episode158 地下闘技場襲撃の下準備
それから数日が経過したある日、俺達は地下闘技場の襲撃の計画を立てるために集まっていた。
「それじゃあ下見は十分だし、そろそろ今回の計画を立てましょうか」
「ああ」
ここ数日は計画を立てるために下見をしていたが、それももう十分なので計画を立てることにした。
「とりあえず、爆破予定地点はここにする予定よ」
エリサは爆破予定地点に印を付けた商業施設の地図を広げる。
「ふむ……外周を大体十メートルぐらいの間隔で爆破するのか」
「ええ、そうよ。爆破にはこの術式を使うわ」
そう言って術式を示して来るが、残念ながら俺にはそれを見ただけではどんな術式なのかはよく分からない。
一応、火魔法の術式が組み込まれていることは分かるが、他にも色々な術式が組み合わさっているので、この術式の本質までは理解できない。
「これはどんな術式なんだ?」
「見ての通りの火魔法の術式よ。周囲の魔力を集めて時限式で起動するようになっているわ」
「なるほどな。これを一斉に起動させるということか」
時限式であればタイミングを合わせて一斉に起動することもできるからな。その案は悪く無さそうだ。
「だが、大丈夫なのか? こんな術式を仕掛けていたら見付かるだろうし、そもそもこれだけでは崩落させられない可能性もあると思うぞ?」
しかし、それには色々と問題があった。
まず、気付かれないように術式を仕掛ける必要があるし、何より仕掛けた術式が見付かってしまえばそれで終わりだ。
さらに、爆破したとしても崩落させられるかどうかも怪しかった。地下闘技場の天井から地上までの間はそれなりに厚いので、それだけでは崩落しない可能性がある。
「それに、場所によっては目立って仕掛けることが難しい場所もあるぞ?」
加えて、気付かれないように仕掛けるのが困難な目立つ場所もある。
「だから、見付からないような目立たない場所にだけ仕掛けるわ」
「他の場所はどうするんだ?」
「他の場所は地下闘技場側から直接、爆破するわ。それと、あなたの言う通りに目標地点だけを爆破しても崩落しない可能性があるから、崩落するまで天井を攻撃する予定よ」
「そうか」
それであれば問題無さそうだな。
「実行はいつにする?」
「早速、明日から仕掛けるわ。実行は夜よ」
「随分と急だな」
「明日は上流階級の者が集まるパーティーがあって、地下闘技場や商業施設の警備の一部もそちらに回すらしいから、警備が普段よりも手薄になるのよ」
「なるほどな」
警備が薄くなる明日が計画を実行するのに都合が良いということか。
「術式の仕掛け方に関しては後で詳しく説明するわ。次は襲撃についての詳しいことを説明するわね」
「ああ、頼んだ」
とりあえず、襲撃の下準備に関しては大体分かったので、次は襲撃についてのことを話すことにする。
「襲撃では地下闘技場を物理的に潰すのはもちろんだけど、研究者を始末して研究資料も奪うわ」
「分かった。具体的にどうするんだ?」
「地下闘技場を崩落させる班と研究資料を奪う班とで別れるわ。とりあえず、闘技場班と研究資料班って呼ぶわね」
「ああ」
「闘技場班は闘技場を破壊する班で、タイミングを合わせて魔法を使って闘技場を破壊するわ。闘技場を破壊した後は研究資料班に注意が向かないようにそのまま暴れて注意を引き付けるわ」
闘技場班は今回の作戦のメインとなる闘技場の破壊を行うことはもちろんだが、陽動の役割も兼ねるようだ。
「研究資料班は内部に入って研究者の始末と研究資料の回収を行うわ。ヴァージェスが資料を欲しがっているから、うっかり燃やしてしまわないように気を付けることね」
まあヴァージェスはああいうのに興味がありそうだしな。暴れすぎて資料を紛失しないように気を付けることにする。
「分かった。班分けはどうする?」
「私とアーミラが闘技場班に回るから、あなた達は研究資料班を頼めるかしら?」
「分かった」
「分かったよ」
「任せな!」
と言うことで、エリサとアーミラが闘技場班を、俺とシオンとリメットが研究資料班を担当することに決まった。
「それじゃあ仕掛ける術式について教えるわね」
「ああ、頼んだ。……と言いたいところだが、その前にやることがあるので、そちらを優先しても良いか?」
「やりたいこと?」
「ああ」
ここで一つやっておきたいことができたので、そのことについて説明する。
「なるほどね」
「と言うことで、少し行って来る」
「私達も行くわ」
「そうか。では、行くか」
そして、全員で夜の街に繰り出した。
「計画の内容は頭に入っているな?」
「当然だ」
リグサイドの裏路地ではとある一団が計画の確認を行っていた。
彼らはハイスヴェイン家に属する暗殺をメインに行う組織で、エンドラース家の組織に攻撃を仕掛けようとしていた。
「では、行くぞ」
そして、計画を確認した一団は現地に向けて移動し始めた。
「今回の相手は小組織……余裕そうだな」
「油断はするな。確実に遂行するぞ」
