episode121 Cランクへの昇格

 街に戻ったところで、依頼の報告をしに冒険者ギルドに向かった。


(朝にいた奴は……いないな)


 ギルド内の席を見渡してみるが、朝にいたチンピラはいなくなっていた。


「アリナ、依頼の報告を頼めるか?」

「分かったよ」


 そして、アリナは依頼の報告をしに受付に向かう。


「戻って来たようですね」

「む?」


 そのとき、俺達が戻って来たことに気付いたエルナがカウンターの裏の扉から出て来た。

 わざわざ俺達が来るのを待っていたようなので、何か用があるのだろう。

 ひとまず、エルナの元に向かってから用件を聞いてみる。


「エルナさんか。何か用か?」

「いえ、特には。念のために私が付いておくだけです」

「そうか」


 どうやら、レーネリアの護衛のようなもののつもりのようだ。


「朝にいた奴らは?」

「もう帰りましたよ?」

「……処理したのか?」

「いえ、その必要も無さそうだったので放置しました」

「そうか」


 俺と同じ判断をしたのか、奴らに対して特に処置はしなかったようだ。


「……? 何の話?」


 アリナが話に付いて行けずに何の話なのかを聞いて来る。


「何でも無い。気にしないでくれ。エルナさん、依頼の達成報告の方を良いか?」


 必要であればエルナやルミナの方から話すだろうし、とりあえず今はこのことは黙っておくことにする。


「それは構いませんが、その前にエリュ、シオン、少し良いですか?」

「何だ?」

「何?」


 どうやら、エルナが俺達に何か用があるらしい。

 ひとまず、用件を聞いてみる。


「冒険者カードを渡していただけますか?」

「分かった」

「分かったよ」


 そして、言われた通りに冒険者カードを渡す。

 すると、そのカードを後ろの棚にしまって、そこから新しいカードを取り出した。


「Cランクに昇格しましたので、冒険者カードを更新しておきました」


 更新された冒険者カードを確認すると、俺達はCランクに昇格していた。


「良いのか? ここ一か月以上は依頼を受けていなかったが?」


 俺達はガーグノットで動いていたので、一か月以上依頼を受けていない。

 なので、特に実績は無いはずなのだが、Cランクに昇格してしまっても大丈夫なのだろうか。


「スカイトードの討伐を達成したようですし、あなた達の実力を考えると昇格させても問題無いと判断されましたので」

「そうか」


 どうやら、スカイトードの討伐が昇格の決め手になったようだ。


「さて、依頼の報告だがアリナ、任せて良いか?」

「うん、任せて」


 そして、アリナに依頼達成の報告を任せて俺達は皆の元に戻った。


「エルナさんと何の話をしてたの?」


 皆の元に戻ったところで、ステアに先程の話の内容を聞かれる。


「ただの雑談だ。何でも無い」

「ホントに? 何か重要な話でもしてたんじゃないの?」


 だが、そう言って疑り深そうに聞いて来る。


「何でも無いと言っているのだが?」

「でも、エリュって雑談とかするタイプじゃないよね?」

「…………」


 確かに、そう言われるとそうなのだが、それが理由で疑われても困るのだが。


「みんな、依頼達成の報告が終わったよ」


 と、ここで依頼達成の報告を終えたアリナが戻って来た。


「そうか。この後は何か予定はあるか?」

「いや、私達は無いよ」

「アタシは食材の買い出しをしたいかな」


 『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーは特に用事は無いようだが、アーミラは少々用事があるようだ。


「そうだな……店に戻って昼食を摂ってから買い出しに行くので良いか?」


 今から買い出しに行くとなると少々時間が中途半端になるので、ここは昼食を摂って午後から買い出しに行った方が良いだろう。


「うん、それで良いよ」

「では、店に戻るか」


 そして、方針が決まったところで、ルミナの店に戻った。






 店に戻って二階に上がると、そこにはソファーに座って休んでいるルミナがいた。


「お帰りなさい。スノーホワイトとフードレッドはどうだった?」


 そして、自律思考型戦闘用ゴーレムの所感を聞いて来る。


「それなりに戦闘能力はあるようだったが、相手が弱くてよく分からなかったな」


 レッサーワイバーンが相手だとその実力の底が見えなかった。

 なので、あれだけだとまだ何とも言えない。


「私も同意見かな」


 アリナも俺と同意見のようだ。


「そうだったのね。それなら、もう少し強い魔物で試してみる?」

「まあ時間があればな。さて、俺達は少し休んで来るぞ」

「ええ。お昼まではまだ少し時間があるから部屋で休むと良いわ」

「それじゃあ少し休んで来ますね」


 そして、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーは自分達の部屋に向かった。


「あなた達は行かないのかしら?」

「ああ。少し話があるからな」


 部屋で休むと言ったのは人払いをするためなので、本命はこちらの方だ。『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーが部屋に行ったのを確認したところで、ルミナの正面にあるソファーに腰掛ける。

 それを見て、シオンとアーミラも俺の隣に腰掛ける。


「すいません、私達は何をすればよろしいでしょうか?」


 ここで特に指示が無く待機状態だったスノーホワイトが、いつものように指示を仰いで来る。


「あなた達は少し休んでいると良いわ。私が停止させてあげるわね」

「分かりました」

「じっとしていてね」


 そして、ルミナが手をかざして術式を起動すると、スノーホワイトとフードレッドは停止した。


「……先程の所感に一つ加えさせてもらうと、毎回指示を出さないと動けないのは自律思考型としてどうなんだ?」


 自律思考型とは言うものの、彼女達は指示が無ければ動くことができないようなので、自律思考型と言って良いのかは少々怪しいところだ。


「学習能力はあるから、その内改善されていくと思うわ」

「……そうか」


 まあ作った本人であるルミナがそう言うのであれば、恐らくそうなのだろう。

 ひとまず、この話はここまでにして本題に入ることにする。


「それはそうと、俺の送ったメールは見てくれたか?」


 本題というのはもちろんレーネリアを狙う刺客についてのことだ。

 エルナに伝わっていたようなので確認しているとは思うが、念のために例のメールを確認したのかどうかを聞いてみる。


「ええ、もちろん見たわよ。……そんなにレーネリアのことが心配なのかしら?」

「そこまででは無いが、本当に大丈夫なのか?」

「ええ。最近は特に注意を払っているから大丈夫よ」

「……つまり、狙われることが多くなったのだな?」


 ルミナはそう言って誤魔化そうとしたようだが、俺には分かる。

 より注意を払うことになったということは、以前よりも狙われるようになったと見て間違い無いだろう。


「……やっぱり、あなたには隠していても仕方が無さそうね。分かったわ。軽く今の状況を話してあげるわ」


 そして、ルミナは姿勢を正すと、刺客のことについての話を始めた。


「確かに、刺客に狙われることは私も含めて多くなっているけど、そのは変わっていないわ」

「私も含めて、と言うことはルミナさんも狙われているのか?」

「ええ。ルートライア家とハイスヴェイン家が懸賞金を懸けているから、それが目当てなのでしょうね」


 レーネリアに懸賞金が懸けられているのは知っていたが、ルミナにも懸けられているのは知らなかったな。


「ルミナさんのことなので聞く必要は無さそうだが、大丈夫なのか?」

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。私を狙って来た刺客は氷漬けにして騎士団に引き渡しているから」

