episode120 性能テスト

 翌日、早朝からスノーホワイトとフードレッドを連れて『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーとアーミラと共に冒険者ギルドへ向かった。


「早めの時間に来て正解だったな」

「そうだね」


 時刻は早朝で早めの時間なので、ギルド内にはあまり人がいなかった。

 これならスムーズに依頼の受注ができそうだ。


「…………」


 だが、ここで何者かの視線を感じた。

 別に誰かが入って来た際に気になって視線を向けることは不自然なことでは無いが、これは明らかにそういった類のものでは無かった。

 俺には分かる。これは監視をしているかような視線だ。


「……? どうしたの、エリュ?」


 ここで俺が何かを気にしていることに気が付いたのか、アリナはそんなことを聞いて来た。


「……いや、何でも無い。アリナ、依頼の受注を頼めるか?」


 俺は視線のことが気になるので、依頼の受注はアリナに任せることにする。


「分かったよ。みんなは席に座って待ってて」

「ああ」


 そして、アリナは依頼を探しに掲示板の方に向かった。


「とりあえず、そこの席に座るか」

「だね」


 ちょうど全員で座れそうな席があったので、全員でその席に着く。


(ひとまず、様子を見てみるか)


 そして、こちらに視線を向けていた人物の様子を確認する。

 確認すると、こちらのことを監視していたのは二人組の男だった。


(監視対象は……レーネリアか)


 思った通り、監視対象はレーネリアのようだった。

 恐らく、奴らは懸賞金目当てのチンピラだろう。


「……どうなの、エリュ?」


 ここでシオンが小声で奴らのことを聞いて来る。


「レーネリアの懸賞金目当ての奴らだな」


 こちらも周りに聞こえないように小声で返答する。


「やっぱり? それで、どうする? 殺っちゃう?」

「いや、放置する」


 だが、ここは手を出さずに敢えて放置することにする。


「……それで良いの?」

「ああ。騒ぎにならないように暗殺するのは面倒だし、奴らを殺っても何の解決にもならないからな」


 当然、殺すのであればバレないように裏で処理する必要があるが、それは少々面倒だ。

 まあそれも理由の一つではあるが、それがメインの理由ではない。奴らを放置する最大の理由は殺す意味が無いからだ。


 奴らはレーネリアに懸けられた懸賞金目当てのチンピラで、レグレットの貴族達とは無関係の人物だ。

 なので、奴らを殺したところでレグレットの貴族達にダメージは無いし、別の刺客が現れるだけだ。手間を掛けてまで殺す意味は無い。

 やはり、根本的に解決するためにはレグレットの貴族達をどうにかするしかない。


「でも、レーネリアが襲われるかもしれないよ?」

「それは問題無い。奴らがレーネリアをどうにかできると思うか?」


 奴らはどう見ても素人で、一言で言ってしまえば弱い。

 仮に襲撃されたとしてもレーネリア一人で十分に対処できる相手だ。


「それもそうだね」

「まあ一応警戒はしておくがな」


 だが、それでも警戒は怠らないようにしておく。


(ルミナにも報告しておいた方が良さそうだな)


 このことはルミナにも報告しておいた方が良さそうなので、メールでこのことを報告することにした。

 端末を取り出して簡潔に内容を纏めたメールを送信する。


「みんな、依頼を受けて来たよ」


 と、ちょうどメールを送ったところでアリナは依頼の受注が終わったらしく、俺達のところに戻って来た。


「そうか。では、行くとするか」

「依頼の内容は確認しなくて良いの?」

「それは道中で聞く」


 普段なら確認してから出発するのだが、今はここに長居したくはないからな。

 今回はさっさと出発して、道中で依頼の内容を確認することにする。


「分かったよ。それじゃあ行こっか」

「ああ」


 そして、依頼の受注が完了したところで、冒険者ギルドを後にしてそのまま街の外へと向かった。






 街を出た後はいつものようにキーラに乗って目的地まで向かった。


「やっぱり早いねー」


 目的地に到着したところで、ステアがキーラの頭を優しく撫でる。


「キィッ♪」


 そして、撫でられたキーラは嬉しそうな鳴き声を上げた。


「アーミラ、騎乗用の魔物が余ってたりしないの?」

「余ってるけど、貸し出せるかどうかはエリサとネフィア次第かな」

「そうなんだ。アリナ、今度エリサに相談してみない?」

「そうだね」


 確かに、騎乗用の魔物がいるとかなり便利だからな。騎乗用の魔物は余っているので、貸し出しの交渉をするのは良いかもしれないな。


「さて、レッサーワイバーンはこの先だったな」


 上空から確認したところ、レッサーワイバーンはこの先にいるようだった。


「だね。それじゃあ早く行こっか」

「ああ。キーラはここで待っていてくれるか?」

「キィッ!」


 そして、キーラをその場に残して、他の全員でレッサーワイバーンのいる場所に向かった。






 少し歩くと、レッサーワイバーンはすぐに見付かった。


「いたな」

「だね」

「ええっと……全部で七体ですね」


 確認すると、レッサーワイバーンは全部で七体いた。

 ひとまず、岩陰に隠れて様子を見る。


「対象のデータを照合。……対象がレッサーワイバーンであることを確認。攻撃を開始してよろしいでしょうか?」


 そして、レッサーワイバーンの姿を確認したスノーホワイトが、動いても良いのかどうかを聞いて来る。


「ああ。好きなタイミングで行って良いぞ」

「分かりました。フードレッド、支援をお願いします」

「任せておけ」


 空間魔法でスノーホワイトは大剣を、フードレッドは銃剣型の魔法銃を取り出して戦闘態勢に入る。


(普通に空間魔法も使えるのか)


 空間魔法はそれなりに高度な魔法だが、普通に扱えている。高性能な戦闘用ゴーレムなだけはあるな。


「それでは行きます」

「あたしも行くぜ!」


 そして、スノーホワイトは風魔法で風を纏って、素早くレッサーワイバーンに接近する。


「グルッ? グルオオォォーー!」


 接近するスノーホワイトに気付いたレッサーワイバーンが咆哮を上げて威嚇する。


「斬ります」


 だが、そんなものでは当然怯まない。そのまま氷魔法で大剣に氷を纏って横薙ぎの斬撃を放つ。


「グル……ァ……」


 その一撃でレッサーワイバーンは真っ二つに斬り裂かれた。


「……凍って」


 さらに、その直後に氷魔法で三メートル近い大きさの氷塊を飛ばす。


「グルッ! ……ルァ!?」


 レッサーワイバーンはそれを翼で受けて防ごうとしたが、それでは防ぎ切れずに氷塊は頭部に直撃した。

 その一撃で頭部がぐしゃっと潰れて、そのまま後方に吹き飛んでいく。


「すごい威力だね」

「風魔法で氷塊を加速させたようですね」


 普通に氷魔法を使って氷塊を放ったにしては速度が速すぎるとは思ったが、どうやら風魔法を使って加速させていたようだ。


「グルァッ!」

「グアッ!」


 ひとまず、二体は倒したが、まだ五体残っている。

 すぐに近くにいた二体のレッサーワイバーンがスノーホワイトに襲い掛かる。


「ガッ……」


 だが、ここでその内の一体のレッサーワイバーンの頭部を熱線が貫いた。


「あたしもいるぜ!」


 もちろん、その攻撃を放ったのはフードレッドだ。

 魔法銃から真っ直ぐと放たれた熱線はレッサーワイバーンの頭部を貫いて、さらに着弾点で大爆発を引き起こした。


「グルアァァーーッ!?」


 そして、爆発が直撃した一体のレッサーワイバーンが消し飛ばされる。


「グラァ!」


 だが、スノーホワイトを狙っているレッサーワイバーンはまだ一体残っていた。

 レッサーワイバーンはそのまま翼を勢い良く振り下ろして、スノーホワイトを殴り付ける。


「……効きませんよ」


 しかし、その攻撃はあっさりと左手で受け止められてしまった。


「グラッ!」


 だが、レッサーワイバーンもそれだけでは終わらない。

 レッサーワイバーンはその状態からスノーホワイトに向けて火球を放った。


「……グラッ!?」


 しかし、その攻撃は全く効いていなかった。

 それも、スノーホワイトは防御行動を一切取っていなかったにも関わらずだ。


「グルッ!」

「……逃がしません」


 レッサーワイバーンはそれを見て距離を取ろうとしたが、スノーホワイトはレッサーワイバーンの翼を掴んでいる自身の左手ごと凍らせることでそれを防いだ。


「……斬ります」


 そして、右手に持った大剣で一文字に斬撃を放った。


「グル……ァ……」


 動きを封じられたレッサーワイバーンはそれを避けることができずに真っ二つに斬り裂かれた。

 さらに、飛ばされた魔力による遠隔斬撃がその後方にいたレッサーワイバーンを襲う。


「グルッ!」


 しかし、その攻撃は上に跳んで躱されてしまった。


「遅いぜ!」

「グ……ラ……」


 だが、そのレッサーワイバーンは跳んだ直後を狙って放たれた熱線に貫かれた。


「グルッ……グラッ!」


 そして、残った最後の一体は戦況の不利を悟ったのか、その場から逃げ出そうとした。


「……逃がしません」

「グラッ!?」


 だが、その頭上に突然スノーホワイトが現れた。


「空間魔法での転移もできるのか」


 そう、彼女は空間魔法を使ってレッサーワイバーンの頭上に転移したのだ。


「……斬ります」


 そして、そのまま大剣を振り下ろして、最後の一体のレッサーワイバーンを斬り裂いた。


「討伐対象の全滅を確認しました。戦闘を終了します」

「もう敵はいないな」


 スノーホワイトとフードレッドは戦闘が終わったところで、空間魔法で武器を収納して、歩いて俺達のところに戻って来た。


「レッサーワイバーン程度であれば簡単に倒せるようだな」

「だね」


 あれだけの素材を集めて作った高性能な戦闘用ゴーレムなので、それなりに戦闘能力はあるとは思っていたが、空間魔法まで使えるとは思わなかったな。


「何と言うか、まだまだ本気じゃないって感じはしたよね」


 そして、アリナが観戦した所感を述べる。

 確かに、レッサーワイバーンが相手だと、本気を出すまでも無く終わったといった感じだったな。


「ルミナさんはワイバーンぐらいなら相手できるとは言っていましたからね」

「そうですね」


 ミリアの一言にレーネリアが同意する。


「そうなのか?」

「うん。そう言ってたよ」


 俺のその質問にはステアが答えた。


「まだ何かすべきことはあるでしょうか?」


 戦闘を終えたスノーホワイトが次の指示を仰いで来る。


「いや、お前達のすべきことはもうこれで終わりだ。このままここで待機しておいてくれ」

「分かりました」

「分かったぜ」


 スノーホワイトとフードレッドは指示を受けてその場で待機する。


「さて、俺達は死体を片付けるか。アリナもそれで良いな?」

「うん、それで良いよ。それじゃあみんな、手伝って」

「おっけー」

「分かりました」

「はい、分かりました」


 そして、死体の処理を手早く済ませてから、キーラに乗って街に戻った。

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