episode118 ガーグノットの結末

 アーミラと合流して城内の敵を片付けたところで、キーラに乗ってザードの乗った飛空船を探しに出た。


「……あれが例の飛空船か」

「だね」


 上空で見ていたヴァージェスからの情報で向かった方角は分かっていたので、飛空船は簡単に見付かった。


「あれを片付ければ全部終わりだよね?」

「ああ」


 あれが片付けば俺達がこの国ですべきことは終わりだ。

 一か月ちょっとの期間ではあったが、長いようで短かったな。


「今回も飛空船は鹵獲するんだよね?」

「ああ」


 もちろん、今回もできそうであれば鹵獲する。それなりの値段で売れるだろうからな。


「さて、二人とも準備は良いか?」

「うん」

「良いよー」


 そして、準備ができたところで飛空船に向かって飛び降りた。






 その頃、飛空船にいる者達は街からの脱出に成功したことで安心して、ゆっくりとくつろいでいた。


「やはり、いつでも脱出できるように準備をしておいて正解だったな」


 王の側近、いや、側近だったザードは窓から地上の景色を見ながらそう呟く。

 そう、ザードはこの国がもうすぐ終わることを見越して、いつでも脱出できるように準備をしていたのだ。

 そのおかげでこうして無事に街を脱出することに成功していた。


「……それにしても急展開だったな」


 そして、ここまでの展開を思い出しながら今後のことを考える。


「反乱が起こるのは想定内だったが、想定よりもかなり早かったな」


 反乱が起こることは想定内だったが、問題はその時期だった。

 反乱が起こるのは早くとも半年以上は先だと予想していたので、これはかなりの誤算だ。


(単なる見込み違いか? それとも、何かしらのイレギュラーがあったのか?)


 考えられるのはこのぐらいのものだが、情報が無いので結論は出ない。

 だが、問題はどちらにせよ何かしらの想定外の出来事が起こっていることはほぼ確実だった。


「このまま何も無ければ良いのだが……」


 そして、そんなことを思いながら休憩室の席に戻る。


「ふむ……?」


 と、ちょうど席に戻ったところで部屋の扉がコンコンと二回ノックされた。


「入れ」

「失礼します」


 部屋に入って来たのは一人の私兵の男だった。

 ザードは航行の状態を確認するために定期的に報告を入れるように指示をしていたので、彼はその指示通りに報告をしに来ていたのだ。


「報告しろ」

「はっ! 今のところは異常無し。航行は予定通りに順調に進んでいます」

「そうか。このまま予定通りに航行を続けろ」

「分かりました。それでは失礼します」


 そして、報告を終えた私兵の男は部屋を出て行った。


「国境まではゆっくりできそうだな」


 ひとまず、ここであれば襲撃される心配は無いので、しばらくはのんびりと過ごすことにした。


「っ!? 何だ!?」


 しかし、残念ながらそうは行かなかった。

 私兵の男が出て行って少ししたところで、突然上の方から爆音がした。


「……ここは下手に動かない方が良いか」


 何が起こっているか分からない以上、下手に動くのは危険なので、ザードはそのまま部屋で待機することにした。

 そして、それから少ししたところで、一人の私兵の男が部屋に駆け込んで来る。


「何があった?」

「報告します! 上空から襲撃者が現れて襲撃を受けました!」


 先程の爆音は襲撃者によるものだった。


「襲撃者だと!? 何者だ?」


 国境までは安心できると踏んでいただけに、その報告は寝耳に水だった。

 ザードは驚きながらその詳細を尋ねる。


「それは全く以て不明です」

「そうか。それで、戦況は?」

「襲撃者はかなりの実力者で、既に私兵団の半数がやられて戦況は圧倒的に不利です!」

「何っ!? あの私兵団がやられるだと!?」


 それを聞いたザードは驚き声を上げる。

 私兵達はザードが直々に選んだメンバーで、それなりの実力はある。それがこの短時間で半数もやられるというのは、あまりにも想定外すぎた。


「それで、どうしますか?」

「どうするも何も、戦う以外の選択肢は無いだろう! どこに逃げ場所があるのだ?」


 ここは何とかして逃げたいところだが、場所が場所なので逃げることはできない。


「分かりました」


 そして、私兵の男は襲撃者の撃退に向かう。


「……ぐわーー!」


 だが、その直後に私兵の男は真っ二つに斬り裂かれてしまった。


「後はこいつだけか?」

「そだよー」


 そして、その直後に一人の男と二人の女が現れた。

 もちろん、私兵団に彼らのような者はいない。彼らが何者なのかは分からないが、襲撃者であるということは間違い無かった。


(……ここは何とか交渉するしか無いか)


