第4章 ノースレイヴでの大規模討伐戦
episode119 自律思考型戦闘用ゴーレム
ガーグノットでやるべきことを終えて、俺達はアーミラと共にワイバスの街にまで戻って来た。
「ここに戻って来るのも久々だな」
「だね」
この街には一か月以上戻って来ていなかったので、この街に来るのは久々だ。
「……こちらに来てから半年か」
「……だね」
この世界に来てからもう半年以上が過ぎた。こちらでの生活にはすっかり慣れて馴染んでいる。
「そう言えば、エリサがアンタ達を見付けたのもそのぐらいだったね」
ここでアーミラが思い出したようにそう言う。
「そうだな」
エリサとは初日に市場で会ったのだったな。
半年前なのでそこまで前の話では無いはずなのだが、彼女とは意外と親しくなったせいか、それが昔のことように思える。
「で、それは良いけどこの後はどうするの?」
「とりあえず、ルミナの店に向かうぞ」
何をするにしても、まずは拠点としているルミナの店に向かうのが良いだろう。
なので、まずは彼女の店に向かうことにした。
「はーい」
「分かったよ」
そして、三人でルミナの店へと向かった。
店に向かうと、今日は営業日だったようで、普通に店が開いていた。
「今日は営業日か」
「みたいだね。いつも通り裏口から入る?」
「いや、正面から店に入ってみるぞ。裏口が開いているとは限らないからな」
普段は裏口から入るのだが、鍵が掛けられていて開いていない可能性もあるので、ここは正面から入ってみることにした。
「分かったよ。それじゃあ行こっか」
「ああ」
「そだね」
そして、三人でそのまま正面から店に入る。
「いらっしゃいませ……って、エリュ!?」
俺達が来ることは予想外だったのか、ミィナは驚き声を上げる。
「ああ。一か月振りだな」
「ほんとだよ! って言うか、この一か月は何してたの?」
「まあ色々とな。ところで、裏口は開いているのか?」
「裏口は開いてないけど、ここから入って良いよ」
ミィナはそう言って自身の後ろにある扉に視線を向ける。
「分かった。では、そうさせてもらう。シオン、アーミラ、行くぞ」
「分かったよ」
「うん」
そして、レジの裏の扉を通ってそのまま二階へと向かった。
二階に向かうと、リビングではルミナとリーサ、『
「……一か月振りになるわね。お帰りなさい」
そして、こちらに気付いたルミナが俺達のことを優しく迎えて、そのまま抱き付いて来た。
「……ああ」
「ただいまー」
こちらもルミナに挨拶を返す。
「……そろそろ放してもらっても良いか?」
「あら? 遠慮しなくて良いのよ?」
「別にそういうわけでは無いのだが。とりあえず、そろそろ放してくれるか?」
このままだと動けないので、ひとまず放すよう頼んでみる。
「もう……久々なんだからこれぐらい良いじゃない。まあ良いわ」
すると、ルミナは渋々といった様子で俺達のことを放した。
「とりあえず、三人とも座ると良いわ」
「ああ」
「うん」
「分かったよ」
そして、解放されたところで、空いているソファーに座った。
「お帰り。ところで、この一か月は何してたの?」
アリナがこの一か月のことを聞いて来る。
「まあ色々とな。大したことでは無いので、あまり気にしないでくれ」
この一か月のことを聞かれても困るので、ここは適当にごまかすことにする。
「そう言われると余計に気になるんだけど?」
ステアは席を立って、俺とシオンのちょうど間あたりの後ろに回って腕を俺達の肩に乗せると、顔を寄せてからそう聞いて来た。
(さて、どうするか……)
ここで素直にガーグノットを潰して来たと言うわけにはいかない。
なので、ここは適当なことを言って誤魔化しておきたいところだが……。
「こちらとしても言えないことはある。悪いが諦めてくれ」
「えー……良いじゃんそれぐらい。減るものじゃ無いんだしさー」
「ダメなものはダメだ」
「ちぇっ……ケチ」
ステアはそれが気に入らなかったのか、文句を言った。
「ステア、口が悪いよ! ほら、謝って!」
だが、すぐにアリナに注意される。
「でも、アリナも聞きたかったんじゃないの?」
「話をすり替えないの! ほら、謝りなさい!」
「むぅ……悪かったよ、エリュ」
そして、渋々といった様子で謝罪した。
「まあそこまで気にしていない。あまり気に病まないでくれ」
俺は別に気にしていないからな。それは一応伝えておく。
「ところで、エリサはどうしたの? いつもはいるのに、アーミラだけなんて珍しいね」
ここでステアはエリサがいないことが気になったのか、そんなことを聞いて来た。
確かに、いつもはエリサがいるが、今日は珍しくいないからな。気になるのも当然と言える。
「エリサは別件でな。しばらくは手が離せない状態だ」
「そうなんだ」
エリサとアデュークはレジスタンスの護衛と戦利品の換金に向かっているからな。しばらくは戻ってくる予定は無い。
「あら、そうなのね。折角、完成したのだからエリサにも見せたかったのだけど」
ここでルミナが残念そうにしながらそう言う。
「完成? 何がだ?」
何の話だろうか。話が見えて来ないので、少し聞いてみることにする。
「あら、忘れたのかしら? あなたがデザインしたじゃない。自律思考型の戦闘用ゴーレムよ」
「む、そうか」
そう言えば、そんなこともあったな。完全に忘れていた。
何の話かと思うかもしれないが、実はデザインはエリサから「デザインは何でも良いから、あなたが決めて良いわよ」と言われて一任されていたのだ。
なので、ゴーレムのデザインは俺が担当した。
「かなりの出来だったよね」
「そうですね」
「ゴーレムとは思えないほどの出来だったよね」
「確かに、そうですね」
『
「早速、見てみる?」
「ああ」
「うん!」
完成品が気になるからな。早速、見に行くことにする。
「それじゃあ地下に来てくれるかしら?」
「ああ」
「分かったよ」
そして、完成したゴーレムを見に全員で地下へと向かった。
地下に向かったところで、倉庫に案内される。
「これよ」
そして、ルミナはそこにあった二体の人形を手で指し示した。
「普通の人間と遜色無いな」
その人形は普通の人間と変わらない見た目で、ゴーレムだと言われなければ気付かない可能性高いだろう。そう言っても過言では無いほどに完成度が高い。
まず左側にあるゴーレムを見てみる。
見た目はドレスを着た十二歳前後の少女で、雪のように白い腰のあたりまであるロングヘアとリンゴのように赤い瞳が特徴的だ。
そして、左側のゴーレムの確認が終わったところで右側にあるもう一体のゴーレムも見てみる。
こちらも見た目は十二歳前後の少女で、金髪のセミロングヘアに黄色い瞳をしていて、赤い頭巾を被っているのが特徴的だ。
「左が『スノーホワイト』、右が『フードレッド』だな?」
「ええ、そうよ」
デザインした二体には名前も付けてあり、名前はそれぞれ「スノーホワイト」と「フードレッド」だ。
名前からも分かるように前者は白雪姫を、後者は赤ずきんをイメージしてデザインしてみた。
「それにしても、エリュの好みってこんな感じだったんだね」
改めてゴーレムを見たステアが呟くように言う。
「もしかして……エリュってロリコンだったの!?」
続けてシオンがそう声を上げる。
「……待て、何故そうなる」
「だって、どう見てもそういう趣味だとしか……」
「いや、デザインは俺の好みでしたわけでは無い」
あくまでそれをイメージしてデザインしただけなので、デザインは俺の趣味では無い。
「……エリュ、隠さなくても良いんだよ……痛ぁ!?」
ここでシオンの頭を掴んで力を込めて握り締める。
「……人の言うことを聞いていたのか?」
「痛い! 待って! 分かったから放してーー!」
「…………」
ひとまず、少しは反省したようなので、手を放して解放する。
「それで、実際に動かすとどんな感じなんだ?」
少し脱線していたので、ここで本題に入ることにする。
「それは今から見せるわね」
「ああ。頼む」
「それじゃあ起動するわよ」
そして、ルミナがゴーレムに向けて手をかざして術式を起動した。
「……起動します」
「……起動する」
すると、ゴーレムがゆっくりと動き出して、ルミナの方を見据えた。
「……今はお昼でしょうか。こんにちは、ルミナ」
スノーホワイトはどのようにして時刻を把握したのかは分からないが、ルミナにそう言って昼の挨拶をする。
「何か用か、ルミナ?」
フードレッドは用があって起こされたと思ったのか、ルミナに用件を尋ねた。
「いえ、何か特別な用があるわけでは無いわ。今回起こしたのは三人を紹介するためよ」
ルミナはそう言って俺達に目配せして来る。
「俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」
「ボクはシオン・イリオス」
「アタシはアーミラ。アーミラ・ヴァサレスだよ」
そして、それぞれで軽く自己紹介をする。
「エリュ・イリオスにシオン・イリオス、アーミラ・ヴァサレスですね。記憶しました」
「こちらも記憶した」
「私はスノーホワイト。これからよろしくお願いします」
「あたしはフードレッド。よろしくな」
スノーホワイトは丁寧にお辞儀をして、フードレッドは気さくな感じで挨拶して来る。
「ああ。これからよろしくな」
「よろしくね」
こう見ると、普通の人間と変わらないように思える。
「まだ作られたばかりだから人格が薄いけど、その内改善されると思うわ」
「そうか」
今のこの状態でも十分だとは思うけどな。
「それで、肝心な戦闘能力はどうなの?」
と、ここでアーミラがそんなことを尋ねる。
彼女達はこう見えても自律思考型の戦闘用ゴーレムだ。
なので、彼女の言う通り戦闘能力がどの程度なのかも気になるところだ。
「そうね……それは実戦で試してみると良いわ」
「それもそうだね」
「一応説明しておくとスノーホワイトは氷属性をメインとした近接型、フードレッドは火属性をメインとした遠距離型よ」
「そうなのか」
どうやら、この二体はそれぞれで役割が違うようだ。
「それで、いつ試しに行く?」
「今日は時間的に微妙そうだし、明日でどうかしら?」
ルミナの言う通り、今日はもう昼過ぎなので、今から街の外に行くのは微妙なところだ。
「そだね」
「それと、あなたの予定を聞いておきたいのだけど良いかしら?」
ルミナはそれを参考にして今後の予定を立てたいのか、アーミラの予定を尋ねた。
「アタシは食材の買い出しをしたら帰る予定だよ。でも、数日ぐらいは自由にしてて良いって言われてるよ」
「そうなのね。とりあえず、この街にいる間はここに泊まると良いわ」
「分かったよ」
アーミラは俺達をワイバスの街にまで送るために同行したが、そのついでで食材の買い出しをするよう言われている。
「それと、余った素材はあなたに返せば良いかしら?」
「うん、それで良いよー」
「分かったわ。いつ渡せば良いかしら?」
「帰るときにでも受け取るよ」
「分かったわ」
「と言うか、素材は余ったのか?」
「ええ。色々と試したかったのと、足りなくなったらいけないから多めに頼んでおいたのよ」
「なるほどな」
まあ素材が素材だからな。不足した際に補充しに行くのはかなり面倒なので、多めに頼んでおいたのには納得できる。
「あのー……すいません。私は何をすれば良いのでしょうか?」
ここで指示を待っていたスノーホワイトがルミナに指示を仰ぐ。
「あなた達は自由にしていて良いわよ」
「自由と言われても、何をすればよろしいのでしょうか?」
「そうね……とりあえず、みんなと一緒に過ごすと良いわ」
「何をして過ごせば良いのでしょうか?」
「…………」
そう聞かれたルミナは言葉に詰まる。
「とにかく、みんなと一緒に二階に行きましょうか」
「分かりました。お供します」
「あたしも付いてくぜ」
「それじゃあ二階に戻るわよ」
「ああ」
そして、スノーホワイトとフードレッドを含めた全員で二階へと向かった。
二階に向かったところで、いつものように全員でリビングに集まって閑談していた。
「紅茶とお菓子だよー」
ここでミィナが紅茶とクッキーを持って来る。
「運ぶぐらいなら手伝うぞ」
「それじゃあお願いできる?」
「ああ」
どうせ手は空いているので、俺も手伝うことにした。
キッチンに向かってミィナと共に紅茶とクッキーを運ぶ。
「さて、明日はスノーホワイトとフードレッドの性能テストに向かうが、何の依頼にする?」
ひとまず、明日は『
なので、リーダーであるアリナに相談してみることにする。
「そうだね……無難にレッサーワイバーンで良いんじゃない? エリュはどう思う?」
「それで良いと思うぞ。ルミナさん、一応聞くがレッサーワイバーンであれば問題無いか?」
一応、ルミナに大丈夫なのかどうか聞いてみる。
「ええ、問題無いわ。その程度なら簡単に倒せるはずよ」
「そうか。……それはそうと、スノーホワイト、フードレッド、何か喋ったらどうだ?」
二階に上がってから二体は口を閉じたままで、特に何も喋っていない。
なので、少し話をしてみるように促してみる。
「何を喋れば良いのでしょうか?」
「普通に話をすれば良いのではないか?」
「何の話をすれば良いのでしょうか?」
「普通に話を合わせれば良いのではないか?」
「……?」
しかし、俺のその言葉に対しては首を傾げるだけだった。
「……いや、何でも無い。聞かなかったことにしてくれ」
「分かりました」
「……これは先が長そうだな」
この調子だと、まともに話ができるようになるのはだいぶ先になりそうだ。
「そうね。それと、エリュ、アリナ、ちょっと良いかしら?」
「何だ?」
「何ですか?」
どうやら、ルミナが俺とアリナに何か用があるらしい。
ひとまず、その内容を聞いてみる。
「スノーホワイトとフードレッドに関してのことなのだけど、この本を読んでおいて欲しいのだけど良いかしら?」
そして、そう言ってそれぞれに一冊ずつ本を渡して来る。
「これは?」
「それはスノーホワイトとフードレッドに関してのことを記した本よ」
「そうか。それは分かったが、俺達に何をさせたいんだ?」
とりあえず、この本についてのことは分かったが、この本を渡した意図が見えて来ない。
「彼女達はゴーレムだから整備が必要になる場合があるわ。だけど、そのためには当然その知識が必要になるわ」
「つまり、俺達だけでも対応できるようにその知識を頭に叩き込んでおいて欲しいということか」
「話が早くて助かるわ。そういうことよ」
まあ外に連れ出す以上、常にルミナが付いていることはできないしな。俺達だけのときにでも対応できるようにしておく必要はあるだろう。
「分かった。時間のあるときに読ませてもらう」
「分かりました。読んでおきますね」
「ええ、お願いするわ」
そして、その後はのんびりと午後の時間を過ごして、明日の外出に備えた。
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