episode138 悪魔との決戦前の立て直し

 スノーホワイトとフードレッドは悪魔を相手に今も時間を稼いでいた。


「チッ……ファントムオウル以外はやられたか」


 ファントムオウル以外の魔物が倒されたことを察知した悪魔は苛立った様子を見せる。


「余所見するとは余裕だな!」


 その隙を見てフードレッドは魔法銃で攻撃を仕掛ける。


「……貴様ら如きに本気を出すまでも無い」


 悪魔はそれをサッと横に動いて躱すと、闇魔法で黒い球を放って反撃した。


「遅いな! ……ぐっ!?」


 フードレッドはそれを後方に跳んで躱すが、闇魔法の着弾点から放たれた波動による攻撃を受けてしまった。


「大丈夫ですか?」


 スノーホワイトが素早くそこに近付いて、フードレッドを守るようにしながら大剣を構える。


「ああ。この程度は大丈夫だ」


 フードレッドはすぐに体勢を立て直して魔法銃を構え直す。


「……先程の悪魔の独り言を聞きましたか?」

「ああ。もうファントムオウル以外は片付いたみたいだな」


 悪魔の言っていたことが本当であれば、ファントムオウル以外の魔物は既に片付いたようだった。


「耐えるのももう少しですね」

「そうだな」


 二体は自身を奮い立たせながら武器を構えて次の動きに備える。


「……仕方ねえ。呼び戻すか」


 そして、このままだと従えている魔物が全滅すると考えた悪魔は、ファントムオウルを呼び戻すことにした。






 レーネリアに合流した俺は彼女と共にファントムオウルと戦っていた。


「はっ……」

「……撃つ」


 前線で槍を振るって戦うレーネリアを魔法弓で援護する。

 俺も前衛として戦っても良かったのだが、彼女と前衛で共闘したことは無く邪魔になる可能性があったので、俺は後衛として彼女のサポートをすることにしている。


「ホゥッ!」


 ファントムオウルは風魔法による爆風で風の斬撃を発生させて、俺達を攻撃して来る。


「効きませんよ」

「よっと……」


 レーネリアは空間魔法でファントムオウルの後方に転移して回避して、俺は真上に跳んでそれを回避した。

 そのまま俺はレーネリアの動きを見ながら魔法弓に魔力を込めて攻撃態勢に入る。


「穿ちます」

「ホゥッ!」


 そして、レーネリアとファントムオウルによる近接戦闘が始まった。


「……撃つ」


 俺はレーネリアの攻撃に合わせて矢を放って攻撃して、彼女が動きやすいようにサポートをする。


「ホゥッ!」


 だが、ここでファントムオウルは高く飛び上がったかと思うと、そのまま西の方へ飛んで行ってしまった。


「……行ってしまいましたね」

「……そうだな。とりあえず、追い掛けるぞ」


 当然、このまま見逃すようなことはしない。すぐにその後を追い掛ける。


「やはり、悪魔と合流しに向かっているようだな」

「そうですね」


 ファントムオウルの向かっている方向は悪魔がいる方向だった。

 恐らく、悪魔に呼ばれて合流しに行ったのだろう。


「おーい、エリュー! 来たよー!」

「む?」


 見ると、前方からシオンと『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人がこちらに駆けて来ていた。

 どうやら、クリスタドラゴンの討伐を終えて加勢に来てくれたらしい。


「そちらは大丈夫だったか?」

「うん、余裕だったよ」


 見たところ、シオンは無傷のようなので大丈夫そうだ。


「ファントムオウルはどうしたの?」

「ファントムオウルは悪魔と合流しに向かった」

「逃げられちゃったの?」

「ああ。シオンは先に向かっておいてくれるか?」


 スノーホワイトとフードレッドの方が不安なので、シオンに先に行かせることにする。

 俺達もすぐに行きたいところだが、状態が万全では無いからな。少し準備をしてから向かうことにする。


「うん、良いよ」

「俺達も準備が整い次第すぐに向かう。それまでは適当に時間を稼いでいてくれ」

「分かったよ。あ、それとこれ渡しとくね」


 ここでシオンは空間魔法で何かを取り出して、それらをその場に置いた。


「これは……三人の防具か?」

「うん、そうだよ。エリュなら直せるよね?」


 それらが何なのかを確認してみると、それは『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人の防具だった。どれも留め具が壊れてしまっていたり、罅が入ったりしている。

