はそれぞれ十セットずつ展開していて、その狙いは爆破予定地点に向けられていた。


「それじゃあ行くわよ」

「うん!」


 そして、それらの魔法が放たれると同時に仕掛けておいた術式が起動して、地下闘技場の天井が爆破された。


「きゃーー!?」

「何だ何だ!?」


 突然の爆発で観客はパニックに陥る。


「アーミラ!」

「分かってるよ!」


 その混乱に乗じて、アーミラは空間魔法で昨日、俺達が殺したハイスヴェイン家の者の死体を取り出して、それらに自身の血を纏わせた。

 すると、それらの死体が一斉に動き始めた。


 もちろん、死体が勝手に動いているわけでは無い。これらはアーミラが纏わせた血を操作することで動かしている。


「あなたは死体の操作に集中しなさい。私がここを崩すわ」

「分かったよ」


 思った通り、予定箇所を爆破しただけでは崩落しなかったので、エリサが追加で爆撃を行うようだ。


「あなた達も行きなさい」

「分かった。シオン、リメット、行くぞ」

「うん」

「ああ」


 エリサ達の方は大丈夫そうなので、そろそろ俺達も動くことにした。

 三人で闘技場に飛び降りて、そのまま火魔法で門を爆破して破壊して、内部に侵入する。


「何が起こっている! ぐはっ……」


 俺はそこにいた職員の男を斬り捨てて、そのまま奥を目指す。


「目指すのは研究室だったよな?」

「ああ、そうだ。そこに研究資料はあるはずだ」


 俺達が最初に目指す場所は研究室だ。目的の研究資料はそこにあるはずだからな。

 まずは一直線にそこを目指すことにする。


「……待て」


 順調に通路を進んでいたが、曲がり角の前にまで来たところで二人を静止した。


「何だ?」

「この先にいる。天井に張り付け」


 この先に職員、いや、この様子から察するに警備の兵士がいるようだった。

 なので、それをやり過ごすために、見付からないように曲がり角の天井に張り付くことにする。


「張り付くと言っても、どうするんだ?」

「……俺に掴まれ」


 説明している暇は無いので、リメットを肩に担ぎ上げて真上に跳んで、そのまま天井に刀を突き刺して天井に張り付く。

 すると、その直後に兵士達が俺達の下を通過して行った。


「よっと……では、行くか」


 全員が通過したことを確認したところで、下りて刀を納刀する。


「案外、気付かないんだな」

「奴らは騒ぎになっている闘技場に向かうことに気を取られていて、そちらの方向にしか注意が向いていないからな。以外とこういうところに隠れると見付からないぞ」

「つまり、心理の隙を突いたということか」

「まあそんなところだな。避けられそうな敵は避けて行くぞ」


 基本的に敵は上の二人に任せた方が良さそうだからな。避けられそうな敵は可能な限り避けていくことにする。


「分かったよ」

「分かった」


 そして、警備兵をやり過ごした俺達は再び通路を駆け始める。


(また警備兵が来ているな)


 それからしばらくは敵がいなかったが、気配を感じたところで聞き耳を立てて周囲の様子を探ってみると、警備兵と思われる者が迫って来ていることが確認できた。


(近くの部屋には……二人いるな。見たところ、戦闘員では無いようだな)


