episode126 スノーファの新米冒険者達

 翌日、今日も依頼を受けるために俺達は冒険者ギルドへと向かっていた。


「依頼の選定はアリナに任せて良いか?」

「うん、良いよ。みんなは朝食でも決めててくれる?」

「分かった」


 そして、アリナが掲示板に向かったところで、適当な席に座ってメニューを手に取る。


「エリュは決まった?」

「ああ。俺はこれにする」

「分かったよ。それじゃあボクにメニュー貸して」

「ああ」


 自分の注文が決まったところで、まだ注文が決まっていないシオンにメニューを渡す。


「あたしはこれにしよっかな」

「わたしはこれで」

「私はこれでお願いします」

「ボクはこれにするよ」


 そして、それから少しして依頼の選定をしているアリナを除いた全員の注文が決まった。


「それにしても遅いな」


 依頼を選定するにしても少々時間が掛かり過ぎだ。

 なので、少し彼女の様子を見てみることにする。


「職員と何か話をしているようだな」


 アリナの様子を確認してみると、何やら職員と話をしているようだった。


「……と思ったら、話が終わったようだな」


 だが、そう思ったのも束の間でその直後に話は終わったらしく、アリナはこちらに戻って来た。


「遅かったな」

「うん。ちょっと話をしてたからね」

「何の話をしていたんだ?」

「それは先に注文をしてから話すよ」

「分かった」


 まあその方が待ち時間を有効に使えて効率的だからな。まずはアリナの注文を決めることにする。


「シオン、メニューをアリナに渡してくれるか?」

「分かったよ。はい、これメニューだよ」

「ありがとう、シオン」


 そして、メニューを手渡されたアリナは一通り目を通すと、最初の方のページを開いてからメニューを置いた。


「それじゃあ私はこれにしようかな。職員さーん、注文良いですかー?」


 そして、注文が決まったところで職員を呼んで、そのままそれぞれで注文を伝えた。


「それで、何の話をしていたんだ?」

「ちょっと新米冒険者への同行についての話をね」

「新米冒険者への同行?」


 全然話が見えて来ないので、ひとまずその詳細を聞いてみることにする。


「うん。簡単に言うと新人育成ってところかな。私達みたいに慣れた冒険者が同行したらまだ慣れてない新米冒険者も安心でしょ?」

「それはそうだが、そんな依頼もあるのか」

「依頼ってわけじゃないね。だから特別報酬があるわけじゃないよ」

「ならば、その話を受ける必要は無くないか?」


 報酬が出ないのであれば受ける必要は無い。俺達に何もメリットが無いからな。


「……エリュには損得勘定しか無いの?」

「損得勘定で動くのが普通だと思うが?」


 別に俺は特別心無いことを言っているつもりは無い。人が損得勘定で動くのは普通なことだからな。


「ちょっとは協力してあげようとかは思わないの?」

「……善意で動いても馬鹿を見るだけだぞ?」


 世の中基本的に真面目な奴の方が損をするからな。この話は半ばボランティアで俺達にメリットが無いというのもあり、正直あまり乗り気にはならない。


「そんなこと言わないで、それぐらいは手伝ってあげなさい。どうせついでなんだし良いでしょ?」

「それはそうだが……」

「それじゃあ決定ね」


 だが、半ば有無を言わさない形で決められてしまった。


「……まあ別に良いか」


 アリナの言う通り、どうせついでなのでさほど問題は無い。

 なので、仕方無くこの話を受けることにした。


「それで、何をすれば良いんだ?」


 とりあえず、話を受けることは決定したので、その詳細を聞いてみることにする。


「特別何かするようなことは無いよ。まあ戦闘の様子を見てアドバイスをしたり、本当に危なくなったときに助けてあげたりとかかな」

「そうか」


 聞いた感じからすると、そんなに大変では無さそうだな。


「過去に同じようなことをしたことがあるのか?」

「うん、何度かね」

「まああたし達は信頼度の高い冒険者パーティだからね」


 ここでステアが自慢気にそんなことを言う。


「何故ステアが自慢気なんだ……む?」


 と、そんな話をしていたところで、冒険者パーティだと思われる一団が近付いて来た。


「おい、ちょっと良いか?」


 そして、そのリーダーだと思われる少年が話し掛けて来た。


