episode136 エリュvsファンタジアフェニックス

 ファンタジアフェニックスを引き連れた俺はある程度離れたところで止まって、ファンタジアフェニックスと対峙した。


「さて、どう相手するか……」


 ここで一度ファンタジアフェニックスについてのことを纏めてみることにする。


 ファンタジアフェニックスは本体である核から発せられている霧のような物で鳥の形を形成している魔物で、この核さえ破壊してしまえば倒すことができる。

 逆に言うと、核を破壊しない限りは倒すことができず、霧のような部分を攻撃しても意味が無い。


 また、その霧のような物を使って分身を作って惑わして来るのも特徴で、本体が分かりにくくだけでなく純粋に手数が増えるのも厄介だ。

 攻撃方法は霧を固形化しての直接攻撃と魔法を使っての攻撃がメインで、最も注意すべき攻撃は分身を特攻させての自爆攻撃だ。威力が高いので警戒する必要がある。


(とりあえず、本体を見失わないようにしないとな)


 本体を見失うと面倒なことになるので、そこは常に注意しておくことにする。


「さて、やるか」


 時間を掛けると本体を見失う可能性があるので、早速、仕掛けることにした。

 風魔法を使って素早く本体に接近して、刀に手を据えて魔力を込める。


「……!」


 だが、ここで本体が後ろに下がりながら俺に向けて分身を撃ち出して来た。


「……っと」


 それを上に跳んで躱して、そのまま居合斬りで本体に向けて斬撃を飛ばす。


「……まあ防がれるよな」


 しかし、その斬撃は固形化させた霧で核を覆うことで防がれてしまった。

 さらに、次々と分身を生み出して、攻撃を仕掛けて来る。

 分身の一体が光を放って目眩ましをすると、他の分身が飛んで来て固形化した霧を使った近接攻撃を仕掛けて来た。


「……そこだ」


 分身の核を居合斬りで叩き斬ると、その分身が霧散して消滅した。


 分身は本体が自身の霧を操って動かしているのでは無く、分身用の核を生成して自律行動をさせている。

 なので、分身にも核が存在していて、その核を破壊することで分身を消滅させることができる。


(本体は……あいつだな)


 目眩ましをして本体がどれなのかを分からないようにしようとしたようだが、俺の目は誤魔化せない。

 直接光を見ないようにして目が眩まないようにしながら本体は捕捉していたので、まだ本体の位置は見失っていない。


「本体を見失わない内に仕留めないとな」


 今のところは本体を見失っていないが、このまま戦っていると見失ってしまう可能性が高い。

 なので、そうなる前にできるだけ早く倒してしまいたいところだ。


「まずは本体に近付かないとな」


 遠距離攻撃をしても躱されるだけなので、何とかして本体に近付く必要がある。

 魔法弓で雷属性と光属性の複合属性の最速の矢を放てば当たるかもしれないが、魔法弓だと分身への対応が難しいので、ここは刀をメインに使って戦うことにする。


「だが、まずは分身をどうにかしないとな」


 本体に近付くためには分身をどうにかする必要がある。


「……斬る」


 分身は霧を刃状に固形化させて攻撃をして来るが、その接近して来た二体の分身を居合斬りで纏めて斬り裂く。

 そして、即座に納刀して、次に備える。


「何体来ようと無駄だ」


 次に二体の分身が接近して来ると同時に光魔法による光弾が飛んで来るが、居合斬りからの高速の二連撃で分身を倒しつつ光弾を打ち消す。


 その後も分身が接近して攻撃を仕掛けて来たり、光魔法で遠距離攻撃をして来たりするが、それらを居合斬りからの連撃で倒したり防いだりしていく。


「分身を倒しても意味は無さそうだな」


 先程から近付いて来る分身を倒してはいるが、倒してところで新しい分身を生み出されるだけなので意味が無い。

 まあ倒さなければどんどん増えていくので、意味が無いことは無いのだが、このままだとジリ貧になることは確実だ。


「やはり、ここは一気に……っ!」


 一気に本体に接近しようとしたが、ここで分身の一体が自爆攻撃を仕掛けて来ていることに気が付いた。

 自爆攻撃のときには核に魔力が集約されるので注意していれば分かる。

 なので、それを回避するためにすぐにそこから離れた。


「……っと、危ないな」


 分身は核から眩いばかりの輝きを放つと、その場で大爆発を引き起こした。


(それなりに高威力だな)


 爆発地点にはクレーターのような窪みができていて、周囲の木々は破壊されて吹き飛んでいた。

 それなりに威力が高く、魔力強化をした状態でもあの攻撃を受けるのは危険なので、魔力障壁を張れるように準備はしておいた方が良さそうだった。

 尤も、至近距離で受けると、魔力障壁を張っても防げそうに無いが。


「さて、今度こそ近付きたいところだが……そう簡単には近付けそうに無いな」


 さっさと本体に近付いて終わらせたいところだが、分身が光魔法を使って光弾と光線を放って弾幕を張っているので、そう簡単には近付くことができない。


「しかも、それなりに威力が高いのも厄介だな」


 加えて、その魔法もそれなりに威力が高く、しっかりと魔力を集約させた魔力障壁でなければ防ぐことができなさそうだった。


「ここは魔力障壁を張りながら接近するのが良さそうだな」


 そして、色々と考えた上で魔力障壁を張りながら接近するという択を取ることにした。

 魔力障壁を張ってから風魔法を使って風を纏って、魔法を避けながら本体に接近する。


 魔力障壁にはそれなりに魔力を込めているので、魔法を防ぐことができるが、防げる量にも限界があるので、可能な限り攻撃は避けていく。


「……っと」


 魔法による弾幕は避けていたが、ここで分身の直接攻撃による攻撃を受けてしまった。

 もちろん、その攻撃は魔力障壁によって防がれたが、障壁の耐久度は少し減ってしまった。


(魔力障壁を常時張った状態にしておくのは止めておいた方が良かったか?)


 魔力障壁を常時張っていると、こちらからも攻撃をすることができないので、近付いて来る分身を倒すことができない。

 なので、そう考えると攻撃に当たりそうになったときにだけ魔力障壁を張るという選択肢もあった。


 だが、これだけの量の魔法を飛ばして来ている上に分身はあちこちにいて、あらゆる方向から攻撃が飛んで来ていて危険なので、安全を考慮してこの選択をするのは仕方の無いことだろう。


(本体は……あいつだな)


 どんどん分身は増えているが、本体はしっかりと捉えている。


「……行くぞ」


 本体を見定めて刀に手を据えて魔力を込めて、居合斬りの構えを取る。


「……!」


 だが、ファンタジアフェニックスは俺が一気に決めようとしていることを察知したのか、ここで数体の分身を自爆特攻させに来た。


(……どうする?)


 問題は自爆攻撃を仕掛けて来ていることでは無い。問題は本体の前にいる分身が自爆攻撃を仕掛けて来ていることだ。


 他の方向から来ているのであれば接近される前に仕掛けてしまえば良いだけなのだが、正面の場合はそうはいかない。

 自爆される前に横をすり抜けられれば問題無いのだが、すれ違い様に自爆されるとマズいからな。


(一旦退くか)


 仕方が無いので一旦退いて仕切り直すことにした。全方位からの攻撃に注意しながら素早く後方に下がる。


「……流石に全方位はマズいな」


 だが、ここで周囲の様子を確認してみると、分身による自爆攻撃が全方位から仕掛けられていた。


(魔力障壁は……無駄か)


 これだけの数の分身に一斉に自爆されると、魔力障壁を張ったところで簡単に破壊されてしまうので、それでは攻撃を防ぐことはできない。


(あまり慣れていないが、あの魔法を使うしか無いか)


 この状況を切り抜けるにはやはりあの魔法を使うしか無い。そう思った俺はすぐにその魔法の術式の詠唱を始めた。


 正確に術式を構築したいので慎重に詠唱したいところだが、当然それだと間に合わないので素早く詠唱する。


「……ここだな」


 そして、分身達が迫って来たタイミングに合わせてその魔法を起動すると、俺の姿はその場から掻き消えた。

 その直後に先程まで俺がいた場所の周辺で分身が自爆して大爆発する。

 その爆発が起こったとき俺は上方向に移動して包囲網の外側にいた。


 そう、これは空間魔法による空間転移だ。空間魔法による空間転移は座標の指定など状況に応じた術式の調整が必要なので難易度が高く、視界が急に切り替わるのにも慣れておく必要があるが、今回は緊急事態だったので仕方無く使うことにした。


「ぐっ……」


 それはそうと、包囲網の外側に転移したので直撃はしなかったが、座標の調整が少しうまく行かなかったので、転移する距離が想定より短くなってしまった。

 なので、少し自爆による爆発の影響を受けてしまった。

 魔力障壁を張る余裕も無かったので、衝撃波や爆風で体中に衝撃が走る。


 そして、その爆風で俺は上空に吹き飛ばされた。


「…………!」


 さらに、ファンタジアフェニックスはそこに向けて残った分身を飛ばして、再び自爆攻撃を仕掛けて来た。


(……仕方無いか)


 このままだと爆殺されてしまうので、仕方無く『帰属する刻限オリジンコード』を発動させる。

 使用時間に制限があるので悪魔との戦いに備えて可能な限り温存したかったが、この状況だと使わざるを得ないだろう。


(まずは状況を確認するか)


 状況を把握しないことには話が始まらないので、まずは遅くなった時間の中で周囲の状況を確認してみることにする。


(逃げ場が無い上に層も厚いな)


 周囲を確認すると、全方位から分身が迫って来ていて、先程よりも包囲網の層が厚かった。

 どうやら、全ての分身を使って仕掛けて来ているらしく、ここで勝負を決めるつもりのようだ。


(これだと空間転移で逃げることもできないな)