 近くの部屋の様子を探ってみると、そこには二人いるようだった。

 その足音などから察するに、そこにいるのは戦闘員では無いようだった。


「次はそこの左の部屋に入るぞ。中には二人いる。即座に仕留めるぞ」

「分かったよ」


 部屋の前にまで来たところで、扉を勢い良く開ける。

 そして、それと同時に風魔法を使って素早く飛び出して、こちらを振り向かれる前にその首を斬り落とした。


「リメットも早く入れ」

「ああ」


 リメットも部屋に入ったところで扉を閉める。


「ふむ……こいつらは奴隷の管理をしていたようだな」


 部屋にあった資料を軽く見てみると、そこにあったのは奴隷の記録だった。


「奴隷の記録か!?」


 それを聞いて、リメットがすぐに飛び付いて来る。


「ここにお前の妹の記録は無いだろうし、この記録はイヴリアからの情報の中にあると思うが、一応持って行くか」


 この記録はイヴリアからの情報の中にあるとは思われるが、確実にそうだとは言えないので、これらの資料を持って行っておくことにした。

 俺とシオンで空間魔法で資料を片っ端から収納していく。


「さて、警備兵も行ったようだし、そろそろ行くか」

「だね」


 資料を収納している間に警備兵は通り過ぎて行ったようなので、もう部屋を出ることにした。

 資料を収納し終えたところで、部屋を出て研究室を目指す。


「さて、ここが研究室だな」


 そして、最短ルートで通路を駆け抜けて研究室にまで辿り着いた。


「研究資料の回収が最優先だったな?」

「ああ。研究資料の情報はイヴリアも持っていなかったからな。ここの資料の回収は最優先事項だ」


 研究資料の内容についてはイヴリアも知らなかったからな。こちらの持っていない情報なので、資料は確実に回収したい。


「……中には三人。全員、戦闘員では無いな」


 中の様子を探ってみると、中にいるのは三人で、全員、戦闘員では無いようだった。


「じゃあさっきと同じように殺っちゃえば良い?」

「ああ。俺が二人殺る。シオンは左の一人を片付けてくれ」

「分かったよ。それじゃあ行くよ!」


 そして、先程と同じように勢い良く扉を開けて、そこにいた三人を素早く斬り捨てた。


「さて、資料は……このあたりにある物がそうか?」


 近くにあった棚の中を確認すると、そこにはそれらしき資料が入っていた。


「みたいだね」

「では、資料を集めてくれ。警戒は俺がしておく」

「分かったよ」

「分かった」


 そして、敵を警戒しながら三人で協力して研究資料を集めていく。


「ふむ、こんなものか」

「少ないね」


 ここにある資料を全て集めてみたが、思っていたよりも遥かにその量が少なかった。


「資料の記録は……最近の物と研究において重要になる物しかないようだな」

「つまり、定期的に持ち出されてるってことか」

「まあそういうことだな」


 資料の記録に目を通してみるが、記録は最近の物と研究において重要になる物しか無かった。

 なので、資料は定期的に持ち出されていると見て間違い無さそうだった。


「となると、他の資料は本家か?」

「そうだろうな。とりあえず、ここにある資料を全部持って行くか」

「そうだな。では、頼んだぞ」

「ああ」


 これだけだとヴァージェスは満足しなさそうだが、ひとまずここにある資料は全て持って行くことにした。空間魔法を使って研究資料を全て収納する。


「後は適当に敵を片付けて奴隷や魔物を解放すればあたし達の仕事は終わりか」

「そうだな」


 俺達の仕事は敵を片付ける他に奴隷や魔物の解放が残っている。

 奴隷や魔物を解放するのは混乱をさらに広げるためだ。

 混乱を広げれば後処理に手間を取らせることができるからな。奴隷と魔物を解放してからここを出ることにする。


「管理部屋はすぐそこだな。行くぞ」

「うん」

「ああ」


 研究室の資料は無事に回収し終えたので、研究室を出てその部屋を目指す。


「ここだな」


 管理部屋は近くにあったので、すぐに着いた。


「管理者はいるが、戦闘員はいないな」

「ここにも戦闘員がいないのか?」

「ああ。どうやら、騒ぎのあった闘技場の方に回されているようだな」


 普段であれば魔物が暴れた際に備えて各所に戦闘員がいるのだが、エリサ達が暴れている闘技場側に回されているようで、ここにも戦闘員はいないようだった。


