episode125 雪国での依頼
街を出た後はキーラに乗って一直線に目的地に向かった。
「さて、目的地はこの辺りだな」
北には山脈が見えるので、依頼の魔物がいる場所はこの辺りのはずだ。
ひとまず、地上を見渡してみる。
「ちょくちょく雪が積もってるね」
「そうだな」
地上を見渡してみると、シオンの言う通り所々に雪が積もっていた。
やはり、雪国なだけはあるな。
「それで、どうする? 地上に降りるか? それとも、上空から討伐対象の魔物を探すか?」
このまま上空から討伐対象の魔物を探しても良いのだが、そこそこ高度があるのに加えて木が多いので探しづらい。
なので、地上に降りて探すという選択肢もある。
「そうだね……ここからだと見付かりそうに無いから、地上に降りよっか」
「分かった。キーラ、地上に降りるぞ」
「キィッ!」
そして、キーラに指示を出して螺旋状に回りながら高度を落として地上に降りた。
地上に降りた後はキーラを空間魔法で収納してから移動を始めた。
「それにしても、このコートだと全然寒く無いね」
「そうだな」
このコートにはある刻印術式が刻まれていて、この術式を起動すると熱風による結界を張って冷気を完全にシャットアウトしてくれる。
もちろん、それ抜きでも普通にコートとして使うこともできる。
「これなら街中でも起動しておけば良かったな」
「だね」
街にいるときは別に良いかと思って使わなったが、ここまで暖かくなるのであれば使っておけば良かったな。
「それとアリナ、一つ聞いて良いか?」
それはそうと、一つ気になっていたことがあったので忘れない内に聞いておくことにする。
「何?」
「『
聞いておきたかったこととはアリナの『
彼らに対する態度は普段の彼女だと考えられないような態度だった。
そのことが少し気になったので、ここで聞いておくことにする。
「そうだよ。冒険者にはああやって舐めて掛かって来る連中もいるからね」
「そうなのか?」
「うん。特に私達は女だからって舐めて掛かられることもあるからね。今回はどう見てもそういう連中だって分かり切ってたから、舐められないように初めからああいう態度を取ってたよ」
「なるほどな」
セントポートでは俺達に絡んで来るような奴もいたからな。そういう連中も確かに居そうだ。
「……まあ今回のはかなりアレだったけど」
ここでアリナは一言付け足すように呟く。
まあ確かに、今回の連中はかなりヤバい奴らだったからな。彼女もあれほどの連中は見たことが無かったのだろう。
「そういう連中は多いのか? 少なくとも、ワイバスでは見たことが無いのだが?」
セントポートに行ったときには絡んで来る連中がいたが、ワイバスではそのような者を一度も見たことが無い。
「ワイバスにも昔はそういう人もいたらしいけど、エルナさんが制裁してたらいなくなったらしいよ」
「制裁?」
「うん。そういう人達はボコボコにしてたらいなくなったってルミナさんから聞いたよ」
確かに、馬鹿に分からせるにはそれが手っ取り早いかもしれないが、冒険者ギルドの職員としてそれはどうなんだ?