「分かってますって」
そんな緊張感の無い会話をしながら一団は裏路地を進む。
「ところで、あの二人はどうした?」
「あの二人……?」
男はそう言われて後方を見てみると、最後尾にいたはずの二人がいつの間にかいなくなっていた。
「見て来い」
「へい!」
リーダーに指示されて後ろにいたメンバーが確認しに行く。
「それでリーダー、現地に向かった後は……あれ?」
先頭にいたリーダーの方を向いて聞こうとしたが、そこにリーダーの姿は無かった。
「どこに行ったんだ?」
「と言うか、見に行った奴も戻って来ないな」
しかも、いなくなった二人の様子を見に行った者も戻って来る気配が無い。
「誰もいない……?」
周囲は不自然なほどに静かだった。いつの間にか姿を消したメンバーの気配すら無い。
「もしや……」
しかし、そのことに気付いた頃には遅かった。
意識の外から音も無く放たれた一刀で、一瞬にして残ったメンバーが斬り裂かれる。
「……全員片付いたな」
「だね」
そして、全てが片付いたところで立っていたのはエリュとシオンの二人だった。
「私達も付いて来たけど、必要無かったわね」
それに続いて様子を見ていたエリサ達も現れる。
「まあ保険と言えば保険だからな。では、ここからは手筈通りに行くぞ」
「ええ」
そして、死体を回収したエリュ達は宿泊施設へと戻ったのだった。
翌日、俺とエリサの二人で朝から商業施設へと向かった。
シオンとリメットは魔法の知識に不安があり、仕掛けるのに失敗してしまっては困るのと、アーミラは適当さ加減に不安があったので、今回は三人は連れて来ていない。
(さて、ここが爆破地点だな)
しばらく歩いたところで俺は爆発地点に着いた。
この場所は店の間の通路で、空箱が積み上げられていて目立たないので、仕掛けるのにはちょうど良い場所だ。
(早速、作業に移るか)
周囲に見られていないことを確認したところで、早速、作業に入ることにした。
まずは錬成魔法を使ってタイルの境界の部分を変形させて、床のタイルを剥がす。
そして、何枚か剥がしたところで、端末で正確な時間を確認しながらエリサから教えられていた術式を刻んでいく。
もちろん、正確な時間を確認するのは爆破までの時間を正確に設定するためだ。時間を確認しながら正確に起動する時刻を設定する。
(後は魔力を供給しておいて……これで終わりだな)
そして、最後に魔力を供給したところで、タイルを元に戻して作業を終えた。
何故、周囲から魔力を吸収するのに魔力を供給するのかと言うと、それだけでは魔力が足りないからだ。
魔力の吸収量は気付かれないようにするためにかなり少なくしてあるので、それだけだと魔力が足りないのだ。
なので、こうして不足すると思われる分だけ先に魔力を供給しておいた。
「そちらは順調かしら?」
一つ目の設置が終わったところでエリサからの通信が入る。
「ああ。ちょうど一つ目が終わったぞ」
「そう。こちらも一つ目が終わったわ」
「そうか」
どうやら、エリサも俺と同様に最初の術式を仕込み終わったところのようだ。
「それにしても、このあたりは裏マーチャット商会が営業している店ばかりなのは助かるな」
地下闘技場の上に位置するこのあたりは裏マーチャット商会が営業している店が集まっているので、遠慮無く爆破することができる。
何故このあたりに裏マーチャット商会が営業している店が集まっているのかと言うと、地下闘技場に必要な物を運搬するのに何かと都合が良いので、この区画に集められているとのらしい。
ちなみに、裏取引を専門にしている部門とだけあって、表向きは普通の店のように振る舞っているが、販売品には裏品目もあり、そちらで禁制品の取引をしているとの話だ。
「そうね。それじゃあこの調子で頼むわよ」
「ああ」
そして、その後も順調に術式の設置を続けた。
それからしばらくして、術式の設置が終わったところでエリサと合流した。
今は商業施設を出て適当な喫茶店で時間を潰しているところだ。
「とりあえず、予定していた箇所には設置できたな」
「そうね。と言うか、予定していた以上に設置したのね」
「ああ」
合流したところで設置した箇所を報告したが、俺は予定していた以上に設置しておいた。
多めに設置するのは問題無いだろうからな。予定箇所以外にも設置できそうだったので、何か所か設置しておいたのだ。
「それにしても、よく設置できたわね」
「まあ俺に掛かればこんなものだ」
隠密行動は得意だからな。このぐらいであれば問題無い。
「三人には終わったことを伝えたか?」
「ええ、伝えたわ。後は時間になるのを待つだけよ」
「そうか」
「だから、それまでは付き合ってあげても良いわよ」
「……? 何がだ?」
「あら、つれないわね。まあ良いわ。このまま時間まで待ちましょうか」
「ああ」
そして、その後は適当に街をうろついて時間を潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます