episode137 vsクリスタドラゴン

 クリスタドラゴンの相手をしている『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人は、少しずつではあるが確実に追い詰められて行っていた。


「うーん……いつまで時間を稼げば良いのかな……」


 いつになっても援護が来ないことをステアが愚痴るように呟く。


「もちろん、みんなが到着するまでだよ」

「それがいつになるかを聞いてるんだけど?」

「そんなことは分からないよ」

「えー……それだといつまで耐えれば良いか……」

「グルルルオォォーーッ!」


 そんな話をしていたところで、クリスタドラゴンが忘れるなと言わんばかりに咆哮を上げて光魔法を放つ。


「左に避けるよ!」


 それを三人は一斉に左に跳んで躱す。


「ミリア、大丈夫?」

「はい、まだ動けるので大丈夫です」


 三人は何度も攻撃を受けてはいるが、ミリアが魔力障壁でダメージを軽減しているのと、回復魔法で回復をしているので、まだ十分動くことができる。


「でも、このままだとこっちが削られるだけだよ?」


 ステアの言う通りに先程からじわじわと削られているだけなので、このままだと削り切られるのは時間の問題だった。


「そうは言っても、こっちの攻撃はほとんど通らないし、耐えるしか無いよ」


 しかし、この三人の攻撃ではクリスタドラゴンにあまりダメージを通すことができないので、耐えて時間を稼ぐしかなかった。


「それもそうだね」

「また攻撃が来るよ!」


 見ると、クリスタドラゴンの角が今までに無いほどに輝いていて、強力な攻撃が来ることは明らかだった。

 三人は警戒して攻撃に備える。


「グルオッ!」


 そのまま三人に向けて直接攻撃が放たれるかと思われたが、そうはならなかった。三人の予想に反して、角から放たれた一本の光はまっすぐと上空に向かう。

 そして、その光がある地点まで上昇して消えたかと思うと、その場に巨大な魔法陣が展開された。


「みんな、備えて!」

「展開します!」


 アリナが盾を構えて、ミリアが魔力障壁を展開して攻撃に備える。

 そして、三人が構えたところで、魔法陣から無数の光が降り注いだ。


「グルルルオォォーーッ!」


 この魔法は既に起動していて制御が必要無いので、クリスタドラゴンは自由に動くことができた。

 なので、それと同時にクリスタドラゴンは素早く三人に近付いて爪を振り下ろした。


「っ……」


 その強烈な一撃で魔力障壁に罅が入る。

 さらに、そこに上空から降り注ぐ光魔法も当たって、どんどん魔力障壁が削られていく。


「グルォッ!」


 そして、クリスタドラゴンは今度こそ魔力障壁を破壊しようと、再び爪を振り上げて魔力を込めた。


「……次で行きます」

「分かったよ。ステアも合わせて」

「うん」


 このままだと魔力障壁を破壊されてしまうので、ミリアは一つ手を打つことにした。


「……行きます」

「ステア!」

「分かってる」


 ミリアが合図と同時に魔力障壁を解除すると、それと同時に三人はバックステップで下がって爪での一撃を回避した。


「えーーいっ!」


 そして、ミリアは魔法陣を展開して、そこから光魔法でラグビーボールのような形をした光弾を放った。


「グルルァッ!?」


 その魔法はクリスタドラゴンの腹に当たって、何枚もの鱗を吹き飛ばして怯ませた。

 この魔法は魔力障壁を解除して、その魔力をブーストした上で攻撃に転用する魔法だ。

 ミリアは光属性への適性が非常に高いので、光魔法による魔力障壁を使うことでクリスタドラゴンにもダメージを与えられるほどの火力を出すことができていた。


「二人とも私の後ろに……うわっ!?」

「うぐっ……」

「きゃっ……」


 少し反撃することはできたものの、上空から降り注ぐ光魔法には対応できていない。

 魔力障壁も解除してしまったので、三人は無数に降り注ぐその魔法を避けられずに攻撃を受けてしまった。


「グルルルアァーーッ!」


 さらに、そこに体勢を立て直したクリスタドラゴンが襲い掛かって来る。


「ミリア!」

「間に合いません!」


 ミリアは急いで魔力障壁を張り直そうとするが、とても間に合いそうに無かった。


「……仕方無いかな」


 ここでステアがそう言って二人の前に出る。


「ステア!?」


 それを見たアリナは驚き声を上げるが、ステアはそれを気に止めることも無く、右手を前に出した。


「……吹き飛べ!」


 そして、彼女の瞳が妖しく光ったかと思うと、前方に魔法陣が展開されて、そこからビーム状の黒い雷が放たれた。


「グルアァーーッ!?」


 クリスタドラゴンはその魔法を受けて大きく吹き飛ばされる。


「展開します!」


 その直後にミリアの魔力障壁の再展開が終わって、三人は魔力障壁に包まれた。

 その魔力障壁によって降り注ぐ光魔法を防いでいく。


「皆さん、大丈夫でしたか?」

「うん、何とかね」

「まあね」


 降り注ぐ光魔法による攻撃を受けてしまったが、魔力強化でダメージは抑えていたのでまだ戦うことはできる。


「と言うか、ステアはいつの間にあんな魔法覚えたの? そもそも、魔法への適性低かったよね?」


 ステアは魔法への適性が低く、今まで魔法を使って戦ったことは無かった。

 少なくとも、アリナはステアが魔法を使って戦うところは見たことが無い。


「昔ちょっとね。まあ気にしないで」

「そう言われても、さっきのをまだ使えるのかどうかで話が変わるんだけど?」


 ステアの先程の魔法であればクリスタドラゴンにダメージを与えられるので、まだ使えるのかどうかで話が変わって来る。


「使えなくはないけど、魔力の消費が多いし、あまり使いたくはないかな」

「分かったよ。それじゃあこのまま耐えて援護を待つよ」

「分かったよ」

「分かりました」

「ステアは危なくなったらまたさっきのを使ってくれる?」

「分かってるよ」


 そして、方針が決まったところで、改めてクリスタドラゴンと対峙する。

 上空から降り注いでいた光魔法はもう効果時間が切れたので、これで仕切り直しだ。


「ちょっとは効いてるみたいだね」


 攻撃の当たったクリスタドラゴンの腹からは血が出ていて、少しではあるが攻撃が効いていた。

 だが、この程度の攻撃だと何発も撃ち込まなければ倒すことができないので、やはり援護を待つのが良さそうだった。


「グルルル……」


 クリスタドラゴンは角に魔力を込めて攻撃の準備をする。


「グルルアァッ!」


 そして、三人に向けて魔法を放つ……と思いきや、ここで突然西の方を向いて魔法を放った。


「危なっ!?」


 そこにいたのはシオンだった。攻撃を躱したシオンは『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人の前に着地する。


 そう、クリスタドラゴンはシオンの接近を察知して、そちらを迎撃しようとしたのだ。


「待たせた?」

「やっと来たね。遅いよ!」

「ステア、文句を言わないの。シオンだって急いで来てくれたんだから」


 アリナが軽く文句を言ったステアを注意する。


「ひとまず、これで戦えるね。エリュも合流してくれれば楽になりそうだけど……」

「あ、エリュはレーネリアの方に合流したよ」


 ここでシオンはエリュがレーネリアの方に合流したことを伝える。


「そうなの?」

「うん。こっちに来るまでの間に連絡があったよ」

「分かったよ。私達は援護に徹するから、シオンは好きに動いて」

「分かったよ」


 そして、シオンは両手に短剣を装備して三人の前に出た。


「それじゃあ行くよ!」

「グルルルォーーッ!」


 クリスタドラゴンは風魔法を使って高速で接近するシオンに向けてその腕を振り下ろす。


「当たらないよ!」


 シオンはそれをくるりと一回転して躱すと、そのままクリスタドラゴンの股下を潜って後方に回り込んだ。


 そして、真っ直ぐと上に跳ぶと、刀に手を据えて居合斬りの構えを取る。


「グルアッ! ……グルッ!?」


 それを迎撃しようとクリスタドラゴンは振り向き様に爪で斬り裂こうとするが、その瞬間に足元で爆発が起こって僅かにバランスを崩してしまった。


 そう、これはシオンが仕掛けたもので、股下を潜った際に火魔法による術式を仕掛けていたのだ。


「斬るっ!」


 そして、シオンは首を狙って居合斬りを叩き込んだ。


「む……」


 しかし、その攻撃はバランスを崩しながらも爪で受けて防がれてしまった。


「グルアッ!」


 そして、口からビーム状の光魔法を放って反撃して来る。


「おっと……」


 シオンはそれを後ろに下がって距離を取りながら躱す。


「…………」

「グルルル……」


 互いに距離を取って仕切り直しとなるが、先程とは違ってシオンと『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人とで前後を挟んでいる状態なので、少し優位に立てている状態だ。