「エルナさんって基本的に口より先に手が出るからねー」
「確かに、そんな印象は受けるな」
エルナのことはあまり知らないが、ステアが言う通りそんな感じはするな。
「さて、その話はここまでにして依頼の魔物を探そっか」
「そうだな。向かうのは北方向で良いか?」
ここまで目的の魔物は見当たらなかったので、探すのなら南側以外の方向が良いだろう。
なので、ここはまだ向かっていない北側に行くことを提案する。
「うん、それで良いよ。それじゃあ行こっか」
「ああ」
そして、目的である魔物を探しに北方向へと向かった。
しばらく歩いているとレーネリアの魔力探知に反応があったので、全員でその場所に向かった。
「反応があったのはこの先です」
「そうか。さて、
レーネリアの探知に反応があった場所に向かうと、そこには
アイスホーンボアは全部で五体いて、こちらにはまだ気付いていない。
(一応、アイスホーンボアについてのことを確認しておくか)
初めて相手する魔物なので、ここで一度その特徴を纏めてみることにする。
アイスホーンボアはDランク推奨の魔物で、頭部にある一本の角が特徴的な魔物だ。
肉は食用に、毛皮は防寒具の素材に、角は武器や防具の素材となるので需要は高く、この街では人気の討伐依頼だ。
攻撃方法は突進ぐらいしか無いが、その角で突き刺して来るので殺傷能力は高い。
戦闘能力はその程度なのかと思うかもしれないが、Dランク推奨の魔物とは言ってもその中では最弱クラスだ。
なので、正直、警戒するほどの相手では無い。
「どうする? 倒すだけなら簡単だけど、それだとあまり依頼を受けた意味は無いよね」
今回の目的はこの地方の環境に慣れて、ここでの討伐依頼に慣れておくことだ。
なので、瞬殺してしまうと目的を果たせない。
「適当に相手したので良いのではないか?」
「それもそっか。みんなもそれで良い?」
「うん」
「それで良いよー」
「良いですよ」
「構いませんよ」
それに反対する者はおらず、今回の方針は無事に決まった。
「私達はどうすればよろしいでしょうか?」
だが、全員が賛成したわけでは無かった。
先程の質問に特に返答していなかったスノーホワイトがどうすれば良いのかを聞いて来る。
「お前達はこの場で待機しておいてくれ」
「分かりました」
「分かったぜ」
彼女達は加減できずに瞬殺してしまいそうな気がしてならないし、彼女達にはさほど必要無さそうだからな。
今回はスノーホワイトとフードレッドには待機してもらうことにする。
「それじゃあ行こっか」
「ああ」
そして、スノーホワイトとフードレッドをその場に待機させて、俺達はアイスホーンボアの討伐に向かった。
スノーホワイトとフードレッドと別れたところで、真っ直ぐとアイスホーンボアの元に向かって駆ける。
(やはり、雪が積もっていると走りづらいな)
この辺りには数センチメートル程度ではあるが雪が積もっていて、普通の地面よりも走りづらい。油断すると滑ってしまいそうだ。
「フゴッ? ……フゴッ!」
ここでアイスホーンボア達はこちらの存在に気が付いたらしく、一斉に突進の構えを取った。
「フゴーーッ!」
そして、アイスホーンボア達が一斉に突進して来た。
「よっと……」
「当たらないよ!」
俺達はそれを軽く跳んで飛び越えるようにして躱す。
「っと……やはり、滑るな」
着地点はちょうど雪の積もっている場所だったので、着地の際に少し滑ってしまった。
転ぶことは無かったが、これは気を付けておくか何かしらの対策をする必要がありそうだな。
「うわっ!?」
だが、ミリアは着地の際に滑って盛大に仰向けに転んでしまった。
さらに、その際にスカートが捲れ上がって、タイツを穿いていなければ丸見えになっている状態になっていた。
「フゴー!」
アイスホーンボア達は半円を描くようにして駆けて方向を変えて、そのままミリアに向けて突進する。
「こっちに来てるー!?」
「……大丈夫か?」
慌てるミリアに対して俺は冷静にそっと手を差し伸べる。
「敵が来てますよ!」
「ミリアは慌てすぎだ」
彼女は回復魔法に対しての適性が非常に高く優秀なヒーラーなのだが、少々慌てやすく冷静な対応ができないことがある。