 相手は私兵団を殲滅するほどの実力者なのに対して、ザードは戦闘能力をほとんど持っていない。

 なので、ザードには交渉以外の選択肢は残されていなかった。


「お前達、何者だ?」

「それを聞いてどうする?」


 しかし、襲撃者の男は話をするつもりが無いようだった。


「……少し話をしないか?」

「お前と話すようなことは無いのだが?」


 案の定、彼は話をするつもりは無いようだが、ここで諦めるわけにはいかない。諦めずに交渉を試みる。


「話ぐらいは聞いてみたらどうだ? 何か利のある話かもしれんぞ?」

「……例えば?」

「私であればお前達の望みの物を提供できるかもしれんぞ?」

「…………」


 取引に応じる気になったのか、男は黙り込んだ。


「はぁ……」


 だが、何を思ったのか、ここで男はため息をついた。


「どうした?」

「……話にならないな」

「何?」


 何かと思って聞き直すと、どうやら彼は話を聞く気が無いようだった。


「何故だ?」

「……分からないのか?」

「…………」


 取引に応じない相手であることは薄々分かっていたので、驚きは無い。

 だが、この瞬間に「詰み」が確定した。


「……斬る」


 そして、その男による誅戮の一刀が放たれた。






「……斬る」


 居合斬りでザードの首を刎ね飛ばす。


(あっさり片付いたな)


 少しは抵抗して来るかとも思っていたが、諦めたのか抵抗はして来なかった。


「終わったね」

「ああ」


 これで全ての敵が片付いたので、俺達のすべきことはこれで終わりだ。


「それで、この後はどうするの?」

「以前と同じように整備するぞ」


 船内は血だらけになっているからな。少なくとも清掃はしておく必要がある。


「分かったよ」

「アーミラもそれで良いな?」

「うん」

「では、早速行動に移ってくれ」

「はーい」

「おっけー」


 そして、方針が決まったところでそれぞれの行動に移った。






「ふぅ……終わったね」

「そうだな」


 あの後は川の近くに下りて全員で船の清掃と修理をした。

 今回は船の損傷が少なかったのと、アーミラが文句を言うことも無く協力してくれたので、前回よりも早く整備を終えることができた。


「それで、ここが荷物が置かれてる部屋だよね?」

「恐らくな」


 この部屋の中に荷物があると思われるが、中はまだ確認していない。


「それじゃあ見てみよっか!」

「だね!」


 そして、アーミラとシオンが前に出て扉を開けた。


「おー! 何か色々あるよ!」


 扉を開けて部屋の中を確認すると、そこには部屋中に金品が所狭しと置かれていた。


「これはかなりの額になりそうだな」

「だね」


 王の側近だったとだけあって、相当資産を貯め込んでいたようだな。


「……アデュークには苦労を掛けることになりそうだな」


 かなりの量だが物品は全てアデュークに捌いてもらう予定なので、彼には苦労を掛けることになりそうだ。


「とりあえず、エリサが来るまでの間に整理しておくか」

「だね」

「そだねー」


 今回も俺達では収納できないので、エリサに迎えに来てもらうことになっている。

 なので、エリサが迎えに来るまでの待ち時間で荷物の整理をしておくことにした。






 エリサに飛空船を空間魔法で収納してもらった後はすぐにハインゼルの街の戻った。

 そして、今はリメット達の様子を見ているところだ。


「大丈夫か?」

「ああ、何とかな」


 特にリメットとアーチェはかなりの重傷だったが、もう二人とも意識を取り戻していて、命に別状は無いとのことだった。


「アーチェはまだ腕を動かそうとはしない方が良いわ」

「分かってるよ」


 アーチェは腕が切断されていたが、切断された腕がそのまま残っていたので、問題無く治すことができた。


「まあある程度傷が癒えるまでは安静にしていなさい。後処理は私達や他のレジスタンスのメンバーに任せて休むと良いわ」

「ああ。そうさせてもらう」


 リメットは流石にこの怪我では無理はできないことが分かっているのか、素直に忠告を受け入れた。


「それで、俺達は何をすれば良い?」


 特に指示は受けていないので、ひとまずエリサに何をすれば良いのかを聞いてみる。


「リメットに代わってレジスタンスを纏めて、後処理をするようにしてくれるかしら?」

「分かった。では、早速行ってくる。シオン、行くぞ」

「うん」


 そして、その日はレジスタンスのメンバーと共に日が暮れるまで後処理をしたのだった。






「……あれから一週間か」

「だねー」


 レジスタンスが街を制圧してから一週間が経過した。あれから時間が経ったので、街は落ち着きを取り戻している。


「上層区域は相変わらず瓦礫の山だね」

「そうだな」


 アーチェの意見にリメットが同意する。

 あれから一週間経っているが、瓦礫の撤去には手が付けられていない。

 まあ一週間ではそこまで手が回らないのも、当然と言えば当然なのだが。


「それで、どうするのかは決まったのか?」


 ここでリメットに今後の方針を聞いてみる。


「…………」


 だが、リメットは俺の質問に答えること無く、無言のままマイアとアーチェに視線を移した。


「……リメットがどんな選択をしても受け入れるよ」

「私も同じです」


 マイアとアーチェはそう言ってリメットの言葉を待つ。

 二人がここまで深刻そうにしているのは今後のことに大きく関わるからだ。

 レジスタンス達には今この国が置かれている状況を伝えてある。

 そして、その上でどうするのかの判断をリーダーであるリメットに委ねてある。


 今この国は周辺の国から攻められている。

 そう、周辺の国は戦争を仕掛けようとしていたこの国の動向を監視していたので、今回のことを受けて好機と見て一斉に攻めて来たのだ。

 なので、その上でどう動くかを決める必要がある。


「……この国を出ることにした」

「そうですか」

「分かったよ」


 そして、二人は静かにそう答えて、その決定を受け入れた。


(まあ妥当な判断だな)