「グルッ!」


 先に動いたのはクリスタドラゴンだった。大量の魔法陣を展開して、シオンに向けて光弾を飛ばす。


「ボクも行くよ!」


 シオンもそれに負けじと魔法で対抗する。魔法陣を展開して闇魔法で直径一メートルほどの黒い球を形成してそれを飛ばす。


 そして、その球を追うようにしてクリスタドラゴンに接近していく。

 闇魔法で形成した球によってクリスタドラゴンの魔法による光弾は打ち消されているので、それに付いて行くと比較的安全に接近できた。


「グルアッ!」


 しかし、その闇魔法で形成した球は爪で斬って打ち消されてしまった。

 だが、闇魔法を放ったのは攻撃するためで無く安全に接近するためなので、ここまで接近できたのであれば問題は無い。


「そろそろ終わらせるよ!」


 シオンはクリスタドラゴンの振り下ろされた腕の上を駆けて、一気に頭部付近に接近した。

 そして、刀に手を据えて居合斬りの構えを取る。


「グルルアッ!」


 だが、クリスタドラゴンはここで顎を引いて角をシオンの方に向けると、そのまま角で突き刺そうとして来た。


「危なっ!?」


 シオンは咄嗟に風魔法を使って下がってそれを回避する。


「グルオォッ! ……グオッ!?」


 そして、クリスタドラゴンはそのまま追撃を仕掛けようとしたが、そこで後方から腰のあたりに衝撃を受けた。


 そう、これはミリアの魔法だ。シオンの方に集中している間に先程も使った魔力障壁を解除して攻撃する魔法を使ったのだ。


「……斬るっ!」


 そして、シオンはクリスタドラゴンが怯んだ隙に風魔法を使って素早く接近して、その首に居合斬りを叩き込んだ。


「グル……ルァァーー!」


 その一撃で首に大きく傷が付いたが、まだ倒せてはいない。クリスタドラゴンは腕を振るって爪で攻撃を仕掛けて来る。


「っせええぇぇーーい!」

「グルォォッ!?」


 だが、ここでクリスタドラゴンは再び後方から衝撃を受けた。

 見ると、今度は大きく跳んだアリナが大剣で背中に攻撃をしていた。


「今度こそ終わりだよ!」


 そして、シオンはその隙に先程の一撃で傷の付いた部分を狙って、再び居合斬りを叩き込んだ。

 その一撃で頭部は斬り落とされて、残った身体がゆっくりと前方に崩れ落ちる。


「ふぅ……何とか片付いたね」

「そうだね」

「とりあえず、後処理をしよっか」

「それもそうだね。二人とも、とりあえず後処理をするよ」

「はーい」

「分かりました」


 そして、アリナの指示を受けてそれぞれで後処理を始めた。

 『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人はそれぞれの治療をして、シオンはクリスタドラゴンの死体を空間魔法で収納してから、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人の留め具が壊れて戦闘中に落ちてしまった防具を回収する。


「こんなところかな」


 そして、防具を回収し終わったシオンは三人の元に戻った。


「そっちは大丈夫?」

「うん、とりあえず治療は終わったし、このぐらいならまだ戦えるから大丈夫だよ」


 『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人はちょうど治療が終わったところだった。ミリアの回復魔法で傷を癒して、必要なところには包帯を巻いている。


「みたいだね。それは良いけど、着替えなくて良いの?」


 治療が終わったのは良いのだが、三人は服がボロボロになっていた。

 魔法装備は丈夫なので、防具には罅が入っていたり服は少し破けたりしている程度だが、そうでない普通の服はほとんど残っていないレベルだ。

 下はタイツはほぼ全部破けて無くなっていて、三人ともショーツが丸出しになっている。


 特にアリナとミリアはスカートが全部破けて無くなっている上に、ショーツすら破けてボロボロになっている。


「着替えはレーネリアが持ってるからね」


 できれば着替えたいところだが、着替えや予備の防具は空間魔法が使えるレーネリアが全て持っているので、この場では着替えることができなかった。


「そうなんだ」

「ところで、回収した防具はすぐに直せそう?」


 ここでアリナがシオンにそんなことを尋ねる。

 レーネリアが予備の防具を持ってはいるものの、まだファントムオウルと悪魔が残っているので、直せるのであれば直しておきたい。


「多分エリュなら直せると思うよ」

「分かったよ。それじゃあそろそろ行こっか」


 そして、後処理が終わったところで、四人はエリュとレーネリアの二人に合流しに向かった。

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