「まあ狙い通りではあるな」


 闘技場であれだけ派手に暴れれば、対応のために戦闘員は動かざるを得ないからな。

 そして、その対応のために戦闘員を闘技場に向かわせれば他のところは手薄になるので、こちらは動きやすくなる。狙い通りだ。


「では、行くぞ」


 準備ができたところで、部屋の扉を開いて中に突入する。


「何だ!? ぐわっ……」


 そして、そこにいた管理者達を魔法銃で素早く始末していく。

 魔法銃は威力が低いので実力者相手には役に立たないが、こういう場面ではかなり役立つ。


「全員片付いたようだな。では、適当に奴隷を牢から解放していくぞ」


 奴隷と魔物は別の部屋で管理されているので、ここにいるのは奴隷だけだ。

 なので、まずは奴隷から解放していくことにする。


「鍵はどうするんだ?」

「そんな物壊せば良いだろう。……む?」


 錠前を壊そうと刀を振り下ろしたが、錠前には傷一つ付いていなかった。

 軽く魔力を込めていたので普通の錠前であれば壊れているはずだが、傷すら付いていなかった。


「ふむ……どうやら、錠前は錬成魔法で作られた物のようだな」


 錠前を詳しく見てみると、錬成魔法で作られた強度の高い物のようだった。


「壊せなくはないが……少々面倒だな」


 見たところ、壊せはするが、数も多く全て壊すのには少々手間が掛かる。


「だったら、こうすれば良くない? えいっ!」


 そう言うと、シオンは錠前ではなく牢に向けて二発の斬撃を放った。

 すると、牢の連子が切断されて、ただの金属の棒と化した物が地面を転がった。


「……確かに、それが良さそうだな」


 転がっている連子だった物を拾い上げて確認してみると、連子は普通の金属でできているようだった。

 なので、錠前を壊すよりも牢の連子を斬った方が良さそうだった。


「シオン、リメット、連子を斬るぞ」

「分かったよ」

「分かった」


 そして、三人で牢の連子を斬って奴隷達を牢から解放していく。


「さて、後は魔物を解放するだけだな……む?」


 奴隷を全員解放したので魔物を解放しに行こうとしたが、そこで一人の奴隷の少女に裾を掴まれた。


「何だ? 何か用か?」

「あの……助けてくださるのですか?」


 そして、そんなことを聞いて来た。


「……別にそんなつもりは無い。お前達を解放するのはただの手段だ」


 奴隷を解放する目的はより混乱を広げるためだからな。彼女達を助けようと思って解放したわけでは無い。


「そんなに言わなくても良いだろう? 安心しろ。もう大丈夫だ」

「……勝手に話を進めないでくれるか?」

「……エリュは人に優しくできないのか?」

「その必要が無い」

「だったら、黙っててくれ。お前達、立てるか?」


 俺の様子を見たリメットは突き放すようにそう言うと、奴隷達に優しく手を差し伸べた。


「なあ、この手枷を外してやれないか?」


 そして、俺にそんなことを聞いて来た。

 当然ではあるが、奴隷には勝手なことができないように全員に手枷が付けられている。

 なので、それを外してくれとのことのようだ。


「ふむ……どうやら、普通の手枷では無いようだな」


 確認してみると、錬成魔法で作った物であることはすぐに分かった。


「それに、魔力を封じ込めるような仕組みになっているようだな」


 さらに詳しく確認すると、この手枷は魔力を封じ込めるような仕組みになっていた。

 思えば、魔力が普通に使えるのなら牢を壊せるので、そうなっているのも当然か。


「壊せないのか?」

「壊せるとは思うが、腕が無事で済むかと言えば怪しいところだな」


 一応、壊せるとは思うが、壊そうと思ったらそれなりに威力のある攻撃をする必要があるので、腕が無事では済まない可能性がある。


「そうか……」

「だが、鍵は物理的な物だけで、魔法での鍵は掛けられていないな」

「と言うと?」

「鍵があれば開けられるし、無くとも一手間掛ければ開けられる」


 魔法で鍵が掛けられていると、解錠のための術式が必要になる。

 しかし、この鍵は物理的な物だけなので、最悪ピッキングでも開けることができる。


「鍵は確か総合管理室にあるはずだが……」

「分かった。取って来る」

「おい、待て!」


 それを聞いたリメットはすぐに部屋を飛び出して、鍵を取りに総合管理室へと向かってしまった。


「シオン、付いて行ってやれ」


 そのほとんどは闘技場に向かっているだろうが、それでも戦闘員と出会ってしまう可能性があるからな。シオンも一緒に行かせることにする。


「あれ? 結局、協力するんだ」

「まああの様子だと止めても聞き入れてくれそうに無いからな」

「それもそっか。それじゃあ行ってくるね」

「ああ。頼んだ」


 そして、俺の指示を受けてシオンはリメットを追い掛けて行った。


「お前達はそこに集まって待っていろ」

「……やっぱり、助けてくださるのですか?」

「……結果的にそうなっただけだ。ここから出るまでは助けられるが、外に出てからの面倒は見れないぞ」

「分かっています」

「とりあえず、二人が戻って来るまでは待ってやる」


 管理人が来る可能性もあるからな。二人が戻って来るまでは俺がここで待つことにする。


「ありがとうぞざいます。心強いです」

「……そうか」


 そして、俺はそのまま部屋で二人が戻って来るのを待った。






 エリュ達が内部で動いていた頃、闘技場ではエリサ達は暴れて敵を引き付けていた。


「燃え尽きなさい」

「ぐわーー!」


 警備兵の一人がエリサに斬り掛かるが、火魔法であっさりと迎撃される。


「くっ……援軍はまだか!」

「各所に連絡していますが、もう少し時間が掛かるとのことです」


 警備兵達は何とかそれを鎮圧しようとしているが、全く抑え込めていなかった。


「警備がパーティーに回されてるのが痛いな」

「そうだな。特に上の方が持って行かれてるのはきついな」


 警備の一部が上流階級の者達のパーティーに回されている上に、実力のある者がそちらに回されているので、闘技場の関係者側はかなり厳しい状況だった。


「アーミラ、操作の方は大丈夫かしら?」

「うん。この程度の相手なら大丈夫だよ」

「そう。数を減らしても良いのよ?」

「折を見て減らすつもりだよ」


 操作する数が多いと、当然その難易度が上がるので精度も落ちる。

 なので、折を見て殺されたように見せて数を減らすつもりでいた。


「三人の方はどうなの?」

「後は魔物を解放したら終わりだそうよ」

「そうなんだ。それならそろそろ数を減らしても良さそうだね」


 そう言うと、操作している一人の男を前線に特攻させた。

 すると、その男は数人の敵を斬り捨てたところで隙を突かれて突き刺された。


「これで一人処分完了だね」


 そして、その男に纏わせていた血を回収して操作を止めた。

 ここで一人処理したのは、最終的には操作している者達を全員やられたように見せて処理する必要があるからだ。

 最後に纏めて処理するのも不自然なので、少しずつ減らして行くことにする。


「そろそろ減らすと言うか、遅いぐらいね」

「それは状況教えてくれなかったからじゃん!」

「それは悪かったわね。……はっ!」

「えいっ!」


 そんな話をしながら二人は次々と敵を片付けていく。


「こいつら……かなり強いな。精鋭か?」

「そりゃあこれだけ派手に襲撃を仕掛けるぐらいだからな。精鋭と見て間違い無いだろ」


 半端な部隊では襲撃は成功しないことは分かっているだろうし、送り込んで来たのが精鋭メンバーの可能性は高かった。


「少なくともあの二人は実力者と見て間違い無いな」


 特にリーダー格と思われる二人――エリサとアーミラ――はかなりの実力があるようで、この二人が精鋭なのは明らかだった。


「とにかく、今の戦力では奴らに太刀打ちできない。時間を稼ぐぞ」

「はい!」


 なので、警備兵達は援軍が来るのを待つことにした。

 そして、その後もエリサ達は適当に警備兵達を相手にして時間を稼いだ。






 二人が鍵を持って戻って来たところで三人で奴隷達の手枷を外していき、それが終わったところで俺は魔物がいる部屋へと向かった。


「ふむ……思っていたよりも多いな。これだと全部を誘導するのは難しいか」


 魔物はただ解放すれば良いというわけではない。解放した後は誘導して外に出す必要がある。


 と言うのも、解放しただけだと魔物同士で争って勝手に数を減らしてしまうからだ。

 魔物の数は思っていたよりも多く、これらを全て纏めて誘導することは困難だった。


「シオン、少し良いか?」

「何?」

「魔物が思っていたよりも多い。なので、半分ずつ誘導しようと思うのだが良いか?」


 なので、シオンと半分に分けて誘導することにした。


「うん、良いよ」

「闘技場の北の入退場口までの道は分かるか?」

「もちろん、分かるよ」

「では、シオンは北の入退場口まで誘導してくれるか? 俺は東の入退場口まで誘導する」


 闘技場の入退場口は東西南北に各一か所ずつ計四か所あるが、ここから一番近いのが北の入退場口、二番目に近いのは東の入退場口だ。

 なので、ここはシオンに北の入退場口を担当させて、俺が東の入退場口を担当することにする。


「分かったよ」

「奴隷達は関係者用の出入口を使って脱出させろ。案内はリメットに任せる」

「分かった」


 それなりの人数ではあるが、荷物用の魔力駆動式のエレベーターは魔物や大きな荷物を運搬するためにかなり大きくなっているので、それを使えば問題無いはずだ。

 それに、普段は関係者用の出入口にいる監視も、最低限の人員を残して援軍として闘技場に回されているだろうからな。

 そうでなかったとしてもエリサ達が片付ければ良いので、安全に出られるはずだ。


「シオン、準備は良いか?」

「うん、いつでも行けるよ」

「では、それぞれ俺が指示したら動いてくれ」


 同時に外に出るのが理想だからな。そうなるように動き始めるタイミングを考えて指示をすることにする。


「分かったよ」

「分かった」

「では、俺はもう行くぞ」


 そして、檻を斬って魔物を解放した俺はそのまま魔物を引き連れて、闘技場の入退場口へと向かった。






 闘技場で戦っているエリサ達はエリュからの指示を待っていた。


「連絡遅いね」

「そうね。彼からの指示が無いとこちらも動けないから、早く指示が欲しいところね」


 内部に潜入した三人と動きを合わせる必要があるので、エリサ達は指示が無いと動くことができない。


「遅くて悪いな」

「いえ、気にしなくて良いわ。奴隷達の手枷を外すのに時間を取られただけなら問題無いわ」


 予定よりも遅くなったのは奴隷達の手枷を外していたからだ。

 それ以外の点に関しては予定よりも早いぐらいで、不慮の事態があったわけでは無いので、問題は無い。


「そうか。遅くなった仕上げもそろそろなので、準備しておいてくれるか?」

「分かったわ。……アーミラ」

「分かってるよ」


 それを聞いたアーミラは操作している残った三人の死体を敵の魔法攻撃にぶつけた。


「これで残ったのも処理できたね」

「それじゃあ魔法の準備をしておきましょうか」

「だね」


 死体の処理が終わったところで、二人は闘技場を崩落させるための魔法の準備をする。


「二人とも、頼む」

「分かったわ」

「分かったよ」


 そして、エリュの指示と同時に二人は天井に向けて魔法を放った。


「おい、崩落するぞ!」

「逃げろ!」


 三つの魔法陣によって構成された複合術式による高威力の魔法は、何とか崩落せずに耐えていた――と言うより、意図的にギリギリの状態にしていた――天井にとどめを刺した。轟音と共に天井が一気に崩れ落ちていく。


「行くわよ」

「うん!」


 そして、エリサ達はそれと同時に上に跳んで、魔力障壁で瓦礫を防ぎながら地上に出た。


「大惨事だねー」


 地上から地下闘技場だった場所を見たアーミラは他人事のようにそんなことを言う。


「エリュ達は……来たわね」


 崩落によって発生した砂埃が晴れ始めたところで、エリュとシオンが入退場口の瓦礫を火魔法による爆破で吹き飛ばしながら現れた。


「おーい、こっちだよー」

「言われなくても分かっている」


 そして、そのままエリュ達も合流する。


「悪いな、予定よりも少々遅くなって」

「計画に支障は無かったし、気にしなくて良いわ」

「そうか。後はリメット達だけだが……来たな」


 さらに、その直後に解放した奴隷を連れたリメットが、地下闘技場の荷物用の魔力駆動式のエレベーターから現れた。


「これで全員揃ったな」

「そうね。それじゃあ行きましょうか」


 そして、メンバーが揃った一行は速やかにその場を離れた。

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