「そうか」


 まあその辺のチンピラにルミナをどうにかできるとは思えないしな。傷付けるどころか触れることすらできないだろう。


「それで、が変わっていないということは、狙って来るのは相変わらず懸賞金目当ての者だけなのだな?」

「ええ、そうよ」


 つまり、各貴族達が抱えている裏で動く者達はまだ動いていないということか。


「裏の奴らはまだ動いていないのか?」

「ええ。と言うより、こちらに手を回す余裕が無いと言うのが正しいわね」

「と言うと?」

「各勢力が色々と拮抗しているから、こっちに手を回す余裕が無いのよ」

「なるほどな」


 それで、まだ裏で動く者達がまだ動いて来ていないということか。


「それは分かったが、ルミナさんは戻る気が無いのだろう? それでも狙われているのか?」

「ええ、もちろん戻る気は無いわ。この前も使者が来たけど、断ったしね」

「使者? エンドラース家からの者か?」

「ええ、そうよ。一か月ぐらい前の話であなた達はいなかったから知らなかったでしょうけど、使者に家に戻るよう言われたわ」


 一か月前ということは、俺達がガーグノットに向かって少ししてからか。


「そうだったのか」

「それで話を戻すけど、ルートライア家とハイスヴェイン家からしてみればこっちの事情は分からないから、放ってはおけないのでしょうね」

「なるほどな」


 ルミナは戻る気は無いのだが、ルートライア家とハイスヴェイン家の者はそのことを知らないだろうからな。

 まあルミナが戻って来ないのを見てある程度は事情を推測することは可能だろうが、確信を持てない以上は何かしらの手立てを講じる必要がある。


「まあ向こうからすればルミナが一人加わるだけでパワーバランスは崩壊するからねー」


 ここでアーミラが話に入って来る。


「そこまでか?」

「うん。ルミナならそれぐらいの実力がありそうだし。レーネリアはあまり見たことが無いから分かんないけど」

「やっぱり、ルミナさんってそんなに強いんだね。でも、一人でそんなに変わるものなの?」


 さらに、シオンも話に加わってルミナにそう尋ねる。


「実力者一人で力関係が大きく変わることは良くあるわ。自分で言うのも何だけど、私がエンドラース家に戻ればアーミラが言うように力関係は一気に傾くはずよ」

「そうなんだ。一人だけでも変わるものなんだね」

「そだよー。この前の戦いでも城の兵士はアタシが一人でほとんど片付けたじゃん」

「確かに、それもそうだね」


 確かに、ガーグノットでの戦いは実力者が数の差を力でねじ伏せるような、それこそ実力者に対しては数の暴力が通用しないことを証明したような戦いだったからな。

 たった一人加わるだけでも力関係が大きく変わることには納得できる。


「とりあえず、ルミナさんは大丈夫そうだが、レーネリアはどうなんだ?」


 ひとまず、ルミナは大丈夫そうだが、問題はレーネリアの方だ。

 それなりに実力があるとは言っても、彼女はまだ十三歳の少女だ。そんな彼女にこの件をどうにかできるとは思えない。


「そうね……これまでは大丈夫だったのだけど、流石に向こうも気付いてきているからこれからどうするかは悩みどころね」

「つまり、あまり大丈夫では無いということだな?」

「まあそれはそうだけど、私が何とかするからあなた達は気にしなくて良いわ」

「……以前もそう言っていたが、本当に大丈夫か?」


 以前も同じことを言っていたが、以前とは状況が変わって来ている。

 なので、今まで通りでは対応できない可能性もある。


「まあどうしてもっていう状況になったら向こうに行って私が直接動くつもりよ」

「そうか」


 まあそこまで言うのなら俺はまだ動かずに任せるとするか。


「あれ? エリュ達も部屋で休むんじゃなかったの?」


 ここで部屋に向かったアリナがリビングに戻って来た。


「ああ。少し話があったからな」

「話って……何の話?」

「個人的な話だ。気にしないでくれ」

「そう……? 分かったよ」


 どうやら、アリナはこれで納得してくれたらしく、これ以上このことは聞いて来なかった。


「あら、ちょうど良かったわ。アリナ、少し話があるのだけど良いかしら?」


 何やらルミナはアリナに何か話があるらしい。


「もちろん、構いませんよ」


 アリナはそれを快諾して俺達の座っていないソファーに座る。


「それで、話って何ですか?」

「スノーホワイトとフードレッドのことだけど、もう少しその性能を試してみない?」


 何の話かと思ったら、話とはスノーホワイトとフードレッドのことだった。


「それはもう少し強い魔物で試すということですか?」

「そういうわけでは無いのだけど、性能を試すのにちょうど良い依頼があるのよ」

「どんな依頼ですか?」

「ノースレイヴでの大規模討伐戦よ」

「「大規模討伐戦?」」


 聞き慣れない単語を聞いて俺とアリナが同時に聞き返す。

 ノースレイヴはこの国ワイバートの北にある国で、ワイバートとは友好的な関係の国だ。

 それは良いのだが、問題は大規模討伐戦というものがどんなものであるかだ。


「その詳細を頼めるか?」


 ひとまず、その詳細を聞いてみることにする。


「ええ、良いわよ。首都であるスノーファの近くで魔物の大量発生が確認されたらしくて、大規模な討伐戦が行われることになったのよ。それで、参加者を大々的に募集しているわ」

「魔物の大量発生? 何かあったのか?」

「詳しいことは調査中だから分かっていないわ。まあそれを調査することも今回の依頼の一環ということよ」

「なるほどな」


 魔物の大量発生の調査となると戦力が必要になるので、国での調査にも限界はある。あまり軍の戦力は割きたくは無いだろうしな。


「それで、その大規模討伐戦はいつ行われる予定なんだ?」

「一週間後よ」

「一週間後か……アーミラはどうだ?」

「アタシは向こうに戻ってるかな。エリサに呼ばれるかもしれないし」

「そうか」


 残念ながらアーミラは参加できなさそうだな。


「それで、どうする? 参加するのだったら手続きをしておいてあげるけど?」

「そうだな……俺達は参加しても良いが、アリナはどうするんだ?」


 俺達は参加で構わないが、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーはどうするのかを聞いてみる。


「一応みんなに相談するけど、参加するつもりだよ」


 どうやら、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーも参加する方向のようだ。


「そうか」

「分かったわ。それじゃあ参加する方向で話を進めておくわ」

「ああ、頼んだ」

「その方向でお願いします」

「それじゃあ今日はその準備に費やすと良いわ。私はエルナに言って手続きを進めておくわね」

「分かった」

「分かりました」


 そして、ルミナはそれだけ言い残すと、自分の部屋に向かった。


「それじゃあ私は話をして来るね」

「ああ」


 アリナも『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の他のメンバーと話をするために自分の部屋に向かう。


「アタシは昼食ができるまで部屋で待ってるね」

「分かった」


 それに続いてアーミラも自分の部屋に向かう。


「ボク達はどうする?」

「特にすることは無いし、このままここでのんびり過ごすか」

「分かったよ」


 そして、特にすることの無い俺達はのんびりと午後の時間を過ごすことにした。

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