 できるのであれば先程と同じように空間魔法を使って包囲網を突破したいところだが、俺が覚えているのは短距離用の空間転移の魔法なので、この厚さだと空間魔法による転移では突破することができない。


(……やるか)


 そして、方針が決まったところで、早速、行動に移ることにした。

 まずは火属性と光属性の複合属性の魔法を二つ準備する。


 そこそこ複雑な術式な上に並行詠唱になるので詠唱には時間は掛かるが、『帰属する刻限オリジンコード』発動中の超加速した思考速度であれば間に合う。


(……決めるぞ)


 向こうも全ての分身を使って勝負を掛けて来ているので、ここを返すことができれば決められるはずだ。


「……行くぞ」


 まずは風魔法を使って本体に向けて真っ直ぐと飛び出す。

 そして、そこで分身が一斉に自爆して来るが、それに合わせてこちらも詠唱待機状態にして準備しておいた火属性と光属性の複合属性の魔法を起動する。


 俺の取った作戦は分身の自爆攻撃を高火力な魔法で無理矢理打ち消すというものだった。

 俺の放った火属性と光属性の複合属性の魔法によって爆発が発生して、正面から来た分身の自爆攻撃を相殺する。


「もう一発……」


 準備した魔法は二発ある。

 なので、そのもう一発をさらにその奥の爆発地点に向けて放つ。

 すると、それによって正面の分身の自爆攻撃が相殺されて本体への道が開けた。


 だが、相殺できたのは真正面のものだけで、付近の爆発も含めて他の爆発はそのままだ。

 なので、魔力障壁を張りながら風魔法を使って強引に突っ切る。


「ぐ……」


 しかし、その途中で魔力障壁が壊れてしまった。それによって付近の爆発からの衝撃波や熱波を受けてしまう。


「……っああぁぁーー!」


 だが、ここで止まってしまうと消し飛ばされてしまうので、魔力強化で可能な限りダメージを抑えながら風魔法を使って突っ切る。

 そして、遂に攻撃範囲を抜けて本体にまで迫った。


「……!」


 ファンタジアフェニックスは急いで霧を固形化して核を覆い、攻撃を防ごうとして来る。


「……斬る!」


 だが、そんなものでは俺の攻撃は防げない。核を狙って込められるだけの魔力を込めた居合斬りを叩き込む。


 すると、核は真っ二つになって、そのまま霧散するようにして消滅した。


「……終わったか」


 ファンタジアフェニックスの討伐が終わって、周囲に魔物がいないことを確認したところで、その場に座って休憩する。


「痛っ……とりあえず、傷の状態を確認するか」


 先程の戦闘でそれなりにダメージを受けてしまったので、ひとまず傷の具合を確認してみることにする。


「骨は……折れていないな」


 全身を確認してみると、衝撃波によって皮膚が裂けていたり火傷をしていたりはしたものの、幸いなこと骨は折れていなかった。

 なので、この後も何とか戦えそうだ。


「とりあえず、傷を癒すか」


 そして、回復魔法と治癒ポーションで傷を癒して、魔力回復ポーションで魔力を回復させた。


「……まだ痛むが、まあ戦えはするな」


 このぐらいであれば、まだ十分に戦える。

 残った傷や火傷をしている箇所に包帯を巻いて、それが終わったところでゆっくりと立ち上がる。


「……中々の惨状だな」


 改めて周囲を見渡してみると、周囲の木々は破壊されて森が滅茶苦茶になっていた。

 まああれだけの分身が魔法で弾幕を張っていたからな。こうなるのも当然か。


「さて、予定通りに『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと合流したいところだが……シオンの様子を確認してみるか」


 予定では『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと合流してクリスタドラゴンを倒しに行くところだが、ファントムオウルを相手しているレーネリアのことが心配だ。

 なので、できればレーネリアの方に加勢したいが、それは状況次第なので、シオンの様子を確認してみることにする。


「……む?」


 シオンにメールと送ると、すぐに端末に着信が入った。


「……通話をするぐらいの余裕はあるのだな。怪我は無いか?」

「うん、大丈夫だよ。楽勝だったしね」

「そうか。それで、今は『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと合流しに行っているところか?」

「そだよー」


 どうやら、シオンは予定通りに『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと合流しに行っているところのようだ。


「分かった。俺は予定を変更してレーネリアの方に合流する」

「分かったよ。それじゃあまた後でねー」

「ああ」


 そして、レーネリアの方に合流することを伝えたところで、通信を切った。


「ひとまず、レーネリアのいる場所を確認するか」


 合流するにしても、まずはレーネリアのいる場所を確認する必要がある。

 なので、風魔法を使って上に跳んで、高いところから周囲を見渡すことにした。


「……あそこか」


 周囲を見渡すと、東の方でレーネリアが戦っていることが確認できた。


「さて、早く合流するか」


 そして、そのまま風魔法で飛んで、レーネリアに合流しに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る