 どうやら、クリスタドラゴンとの戦闘で壊れてしまった物のようで、俺に直して欲しいようだ。


「ああ、このぐらいなら直せるぞ」


 装備品が壊れた場合に備えて修理に必要な道具や素材は常に持ち歩いているので、このぐらいであればこの場でも修理できる。


「それじゃあ直しといてくれる?」

「分かった。すぐに直す」

「ボクはそろそろ行くよ。それじゃあまた後でね」

「ああ」


 そして、シオンはスノーホワイトとフードレッドの二体と合流しに悪魔のいる場所へと向かった。


「さて、俺達は準備をしてから向かいたいところだが……」


 ここで『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人に視線を向ける。

 三人は回復魔法で治療はしたようだが、体中に怪我をしているらしく包帯を巻いていて、防具もボロボロになっている。


 だが、一番の問題は魔法装備でない普通の服がボロボロになっていることだ。

 特にアリナとミリアはスカートが全部破けて無くなってショーツが丸出しになっているどころか、ショーツも破けていて見えてはいけない部分が半分ぐらい見えてしまっている。


 加えて、そのショーツも横の部分は切れないのが不思議なほどに破けて細くなっていて、何かの拍子に切れて落下してもおかしくない状態だった。


「……っ!?」


 ここで俺の視線に気付いたアリナがサッとレーネリアの後ろに隠れる。


「ほら、ミリアも隠れて!」

「え? ……きゃーーーっ! 見ないでください!」


 ミリアも言われて気付いたらしく、アリナに続いてレーネリアの後ろに隠れようとした。


「おい、そこは地面が凍って……」

「うわっ!?」


 ミリアが通ろうとした場所は地面が凍っていて滑りやすいので注意しようとしたが遅かった。

 ミリアはそこで滑って仰向けに転んで、凍った地面を滑っていく。


「痛たたた……」


 そして、止まったところで、ミリアはゆっくりと上体を起こした。


「ミリア、ちゃんと隠して!」

「え? ……きゃーーーっ!」


 ミリアはアリナに言われて視線を下に移したところで自分の状態に気が付いた。

 彼女は転んだ際にショーツが凍っている地面にくっ付いていた小石に引っ掛かってそのまま滑ったので、横の部分が切れて脱げてしまっていた。

 なので、見えてはいけないところが丸出しになっている。


「三人ともこれを使ってください」


 それを見て、すぐにレーネリアが空間魔法で取り出したバスタオルを三人に渡す。


「……ねえ、エリュ? 何か言うことはある?」


 そして、バスタオルで体を隠しながら頬を赤らめているアリナがそんなことを聞いて来た。


「……とりあえず、着替えた方が良いと思うぞ?」

「言われなくても着替えるよ!」


 アリナはそう声を上げると、背中に掛けていた盾を投げ付けて来た。


「……っと、危ないな」


 それを必要最低限の動きで躱すと、投げ付けられた盾はその後方にあった木の幹に突き刺さった。


「レーネリア、着替えを出してもらって良い?」

「分かりました。エリュはこちらを見ないでくださいますか?」

「分かっている」


 そんなことは言われなくても分かっている。

 ひとまず、言われた通りに反対方向を向く。


「って言うか、レーネリアが見張っててくれない?」


 だが、ここでステアがレーネリアが見張りをすることを提案した。


「……俺が見ると思っているのか?」

「うん」


 俺のその質問に対してステアは迷うこと無くそう答える。


「……そんなに信用できないか?」

「だって、さっきも目を逸らすどころか思いっ切り見てたよね?」

「…………」


 そう言われると何も言い返せない。


「それじゃあ頼んだよ」


 そして、半ば強引にレーネリアに見張りを押し付けると、三人は着替えを受け取ってから木陰で着替えを始めた。


「私も着替えたかったのですが……後で着替えましょうか」


 レーネリアのローブは魔法装備ではあるが、先程の戦闘で少し破けてしまっているのと、タイツは防御性能が無いので、破けてほとんど残っていなかった。

 なので、彼女も着替えておきたかったのだろう。


「そのローブも直してやろうか?」

「……ここで脱げと言うのですか?」

「いや、そういうつもりで言ったのではないのだが……」

「分かっていますよ」

「……からかわないでくれるか?」


 先程のこともあり本気で言っているように聞こえるので、こういうときに冗談を言うのは止めて欲しいところだ。


「私のローブは構わないので三人の装備を直していただけますか?」

「分かった」


 言われた通りに、まずは三人の装備を直すことにした。

 ひとまず、空間魔法で必要な道具を取り出す。


「まずはこれを直すか」


 まずはアリナの物だと思われる金属製の膝当てを直すことにした。

 ひとまず、状態を確認してみると、少し罅が入っているのと留め具が壊れてしまっていた。


「これならすぐに直せそうだな」


 この程度であれば簡単に直すことができるので、早速、作業に入ることにした。

 刻印術式の刻まれた板の上に乗せて魔力を込めると、膝当てが加熱されて赤熱し始めた。そのままハンマーで叩いて罅割れを直していく。


「こんなところか」


 そして、罅割れが直ったところで、魔力を込めるのを止めた。


「後は留め具を使って帯革を付ければ修理完了だな」


 罅割れは直ったので、後は留め具を直して帯革を付けるだけだ。


「確か、ちょうどこれに合うような留め具と帯革が……あったな」


 探してみると、ちょうどこの膝当てに合いそうな留め具と帯革が見付かった。

 だが、まだ膝当ては冷めていないので、冷めるのを待ってから取り付けることにする。


「レーネリア、少し聞いても良いか?」


 彼女には聞きたいことがあるので、作業を進めながら少し話をすることにする。


「何でしょうか?」

「レーネリアは元々槍を使っていたのか?」


 聞きたかったこととは彼女の使う武器に関してのことだ。普段は杖を使って魔法使いとして戦っているが、先程は槍を使って前衛として戦っていた。

 あのAランク推奨のファントムオウルを相手に渡り合っていたことにも驚きだが、気になったのは槍の扱いにかなり慣れていたことだ。

 なので、そのことを少し聞いてみることにする。


「はい、そうです」

「やはり、そうか。……正体を隠すためか?」

「……はい」


 思った通り元々は前衛として槍を使って戦っていたが、できるだけ正体を隠すために魔法使いとして戦っていたようだ。


「槍の方が得意なのか?」

「そうですね」

「……悪魔の相手はできそうか?」

「……できるだけ頑張ります」

「ファントムオウルの相手をするか?」


 先程は一人でもファントムオウルを相手取ることはできていたので、彼女にそちらの相手をさせるという選択肢もある。


「それが良いかもしれませんね。悪魔の相手はお願いできますか?」

「分かった」


 結局、この後の戦闘では俺が悪魔を、レーネリアがファントムオウルを相手にすることにした。


「着替え終わったよー」


 と、ここで着替えを終えたアリナ達が戻って来た。


「それでは、私も着替えますね。ミリアはその間にエリュの治療をお願いできますか?」

「…………」


 レーネリアはミリアに俺を治療するよう頼むが、彼女は無言のままだ。

 どうやら、先程のことをかなり気にしているらしい。


「あー……先程は悪かったな」

「…………」


 一言謝罪をするがミリアは無言のままだ。


「エリュはそう簡単に許してくれると思ってるの? ミリアはアリナと違って全部見られたんだよ?」


 ここでステアが茶々を入れて来る。


「……私も全部じゃなくても普通に見られて恥ずかしかったんだけど?」


 それに対してアリナが呟くようにそう言うが、とりあえずそれは気にしないでおく。


「……ステアは黙っていてくれるか?」


 ひとまず、ステアには黙っていてもらうことにする。話が拗れそうだからな。


「ミリア、今はあまり時間が無いので、この話は後にしていただけませんか?」

「……分かりました」


 ミリアはレーネリアそう言われてようやく動いてくれた。

 作業をしている俺の後方に回って回復魔法を掛けて来る。


「それでは、私も着替えますね」


 そして、レーネリアは俺の後ろで着替えを始めた。


「ちょっとレーネリア! そんなところで着替えたら見られるよ!」

「大丈夫ですよ」


 それをステアが止めようとするが、レーネリアはそれを気にすること無く着替えているようだ。


「ダメだって! 脱いだところで襲われるよ!」

「……俺を何だと思っているんだ?」

「でも、さっきは折角の機会だからと言わんばかりに、がっつり見てたよね?」


 どうやら、ステアは追及を止める気は無いらしく、先程の話を掘り返して来た。


「……ステア、少し黙ってみてはどうですか?」


 だが、ここでレーネリアがしつこいステアに対して少し怒った様子で注意をした。


「えー……でも、二人は大事なところを見られたんだよ? やっぱり、ここはきっちり慰謝料を請求しないと! ……痛ぁ!? 何で叩くの!?」

「そういうことばかりを考えているからですよ。……着替え終わりましたよ」


 そして、着替えの終わったレーネリアは俺の前に回って修理の様子を確認しに来た。


「普段のローブではないのだな」

「はい、こちらの方が槍で戦うのには向いていますので」


 レーネリアは普段の装備であるローブではなく、ドレス風の服を着ていた。

 服とは言っても、かなり高性能な魔法装備のようなので、防具と言った方が正しいかもしれないが。


「ふむ……中々似合っているな。ルミナさんに作ってもらったのか?」


 貴族の娘である彼女にはドレス風の装備はとても似合っていて、魔法装備としての性能だけでなく、見た目も重視して作られていることが分かる。


「はい、そうです。ワイバスに来てから数か月ほどした頃に作っていただきました」

「そうか。……そろそろ行くか?」


 まだ一部の防具しか直せていないが、シオン達を待たせるわけにはいかない。

 なので、そろそろ出発したいところだ。


「そうですね。アリナもそれで良いですか?」

「うん、良いよ。それじゃあみんな、行くよ!」


 そして、準備が整ったところで、シオン達に合流しに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る