「何だ?」

「お前らが今回、同行する奴らか?」

「……どうなんだ、アリナ?」


 新米冒険者に同行する話は聞いているが、誰に同行するのかはまだ聞いていない。

 なので、アリナに聞いてみることにする。


「そうだよ。彼らにはエリュとシオンに同行してもらおうと思ってるよ」

「……やっぱり、降りても良いか?」


 先程はそんなに大変では無いと思ったが、そんなことは無かった。

 なので、この話は降りさせてもらうことにする。


「引き受けたことは最後までやり遂げないとダメだよ」


 しかし、アリナはそれを認めてはくれなかった。


「はぁ……仕方無いな……」


 ここで何とか断ろうとしても聞いてくれそうに無いので、仕方無くこのまま引き受けることにした。


「注文の品になります」

「む?」


 と、そんな話をしていると、職員が注文した料理を持って来ていた。


「適当にテーブルの上に置いておいてくれ」

「かしこまりました」


 そして、職員は料理をテーブルの上に並べたところで戻って行った。


「とりあえず、朝食を先に済ませるか」

「そうだね。悪いんだけど、君達は戻っててくれる? 時間になったらこの二人が呼びに行くから」

「しゃあねえなぁ……本当はお前らなんか要らねえが、仕方無く待っててやるよ」


 そして、リーダーらしき少年がそれだけ言い残すと、冒険者パーティの一団は他の席に向かった。


「……はぁ……」


 冒険者パーティの一団が去ったところで深くため息をつく。


「頑張ってねー」

「ステア、他人事のように言わないでくれるか?」

「だって他人事だし」


 確かにそれはそうなのだが、そこまではっきり言わなくとも……。


「ところで、あいつらは俺達に任せるようだが、アリナ達はどうするんだ?」


 アリナは俺とシオンにあの冒険者パーティを任せるようだが、その間アリナ達は何をするのかを聞いてみる。


「私達は別の冒険者パーティに同行する予定だよ」

「そうか」


 どうやら、今回同行するパーティは一つだけでは無かったようだ。


「とりあえず、食べよっか」

「そうだな」


 文句を言っても何かが変わるわけでは無いので、ひとまず朝食を済ませることにした。






 朝食が終わったところで今回同行する冒険者パーティの一団の元へと向かった。


「お前達も朝食は済んだようだな」

「やっと来たか。さっさと行こうぜ」


 そして、俺達が合流したところで、リーダーらしき少年はすぐに出発しようとした。


「待て。出発するのは確認が終わってからだ」


 だが、出発するのは受ける依頼の内容やメンバーの確認をしてからだ。

 なので、まずは話をしてみることにする。


「確認? 何の確認だ?」

「受ける依頼の内容すら確認しないのか?」

「何で確認する必要があるんだ?」

「……もうお前は黙っていてくれるか?」


 彼が口を開くと話が進みそうに無いので、とりあえず黙ってもらうことにする。


「何だと!?」


 リーダーらしき少年は不服そうだが、ひとまずそれを無視してメンバーを確認してみることにする。

 メンバーは十五歳前後の少年二人と少女二人の計四人だ。

 リーダーらしき少年の人間は大剣を装備していて、見ての通りの前衛のアタッカーのようだ。他の武器は持っていない。


(武器の整備がなっていないな)


 だが、その一つしかない武器も整備が行き届いていないようだった。

 鞘に納められているので刀身の部分は見えないが、柄の部分を見ただけでそのことが十分に分かるほどだ。


 次に獣人ビーストの少年を見てみると、彼は剣を一本と短剣二本を持っていた。

 見たところ、剣がメインの武器で短剣はサブウェポンのようだ。


 人間の少女は杖を持っていて、見ての通りの魔法使いだった。杖は少し古く防具はあまり整っていないので、あまり金銭的な余裕が無いように見える。


 最後に獣人ビーストの少女を見てみると、彼女は魔法弓を持っていて防具もそれなりに整っていた。


(彼女だけは金銭的にある程度余裕があるように見えるな)


 防具が整っていることはもちろんだが、魔法弓を使っていることもそう判断した一因だ。

 魔法弓は比較的値段が高く、冒険者の中では使用者が少ない。基本的に冒険者は金銭的に余裕の無い者が高収入を狙って就くことが多く、最初は金銭的な余裕が無いことが多いからな。