 リメットの下した判断は妥当と言える。

 今この国は国としての機能を果たしていない状態で、軍も壊滅したので他国の侵略を止めることは不可能だ。

 もちろん、レジスタンスでもそれを抑えることはできないだろう。


 つまり、この国を落とされて周辺の国同士の領地の奪い合いになる可能性が高い。

 そうなれば、この国は他の国の支配下に置かれつことは確実で、どう扱われるかも分からない。

 なので、そうなる前にこの国を出るという選択をしたのだ。


「このことを全員に伝えてくれるか?」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、マイアとアーチェは他のレジスタンスのメンバーにその決定を伝えに行った。


「やはり、そうするか」

「……予想通りだったか?」

「まあな」


 まあリメットならこうするとは思っていたからな。別に驚きは無い。


「さて、俺は準備に入らせてもらう」


 そうするのであれば俺達がこの国ですべきことはもう無い。後は帰るだけなので、その準備をすることにする。


「そちらも準備が終わったら言ってくれ」

「分かった」


 そして、それぞれ街を出るための準備に入った。






 準備が終わったところで、レジスタンスのメンバーも含めて全員で門の前に集まった。


「さて、この後の予定を改めて説明するわね」


 確認のためにエリサがこの後の予定を説明する。


「エリュ、シオン、アーミラの三人は帰るけど、私とアデュークはあなた達に付いて行くわ」


 俺とシオン、アーミラはもうここで帰るが、エリサとアデュークはそうでは無い。

 レジスタンスだけでは少々不安要素があるのと、今回手に入れた物品を換金するために他の国に行くので、そのついででエリサとアデュークは付いて行くといった感じだ。


「南に行って国外に出た後はレジスタンスを解散、その後は各自自由で良いのよね?」


 ここでエリサはリメットに確認するようにそう尋ねる。


「ああ」


 レジスタンスはこの国の政府を打ち倒すために結成されたので、目的を達成した以上もう必要無い。

 なので、レジスタンスは国を出たらもう解散だ。


「お前達、この国を出たらもう自由だ。今の内にどうするかを考えておけ」

「「「はい!」」」

「リメットは妹を探しにレグレットに行くんだよね?」


 ここでアーチェが確認するようにリメットに尋ねる。


「ああ。あたしはレグレットまで行く予定だ」


 リメットは妹であるリコットについての手掛かりを手に入れたので、それを元に探しに行くつもりらしい。

 手掛かりというのは奴隷の取引記録だ。ザードの持っていた資料の中に奴隷の取引記録があって、その中にリコットの取引記録があったのだ。


「レグレットに行けば妹に会えるの?」

「いや、分かったのはレグレットに売り飛ばされたことだけだし、そこまでは分からないな」


 その資料から分かったのはレグレットに売り飛ばされたということだけなので、そこから先はどうなったのか分からない。

 まだレグレットにいる可能性もあるし、さらに別のところに売り飛ばされた可能性もある。


「そうなんだ」

「とりあえず、レグレットに着いたらさらに手掛かりを探すつもりだ」


 だが、向こうに行けば他の手掛かりが手に入る可能性もあるので、諦めずに手掛かりを探すつもりのようだ。


「……そろそろ出発しても良いかしら?」

「ああ。ではお前達、出発するぞ!」

「「「はい!」」」


 そして、話が終わったところで、それぞれ向かうべき場所に向けて出発した。






 レジスタンスの物語はこうして「結末」を迎えた。

 レジスタンスが国に反旗を翻した結果、ガーグノットは滅亡の道を歩むこととなった。

 これによってレジスタンスの目的通りに暴政からは解放されたが、その結末は彼らが望んだものでは無かったのかもしれない。


 だが、どんな物語も最善の結末を迎えるとは限らない。

 むしろ、世界中のあらゆる出来事を物語として語ったとしたら、ハッピーエンドを迎えられたものの方が圧倒的に少ないだろう。現実はそんなに甘くはない。


 しかし、迎えてしまった結末を変えることはできないので、登場人物達にできることはその「結末」を受け入れることだけだ。

 そして、それぞれがそれぞれの最善の結末を迎えるために動いたその軌跡が歴史となって積み重ねられていく。

 こうして歴史にまた新たな一ページが刻まれて、レジスタンスの物語は幕を閉じたのだった。


 ――大切な者を取り戻そうとする少女の物語はまだ終わっていないのだが、それはまた別のお話。

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