そこを直すことができれば良いのだが、これに関しては本人に頑張ってもらうしかない。
「フゴーーッ!」
そして、ついにアイスホーンボア達がすぐ近くにまで迫って来た。
「……させませんよ」
「フゴッ!?」
だが、アイスホーンボア達が俺達の元にまで来ることは無かった。
と言うのも、レーネリアの風魔法で打ち上げられたからだ。
「大丈夫ですか?」
「はい。おかげで何とか」
「エリュの言う通り慌てすぎですよ。冷静に対処すれば何も恐れることはありませんよ」
「頭では分かっていても、中々そううまくは行かなくて……」
まあ頭で理解しておくことと、実戦とでは話が違うからな。それも無理は無い。
「うーん……それができるようになれば頼りになるんだけどね……」
アリナもそのことは少し悩んでいるようだ。
「……頼りにならなくてごめんなさい……」
アリナにそう言われてミリアは少し気落ち気味だ。
「あ、いや、ミリアが頼りにならないってことじゃないよ! いつも補助魔法と回復魔法には助けられてるし、頼りにしてるよ!」
「そうだと良いんですけど……」
アリナはすぐにフォローを入れるが、ミリアは自信を無くしたままだ。
「ホントにごめんって! ミリアのことはいつも頼りにしてるよ!」
「……二人とも、今は戦闘中なのを忘れていないか?」
相手は格下とは言え、今は戦闘中だ。
なので、話は終わってからにして欲しいところだ。
「……来ます!」
そして、そんな話をしている間に態勢を立て直したアイスホーンボア達が再び突進して来た。
(……少し試してみるか)
ここで一つ思い付いたことを試してみることにする。
試してみたいこととはスリップ対策のことだ。
(とりあえず、光属性で良いか)
ひとまず、足裏に光魔法による刃状の物を地面に刺すように形成する。
(これなら滑らずに済みそうだな)
思い付いたスリップ対策は魔法で足裏に刃状の物を形成することで、疑似的なアイゼンを作り出して滑らないようにすることだ。
「よっと……」
そして、その状態で横に跳んで突進を躱す。
「ふむ……これはこれで戦いづらいな」
確かに、これによって滑ることを無くすことはできそうだが、いつもと感覚が違うのでこれはこれで戦いづらい。
良い案かとも思ったが、残念ながらそう簡単には行かなかった。
「……刃をもっと鈍くして、角度を移動方向と垂直にすると良いですよ」
と、ここでレーネリアが俺のしていたことに気付いたらしく、そのことでアドバイスをして来た。
「そうなのか?」
「はい、それぐらいにするとちょうど良い感じになると思います」
「分かった。早速、試してみる」
ちょうどアイスホーンボア達がUターンして戻って来たので、早速、試してみることにする。
(こんな感じか?)
先程と同じように横に跳んで避けるが、今度はレーネリアのアドバイス通りに先程よりも刃を鈍くして、その角度を移動方向と垂直にする。
「ふむ……確かに、これだとちょうど良さそうだな」
レーネリアのアドバイス通りにしてみたところ、雪上での移動やブレーキ具合などがちょうど良い感じで、あまり違和感無く動くことができた。
魔力の刃をうまく維持したり移動する方向に応じて調整する必要はあるが、これなら普段通りに近い動きができそうだ。
「ねえ、そろそろ倒しちゃって良い?」
と、ここでシオンがもう倒しても良いのかどうかを聞いて来る。
「どうする、アリナ?」
ひとまず、リーダーであるアリナにどうするのかを聞いてみる。
「そうだね……まだ依頼は他にも四件あるし、もう倒しちゃおっか」
「分かった」
アリナに許可をもらったところで刀に手を据えて居合斬りの構えを取る。
「……補助します」
「フゴッ!?」
それと同時にレーネリアが風魔法でアイスホーンボア達を空中に打ち上げる。
「助かる。シオン!」
「うん!」
そして、風魔法を使って風を纏ってからそこに向かって跳んで接近して、宙に浮いて無防備になっているアイスホーンボア達を居合斬りで纏めて斬り裂いた。
「ふむ……この魔物自体は大したことは無かったな」
「だね」
まあDランク推奨の魔物の中では最弱クラスの魔物らしいからな。こんなものだろう。
「それで、この後はどうする?」
「このまま北に向かって討伐対象の魔物を探すよ」
「分かった」
そして、倒したアイスホーンボアを空間魔法で収納してから北側に向かって、その後は依頼の魔物を全て倒し終えたところでスノーファの街に戻った。
街に戻ったところで、真っ直ぐと冒険者ギルドへと向かった。
今は倒した魔物を買い取りに出し終わって本部側に戻って来たところだ。
「思ったより時間が掛かったね」
「そうだな」
討伐対象の魔物が中々見付からなかったので、思っていたよりも時間が掛かってしまった。
「とりあえず、依頼の報告を済ませるか」
「そうだね」
そして、依頼の報告のために全員で受付に向かう。
「もう終わったのですか?」
「はい。これが討伐証明証です」
アリナが代表して受け取っていた討伐証明証を職員に渡す。
「確かに、依頼の討伐対象の魔物は討伐し終えたようですね」
「まあこっちには騎乗用の魔物がいるからねー。それぐらいはすぐに終わるよ!」
ステアが俺とアリナの間から前に出て来て自慢気に言う。
「……キーラはステアのじゃないよね?」
「別に良いじゃん。細かいことは気にしなくて良いの!」
「細かいことなのかなぁ……」
アリナはそう言って首を傾げる。
「あのー……こちらが報酬になります」
と、そんな話をしている間に依頼完了の手続きが終わったらしく、職員は依頼の報酬を渡して来た。
「報酬は後で分けたので良い?」
「ああ」
「それじゃあ私が受け取っておくね」
そして、アリナが代表して報酬を受け取った。
「ところで、今後の予定は決まっているのか?」
ひとまず、今日のところは宿に戻ることになるだろうが、今後の予定が決まっているのかどうかを聞いてみる。
「大規模討伐戦の集合日の前日までは今回みたいに依頼を受けて過ごす予定だよ」
「そうか。……一つ聞きたいのだが、大規模討伐戦への参加者はこの街に集まってから現場に行くんだったよな?」
大規模討伐戦の参加者は一度この街に集合して、それから参加者全員で現地に向かうとのことだったはずだ。
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「俺達にはキーラがいるし、現地に直接行くのではダメのか?」
全員で集まってから現地に向かうのは予定通りに事を進めやすくするためだ。
先に集合して参加者を確定させた方が計画を立てやすいし、各自で現地集合だと道中でのトラブルなどで時間通りに集まれない者が出て来る可能性もあるからな。
だが、他の冒険者はともかく、俺達には騎乗用の魔物であるキーラがいる。
なので、この街に集まって他の参加者と共に馬車で現地に向かうよりも、キーラに乗って現地に向かいたいところだ。
「確かに、それはそうだけど問題は冒険者ギルドの方が許可してくれるかどうかだよね」
しかし、アリナの言う通り問題はギルド側がそれを許可してくれるかどうかだ。
一応、全員で集まってから現地に向かうことになっているからな。
「それはそうだが……聞いてみれば良いのではないか?」
「それもそうだね。職員さーん、ちょっと良いですかー?」
「何でしょう?」
そして、受付に戻って職員にこのことを相談してみる。
「大規模討伐戦のことに関してなのだが、俺達はできればここで集まらずに現地に直接向かいたいと思っている」
「だから、それでも良いのかどうかを聞きたいんだけど、どうかな?」
「そうですね……それは少し上に掛け合ってみないと何とも言えませんね」
しかし、彼女の一存では決められないらしく、回答は得られなかった。
「そうか、分かった。では、決まったら連絡をくれるか?」
「分かりました」
ひとまず、決まったら連絡をするようにだけ伝えておく。
「さて、お前達は他に何か用はあるか?」
「いや、特に用は無いよ」
「そうか。では、宿に戻るか」
「そうだね」
そして、今日はもう特にすることは無いので、その後は宿に戻ってのんびりと残りの時間を過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます