episode122 ノースレイヴへ!
翌日、早朝から『
いつものようにキーラを迎えにレイルーンの家の地下へと向かう。
「皆さん、お早いですね。おはようございます」
「皆さん、おはようございます」
すると、そこにはレイルーンがいた。フィリアーチェも一緒に挨拶をして来る。
「ああ、おはよう」
「「おはよー」」
「「「おはようございます」」」
こちらもそれぞれ挨拶を返す。
「キーラ、迎えに来たぞ」
「キィッ♪」
そして、キーラを呼ぶと嬉しそうな鳴き声を上げながら飛び付いて来た。
「ノースレイヴは寒いわよ。防寒対策は……問題無さそうね」
「はい。そこはバッチリです」
ノースレイヴは寒いと聞いたので、もちろんその対策はして来ている。
まず、普段は半袖のメンバーも今回は長袖を着ていて、さらにその上に膝下まで長さのあるコートを着ている。
このコートはルミナの作った特別製で、体温を逃がさないように専用の刻印術式が使われていてかなり温かい。
さらに、女性メンバー……と言うか、俺以外は普段は穿かないタイツを穿いている。
なので、防寒対策はバッチリだ。
「そのようですね。それで、そちらが自律思考型のゴーレムですね?」
そして、レイルーンがスノーホワイトとフードレッドに視線を移してからそう聞いて来る。
「ああ、そうだ」
「…………」
俺がそう答えるとレイルーンは二体の目の前にまで近寄って、じっと彼女達のことを見つめた。
「流石は大陸一の最高峰の魔術師と呼ばれていただけはありますね」
そして、少ししてからそれだけ言うと二体の観察を止めた。
「ヴァージェスのことを知っているのか?」
「ええ。まだ人間だった頃にも一度会っているわ」
ヴァージェスが人間だった頃か。そう言えば、そのあたりの話をエリサ達からまだ聞いていないな。
「ゴーレムの方は良いけど、頼んでおいたホムンクルス関連の研究の方は進んでいるのかしら?」
「ホムンクルス?」
「いえ、こちらの話よ。気にしないで」
「……そうか」
その詳細を聞いてみたいところだが、聞いても答えてくれそうに無いので、これ以上は聞かないでおく。
「ええっと……何の話?」
ここで話に付いて行けていないアリナが説明を求めて来る。
「こちらの話だ。気にしないでくれ」
「……いつもそうやって話を逸らすよね?」
「説明しても分からないことだ」
このことを話すつもりは無いし、説明しても分からないだろうからな。いつものように適当に話を流す。
「たまには分かるように説明してくれても良いんじゃない?」
だが、アリナはここで退かずに説明を求めて来る。
「そう言われてもだな……」
「まあ必要になったら話してあげるわ。だから、今は気にしないでおいてくれるかしら?」
「……分かりました」
レイルーンにそう言われて、アリナはようやく退いてくれた。
「それじゃあ気を付けて行ってらっしゃい」
「ああ」
「はいっ!」
そして、レイルーンとフィリアーチェに見送られながらワイバスの街を後にした。
ワイバスを出発した後は途中で昼食休憩をしただけで、特に何事も無くスノーファに着いた。
少し遅めのペースで移動したので、現在の時刻は夕方前だ。
「着いたね」
「ああ」
「やっぱり、寒いね」
「そうだな」
雪が降るほどではないが、気温はかなり低く防寒対策が必須なほどだ。
防寒対策はしておいて正解だったな。
「それで、もうすぐ夕方だけど、どうするの?」
ステアがリーダーであるアリナにこの後の予定を尋ねる。
「まずは冒険者ギルドに行って大規模討伐戦について確認するよ。エリュもそれで良いね?」
「ああ」
ここに来た目的は大規模討伐戦に参加することだ。
なので、まずは冒険者ギルドに向かうことにした。
冒険者ギルドは他の街と同様に街の入り口のすぐ近くだったので、着くまでに三十秒も掛からなかった。
「中身は……ワイバスとあまり変わらないね」
ギルド内を見渡してみるが、シオンの言う通り冒険者ギルドの中身はワイバスのものとあまり変わりが無かった。
「冒険者ギルドは基本的にどこも同じようなものだよ」
それを聞いたアリナが説明するように言う。
「そうなのか?」
「そう言えば、エリュ達は他の街の冒険者ギルドを見たことが無いんだったね」
「言われてみれば、他の街の冒険者ギルドにはほとんど行ったことが無いな」
一応、セントポートの冒険者ギルドには行ったことがあるが、それ以外の街の冒険者ギルドには行ったことが無い。
「とりあえず、受付に行こっか」
「そうだな」
ひとまず、大規模討伐戦について確認するために受付に向かう。
「すいませーん、ちょっと良いですか?」
そして、アリナが受付の女性に話し掛ける。
「何でしょうか?」
「大規模討伐戦について聞きたいのですが、良いですか?」
「大規模討伐戦への参加をご希望ですか?」
「はい、そうです」
「それでは、冒険者カードを確認させてもらいますが、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
言われた通りにアリナは冒険者カードを取り出して渡す。
「『
どうやら、ルミナの連絡を受けてレイルーンが話を通しておいてくれたようだ。
「そうですか。では、大規模討伐戦に関しての情報をいただけますか?」
「それであればこちらにございます」
受付の女性はそう言って後ろの棚から三枚の紙が連なった資料を取り出す。
「こちらの資料に今回の大規模討伐戦に関しての情報を記しています。集合場所や集合時間なども記載されていますので、忘れずにご確認ください」
どうやら、この資料に今回の大規模討伐戦についてのことが纏められているようだ。
(やはり、普通の依頼とはだいぶ異なるな)
普通の依頼であれば資料は一枚で収まるのだが、今回は三枚分もある。
加えて、通常であれば集合場所や集合時間などといった概念も無い。
そういったことからも通常の依頼とは異なるものであることがよく分かる。
「分かりました。後で確認しておきます」
「用件は以上でしょうか?」
「はい。それではもう行きますね」
そして、そこで話を終えて受付を離れた。
「それで、この後はどうする?」
「うーん……夕食には早すぎるし、とりあえず依頼の詳細を確認してみよっか」
「分かった」
アリナの言う通りに夕食には早すぎる時間なので、少々時間を潰す必要がある。
なので、依頼の詳細を確認して時間を潰すという提案には賛成だ。
ひとまず、近くにあった適当な席に着く。
「それじゃあ確認してみよっか」
「ああ」
そして、資料をテーブルの中心に置いて内容を確認していく。
「……って、その資料は何だ?」
だが、アリナはここで先程渡された資料とは別に数枚の資料を取り出した。
「これはこっちに来る前にルミナさんから渡された資料だよ」
「そうか」
どうやら、ルミナが調べた今回の依頼に関することを纏めた資料のようだ。
「それじゃあ始めよっか」
「ああ」
早速、今回の依頼に関する情報の確認を始める。
「場所は……ここから北東に行った場所にある森みたいだね」
「そのようだな」
場所はこの街を出て北東に馬車で一日ほど行ったところにある森だった。
この森は普段から魔物が出没する森ではあるが、今回のように大量発生することは通常は無いらしい。
「一応、過去に魔物が大量発生したことはあるけど、魔物があまり討伐されずに増えたことが原因らしいね」
過去にこの森で魔物が大量発生したことはあったらしいが、それは単に魔物が討伐されずに放置されて増えたことが原因だった。
「まあ確かにこの辺りは何も無いみたいだからねー。そうなるのも納得かな」
ステアの言う通りにこの辺りには特に何も無く、人が通る場所でも無いので放置されるというのはよく分かる。
加えて言うなら、この森では特に有用な素材も採れず、周辺にそのような場所も無い。
「まあそれを受けて定期的に討伐依頼を出すようにはしていたようだがな」
だが、その一件があってからは定期的に討伐依頼を出して対策しているので、それ以来この森では魔物の大量発生は起こっていなかった。
「でも、それでも魔物が大量発生したんだよね?」
「そうだな」
しかし、今回は対策していたにも関わらず、魔物が大量発生するという事案が発生した。
「問題はそれをどう見るかだが……何か意見はあるか?」
ひとまず、他のメンバーに意見を聞いてみる。
「やっぱり、討伐数が少なくて数を減らせてなかったんじゃない?」
「ボクも同じかな」
「わたしもです」
ステアとシオンとミリアは討伐数が足りていなかったと見ているようだ。
「うーん……そう言われても、他の理由が見当たらないかな」
アリナもそれに同意見のようだ。
「そうですね……気になるのは統率された行動らしきものが見られたという点ですね」
しかし、レーネリアだけは意見が違った。
「ふむ、レリアもそう思ったか」
「って言うと?」
アリナが詳しいことを聞いて来る。
「魔物の大量発生は自然に発生したものではなく、何者かが干渉した可能性があるということだ」
俺とレーネリアの意見はこの一件に何者かが干渉している可能性があるというものだった。
「うーん……でも、統率された行動らしきものが見られたっていうのも確実な情報じゃないし、それはどうなのかなぁ……」
アリナの言う通り、統率された行動らしきものが見られたというのはあくまで所感なので、確実な情報ではない。
「そもそも、魔物が人の言うことを聞くのなんてかなり珍しいよね?」
さらに、ステアの言う通りに魔物が懐くことは珍しい。
霧の領域の基地には飼っている魔物がたくさんいるが、あれだけの魔物に懐かれるネフィアがおかしいだけで、普通はあんなに懐くことは無い。
「統率された行動を取る魔物もいますし、その類の魔物の可能性もありますよね?」
ミリアの言う通りにゴブリンのように統率された行動を取る魔物という可能性もある。
「しかし、報告によるとその類の魔物ではないにも関わらず、統率された行動らしきものが見られたということのようですよ?」
だが、レーネリアの言う通りに報告によると、普通は統率された行動を取らない魔物がそのような行動を取っていたとのことだった。
「ミリアの言う線で行くと、何かしらのイレギュラーで統率力のある魔物が通常は率いることが無いはずの魔物まで率いているという可能性はあるな」
通常、統率力のある魔物でも率いるのは同種の魔物だけだ。
しかし、魔物の大量発生というイレギュラーが発生している以上その可能性もある。
「高度な知能を持った魔物であれば様々な魔物を率いることも可能なので、その線もありますね」
確かに、リュードランやフェルメットのように高度な知能のある魔物であればそれも可能だな。
「まあこれらはあくまで可能性の話だ。頭の片隅に入れておく程度で良い」
「分かったよ」
とは言っても、これらは推測による可能性の話なので、あまり気にし過ぎることも無いだろう。
「この森に生息している魔物の推奨ランクはEランクからCランクみたいだね」
「そのようだな」
この森に出没する魔物のリストを確認したところ、いずれもEランクからCランク推奨の魔物だった。
なので、俺達の実力であれば特に問題は無さそうだ。
「後は戦法をどうするかだけど……」
「普通に俺達だけで戦ったので良いのではないか? 人数も戦力も十分なので、これ以上増やす必要も無いだろう」
大規模討伐戦なので、当然、他にもたくさんの冒険者がいる。
なので、他の冒険者と共に協力して戦うという選択肢もある。
しかし、俺達は人数も戦力も十分なので下手に人数を増やす必要が無い。
「それに、有能な者が味方になるとも限らないしな。
加えて、共闘することになる者が有能な者になるとは限らない。
有能な敵よりも無能な味方の方が厄介とも言うし、ここは下手にメンバーを増やすよりも俺達だけで戦った方が良いだろう。
「それなら相手を選べば良いんじゃない?」
それに対してステアがそう意見して来る。
「まあそれはそうなのだが、先程も言った通りに俺達にはこれ以上の戦力は必要無いからな。全体として見ても俺達のところに必要以上に戦力を集約させるよりも、他のところに回した方が良いだろうし、それで良いのではないか?」
「それもそうだね」
そう聞いてステアは納得したようだ。
「とりあえず、今回の依頼に関しての話はこのぐらいかな」
「そうだな」
もう一度資料に目を通してみるが、話し合うべきことはもう話し終えたので、これ以上の話し合いをする必要は無さそうだった。
「それじゃあ資料はもう片付けるね」
「ああ」
そして、話し合いが終わったところで、資料を片付ける。
「さて、まだ夕食には早い時間だが、どうする?」
この話し合いで多少は時間を潰せたが、それでもまだ夕食には早い時間だ。
ひとまず、アリナにこの後はどうするのかを聞いてみる。
「そうだね……とりあえず、ここで宿を取ったら街に出よっか」
「分かった。全員それで良いな?」
「うん」
「リーダーには従うよー」
「はい」
「それで構いませんよ」
「それじゃあ宿を取って来るね」
「ああ。頼んだ」
そして、そのまま宿を取ってから冒険者ギルドを後にした。
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