 それに、金銭的に余裕ができた頃にはそれまで使っていた武器に慣れていることが多く、わざわざ乗り換えたりしないことが多い。

 そのため、魔法弓を使う冒険者は少ないのだ。


 何故そんな事情を知っているのかと言うと、そういう話を以前にルミナから聞いたことがあるからだ。

 それが理由で錬成魔法道具店は魔法弓の生産は少なめにしているらしいが、その話は今は関係無いので止めておくことにする。


「一応聞くが、お前がリーダーなのか?」


 ここで改めて人間の少年にリーダーであるのかどうかを尋ねる。

 彼が仕切っているのでリーダーだとは思っているが、まだ確認したわけではないのでここで正式に聞いておくことにする。


「そうだぜ」


 その質問に対して人間の少年は自信満々にそう答える。


「あのー……ちょっと良いですか?」


 だが、ここで人間の少女がそれに口を出した。


「何だ?」

「そもそも、私達はパーティを組んでいるわけでは無いので、彼がリーダーだというわけではありません」

「そうなのか?」

「はい、見ての通りソロです」


 人間の少女はそう言って冒険者カードを渡して来る。

 渡されたカードを確認すると、そこにはパーティ名が記載されていなかった。

 どうやら、彼女の言う通りにこの四人はソロの冒険者で、このパーティは臨時パーティのようだ。


「つまり、こいつがリーダーというわけでは無いということだな?」

「おい、ちょっと待てよ!」


 だが、ここで人間の少年が不服があると言わんばかりに声を上げた。


「何だ?」

「臨時パーティでもリーダーはいるだろ?」

「そうだな。だが、それがどうかしたのか?」


 この後に彼が何と言うのかの予想は付くが、一応、聞いてみることにする。


「だったら、俺がリーダーで問題無いよな?」


 そして、想定通りの答えが返って来た。


「……何を言っているんだ?」

「俺がリーダーなのに文句があるのか?」

「普通に文句しか無いだろ」


 本人は自分がリーダーで当然と思っているようだが、どう考えても彼はリーダーには向いていない。


「何だと!?」

「逆に何故お前がリーダーで良いと思ったんだ?」

「そんなの俺が一番強いからに決まってるだろ!」

「何を根拠にそんなことを言っているんだ? 直接戦ったのか? それとも、お前の方が実績を残しているのか?」


 本人はそう言うものの、その発言には何の根拠も無い。


「そもそも、リーダーに必要なのは強さではない。リーダーに必要なのはメンバーを纏める統率力や管理能力、戦闘時に正しい判断を迅速に下せる状況判断能力などで、いくら強くてもそれらの能力が無ければリーダーに向いているとは言えないな」


 実際、『新緑を繋ぐ意思オリジンガーディア』も単純な戦闘能力はアーニャが圧倒的に高いが、リーダーはレイモンだ。

 アーニャは戦闘能力は高くとも、絶望的にリーダーとしての資質が無いからな。


「俺にはそれが無いってのか!?」

「ああ。少なくとも、武器の整備すらしていないような奴に管理能力があるとは思えないな」


 メンバーどころか、自分の武器すら管理できないような者に管理能力があるとは思えないからな。

 どう考えても、彼にはリーダーとしての資質は無い。


「べ……別にそれぐらいのことで決められるようなことじゃねえだろ!」

「それだけで決められるぐらいにそのことが致命傷なのだが?」


 言うまでも無く武器の整備は重要で、戦闘における生命線と言っても過言では無いので、それに対して手を抜くのは論外だ。

 しかも、武器が壊れたりするなどして使えなくなったときことも考えずに予備の武器すら用意していないしな。もう話にならない。


「俺のことを知らない癖にそうやって決め付けるのかよ!」

「確かに、俺はお前のことは全く知らないが、リーダーにするのであれば他の三人の誰かにした方が良いということだけは分かる」


 確かに、彼とは今会ったばかりなので彼のことは知らないが、これだけは確実に言えることだ。


「とにかく、リーダーに向いていないお前に仕切らせるわけにはいかない。そうだな……とりあえず、魔法弓を持っているお前が仕切ってくれ」


 この人間の少年に仕切らせても話が進みそうに無いので、とりあえず他のメンバーを仮のリーダーに据えて話を進めることにする。


「分かりました」

「では、まずは自己紹介をすることにするか。俺はエリュ、Cランク冒険者だ」

「ボクはシオン。エリュと同じでCランク冒険者だよ」


 まだ名前すら聞いていないので、まずは自己紹介をすることにした。


「僕はノートス。よろしくお願いします」

「私はミオ。今日はよろしくお願いします」

「私はミーラ。未熟者ですがよろしくお願い致します」


 そして、獣人ビーストの少年、人間の少女、獣人ビーストの少女の順に自己紹介をした。


「……お前は?」


 だが、人間の少年がまだ自己紹介をしていないので、彼にも自己紹介するよう促す。


「俺はジオだ」


 すると、彼は一言それだけ言って自己紹介を終えた。


「それで、受ける依頼は何なんだ?」

「それはこちらになります」


 何の依頼を受けたのかを尋ねると、仮のリーダーに指定したミーラが依頼の内容を見せて来た。


(彼女はしっかりとしているな)


 ミーラはジオとは違ってしっかりしているので、彼女を指定して正解だったな。


「ふむ、アイスウィングの討伐か」


 依頼の内容を確認すると、それはアイスウィングの討伐だった。


「アイスウィングはEランクの魔物だが、大丈夫か?」


 彼女達は新米冒険者だが、アイスウィングはEランクの魔物だ。彼女達はFランク冒険者だと思われるので、Eランクの依頼でも大丈夫なのかどうかを確認する。


「はい、私がEランク冒険者なので問題無いと判断されました」

「そうか」


 新米冒険者だと聞いていたので、全員Fランク冒険者だと思っていたが、どうやら彼女だけはEランク冒険者だったようだ。


「場所は街の近く、歩いて行ける距離だな」


 依頼の場所は街のすぐ近くで、十分に歩いて行ける距離だった。


「では、早速行くか」

「もう行くのですか?」

「ああ。最低限必要なことはもう聞いたからな。後のことは移動しながら確認する」


 他にも確認したいことはあるが、どうせ移動に多少なりとも時間が掛かるからな。そのときに確認することにする。


「分かりました」

「では、行くぞ」


 そして、話が纏まったところで、依頼の目的地に向けて出発した。

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